井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(4)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の最後に触れた「政策言語が行なおうとしているのは “道具による革命”だ」という話について、補足しておきたい。


道具による革命(Tool-Driven Revolution)

かつて、物理学者フリーマン・ダイソンは、科学革命には「概念による革命」(Concept-Driven Revolution)と「道具による革命」(Tool-Driven Revolution)の二つがあると指摘した。トーマス・クーンが『科学革命の構造』で取り上げた科学革命は「概念による革命」の方であったが、ここ5世紀ほどは「道具による革命」も多いのだという。

科学者が世界を観察するとするとき、日常的な理解よりも深いレベルで理解しようとする。直観的に理解できることもあるが、多くの場合は何らかの道具=手段が必要となる。顕微鏡があればミクロの世界を観察することができ、望遠鏡があれば遥か彼方の星の姿を観察することができる。

同様に、世界に関わり、実験を行なうときにも、何らかの道具立てが必要になる。そのため、新しい実験道具が開発されれば新しい発見につながることがしばしばある(詳しくは、以前のエントリ「Thing Knowledge (物のかたちをした知識) その1」および「… その2」を参照してほしい)。

このように、道具というのは僕らの認識や発見を支えている。ダイソンは、このような道具によって科学革命が起きることを、「道具による革命」と言ったのである(詳しくは、以前のエントリ「Imagined Worlds (科学の未来)」を参照してほしい)。

政策言語が行なおうとしているのは、まさに「道具による革命」である。政策を理解し、つくり、実践するための道具として機能するために、僕らは政策言語をつくろうとしている。

もちろん、「道具」といっても、政策言語は機器・装置という意味での道具ではない。それは、コトバを用いた構成物だ。「Context」、「Problem」、「Solution」で構成される言語(パターン・ランゲージ)なのである。

政策言語が「言語」であることを強調するのは、そこで記述されたコトバによって思考やコミュニケーションを支えるからである。そのためには、政策言語が実際の政策デザインのコツをうまく表現しているだけでなく、コトバとして使いやすい/使いたいと思わせることも重要だ。だからこそ、単に実践知を記述するというだけでなく、わかりやすく魅力的なコトバで表現するということが求められるのである。

政策言語という道具によって、政策デザインのあり方、開き方、質を向上させることができるかどうか。挑戦はまだ始まったばかりである。
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