ネットワークイデオロギー
-Network ideology-
21世紀の最初の10年は、 ネットワーク環境の基盤整備にして、
現代社会が大きく展開する時代である。
本論ではネットワークがもたらす社会生活面での影響について考える。
1. 恋愛至上主義と核家族
2. 第3の絆
3. 脱境界の思考:覗きと露出
4. 豊かさの思考:情報共有
5. ボランティアの思考:情報探索と情報支援
6. 小さな公共性の思考:自己責任と相互了解
7. ネットワークイデオロギー
4.豊かさの思考:情報共有

希少性の原則にこだわるかぎり、ネットワークは理解できない。ネットワークには、『よいものはたくさんある』というアバンダンス(豊かさ)の認識が必要である。その認識が理解されるとき、そのよいものを媒介にして、すべての人々が相互に共有したり公開して、よいものを「よりよいもの」にしようとする関係がネットワークのなかで生成される。こうして、よいものは公開されてさらに多くの人々に共有され、そしてさらによりよいものへと変換されていく。

情報の公開と共有が、よいものをさらに多くの人にもたらし、しかもよりよいものを創造する、という関係が生成される。これがネットワークにおけるアバンダンスの原則である。情報の秘匿と所有は、「もの」の希少性を前提とする貧しい世界では基本原則にならざるをえなかったが、ネットワークの世界では、そのような原則は放棄される。ネットワークの世界では、希少性は無意味である。

そもそも情報はその本質において所有する価値がない。「もの」が、その所有する主体から離れた瞬間、その主体のもとには存在しえない特性をもつのにたいして、情報にはそのような性質はない。「もの」は、他人にあげれば、すでに自分のものではないが、情報は、いくらしゃべっても、自分の頭から消えることはない。「もの」が基本的に所有されることに価値をもつのにたいして、情報はすべての人に共有されることに価値をもつ。「もの」は、それを所有する人によって、その価値が強く規定されるけれど、それとは対照的に、情報は、それを共有する関係によって、その価値が規定される。しかも共有する規模が大きくなり、情報公開が徹底されるほど、またそれによって、情報それ自体の再創造が生成される過程によって、情報の価値はますます増大する。このように、情報は、その本来的な特性において、希少性・秘匿・所有を排除し、創造性・公開・共有を自明とする。これがアバンダンス(豊かさ)の原則を支えるのである。