井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

慶應義塾大学SFC「創造システム理論」2018シラバス

「創造システム理論」
慶應義塾大学SFC総合政策学部・環境情報学部(基盤科目-共通科目)
担当教員:井庭 崇, 若新 雄純
開講:2018年度春学期(後半)
曜日時限:金曜4・5限※
※ 学期前半には、同じ曜日時限に「創造社会論」(井庭)が開講される予定です。併せてどうぞ。

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【科目概要:主題と目標/授業の手法など】

これからの時代は、さまざまな問題・課題を解決したり、新しい仕組みやあり方を新たにつくっていくことが不可欠な時代です。まさに一人一人が創造性(クリエイティビティ)を発揮することが求められるのです。それでは、創造的(クリエイティブ)に考えたり、創造的な場やチームをつくるためには、どうしたらよいのでしょうか? この授業では、創造やコラボレーションに関する理論と、最先端の魅力的な事例について学び、自らの実践へとつなげていくことに取り組みます。授業は、毎週、理論編実践編の二つのパートで構成されていて、理論編では、システム理論や社会学などの先端的な理論、実践編では、鯖江市JK課やニート株式会社などの先進的な「ゆるい創造」のモデルと、パターン・ランゲージなどの新しいメディアによる支援・実践方法について学びます。履修者には、授業と並行して、自らの「ゆるい創造実践」(テーマ・方法は何でも構いません)に取り組んでもらいます。この授業では、実践を理論的に理解する経験と、理論を実践に移す経験ができます。授業自体が創造的な場になるようにつくっているので、ぜひそれを体験しにきてください。

なお、担当教員の井庭崇の創造実践支援についてのレクチャーの映像と、若新雄純の手がけた事例についての鼎談映像が以下で公開されているので、興味がある人は事前に見ておいてください。

井庭レクチャー@創造社会論2017(前半): http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/video_gc/view_video_gc.cgi?2017_38368+01+1
井庭レクチャー@創造社会論2017(後半): http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/video_gc/view_video_gc.cgi?2017_38368+02+1

若新×熊坂×井庭鼎談@創造社会論2017(前半): http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/video_gc/view_video_gc.cgi?2017_38368+03+1
若新×熊坂×井庭鼎談@創造社会論2017(後半): http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/video_gc/view_video_gc.cgi?2017_38368+04+1


【授業計画】

[第1週]
第1回:[6/8] 創造的(クリエイティブ)とはどういうことか【理論編】
- 創造システム理論(心的システム、創造システム、オートポイエーシス)


創造的であるとはどういうことかを理解するために、創造とは発見の生成・連鎖であるとする井庭崇の「創造システム理論」を学びます。そして、つくり手の作為による創造ではない「無我の創造」とはどういうことかについて考えます。(担当:井庭)

第2回:[6/8] クリエイティブとはどういうことか【実践編】

パターン・ランゲージによる創造支援の実践として、プレゼンテーション・パターンを用いた創造的プレゼンテーションのデザインに取り組みます。(担当:井庭・若新)


[第2週]
第3回:[6/15] 混沌とした秩序【理論編】
- カオス理論(複雑性、非線形の世界、バタフライ効果)


決まったルールに従っているにも関わらず、でたらめに見える複雑な振る舞いをするシステム(決定論的カオス)について学びます。また、逆に、混沌に見えるものにも、シンプルな法則性が隠れている可能性があることを学びます。その上で、非線形の世界では小さな原因が大きな結果を生み出し得るということ、それゆえ個人やチームの思い・活動から始まる社会イノベーションは理論的にも成り立ち得るということについて考えます。(担当:井庭)

第4回:[6/15] 混沌とした秩序【実践編】

一見無秩序に見えるチームや組織の中から面白い法則や秩序が生まれた事例を紹介し、社会におけるルールやシステムについて再考します。そして、普段から意識している秩序にしばられることなく思いを実現できる(できそうな)チームのあり方を模索・提案し、その難しさと面白さを体験します。(担当:若新)


