2022年春学期 井庭研シラバス:「自然な深い創造」の探究・実践・支援
井庭研シラバス(2022年度春学期)
「自然な深い創造」の探究・実践・支援
- ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ
[ 創造の場づくり / 企業におけるWell-being / 市場創造マーケティング / 価値観・世界観が変わる大人の学び / 新しい開発援助 / 自然のなかの子育て / 高齢者ケア / クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ実践 ]
井庭研究室では、日々「自然な深い創造」が生じる「ナチュラルにクリエイティブに生きる」社会へのシフトを目指して一緒に研究・実践に取り組む仲間を募集します。2022年度は、以下のプロジェクトが動く予定です(現時点のプランであり変更になる可能性があります)。本シラバスに書いてある井庭研で目指していることや大切にしていることをよく理解した上で、エントリーしてください。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
■これからの創造社会
井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについて、実践的に探究しています。暮らしや人生、仕事、教育、社会などの様々な領域における「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの本質を捉え、パターン・ランゲージのかたちで表現し、それを用いて人々の実践支援をする研究に取り組んでいます。見据えている未来は、一人ひとりがもつ創造性を活かして暮らし生きていく「創造社会」(Creative Society)です。
僕は、ここ100年、消費社会から情報社会へと歩んできて、すでに始まっている次の時代は、創造社会だと考えています。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。
自分たちで自分たちの物事をつくっていくということは、可能性に満ちた素敵なことですが、単にそれは素敵なことだから重要になるのではなく、社会の切実な面もあります。多様性と自由がますます認められるようになった社会においては、人々のニーズや課題を画一的なアプローチでは満たせなくなってきます。あちこちで生じている多様な問題は、どこかからヒーローがやってきてすべて解決してくれる、というようなことは起こり得なくなってしまいました。それゆえ、それぞれの人がそれぞれの立ち位置において、問題を解決し、よりよい未来をつくっていくことが不可欠になっているのです。しかも、地球温暖化のような人類・地球規模の難題もあり、世界中の人たちがそれぞれに工夫し、知恵を出し合い、創造的に取り組んでいく必要があります。「創造社会」というとき、そのような時代背景とスコープで捉えています。
「創造社会」を生きるというとき、僕らは、テクノロジーにますますがんじがらめになり人工的な生を生きるのではなく、よりナチュラルで人間的に生きていくという方向性を目指しています。そして、そのための道具立てとして実践の言語「パターン・ランゲージ」をつくり・活かし、人々が「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能とし、社会を共通基盤として下支えする「ソフトな社会的インフラ」をつくっています。
■自然な深い創造
井庭研では、何かを「つくる」という「創造」(creation)について、深いレベルでその本質と、各実践領域における実現方法について研究しています。
現在国内外で創造性(クリエイティビティ)の重要性が言われ、こうすればより創造的に考えることができるというプロセスやテクニックが話題になっています。このような状況のなか、井庭研では、そのようなアプローチの重要性・必要性を認めながらも、もっと深いレベルでの創造 --- 「深い創造」(deep creation) --- にフォーカスしています。それは、人間が根源的に持っている力を活かした創造です。それは、ああする・こうするという「行為」というよりも、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で生起するということに、人間が関わるというような創造です(このことを専門的に言うと、「中動態」で表されるべき創造だということになります)。
それはまるで、植物を育てるときのように、人間は環境の重要な一部となり、それに関わる・参加するというようなものです。そのとき、創造に関わる人は、植物が育つための「土」のような役割をします。土があることで安定して成長することができるとともに、その土から得た栄養が成長を可能にします。このように、植物が育つように、つくっているものが「育つ」というのが、「自然な創造」(natural creation)です。そして、そういう創造が起きるとき、そこに関わる人たちの力んだ力は抜け、とても「自然(ナチュラル)」な状態になります。つくり手は、自分がつくっているものをコントロールしなければならないという意図や作為から解放され、いきいきとして、実感(フィーリング)を感じながら参加することになります。これは、とても人間的で生命的な状態とも言えます。この意味での「自然な創造」に注目しています。
他方、自然環境の意味での「自然(ネイチャー)」の観点も大切にしています。上記のような「自然(ナチュラル)」な生成の状態は、人工的な環境よりも、自然環境に触れているようなときの方が発動されやすくなるためです。都市や人工物はすべて人の手による産物であり、その背後には、それをつくった人がいます。これに対し、自然環境は、まさに、人の手の範囲を超えて、「自然(ナチュラル)な」生成によって生まれ育ってきたものなのです。身近な「小さな自然」に触れたり、「大いなる自然」のなかに浸ったりすることで、人間はより「自然(ナチュラル)な」状態になりやすくなるのです。
このように、井庭研でいう「自然(ナチュラル、ネイチャー)」には、「内なる自然」(inner nature)と言える生成的な面と、「外なる自然」(outer nature)と言える自然環境という(本来は表裏一体の)両方の意味が含まれている。そのような意味での「自然な深い創造」(natural deep creation)であり、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(natural & creative living)なのです。
■「自然な深い創造」を実現する実践言語「パターン・ランゲージ」
意識的な意図や作為によるコントロールから解放され、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で実現される「自然な深い創造」は、そう簡単には起きません。なぜなら、人はすぐ「自分が考えないと、何も起きない」と思ってしまうからです。実践の言語である「パターン・ランゲージ」はその問題を解決します。
パターン・ランゲージは、その実践において押さえるべきポイントごとに「何をすることが大切か」とそれは「どうやるのか」が特定されているので、それに「身を委ねる」ことで、無心で自然とその実践をしていくことができるようになります。パターン・ランゲージを構成する「パターン」には、その実践で大切な「型」が定められているとともに、それらの「型」の関係が体系として編まれているので、意識的に「こうしよう」「ああしよう」とコントロールしなくても、自然と勘所・ポイントを押さえた実践が可能になるのです。
しかも、パターンは、適度に抽象化されていて、具体的な行動指示とは異なるので、状況に合わせて実践の具体的なところをアレンジしたり、その人らしいやり方で行ったりすることができるという特徴があります。このように、実践領域ごとにパターン・ランゲージがあることで、それぞれの人の実践を支援することになります。
このような理由から、井庭研では、「自然な深い創造」に身を委ねて「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能にするための有力な方法として、「パターン・ランゲージ」の作成・研究に徹底的に取り組んでいます。
