井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

2012年度春学期「シミュレーションデザイン」シラバス

2012年度春学期の「シミュレーションデザイン」(井庭 崇, 古川園智樹)のシラバスを書きました。開講曜日時限は、火曜 3・4限です。がっつり文献を読んで議論するので、やる気のある人はぜひどうぞ。


科目:シミュレーションデザイン
担当:井庭 崇, 古川園智樹
開講:火曜 3・4限


【主題と目標/授業の手法など】

複雑で動的に変化するシステム --- 例えば生命や社会など --- を理解するためには、それに見合う道具立てが必要になります。そのような「思考の道具」として、本科目では「シミュレーション」の考え方に着目します。ここでいう「シミュレーション」とは、最も広義の意味で捉え、「物事の関係性が設定された状態から、それらの時間発展を内生的な変化として展開し、その振る舞いを観察して対象への理解を深める」ことを指します。この授業では、そのように広義に定義されたシミュレーションについて、思想・手法・実践の面から理解することを目指します。


【教材・参考文献】

本授業では、毎回、指定文献を読んできてもらい、授業中に内容の確認や議論をします。その文献のうちの一部は、各自購入してもらうことになります。輪読の際に線を引きながら読むので、図書館で借りるのではなく購入するようにしてください。これらの本はどれも、今後みなさんの本棚を飾り、時に手に取るとよいと思われる本ばかりです。

●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998)¥1,890
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)¥798
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)¥1,890
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)¥735
●『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)¥2,730
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)¥2,520
●『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)¥4,725
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)¥945
●『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)¥2,100
●『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)¥3,873

これ以外の文献については、適宜コピーを配布します。


【履修上の注意】

毎回、かなりの分量の文献を読み込んでいきます。きちんと読んできてください。


【授業計画】

■■■ 第1回(4/10) イントロダクション Introduction

授業の内容、進め方について説明します。


■■■ 第2回(4/17) 構成的理解 Constructive Way of Understanding

複雑系科学では、生命や知能、社会を理解するために、コンピュータ・シミュレーションをつくることで理解することが行なわれます。この「つくることで理解する」というアプローチを、「構成的理解」といいます。この構成的理解を、学術的研究からアートまでのつながりを学びます。

【文献読解】
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998) 序文、第1〜3章
●『Simulation for the Social Scientist』(Nigel Gilbert, Klaus Troitzsch, Open University Press, 1999) [『社会シミュレーションの技法』, ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 日本評論社, 2003] 第1・2章
●『動きが生命をつくる:生命と意識への構成論的アプローチ』(池上高志, 青土社, 2007)
序章、第1〜3章、第8章


■■■ 第3回(4/24) 生成的プロセス Generative Processes

「つくることで理解する」という構成的理解が行なわれているのは、コンピュータ・シミュレーションによる学術的研究だけではありません。作家が物語をつくるときにも、ある種のシミュレーションを行いながら構成的な理解をしているようです。そのような作家の言葉をみてみましょう。

【文献読解】
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)
●『ものがたりの余白:エンデが最後に話したこと』(ミヒャエル・エンデ, 岩波書店, 2000) 第I章
●『出発点 1979〜1996』(宮崎駿, 徳間書店, 1996)[『Starting Point 1979-1996』(Hayao Miyazaki, VIZ media, 2009)]


■■■ 第4回(5/8) アブダクション Abduction

新しいアイデアを「発想」するということはどういうことなのか。そのようなことに取り組んだ人に、チャールズ・S・パースという人がいます。彼は、これまでの論理学でいわれてきた「帰納」(induction)と「演繹」(deduction)に加えて、「アブダクション」(abduction)というものがあると考えました。アブダクションとはどのようなものか、そして、創造的思考とどのような関係があるのかについて学びます。

【文献読解】
●『アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛 裕二, 勁草書房, 2007)まえがき、第1〜5章
● "Deduction, Induction, and Hypothesis" (Charles Sanders Peirce, in 『The Essential Peirce: Selected Philosophical Writings VOLUME 1 (1867-1893)』, Indiana University Press, 1992) p.186-199


■■■ 第5回(5/15) メタファー Metaphor

つかみどころがない物事を捉えるときに、私たちはよく「メタファー」(隠喩)を用いて理解します。例えば、「人生」とは「旅のようなもの」であるとか、「議論」とは「戦いのようなもの」であるというような理解の仕方です。このようなメタファーによる理解は、人間の認知の根本的な特徴であるとも言われています。そして、メタファー的な思考は、創造的思考や発想において重要な役割を果たしていると思われます。認識、思考、創造のレトリックとしてのメタファーについて学びます。

【文献読解】
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)
●『Metaphors We Live By』(George Lakoff, Mark Johnson, The University of Chicago Press, 1980) [『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ, マーク・ジョンソン, 大修館書店, 1986] 一部
●『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)[『What I Talk about When I Talk about Running: A Memoir』(Haruki Murakami, Vintage Books, 2009) ] 一部


■■■ 第6回(5/22) パラダイム・シフト Paradigm Shift

物事に対する考え方・認識が根本から変わってしまうことがあります。これが「パラダイム・シフト」と呼ばれる事態です。科学哲学者トーマス・クーンは、科学における革命的な変化について研究し、パラダイム・シフトが起きる時にはどのようなことが起きるのかを明らかにしました。このパラダイム・シフトの考え方について学びます。

