2007年7月アーカイブ

ワシントンDCで時間が余ると本屋に行ってブラウズしていた。Barnes and NobleやBORDERSが大きな書店だが、いくつか書店を回ってみても、めったに「Economics(経済学)」というコーナーがない(唯一あったのは専門書に特化したReiter'sだけだ。ここは私のお気に入りだが、最近移転してビルの地下の穴蔵みたいな店になった)。政治学は「Current Affairs」というコーナーに置いてあることが多い。

アメリカ人はあれだけ経済学が好きなのに経済学のコーナーがないのはおかしいと思って知り合いに聞いてみると、「専門書は在庫コストが高すぎるから、書店の店頭には置かなくなった。みんなオンラインで買うんだよ。後は大学の中の書店だね」とのこと。「Current Affairs」のコーナーがあるのもワシントンDCならではなのかもしれない。

インテリジェンス関連の本を見ていて目立っていたのが9/11陰謀論についての本。ネット上では9/11がブッシュ政権の仕業だとか、あるいは少なくとも事前に知っていただとかいう陰謀論(conspiracy theory)が渦巻いている。日本ではベンジャミン・フルフォードという元フォーブス誌アジア太平洋支局長が『9.11テロ捏造』という本を出している(しかし、この本には英語の原著がないようだ)。こんなビデオも出回っている。

こうした陰謀論を検証するためにPopular Mechanicsという雑誌が陰謀論を検証する『Debunking 9/11 Myths』という本を出した(debunkは「正体[偽り・誤り]を暴く[暴露する]、すっぱ抜く」という意味)。ジョン・マッケイン上院議員が序文を書いている。

これに怒った陰謀論者のDavid Ray Griffinは、『Debunking 9/11 Debunking』という本を出した。この人は神学の大学教授だった人だ。

言論の自由とはこういうことなんだろうね。

久しぶりにアメリカに行ってきた。ワシントンDCは2005年9月以来だろうか。前職のときはしょっちゅう行っていたが、最近は海外出張に行く時間がなくなってきたのがさびしい。

しかし、ワシントンは東京以上に蒸し暑くて大変だった。いろいろ聞いて回ったが、イラク戦争一色で、議会が民主党主導になってしまったために、イラク戦争以外のアジェンダは大統領選挙の結果待ちになっているという。それにしたって大統領選挙まで16カ月もあるだろうに。

20070721mit01 今回一番おもしろかったのは、日帰りで行ってきたボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)。MITの卒業生でもある教授が案内してくれた。左の写真は、かつてハックのひとつとして消防車が乗っていたことのあるドームだ。

20070721mit02 表玄関の中のホールに「Established for Advancement and Development of Science its Application to Industry the Arts Agriculture and Commerce」と書かれている(ちなみに昔はUをVと表記したそうで、INDUSTRYがINDVSTRYになっている)。これが建学の精神なのだそうだ。ハーバード大学が真実の探究をモットーにしているのに対し、MITは応用科学をモットーにしている。写真にある「APPLICATION」が重要なのだ。わがSFCはなぜかハーバード関係者が多いのだが、慶應の実学の精神やSFCの総合政策学という視点から言えば、MITのほうが近いのではないかと思う。SFCの将来について議論をするとき、リベラル・アーツ・カレッジにしたい人と、リサーチ・ユニバーシティにしたい人との間で常に議論がある。私はどちらかというと後者だが、新学部長は前者だ。

20070721mit01 教授に案内してもらった後、今度は一人で有名なところを探しに行った。ハッカー誕生の地である。スティーブン・レビーが『ハッカーズ』でハッカー誕生の地としたのはMITのTech Model Railroad Club (TMRC) という鉄ちゃんたちのサークルだ(左の写真にあるドアの右側にある部屋)。見学の予約をしていなかったし、ミーティング時間とも外れていたので中は見られなかったが、なかなか感慨深いものがあった。SFCの教員にやたらと鉄ちゃんが多いこともMITとの共通性を感じさせる。

MITは理工系大学として誕生したのに、経済学や政治学もやたらと強い。理工系の研究者が2/3なんだそうだが、それでもノーベル経済学賞をとった人がたくさんいるし、国際政治も強い。日本の国際政治学者でも、猪口孝、田中明彦、薬師寺泰蔵、山影進といった先生たちがMIT出身だ。その辺のところを先述の教授に聞いてみると、「科学技術の研究だけでは社会への応用を考えるにあたって不十分だから、社会科学や人文科学にも力を入れることにした結果だ」という返事だった。実にいいねえ。

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