パターン・ランゲージをつくるときには、すでによい質を生み出している人から、その実践において大切なことを聞き、その経験則(型)から、抽象化、体系化、言語化して、パターン・ランゲージをつくります。このパターン・ランゲージがあることで、うまく実践できていない人を助けたり、これから始める人の参考になったり、実践について語るための語彙・共通言語としてコミュニケーションの支援が可能となります。このように、パターン・ランゲージは、社会の多くの人々を支えるメディアになるのです。
■パターン・ランゲージをつくるときの深い創造
実践に潜む「型」を捉えて、パターン・ランゲージとしてまとめるときには、その実践の本質を捉えて「抽象化」し、パターン間の関係性をつかんで「体系化」し、その本質と体系を踏まえて「言語化」します。具体事例をベースにパターンを捉え、その本質をつかむというときには、現象学における「本質観取」と同様のことを行っているということが、最近わかってきました。つまり、哲学と同様の深い思考・探究が必要だということです。また、パターン・ランゲージは、数十のパターンが相互に関係する体系(システム)をなしているのですが、その関係性を見定め、ひとつの体系として編み上げるときには、背後にある関係・構造を捉える構造主義的思考や、抽象的に捉えるシステム思考やモデリングのセンスが求められます。そして、パターンを記述するときには、現象学の「本質記述」をするとともに、パターンの名前をつくるときには、本質を捉え、かつ魅力的な言葉になるようにつくり込んでいく必要があります。このように、パターン・ランゲージをつくるということは、高度な知性と豊かな感性を総動員してつくるということなのです。
■パターン・ランゲージは歌の詞に似ている
パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思ってもらえるようなものになっている必要があります。物事の本質を捉えるとともに、心が動き、身体が動くような表現になっていることが求められるのです。僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。
聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌う、そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、それをどう捉えるかや乗り越えていくようなポジティブなメッセージがサビで提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。
パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは読み手の内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思うように書いていきます。読み手が実感をともなって、ありありとその内容をイメージできるようにつくるのです。歌とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。
実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、それはまるで、心から共感する大好きな「歌」のようだな、と思うのです。僕は、歌のつくり手たちの言うことにとても共感するのですが、僕らは実践者の話からパターン・ランゲージをつくるので、特に、小説などの原作を歌にするYOASOBIのAyaseさんの言うことはとても近く、通じるものがあると感じています。
パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、それを受け取る人のなかで流れ、内側から温める「歌」のような存在なのです。
■「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの道を極める
井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについての研究をするなかで、自らがナチュラルにクリエイティブに生きる「道」を極めていきます。単に研究テーマや対象とするのではなく、自分自身が実践しそれを生きるということを通じて深め、探究していくのです。そのような事情のため、おそらく多くの人がイメージしている「研究会(ゼミ)」とは大きく異なるスタイルで、井庭研に入るということを捉えてもらう必要があります。
まず、生活における「地」と「図」が逆転します。週の何時間かで井庭研の活動を行う、というようなものではないのです。365日24時間 ナチュラルにクリエイティブに生きる、ということになります。つまりは、「自分の様々な生活」(地)のなかに「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(図)があるのではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(地)なかに「自分の様々な生活」(図)が重なる、というようなかたちになるのです。
したがって、井庭研に入るとは、「授業」を取るというようなものではなく、茶道や合気道などのような「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というようなイメージに近いものになります。創造の道です。その世界(「ナチュラルにクリエイティブに生きる」)を常に実践し、深めながら、それを極めていくというようなことなのです。そのようなこともあり、井庭研では、大学院までを含む長期的なスパンでの成長を理想としています。
どの分野でもそうですが、「道を極める」ということは、2年や3年の短期間では為し得ず、何年もの徹底した修練の結果によって到るものなのです。そのため、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」についての見よう見まねの学部時代から、修士課程で実践の感覚をつかみ、博士課程でそれを自在に行えるようになっていく、という成長の機会を設けています。その意味で、「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というニュアンスがよく合うのです。
最終的には、独り立ちして、自らが「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を送りながら、それぞれの分野で「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人が増えるように先導していく存在になることを目指しています。
そのための場と機会は用意されていますが、ここは自己成長の場であることは忘れないでください。この場と機会を活かし、自分から挑戦し、工夫し、努力して、自分の経験を高めていくことが各自に求められます。そのような意味でも、道を極めるにあたり、精神的な成熟し、よりよい未来に向けて貢献していくことができる人になっていくことも、井庭研で学ぶことの意義になります。
■自分の「自然な深い創造」の力を磨くためには
「自然な深い創造」が自分を場にして起きるためには、自分という創造の「土壌」を豊かにしていく必要があります。その場の発想法のようなテクニックによってアイデアを出すのではなく、自分の深いところにある養分をどんどん吸って、つくるものは「育って」(つくられて)いくのです。そのため、土の状態が自然(ナチュラル)で、豊かであることが不可欠なのです。井庭研では、自分という創造の土壌を豊かにするために、次の3つのことを重視しています。
(1) 創造のための読書
井庭研では、創造に活かせるようにたくさんの本を徹底的に読み込みます。良質の本からは、その著者が考えた結果としての内容だけでなく、「独特の視点」や、「発想の型」、そして体系的な「概念装置」を学ぶことができます。そこで得られたものは、別の分野の別の文脈のことを考えるときにも、役立てることができます。これが自分を創造的にさせるのです。
