2009年10月アーカイブ

10月17日から21日まで、またイスラエルに行った。といっても、到着は17日(土)の深夜、出発は20日(火)の早朝で、実質的には2日しかいなかった。授業はあまり休めないので仕方ない。観光はできなかった。

今回はIIHA(International Intelligence History Association)という学会での発表。1993年にドイツで設立された学会で、初回はオーストリア、その後はずっとドイツ国内で年次会合が開かれてきたが、今回初めて国外で開かれるということだった。

まだ9月のイスラエル行きが決まってなかった頃に発表募集の締切があり、一度イスラエルに行ってみたいという気持ちだけで応募した。その後、9月のイスラエル行きが決まり、この10月の学会のときは用事ができてしまったので、辞退のメールを送った。ところが、日本からの参加というのがめずらしかったらしく、是非来てくれと催促が来た。学会の途中で帰ることになるけど良いかと聞くと、それで構わないということなので出かけることにした。

ところが、確定したプログラムを後で見てみると、学会の最終日に発表はなく、「戦略的エルサレム・ツアー」なるものが設定され、おまけにモサド関連の施設も見学するという。いちばんおもしろいところに参加できないことがわかって残念だった。

深夜にテルアビブに到着。一眠りしてから午前中は発表の準備。午後から学会。外国からの参加者はほとんど同じホテルに泊まっているので、学会がバスを手配してくれる。近くの席の人が「こんにちは」と日本語で話しかけてきた。ニューヨークの大学で教えているイタリア人で、ファーストネームが「イタイ」なので、日本人によくからかわれるそうだ。

学会の場所は、バリラン(Bar-Ilan)大学という、宗教色が強いという意味で保守的な大学の教室を借りて行われた。私から見ると違いがよく分からないが、地元の人から見ると、テルアビブ大学とはずいぶん雰囲気が違うらしい。参加者は100人ぐらい。大きな階段教室に収まる。

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プログラムにヘブライ語で名前が書いてあった。ヘブライ語は右から書く。

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受付を済ませると、9月のカンファレンスで会った人たちが何人かいたり、「お前、日本人だろ。発表楽しみにしているぞ」と言われたり、なんだか歓迎されている。

最初のパネルでは、古代ギリシャのインテリジェンスや、ヘロデ王のインテリジェンスなんて発表があり、なかなかおもしろい。CIAやDIA、FBIの現役の人(ヒストリアンも含めて)も発表している。夜は発表者全員でレストランに出かけてイスラエル料理。韓国の研究者といろいろ話す。

私の発表は二日目の午後、最後のラウンドテーブルの直前のパネルである。日本のインテリジェンス機関の再構築について。今回は準備の時間が足りなくて、自分としては70点未満のできだったが、日本の話はめずらしいらしく、たくさん質問をもらえて良かった。司会者が「今日は日本が人気だねえ」というと、フロアから「いつもだよ!」と叫んでいる人もいた。後でその人と話したら黒沢映画の大ファンだった。

その晩は、テルアビブ市街のロスチャイルド通りにある店に連れて行ってもらい、地ビールを飲んだ。たぶんキリスト教徒の店で、豚肉料理もあった。疲れとビールでふらふらになり、ホテルに帰るとそのまま眠ってしまう。フロントに頼んであったウェイクアップコールで午前1時に起床。2時にホテルを出て空港に向かい、長いセキュリティを抜けて午前5時半の帰国便に乗った。

ドメイン・ネームとIPアドレスを管理するICANNが、米国政府(だけ)の手を離れて、各国政府との関係を結ぶという決定を下した。これはインターネットの歴史の中では大きな出来事で、きっと年表に中には書かれることになるだろう。

インドの友人がわかりやすいコラムを書いたので紹介。

Subimal Bhattacharjee, "League of Cyberspace Nations," livemint.com (October 7, 2009).

民主主義の同盟なんて言葉がはやっているけど、サイバースペース国家の同盟だそうだ。

【追記】前村さんのエントリーも参考になりますね。

前の職場でもあり、客員研究員をさせてもらってもいるGLOCOMのフォーラムが久しぶりに開かれる。

もう残席わずからしいので、お申し込みはお早めに。

http://sites.google.com/site/glocomforum09/

私はこの日、どうしても参加できない。とても残念。

私がGLOCOMに入った年は確か軽井沢でGLOCOMフォーラムがあり、刺激的な議論があったのを覚えている。今年は都内なのでアクセスが良い。行きたいなあ。

ファリード・ザカリア(楡井浩一訳)『アメリカ後の世界』(徳間書店、2008年)。

昨年、MITの本屋でThe Post American Worldというタイトルを見て気になっていた。翻訳が出ているのに気がついて読み始めたらあっという間に読めた。ジャーナリストの本なので注もほとんどなく、エピソードがたくさん入っていておもしろい。

著者はインド生まれのアメリカ人で、彼の目から見るアメリカ、中国、インドは新鮮だ。アメリカ人はアメリカの民主主義や政治が世界最高だと思っているけど、インド人から見ると「インドと同じくらい混乱している」ように見えるらしい。確かにそうかもしれない。アメリカ人が自信をなくしている経済は逆に世界最高だといっている。

インドは中国の成功から限定的にしか学べないという。インドは民主主義であり、中国ほど指導者が力を発揮できないからだ。中国では18ヵ月で町を更地にできるけど、インドではできない。インドでは経済成長が進むと与党が選挙に負けてしまうという不思議なことも起きる。

この本の仮説は、アメリカが衰退しているのではなく、「その他の国」が猛烈に台頭してきているので、「アメリカ後の世界」がやってくるというものだ。これはジョセフ・ナイが最初にソフトパワー論を展開した時のロジックと似ている。アメリカが弱くなったんじゃない。アメリカの援助で日本やヨーロッパが復興し、アジアが台頭してきたというわけだ。

常々感じていたことをそのまま言ってくれたのは以下のところ。

 英語の世界的広がりを例にとろう。英語の共通言語化はアメリカにとって喜ばしい出来事だった。なぜなら、海外での旅行とビジネスが格段にやりやすくなるからだ。
 しかし、これは他国の人々にとっては、ふたつの市場と文化を理解し、ふたつの市場と文化にアクセスする好機だった。彼らは英語に加えて北京語やヒンディー後やポルトガル語を話せる。彼らはアメリカ市場に加えて地元の中国市場やインド市場やブラジル市場に浸透できる(これらの国々では、現在でも非英語市場の規模が最も大きい)。対称的に、アメリカ人はひとつの海でしか泳げない。他国に進出するために能力を磨いてこなかったつけと言っていいだろう。(271ページ)

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