[第3週]
第5回:[6/22] 人と人の間に起きること【理論編】
- 社会システム理論(ダブル・コティンジェンシー、コミュニケーション、創発)


お互い考えていることはわからず、躊躇し合いがちな僕たち人間は、いかにして、他者と一緒に活動することができるのだろうか。そのメカニズムについて理解するために、ニクラス・ルーマンの社会システム理論のいくつかの概念を学びます。社会とは、コミュニケーションの生成・連鎖のことである、という捉え方をしっかり理解します。(担当:井庭)

第6回:[6/22] 人と人の間に起きること【実践編】
- おしゃべりの放し飼いと匿名チャットのコミュニケーション


私たちは普段から何気なくおしゃべりをしています。そのおしゃべりは一見でたらめで無目的なようですが、そこから共通認識や共感をつくりだし、それを絶えずアップデートし、「何か」を見出したり、つくりあげたりしています。そのコミュニケーションのメカニズムに注目すべく、「誰が」を一切排除した匿名チャットを用いてコミュニケーションの生成・連鎖について全員で遊びながら学びます。(担当:若新)


[第4週]
第7回:[6/29] 新しい何か【理論編】
- 創造的脱力(ゆるいコミュニケーション)


現代は、物質的な豊かさの中で人々が求めるものが多様になり、何をどのようにしたら正しいのかという「答え」が分からない複雑な社会です。そこで、無理に「答え」にたどり着こうとするのではなく、試行錯誤を楽しみながら新しい発見を重ねていくことが大切です。若新雄純の提唱する「創造的脱力」について学び、クリエイティブの最初の一歩を探ります。(担当:若新)

第8回:[6/29] 新しい何か【実践編】
-ゆるい◯◯ピクニック企画


ゴールや成果が分からなくても、強い思いがあって取り組みたいこと・気になってしかたがないこと・どうしてもやってみたいことを盛り込んだ「◯◯ピクニック」を、計画などにしばられず自由に企画します。そして、その展開や創造されそうな「何か」をイメージし、必要なことを準備します。(担当:若新)


[第5週]
第9回:[7/6] ピクニック【実践編】
- 「◯◯ピクニック」の実践


キャンパス内外を自由に使い、#8で企画した「◯◯ピクニック」を実践します。(担当:若新)

第10回:[7/6] ピクニック【実践編】
- 「◯◯ピクニック」の実践・振り返り


教室に戻り、「◯◯ピクニック」の実践によって生じた発見の連鎖を振り返り、創造された「何か」について考察します。(担当:若新)


[第6週]
第11回:[7/13] 社会を動かす、未来をつくる【理論編】
- 社会システム理論(全体社会、機能分化、共創)+Voice-Exitモデル拡張版


私たちが生きている社会は、どのように動いているのでしょうか。ニクラス・ルーマンの「社会システム理論」の全体社会の理論を紐解き、経済・政治・法・科学・芸術・宗教などのサブシステムがそれぞれ独自の論理で動いているのが近代社会であるということを学びます。また、そのようなことがいかにして安定して動くことを可能にしているのかについても学びます。また、社会を変える方法についてのアルバート・ハーシュマンの「Voice-Exitモデル」を拡張した井庭崇の「Reframe-Generationモデル」を紹介し、社会を動かし、未来をつくるアプローチについて考えます。(担当:井庭)

第12回:[7/13] 社会を動かす、未来をつくる【実践編】
- 未来ヴィジョンを描く


未来ヴィジョン構築のワークシートを用いて、マクロ社会的な未来の変化のイメージをふくらませます。(担当:井庭)