第一の「独特の視点」は、その著者なりの(つまり、これまでの自分とは異なる)視点で物事を見ることです。いくつかの視点を持っていると、物事を常識的な角度からだけでなく、異なる角度から見ることができるようになります。第二の「発想の型」は、新しい考え方を生み出すときのやり方のことです。発想のしかたの型をいくつも持っていると、アイデアや新しい考えを生み出すときに用いることができます。第三の体系的な「概念装置」は、いくつかの概念が体系的に紐づいた理論を用いて、物事の複雑さを生け捕って捉えることができるようになるということです。これは、高度な把握や推論が可能となり、創造を高いレベルに引き上げます。
このように、たくさんの本を徹底的に読み込んでいくことで、自分という創造の土壌を豊かにし、創造力が飛躍的に上がっていきます。井庭研での経験を通じて、「本の読み方が変わった」「本を読むことが、とても面白いということであることに気づけた」という声があり、研究のためだけでなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を豊かにしてくれるということがわかります。
(2) 井庭研内の創造実践から学ぶ機会
井庭研では、日々、たくさんのプロジェクトが研究・活動を展開しています。そのため、創造実践の取り組みを現在進行形で目の当たりにし、また、ものすごい勢いで創造実践の事例や知恵が貯まっていきます。また、担当教員の井庭や先輩たちが、口頭でもテキストベースでも映像でも、最先端の思考やアイデアを次々と披露し、じゃぶじゃぶに共有しています。これらのリソースを「生きた教材」として活かし、創造実践について学び取りにいくことができます。創造に関する面白い情報が圧倒的な量、毎日飛び交っている場はまずないでしょう(2021年の1年間に、僕は約3万投稿、メンバーも数千から1万超えの投稿をしています)。
(3) プロジェクトでの自分たちの実践経験
井庭研では、1年間に1つのプロジェクトにどっぷり浸かり、複数人で研究に取り組みます。そこでは、それぞれの得意を持ち寄り、個人の限界を超えることができます。しかも、その小さなチームのなかで、学び合いや高め合いが起きます。各自が成長するための挑戦(チャレンジ)もこのプロジェクトでします。こうして、今の自分からアップグレードし続け、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」力を高めていくのです。
井庭研は、以上のような機会を活かして創造実践の経験を積み、自己成長し、創造の道を極めていくための場なのです。
■「新しい学問」をつくりながら実践する
学問的に見たときに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」や「自然な深い創造」、「創造社会」ということを考えるときに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。その「新しい学問」を、僕は「創造実践学」「創造の哲学」「未来社会学」と名付けています。
「創造実践学」(Studies on Creative Practice)は、私たちの暮らしや仕事、社会におけるさまざまな領域の実践を、より創造的なものにするためにはどうしたらよいかを研究する学問として構想されています。各領域の創造実践の本質を明らかにし、パターン・ランゲージとして表現して活用することが、その主力の研究方法となります。「創造の哲学」(Philosophy of Creation)は、創造とは何か、についての哲学的探究を行うものです。現象学の方法によって創造の本質を観取するとともに、プラグマティズムの哲学や東洋哲学などとの関係についても深めていきます。「未来社会学」(Future Sociology)は、ナチュラルでクリエイティブに生きる未来の社会のヴィジョンを描き、その内実を研究する未来志向の学問です。創造社会では社会の一つの機能システムとして「共創システム」というものが作動し、そこではパターン・ランゲージのメディアや、ジェネレーターという役割が重要になるというような、未来ヴィジョンの社会像を明らかにしていきます。
これらの三つの学問を構築するにあたり、僕たちはゼロからスタートするのではありません。これまでの人類のさまざまな知見・学問成果を踏まえながら、大胆に組み替え、読み替えながら、取り組んでいきます。哲学、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に学び、取り入れていきます。その意味で、いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な営みとなります。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。とてもSFCらしい、ユニークな学問のアプローチだと思います。
■Project - 2022年度春学期のプロジェクト
2022年度春学期は、以下の8のプロジェクトを予定しています。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
各プロジェクトの概要は、以下のとおりです。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
ジェネレーターは、ともにつくり、発見とコミュニケーションの生成・連鎖を誘発する存在です。これからの創造的な教育の場では、ティーチャーやファシリテーターという役割だけでなく、ジェネレーターが重要になります。しかし、ジェネレーターは、単なるスキルではなく、あり方であり生き方でもあります。そのため、他のジェネレーターがやっている振る舞いを単に真似るだけでは、ジェネレーターにはなれません。それでは、ジェネレーターにおいては何が大切なのでしょうか。本プロジェクトは、そのようなジェネレーターの秘密に迫ります。本プロジェクトは、一般社団法人みつかる+わかる の「We are Generators!」との共同研究です。
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
本プロジェクトでは、しっかりと成果を追求する企業組織において、Well-doingとともに、「幸福」な状態を指す「ウェルビーイング」(Well-being)をどうしたら高めることができるのかについて研究します。本プロジェクトは、企業との共同研究として行い、その企業を中心に、複数の企業の事例とインタビューから、パターン・ランゲージを作成し、広く、企業におけるWell-beingの向上を目指します。
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
すでにある競争のなかで、いかにパイを取るかということではなく、新しい商品・サービスで新しい市場を生み出すときのマーケティングはいかに行えばよいのか。本研究では、広告業界での経験が豊かな共同研究者とともに、市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成を行います。
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
本プロジェクトでは、これまで井庭研でつくってきた、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。その実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます(本プロジェクトでは、海外だけでなく、日本の地方の高校生のエンパワーメントにも取り組んでいます)。
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
このプロジェクトでは、「価値観・世界観から変化してしまう学び」のプロセスと、それを可能にする「創造的な学びの共同体」の仕組みを研究します。具体的には、小阪裕司さんが主宰する商人たちの実践共同体ーーワクワク系マーケティング実践会ーーの会員たちへのインタビューを行い、そこで生まれる語り(ナラティブ)の分析に取り組みます。その際に注目するのは、個別のスキルを身に着けたり成果が出せるようになったりすること以上に、生活や仕事の思想・哲学までが変化してしまうような、新たな価値観を学ぶプロセスとそのための実践共同体のメカニズムです。プロジェクトの活動は、約50人の会員たち(その誰もが魅力的な実践をされている商人たち)との対話に取り組むことと、その語りの書き起こしと分析を載せたメディア(冊子を予定)を制作することを、同時平行で進めていきます。具体的な語りと抽象的な分析を縦横無尽に行き来することで、単に現存する共同体の研究にとどまらず、新たに立ち上がる「創造的な学びの共同体」にとって意義のある知見を得ることを目指します。本研究は、小阪裕司さんのオラクルひと・しくみ研究所との共同研究です。