【文献読解】
●『The Structure of Scientific Revolution』(Thomas S. Kuhn, The University of Chicago Press, 1962) [『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)]
●『Imagined Worlds』(Freeman Dyson, Harvard University Press, 1997) [『科学の未来』(フリーマン・ダイソン, みすず書房, 2005)] 第2章


■■■ 第7回(5/29) 社会科学の歴史的形成 Historical Construction of the Social Sciences

社会科学はどのようにして分化し、発展してきたのでしょうか。また、これからの社会科学はどうなるのでしょうか。それらのことについて議論したいと思います。

【文献読解】
●『Open the Social Sciences』(Immanuel Wallerstein, Stanford University Press, 1996) [『社会科学をひらく』(ウォーラーステイン, 藤原書店, 1996)]
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第1章
●「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(井関 利明, 『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)


■■■ 第8回(6/5) デカルト的パラダイム Cartesian Paradigm

ルネ・デカルトは、現代の科学的世界観の基礎をつくりました。それは端的にいうと、精神と物質というものを分けるという二元論的なパラダイムです。この回は、デカルトの考えに触れるとともに、その可能性と限界について考えます。

【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 序章、第1〜4章
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)


■■■ 第9回(6/12) ベイトソン的全体論 Batesonian Holism

デカルト流の二元論的パラダイムでは捉えられないものを捉える可能性として、グレゴリー・ベイトソンの全体論/サイバネティクスの考え方を学びます。

【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 第5〜9章


■■■ 第10回(6/19) パターンと学習 Patterns and Learning

グレゴリー・ベイトソンの考えについての理解を深めます。また、社会システム理論やパターン・ランゲージなどの考え方に通じる点について考えます。

【文献読解】
●『Mind and Nature: A Necessary Unity』(Gregory Bateson, Hampton Press, 2002) [『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)]
●『Steps to an Ecology of Mind』(Gregory Bateson, The University of Chicago Press, 2000) [『精神の生態学』(G・ベイトソン, 新思索社, 2000)] "The Logical Categories of Learning and Communication" [「学習とコミュニケーションの階型論」] (p.382-419) & "Cybernetic Explanation" [「サイバネティックスの説明法」](p.532-548)


■■■ 第11回(6/26) オートポイエーシス Autopoiesis

生命や社会、創造を理解するための基礎理論として、オートポイエーシスのシステム理論について学びます。

【文献読解】
●『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(H. R. Maturana, F. J. Varela, Springer, 1980) [『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R. マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)] 一部
●『オートポイエーシス:第三世代システム』(河本英夫, 青土社, 1995)第1〜3章
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論』〈上〉 〈下〉(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章, 第2章


■■■ 第12回(7/3) 生成的構造 Generative Structure

デカルト的な二元論的パラダイムとは異なる見方で、建築の世界を捉え直し、建築のデザインを再考したクリストファー・アレグザンダーの考えと実践の遍歴を辿ります。

【文献読解】
●『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡 浩一郎, 技術評論社, 2009)序章, 第1〜6章
●『Christopher Alexander: The Search for a New Paradigm in Architecture』(Stephen Grabow, Routledge Kegan & Paul, 1983) [『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)] 前書き, 序, 第1〜12章
●『Notes on the Synthesis of Form』(Christopher Alexander, Harvard University Press. 1964) [『形の合成に関するノート』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1978)]
●"A city is not tree" (Christopher Alexander, Architectural Forum 122 April , 1965) [ 「都市はツリーではない」(クリストファー・アレグザンダー) ]


■■■ 第13回(7/10) ネットワーク科学 Network Science

近年、自然や社会における物事の関係性の構造に共通の特徴があることがわかり、「スモールワールド・ネットワーク」や「スケールフリー・ネットワーク」として注目を集めています。これらのネットワークの生成原理をめぐる研究がどのようにパラダイム・シフトを引き起こしたのかを学びます。

【文献読解】
●『Linked: How Everything is Connected to Everything Else and What It Means for Business, Science, and Everyday Life』(Albert-Laszlo Barabasi, Plume, 2003) [『新ネットワーク思考:世界のしくみを読み解く』(アルバート・ラズロ・バラバシ, NHK出版, 2002)]
●『Six Degrees: The Science of Connected Age』(Duncan J. Watts, W. W. Norton & Company, 2004) [『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』(ダンカン・ワッツ, 阪急コミュニケーションズ, 2004)] 第3章
●『Sync: How Order Emerges From Chaos In the Universe, Nature, and Daily Life』(Steven H. Strogatz, Hyperion, 2004) [『SYNC』(スティーヴン・ストロガッツ, 早川書房, 2005)] 第9章
●「ネットワーク科学の方法論と道具論」(井庭 崇, 『ネットワーク科学への招待:世界の“つながり”を知る科学と思考』, 青山 秀明, 相馬 亘, 藤原 義久 共編著, 臨時別冊・数理科学2008年7月号 SGCライブラリ 65, サイエンス社, 2008)


■■■ 第14回(7/17) 総括

これまでの内容を振り返り、総括をします。


【提出課題・試験・成績評価の方法など】

輪読や演習での授業への参加、宿題提出、最終レポート等から、総合的に評価します。


【履修制限】

履修人数を制限する:40人程度。初回授業時に志望理由を書いてもらいます。
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