2009年12月アーカイブ

20091216east_asia.jpg大矢根聡編『東アジアの国際関係—多国間主義の地平—』有信堂、2009年12月16日、本体3900円+税、ISBN978-4-8420-5564-0
「第3章 世界情報社会サミットと中国外交——インターネット・ガバナンスをめぐる単独主義?」(72〜96頁)担当。

2006年10月に日本国際政治学会で発表したペーパーが本に収録されました。脱稿後に大きな動きがあり、追記という形になってしまったのが残念。

インターネットの話が国際政治学の枠組みですんなり取り入れてもらえるようになったのは時代の変化ですね。ありがたいことです。

他の執筆陣は以下のようになっています。

序章 東アジア地域協力の展開——多国間主義の視点による分析へ:大矢根聡
第1章 中国の多国間主義:現実的リベラリズム?——「中国の台頭」下における新たな役割の模索:浅野亮
第2章 貿易分野における中国の多国間主義——「協力と自主」の現れとしてのWTO対応:川島富士雄
第3章 世界情報社会サミットと中国外交——インターネット・ガバナンスをめぐる単独主義?:土屋大洋
第4章 多国間主義とインド外交——核保有と経済成長:竹中千春
第5章 大国化するインドにおける多国間主義の動揺——現代「実利」外交の展開:伊藤融
第6章 韓国におけるFTA戦略の変遷——多国間主義の推進と挫折:磯崎典世
第7章 タイの多国間主義外交——経済外交の変化と持続:永井史男
第8章 オーストラリア対外経済政策の転換——多国間主義から二国間主義へ:岡本次郎
第9章 ASEAN外交の改革と東アジア共同体の功罪——政府志向の多国間主義から市民志向の多国間主義へ:勝間田弘
第10章 アメリカの多国間主義をめぐるサイクル——消極的関与と急進的追求の振幅とその背景:大矢根聡

Wikinomiksの中でDon TapscottとAnthony Williamsは、「つながったものだけが生き残るだろう(only the connected will survive)」と言っている。Anne-Marie Slaughterはフォーリン・アフェアーズに掲載された"America's Edge: Power in the Networked Century"の中で政府も例外ではないとしている。

日本でも今年6月に発表された総務省の「ICTビジョン懇談会報告書」でも「霞が関クラウド」が提唱されている。

国においては、各府省の情報システムの最適化をさらに進めていく必要がある。情報システムの効率化・費用低廉化に向け、クラウドコンピューティング技術等の最新の技術を活用し、可能なものから順次システムの統合化・集約化などを図る「霞が関クラウド」の構築を進めるべきである

しかし、政府が本格的にクラウド・コンピューティングに乗り出すとなると、セキュリティの問題がどうしても浮かび上がってくる。情報は共有されればされるほどブリーチのリスクにさらされる。

21世紀を生き残るためには政府もまたネットワークの中で生き残らなくては行けない一方で、そのネットワークが政府の業務をリスクにさらす。これは「クラウドのジレンマ」と言ってもいいだろう。

無論、このジレンマは政府だけではなく、プライバシー情報などを扱う企業にもある。しかし、国家機密が流出する危機ほど大きなインパクトはないだろう。単純に国家機密はネットワークに載せないというのが正解だろうが、情報の仕分けは新たな業務を作り出すことになり、業務改善に逆行する。

政府はすべてを縦割りにし、階層構造にすることで成立してきた。ネットワークの導入は政府の組織に変更を迫ることになる。霞が関クラウドはそうした長期的インパクトを作り出すことになるのだろうか。そこまで深遠な意図を持って構築されるのだろうか。

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