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
現代社会では、人間は自然との関わりの多くを失い、人工的な環境・制度のなかで育ち・暮らしています。その「人間関係」「人工的な環境・制度」のなかで息苦しさや窮屈さ、閉塞感を感じている人は多く、心身への悪影響も少なからずあるようです。そこで、本プロジェクトでは、自然に子どもが育つとともに親も育ちながら、身の回りの自然環境を支え、地球・宇宙を感じる暮らし方・生き方の実現のためのパターン・ランゲージの作成に取り組みます。2022年度は、2021年度に取り組んだ作成・研究で明らかになってきたことをさらに深め、いろいろな事例と結びつけながら、自然のなかの子育てのパターン・ランゲージを仕上げます。
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
高齢者ケアの分野では、現場での実践のなかで多くのことが学ばれていますが、そのような現場での学びにおいて、どのようによりよいケア・介護について意識・経験を豊かにしていくことができるでしょうか? 本研究プロジェクトでは、パターン・ランゲージを用いた対話や実践支援による新しいアプローチを開発し、実践導入していきます。具体的には、井庭研で作成し、2022年1月末に出版された『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』等を活用し、実際に介護施設等で研修を実施していきます。支援する側/支援される側という区分を超えて、自分たちの「ともに生きる」スタイルを育てていくことを促すことを目指します。本研究は、社会福祉法人いきいき福祉会との共同研究です。
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
このプロジェクトでは、クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ(創造的な学びのコミュニティ)を、いろいろな仕組み・方法、パターン・ランゲージを用いて(必要に応じてつくって)実現する研究・活動に取り組みます。具体的には、井庭研をフィールドとし、「メンバーが自分たちで自分たちの創造的な場をつくる」ことや、「先端的な研究で創造的な活動を行い、そのなかで学んでいく」ということが実際に効果的に実現することを目指します。井庭研では、学部生でも、自分たちの生み出した研究成果を国際学術会議に論文を書いているのですが、その学術論文執筆に焦点を当て、アカデミック・ライティング・パターンを作成し、井庭研内での支援に活かしています。また、井庭研がクリエイティブ・ラーニング・コミュニティとしてまわっていくための組織バリューの編み上げ構築にも取り組んでいきます。
【履修条件】
知的な好奇心と、創造への情熱を持っていること。
じっくり取り組む時間の調整・確保を自らでき、研究・活動・勉強に徹底的に取り組むことができること。
「知的・創造的なコミュニティ」としての井庭研を、与えられたものとしてではなく、一緒につくっていく意志があること。
【その他・留意事項】
現1年生のエントリーを歓迎します。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を推奨しています。(そのことから、3年生後半や4年生からは、大学院進学を前提としている場合を除き、原則として受け入れていません。)
GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。
エントリーを考えている人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録(2021年12月〜2022年2月用)」に登録してください。最新情報があれば送ります。
【授業スケジュール】
井庭研では、どっぷりと浸かって日々一緒に活動に取り組むことが大切だと考えています。
全員で集まる時間は、 水曜の3限から夜までのプロジェクト活動の時間と、木曜の4限から夜までの全体ミーティング(ゼミ)の時間です。その時間は、全員での《まとまった時間》としているので、この時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。
それ以外の日も、365日いつでも、各自で本を読んで知識をつけたり、考えたり、プロジェクトの研究の個人作業を進めたり、必要に応じて集まって話し合ったりします。また、担当教員(井庭)や井庭研が登壇する講演・ワークショップや学会等には、原則としてすべて参加して学びます。さらに、コミュニケーション・プラットフォームとして用いているslack上で、毎日情報共有ややりとりが行われています。「井庭研の活動が増える」という感覚ではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」生活にシフトするのだと捉えてください。
【評価方法】
研究・実践活動への貢献度、および研究室に関する諸活動から総合的に評価します。
【エントリー課題】
このシラバスをよく読んだ上で、2月28日(月)までに、[1] エントリーシート、[2] 文献課題、[3] パターン課題 の3つを提出してください。
エントリー課題の提出先:https://forms.gle/XU4vcAwXn7tBC4dXA
[1] エントリーシート
[2] 文献課題
井庭研での創造・研究に関係がある以下の本のうち1冊(できるなら2冊)を読み、自分にとって面白いと感じたところについて、それがどこかということと、どのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。
[3] パターン課題
以下のパターン・ランゲージ本を読み、感じたことを書いてください。その上で、どれか一つのパターンの文章とラストをノートなどに手書きで書き写し、その内容・表現の質感を、つくり手の内側の立ち位置で感じてください。その写真を掲載し、さらに、パターンを書き写したときの気づきや感想も書いてください(この[3]の全部でA4で2〜3ページ程度:パターンの書き写し部分のみ手書きのものを写真に撮り、それ以外の部分はパソコンでテキスト入力で作成してください)。
エントリーや井庭研でのことについて、何か質問があれば、ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp([at]を@に変えてください)まで、メールをください。
3⽉7日(月)に面接@オンラインを行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後に個別に連絡します。
【教材・参考文献】
井庭研でやっていること・目指していることを知るための本として、わかりやすいのは次の6冊です。最初の2冊は考え方について語っていて、次の3冊はパターン・ランゲージの実例です。そして、最後の1冊は、創造社会とはどういうことかが、自分たちの暮らし方を自分たちでつくるという事例で感じられるものです。
慶應義塾の広報誌「塾」第311号(2021年夏号)「半学半教」
「自然な深い創造」の探究・実践・支援
- ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ
[ 創造の場づくり / 企業におけるWell-being / 市場創造マーケティング / 価値観・世界観が変わる大人の学び / 新しい開発援助 / 自然のなかの子育て / 高齢者ケア / クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ実践 ]
井庭研究室では、日々「自然な深い創造」が生じる「ナチュラルにクリエイティブに生きる」社会へのシフトを目指して一緒に研究・実践に取り組む仲間を募集します。2022年度は、以下のプロジェクトが動く予定です(現時点のプランであり変更になる可能性があります)。本シラバスに書いてある井庭研で目指していることや大切にしていることをよく理解した上で、エントリーしてください。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
