井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(3)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の冒頭で、竹中平蔵先生が「小泉内閣が発足したとき、メールマガジンとタウンミーティングのアイデアを出してくれたのが井庭さんだった」と、当時のエピソードを紹介した。

今回の対談は、いわば「政策デザインのイノベーション」がテーマだったので、「政治的コミュニケーションのイノベーション」の話をする時間がとれなかった。そこで、対談の補足として、この「政治的コミュニケーションのイノベーション」について書きたいと思う。


まず、そもそもの背景だが、小泉内閣が発足した当時は、森内閣の直後で、政治への不信が高まり、かつ、人々の関心度が薄れている状況だった。そこで、「政治のコミュニケーション」を変える必要があるのではないか、と考えた。つまり、政治家と一般の人たちとのコミュニケーションの新しいカタチを考えることができないか、と。そして、その「政治家と一般の人たちとのコミュニケーションの新しいカタチ」として、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」のアイデアを提案した(僕がまだ博士課程の大学院生だったときの話)。

もう少し具体的に説明していくことにしよう。


1. コミュニケーションの新しいカタチ

僕ら一般人にとっては、普段、政治家の発言や振る舞いは、TVや新聞、雑誌などのマスメディアを通じてしか触れることはない。つまりマスコミのフィルターを通した情報が、いくぶん強調されたかたちで届けられる。多くの人は、そういう情報であると心のどこかではわかりながらも、情報をそのまま受け入れたり、話半分に受け取って残りを自分の想像力で埋め合わせたりしている。【Context】

そういう状況において、政治家が発言した言葉の全体や細部、意味やニュアンスなどを、僕らは本当には知らないまま、彼らへの印象や意見をもつことになってしまっている。これでは、政治に対してまっとうな評価などできないのではないか。【Problem】

そこで、政治家からの言葉を直接受け取れるようなメディア/場を設けるべきだと考えた。マスメディアを通さずに、直接に僕らに届くような、政治的コミュニケーションの新しいカタチ。こうすることで、政治に対する認識や関心を、取り戻すことができるのではないか。【Solution】

(その具体的なアイデアが、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」ということである。)


2. 向こうからこちらに

それでは、「政治的コミュニケーションの新しいカタチ」を、どのように実現すればよいのだろうか? 当時、ブレア首相が政策についての自らの意見をホームページに書いているということで、話題になっていた。これも、首相の言葉が直接的に届く、政治的コミュニケーションのカタチだろう。【Context】

しかし、日本の場合は、そもそも政治への関心が薄まっているわけで、自分からわざわざホームページを見に行くというような積極性を期待することはできない。それではどうしたらよいのだろうか?【Problem】

「こちらから向こうに行く」のではなく、「向こうからこちらに来る」ような仕組みは実現できないだろうか。ITの言葉でいうならば、ユーザーが情報を取りに行くという「プル型」ではなく、向こうから情報が送られてくる「プッシュ型」の仕組みをつくる、ということである。こちらが向こうの世界に入って行くのではなく、向こうがこちらの世界に入ってくる。そうすることで、日常世界のなかに「政治」が視野に入ってきやすくなるだろう。【Solution】

(まさにこれこそが、「内閣メールマガジン」であり「タウンミーティング」であった。内閣メールマガジンでは、自分のEメールボックスに、友人からのメールや仕事のメールと同じように、首相からの(自分宛の)メールが届くことになる。タウンミーティングでは、自分が住んでいる町に首相や大臣が来て、それを家族や隣人と見に行くことになる。これが「向こうからこちらに」という意味である。)


3. 新しいメディアによる実現

こうして、「政治的コミュニケーションの新しいカタチ」を、「向こうからこちらに」という仕組みでつくるということまではわかったが、それは具体的にどのようなメディアで実現するのかを考える必要がある。【Context】

すでに書いたことだが、マスメディアというシステムは、話題性やニュース性があるものが取り上げられやすく、そうでないものはあまり取り上げられない。そうなると、せっかく新しい仕組みを実現したとしても、ほとんど普及しないということも十分あり得る。そういう状態に陥らずに、より多くの人に興味をもってもらうためにはどうしたらよいのだろうか?【Problem】

そのひとつの答えは、話題性があるような新しいメディアで実現するということだろう。まず、実現方法に話題性があれば、その情報はマスメディアに乗りやすい。その結果、多くの人に興味をもってもらい、広く普及すればするほど、その普及率は日々、ニュース性をもつことになるだろう。【Solution】

(このとき、企業などがユーザーに配信し始めていた「メールマガジン」というメディアを使うとよいのではないか、と考えた。今となっては、メールマガジンは新しくともなんともないが、2001年当時は、まさに「IT」(情報技術)に注目が集まり、ビジネス/生活の世界にどんどん拡大・普及している時代であった。ちょうど「IT立国」というような旗を掲げていたこともあり、ITを新しいカタチで使うというのは理にかなっている。「内閣メールマガジン」はこのような発想で生まれたのだ。)

以上のアイデアを、当時、大臣であった竹中先生に出し、それが間もなく実現することになった。僕自身は、アイデアを出しただけで、実装・運営等には関わってはいないのだけれども。(個人的には、メールマガジンの雰囲気が思ったよりもカタかったことと、タウンミーティングでヤラセ問題が出てきたりしたことが、少々残念ではある。)

まとめると、次の3つのパターンが合わさって、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」のアイデアが生まれたといえるだろう。

1. コミュニケーションの新しいカタチ
2. 向こうからこちらに
3. 新しいメディアによる実現

僕がみるところでは、実は、鳩山由紀夫 元首相は、この「1. コミュニケーションの新しいカタチ」、「2. 向こうからこちらに」、「3. 新しいメディアによる実現」を、 twitter でやろうとしたのではないか。メールマガジンはもはや新しいメディアではなく、別の新しいメディアが必要であったし、それだけでなく、「新しい公共」を掲げる鳩山さんだからこそ、本来は twitter というメディアとの親和性も高かったはずだ。残念ながら、twitterらしいメディアの活用はなされなかったけれども。

以上で示したように、「政治的コミュニケーションのデザイン」もしくは「そのためのメディアのデザイン」についても、このようなパターン・ランゲージ化はできそうだ。しかも、それらは、広義の「政策言語」の一部として捉えてもよいかもしれない。


SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室

※ 当日の資料/映像は、SFC Global Campus の「パターンランゲージ」授業ページで一般公開されます(無料)。
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