■これからの創造社会
井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについて、実践的に探究しています。暮らしや人生、仕事、教育、社会などの様々な領域における「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの本質を捉え、パターン・ランゲージのかたちで表現し、それを用いて人々の実践支援をする研究に取り組んでいます。見据えている未来は、一人ひとりがもつ創造性を活かして暮らし生きていく「創造社会」(Creative Society)です。
僕は、ここ100年、消費社会から情報社会へと歩んできて、すでに始まっている次の時代は、創造社会だと考えています。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。
自分たちで自分たちの物事をつくっていくということは、可能性に満ちた素敵なことですが、単にそれは素敵なことだから重要になるのではなく、社会の切実な面もあります。多様性と自由がますます認められるようになった社会においては、人々のニーズや課題を画一的なアプローチでは満たせなくなってきます。あちこちで生じている多様な問題は、どこかからヒーローがやってきてすべて解決してくれる、というようなことは起こり得なくなってしまいました。それゆえ、それぞれの人がそれぞれの立ち位置において、問題を解決し、よりよい未来をつくっていくことが不可欠になっているのです。しかも、地球温暖化のような人類・地球規模の難題もあり、世界中の人たちがそれぞれに工夫し、知恵を出し合い、創造的に取り組んでいく必要があります。「創造社会」というとき、そのような時代背景とスコープで捉えています。
「創造社会」を生きるというとき、僕らは、テクノロジーにますますがんじがらめになり人工的な生を生きるのではなく、よりナチュラルで人間的に生きていくという方向性を目指しています。そして、そのための道具立てとして実践の言語「パターン・ランゲージ」をつくり・活かし、人々が「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能とし、社会を共通基盤として下支えする「ソフトな社会的インフラ」をつくっています。
■自然な深い創造
井庭研では、何かを「つくる」という「創造」(creation)について、深いレベルでその本質と、各実践領域における実現方法について研究しています。
現在国内外で創造性(クリエイティビティ)の重要性が言われ、こうすればより創造的に考えることができるというプロセスやテクニックが話題になっています。このような状況のなか、井庭研では、そのようなアプローチの重要性・必要性を認めながらも、もっと深いレベルでの創造 --- 「深い創造」(deep creation) --- にフォーカスしています。それは、人間が根源的に持っている力を活かした創造です。それは、ああする・こうするという「行為」というよりも、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で生起するということに、人間が関わるというような創造です(このことを専門的に言うと、「中動態」で表されるべき創造だということになります)。
それはまるで、植物を育てるときのように、人間は環境の重要な一部となり、それに関わる・参加するというようなものです。そのとき、創造に関わる人は、植物が育つための「土」のような役割をします。土があることで安定して成長することができるとともに、その土から得た栄養が成長を可能にします。このように、植物が育つように、つくっているものが「育つ」というのが、「自然な創造」(natural creation)です。そして、そういう創造が起きるとき、そこに関わる人たちの力んだ力は抜け、とても「自然(ナチュラル)」な状態になります。つくり手は、自分がつくっているものをコントロールしなければならないという意図や作為から解放され、いきいきとして、実感(フィーリング)を感じながら参加することになります。これは、とても人間的で生命的な状態とも言えます。この意味での「自然な創造」に注目しています。
他方、自然環境の意味での「自然(ネイチャー)」の観点も大切にしています。上記のような「自然(ナチュラル)」な生成の状態は、人工的な環境よりも、自然環境に触れているようなときの方が発動されやすくなるためです。都市や人工物はすべて人の手による産物であり、その背後には、それをつくった人がいます。これに対し、自然環境は、まさに、人の手の範囲を超えて、「自然(ナチュラル)な」生成によって生まれ育ってきたものなのです。身近な「小さな自然」に触れたり、「大いなる自然」のなかに浸ったりすることで、人間はより「自然(ナチュラル)な」状態になりやすくなるのです。
このように、井庭研でいう「自然(ナチュラル、ネイチャー)」には、「内なる自然」(inner nature)と言える生成的な面と、「外なる自然」(outer nature)と言える自然環境という(本来は表裏一体の)両方の意味が含まれている。そのような意味での「自然な深い創造」(natural deep creation)であり、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(natural & creative living)なのです。
■「自然な深い創造」を実現する実践言語「パターン・ランゲージ」
意識的な意図や作為によるコントロールから解放され、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で実現される「自然な深い創造」は、そう簡単には起きません。なぜなら、人はすぐ「自分が考えないと、何も起きない」と思ってしまうからです。実践の言語である「パターン・ランゲージ」はその問題を解決します。
パターン・ランゲージは、その実践において押さえるべきポイントごとに「何をすることが大切か」とそれは「どうやるのか」が特定されているので、それに「身を委ねる」ことで、無心で自然とその実践をしていくことができるようになります。パターン・ランゲージを構成する「パターン」には、その実践で大切な「型」が定められているとともに、それらの「型」の関係が体系として編まれているので、意識的に「こうしよう」「ああしよう」とコントロールしなくても、自然と勘所・ポイントを押さえた実践が可能になるのです。
しかも、パターンは、適度に抽象化されていて、具体的な行動指示とは異なるので、状況に合わせて実践の具体的なところをアレンジしたり、その人らしいやり方で行ったりすることができるという特徴があります。このように、実践領域ごとにパターン・ランゲージがあることで、それぞれの人の実践を支援することになります。
このような理由から、井庭研では、「自然な深い創造」に身を委ねて「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能にするための有力な方法として、「パターン・ランゲージ」の作成・研究に徹底的に取り組んでいます。
パターン・ランゲージをつくるときには、すでによい質を生み出している人から、その実践において大切なことを聞き、その経験則(型)から、抽象化、体系化、言語化して、パターン・ランゲージをつくります。このパターン・ランゲージがあることで、うまく実践できていない人を助けたり、これから始める人の参考になったり、実践について語るための語彙・共通言語としてコミュニケーションの支援が可能となります。このように、パターン・ランゲージは、社会の多くの人々を支えるメディアになるのです。
■パターン・ランゲージをつくるときの深い創造
実践に潜む「型」を捉えて、パターン・ランゲージとしてまとめるときには、その実践の本質を捉えて「抽象化」し、パターン間の関係性をつかんで「体系化」し、その本質と体系を踏まえて「言語化」します。具体事例をベースにパターンを捉え、その本質をつかむというときには、現象学における「本質観取」と同様のことを行っているということが、最近わかってきました。つまり、哲学と同様の深い思考・探究が必要だということです。また、パターン・ランゲージは、数十のパターンが相互に関係する体系(システム)をなしているのですが、その関係性を見定め、ひとつの体系として編み上げるときには、背後にある関係・構造を捉える構造主義的思考や、抽象的に捉えるシステム思考やモデリングのセンスが求められます。そして、パターンを記述するときには、現象学の「本質記述」をするとともに、パターンの名前をつくるときには、本質を捉え、かつ魅力的な言葉になるようにつくり込んでいく必要があります。このように、パターン・ランゲージをつくるということは、高度な知性と豊かな感性を総動員してつくるということなのです。
■パターン・ランゲージは歌の詞に似ている
パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思ってもらえるようなものになっている必要があります。物事の本質を捉えるとともに、心が動き、身体が動くような表現になっていることが求められるのです。僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。
聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌う、そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、それをどう捉えるかや乗り越えていくようなポジティブなメッセージがサビで提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。
パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは読み手の内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思うように書いていきます。読み手が実感をともなって、ありありとその内容をイメージできるようにつくるのです。歌とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。
実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、それはまるで、心から共感する大好きな「歌」のようだな、と思うのです。僕は、歌のつくり手たちの言うことにとても共感するのですが、僕らは実践者の話からパターン・ランゲージをつくるので、特に、小説などの原作を歌にするYOASOBIのAyaseさんの言うことはとても近く、通じるものがあると感じています。
パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、それを受け取る人のなかで流れ、内側から温める「歌」のような存在なのです。
■「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの道を極める
井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについての研究をするなかで、自らがナチュラルにクリエイティブに生きる「道」を極めていきます。単に研究テーマや対象とするのではなく、自分自身が実践しそれを生きるということを通じて深め、探究していくのです。そのような事情のため、おそらく多くの人がイメージしている「研究会(ゼミ)」とは大きく異なるスタイルで、井庭研に入るということを捉えてもらう必要があります。
まず、生活における「地」と「図」が逆転します。週の何時間かで井庭研の活動を行う、というようなものではないのです。365日24時間 ナチュラルにクリエイティブに生きる、ということになります。つまりは、「自分の様々な生活」(地)のなかに「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(図)があるのではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(地)なかに「自分の様々な生活」(図)が重なる、というようなかたちになるのです。
したがって、井庭研に入るとは、「授業」を取るというようなものではなく、茶道や合気道などのような「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というようなイメージに近いものになります。創造の道です。その世界(「ナチュラルにクリエイティブに生きる」)を常に実践し、深めながら、それを極めていくというようなことなのです。そのようなこともあり、井庭研では、大学院までを含む長期的なスパンでの成長を理想としています。
どの分野でもそうですが、「道を極める」ということは、2年や3年の短期間では為し得ず、何年もの徹底した修練の結果によって到るものなのです。そのため、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」についての見よう見まねの学部時代から、修士課程で実践の感覚をつかみ、博士課程でそれを自在に行えるようになっていく、という成長の機会を設けています。その意味で、「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というニュアンスがよく合うのです。
最終的には、独り立ちして、自らが「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を送りながら、それぞれの分野で「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人が増えるように先導していく存在になることを目指しています。
そのための場と機会は用意されていますが、ここは自己成長の場であることは忘れないでください。この場と機会を活かし、自分から挑戦し、工夫し、努力して、自分の経験を高めていくことが各自に求められます。そのような意味でも、道を極めるにあたり、精神的な成熟し、よりよい未来に向けて貢献していくことができる人になっていくことも、井庭研で学ぶことの意義になります。
■自分の「自然な深い創造」の力を磨くためには
「自然な深い創造」が自分を場にして起きるためには、自分という創造の「土壌」を豊かにしていく必要があります。その場の発想法のようなテクニックによってアイデアを出すのではなく、自分の深いところにある養分をどんどん吸って、つくるものは「育って」(つくられて)いくのです。そのため、土の状態が自然(ナチュラル)で、豊かであることが不可欠なのです。井庭研では、自分という創造の土壌を豊かにするために、次の3つのことを重視しています。
(1) 創造のための読書
井庭研では、創造に活かせるようにたくさんの本を徹底的に読み込みます。良質の本からは、その著者が考えた結果としての内容だけでなく、「独特の視点」や、「発想の型」、そして体系的な「概念装置」を学ぶことができます。そこで得られたものは、別の分野の別の文脈のことを考えるときにも、役立てることができます。これが自分を創造的にさせるのです。
第一の「独特の視点」は、その著者なりの(つまり、これまでの自分とは異なる)視点で物事を見ることです。いくつかの視点を持っていると、物事を常識的な角度からだけでなく、異なる角度から見ることができるようになります。第二の「発想の型」は、新しい考え方を生み出すときのやり方のことです。発想のしかたの型をいくつも持っていると、アイデアや新しい考えを生み出すときに用いることができます。第三の体系的な「概念装置」は、いくつかの概念が体系的に紐づいた理論を用いて、物事の複雑さを生け捕って捉えることができるようになるということです。これは、高度な把握や推論が可能となり、創造を高いレベルに引き上げます。
このように、たくさんの本を徹底的に読み込んでいくことで、自分という創造の土壌を豊かにし、創造力が飛躍的に上がっていきます。井庭研での経験を通じて、「本の読み方が変わった」「本を読むことが、とても面白いということであることに気づけた」という声があり、研究のためだけでなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を豊かにしてくれるということがわかります。
(2) 井庭研内の創造実践から学ぶ機会
井庭研では、日々、たくさんのプロジェクトが研究・活動を展開しています。そのため、創造実践の取り組みを現在進行形で目の当たりにし、また、ものすごい勢いで創造実践の事例や知恵が貯まっていきます。また、担当教員の井庭や先輩たちが、口頭でもテキストベースでも映像でも、最先端の思考やアイデアを次々と披露し、じゃぶじゃぶに共有しています。これらのリソースを「生きた教材」として活かし、創造実践について学び取りにいくことができます。創造に関する面白い情報が圧倒的な量、毎日飛び交っている場はまずないでしょう(2021年の1年間に、僕は約3万投稿、メンバーも数千から1万超えの投稿をしています)。
(3) プロジェクトでの自分たちの実践経験
井庭研では、1年間に1つのプロジェクトにどっぷり浸かり、複数人で研究に取り組みます。そこでは、それぞれの得意を持ち寄り、個人の限界を超えることができます。しかも、その小さなチームのなかで、学び合いや高め合いが起きます。各自が成長するための挑戦(チャレンジ)もこのプロジェクトでします。こうして、今の自分からアップグレードし続け、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」力を高めていくのです。
井庭研は、以上のような機会を活かして創造実践の経験を積み、自己成長し、創造の道を極めていくための場なのです。
■「新しい学問」をつくりながら実践する
学問的に見たときに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」や「自然な深い創造」、「創造社会」ということを考えるときに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。その「新しい学問」を、僕は「創造実践学」「創造の哲学」「未来社会学」と名付けています。
「創造実践学」(Studies on Creative Practice)は、私たちの暮らしや仕事、社会におけるさまざまな領域の実践を、より創造的なものにするためにはどうしたらよいかを研究する学問として構想されています。各領域の創造実践の本質を明らかにし、パターン・ランゲージとして表現して活用することが、その主力の研究方法となります。「創造の哲学」(Philosophy of Creation)は、創造とは何か、についての哲学的探究を行うものです。現象学の方法によって創造の本質を観取するとともに、プラグマティズムの哲学や東洋哲学などとの関係についても深めていきます。「未来社会学」(Future Sociology)は、ナチュラルでクリエイティブに生きる未来の社会のヴィジョンを描き、その内実を研究する未来志向の学問です。創造社会では社会の一つの機能システムとして「共創システム」というものが作動し、そこではパターン・ランゲージのメディアや、ジェネレーターという役割が重要になるというような、未来ヴィジョンの社会像を明らかにしていきます。
これらの三つの学問を構築するにあたり、僕たちはゼロからスタートするのではありません。これまでの人類のさまざまな知見・学問成果を踏まえながら、大胆に組み替え、読み替えながら、取り組んでいきます。哲学、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に学び、取り入れていきます。その意味で、いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な営みとなります。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。とてもSFCらしい、ユニークな学問のアプローチだと思います。
■Project - 2022年度春学期のプロジェクト
2022年度春学期は、以下の8のプロジェクトを予定しています。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
各プロジェクトの概要は、以下のとおりです。
(1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
ジェネレーターは、ともにつくり、発見とコミュニケーションの生成・連鎖を誘発する存在です。これからの創造的な教育の場では、ティーチャーやファシリテーターという役割だけでなく、ジェネレーターが重要になります。しかし、ジェネレーターは、単なるスキルではなく、あり方であり生き方でもあります。そのため、他のジェネレーターがやっている振る舞いを単に真似るだけでは、ジェネレーターにはなれません。それでは、ジェネレーターにおいては何が大切なのでしょうか。本プロジェクトは、そのようなジェネレーターの秘密に迫ります。本プロジェクトは、一般社団法人みつかる+わかる の「We are Generators!」との共同研究です。
(2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
本プロジェクトでは、しっかりと成果を追求する企業組織において、Well-doingとともに、「幸福」な状態を指す「ウェルビーイング」(Well-being)をどうしたら高めることができるのかについて研究します。本プロジェクトは、企業との共同研究として行い、その企業を中心に、複数の企業の事例とインタビューから、パターン・ランゲージを作成し、広く、企業におけるWell-beingの向上を目指します。
(3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
すでにある競争のなかで、いかにパイを取るかということではなく、新しい商品・サービスで新しい市場を生み出すときのマーケティングはいかに行えばよいのか。本研究では、広告業界での経験が豊かな共同研究者とともに、市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成を行います。
(4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
本プロジェクトでは、これまで井庭研でつくってきた、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。その実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます(本プロジェクトでは、海外だけでなく、日本の地方の高校生のエンパワーメントにも取り組んでいます)。
(5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
このプロジェクトでは、「価値観・世界観から変化してしまう学び」のプロセスと、それを可能にする「創造的な学びの共同体」の仕組みを研究します。具体的には、小阪裕司さんが主宰する商人たちの実践共同体ーーワクワク系マーケティング実践会ーーの会員たちへのインタビューを行い、そこで生まれる語り(ナラティブ)の分析に取り組みます。その際に注目するのは、個別のスキルを身に着けたり成果が出せるようになったりすること以上に、生活や仕事の思想・哲学までが変化してしまうような、新たな価値観を学ぶプロセスとそのための実践共同体のメカニズムです。プロジェクトの活動は、約50人の会員たち(その誰もが魅力的な実践をされている商人たち)との対話に取り組むことと、その語りの書き起こしと分析を載せたメディア(冊子を予定)を制作することを、同時平行で進めていきます。具体的な語りと抽象的な分析を縦横無尽に行き来することで、単に現存する共同体の研究にとどまらず、新たに立ち上がる「創造的な学びの共同体」にとって意義のある知見を得ることを目指します。本研究は、小阪裕司さんのオラクルひと・しくみ研究所との共同研究です。
(6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
現代社会では、人間は自然との関わりの多くを失い、人工的な環境・制度のなかで育ち・暮らしています。その「人間関係」「人工的な環境・制度」のなかで息苦しさや窮屈さ、閉塞感を感じている人は多く、心身への悪影響も少なからずあるようです。そこで、本プロジェクトでは、自然に子どもが育つとともに親も育ちながら、身の回りの自然環境を支え、地球・宇宙を感じる暮らし方・生き方の実現のためのパターン・ランゲージの作成に取り組みます。2022年度は、2021年度に取り組んだ作成・研究で明らかになってきたことをさらに深め、いろいろな事例と結びつけながら、自然のなかの子育てのパターン・ランゲージを仕上げます。
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
高齢者ケアの分野では、現場での実践のなかで多くのことが学ばれていますが、そのような現場での学びにおいて、どのようによりよいケア・介護について意識・経験を豊かにしていくことができるでしょうか? 本研究プロジェクトでは、パターン・ランゲージを用いた対話や実践支援による新しいアプローチを開発し、実践導入していきます。具体的には、井庭研で作成し、2022年1月末に出版された『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』等を活用し、実際に介護施設等で研修を実施していきます。支援する側/支援される側という区分を超えて、自分たちの「ともに生きる」スタイルを育てていくことを促すことを目指します。本研究は、社会福祉法人いきいき福祉会との共同研究です。
(8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
このプロジェクトでは、クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ(創造的な学びのコミュニティ)を、いろいろな仕組み・方法、パターン・ランゲージを用いて(必要に応じてつくって)実現する研究・活動に取り組みます。具体的には、井庭研をフィールドとし、「メンバーが自分たちで自分たちの創造的な場をつくる」ことや、「先端的な研究で創造的な活動を行い、そのなかで学んでいく」ということが実際に効果的に実現することを目指します。井庭研では、学部生でも、自分たちの生み出した研究成果を国際学術会議に論文を書いているのですが、その学術論文執筆に焦点を当て、アカデミック・ライティング・パターンを作成し、井庭研内での支援に活かしています。また、井庭研がクリエイティブ・ラーニング・コミュニティとしてまわっていくための組織バリューの編み上げ構築にも取り組んでいきます。
【履修条件】
【その他・留意事項】
【授業スケジュール】
井庭研では、どっぷりと浸かって日々一緒に活動に取り組むことが大切だと考えています。
全員で集まる時間は、 水曜の3限から夜までのプロジェクト活動の時間と、木曜の4限から夜までの全体ミーティング(ゼミ)の時間です。その時間は、全員での《まとまった時間》としているので、この時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。
それ以外の日も、365日いつでも、各自で本を読んで知識をつけたり、考えたり、プロジェクトの研究の個人作業を進めたり、必要に応じて集まって話し合ったりします。また、担当教員(井庭)や井庭研が登壇する講演・ワークショップや学会等には、原則としてすべて参加して学びます。さらに、コミュニケーション・プラットフォームとして用いているslack上で、毎日情報共有ややりとりが行われています。「井庭研の活動が増える」という感覚ではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」生活にシフトするのだと捉えてください。
【評価方法】
研究・実践活動への貢献度、および研究室に関する諸活動から総合的に評価します。
【エントリー課題】
このシラバスをよく読んだ上で、2月28日(月)までに、[1] エントリーシート、[2] 文献課題、[3] パターン課題 の3つを提出してください。
エントリー課題の提出先:https://forms.gle/XU4vcAwXn7tBC4dXA
[1] エントリーシート
タイトル:井庭研(2022春)履修エントリー
1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真などを入れてください)
3. 井庭研への志望理由
4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところと、その理由・考えたこと
5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合は、第一希望など、明示してください)
6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
8. これまでに履修した授業のなかでお気に入りのもの、所属した研究会など(複数可)
9. 日々の生活のなかで取り組んでいるサークル、学内外での活動・仕事・アルバイトなど
[2] 文献課題
井庭研での創造・研究に関係がある以下の本のうち1冊(できるなら2冊)を読み、自分にとって面白いと感じたところについて、それがどこかということと、どのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。
- 『パターン・ランゲージ: 創造的な未来をつくるための言語』 (井庭 崇 編著, 中埜 博, 江渡 浩一郎, 中西 泰人, 竹中 平蔵, 羽生田 栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013)
- 『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 慶應義塾大学出版会, 2019)
[3] パターン課題
以下のパターン・ランゲージ本を読み、感じたことを書いてください。その上で、どれか一つのパターンの文章とラストをノートなどに手書きで書き写し、その内容・表現の質感を、つくり手の内側の立ち位置で感じてください。その写真を掲載し、さらに、パターンを書き写したときの気づきや感想も書いてください(この[3]の全部でA4で2〜3ページ程度:パターンの書き写し部分のみ手書きのものを写真に撮り、それ以外の部分はパソコンでテキスト入力で作成してください)。
- 『対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』(井庭 崇, 長井 雅史, 丸善出版, 2018年)
エントリーや井庭研でのことについて、何か質問があれば、ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp([at]を@に変えてください)まで、メールをください。
3⽉7日(月)に面接@オンラインを行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後に個別に連絡します。
【教材・参考文献】
井庭研でやっていること・目指していることを知るための本として、わかりやすいのは次の6冊です。最初の2冊は考え方について語っていて、次の3冊はパターン・ランゲージの実例です。そして、最後の1冊は、創造社会とはどういうことかが、自分たちの暮らし方を自分たちでつくるという事例で感じられるものです。
- 『パターン・ランゲージ: 創造的な未来をつくるための言語』 (井庭 崇 編著, 中埜 博, 江渡 浩一郎, 中西 泰人, 竹中 平蔵, 羽生田 栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013)
- 『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 慶應義塾大学出版会, 2019)
- 『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』 (井庭 崇 , 梶原 文生, 翔泳社, 2016)
- 『対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』(井庭 崇, 長井 雅史, 丸善出版, 2018)
- 『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』(金子 智紀, 井庭 崇, 丸善出版, 2022)
- 『コロナの時代の暮らしのヒント』(井庭崇, 晶文社, 2020)
慶應義塾の広報誌「塾」第311号(2021年夏号)「半学半教」
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