[第7週]
第13回:[7/20] ゆるい創造実践ライトニング・トーク大会

授業期間中に学んだ考え方や方法を用いて、自分の周囲で取り組んでみた、「ゆるい創造実践」について、1分間で紹介してもらいます。

第14回:[7/20] ゆるい創造実践ライトニング・トーク大会

授業期間中に学んだ考え方や方法を用いて、自分の周囲で取り組んでみた、「ゆるい創造実践」について、1分間で紹介してもらいます。



【提出課題・試験・成績評価の方法など】
授業と並行して、自らの「ゆるい創造実践」(テーマ・方法は何でも構いません)に取り組んでもらい、それを最終回で発表するともに、レポートにまとめてもらいます。成績評価は、授業中の活動への参加、宿題、発表、期末レポートから総合的に評価します。


【履修上の注意】

  • この科目は、春学期の後半(6・7月)に週2コマ開講する科目です。短期集中コースなので、遅刻・欠席のないようにしてください。


    【履修選抜課題】
    受入学生数(予定):約 100 人
    選抜方法:課題提出による選抜

    自分を表現する「自撮り動画」を撮影し、魅力的な自己紹介をしてください。動画は30秒以内とし、YouTubeに限定公開設定でアップし(各自アカウント取得が必要です)、そのURLを提出してください。

    ”魅力的”という表現の解釈は自由です。ただし、単に個人の容姿や声色を評価するものではありません。また、動画そのものの画質や編集・加工技術を評価するものではないので、 特別なカメラ機材などを仕様する必要もありません。スマホ撮影で十分です。

    30秒という時間の中にどのような言葉、表情、しぐさ、背景、物語を織り込むと”魅力的”に自分を表現することができるのか、ぜひ工夫を凝らしてみてください。

    これは履修選抜課題ですが、この課題を楽しむことができるということが一種の選抜(Natural Selection)になっていると言えるでしょう。ここから、あなたの「ゆるい創造実践」は始まっているのです。


    【教材・参考文献】

    教科書
  • 『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011年)
  • 『創造的脱力:かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論」(若新 雄純, 光文社, 2015年)

    参考文献
  • 『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭 崇, 福原 義久, NTT出版, 1998年)
  • 『創発する社会―慶應SFC〜DNP創発プロジェクトからのメッセージ』(國領 二郎 編著, 日経BPコンサルティング, 2006) ※とくに第1章「創発という、怪しくて魅力的な何か」(熊坂 賢次)を読むように。
  • 『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993)
  • 『社会の社会〈1〉』(ニクラス・ルーマン, 法政大学出版局, 2009)
  • 『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007)
  • 『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』(A.O.ハーシュマン, ミネルヴァ書房, 2005)
  • 井庭 崇, 「パターン・ランゲージによる無我の創造のメカニズム:オートポイエーシスのシステム理論による理解」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs (AsianPLoP2018), 2018
  • Takashi Iba, “An Autopoietic Systems Theory for Creativity,” Procedia - Social and Behavioral Sciences, Vol.2, Issue 4, pp.305 6625, 2010
  • Namino Sakama, Haruka Mori, Takashi Iba, “Creative Systems Analysis of Design Thinking Process,” in the 7th International Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs17), 2017
  • Takashi Iba, Ayaka Yoshikawa, “What Occurs in Egoless Creation with Pattern Languages,” Pursuit of Pattern Languages for Societal Change conference 2017 (PURPLSOC2017), Krems, Austria, 2017
  • Takashi Iba, “Sociological Perspective of the Creative Society” in Matth us P. Zylka, Hauke Fuehres, Andrea Fronzetti Colladon, Peter A. Gloor (eds.), Designing Networks for Innovation and Improvisation, Springer International Publishing, 2016, pp.29-42
  • Norihiko Kimura, Haruka Mori, Yuzuki Oka, Wataru Murakami, Rio Nitta, Takashi Iba, “A Method of Generating Societal Vision based on Social Systems Theory,” in the 7th International Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs17), 2017
  • Norihiko Kimura, Yujin Wakashin, Takashi Iba, “Patterns for Community Innovation by Empowering Indifferent People: Practice of Sabae City Office JK-section,” Pursuit of Pattern Languages for Societal Change conference 2017 (PURPLSOC2017), Krems, Austria, 2017

    【担当教員】
    この授業は、毛色・ノリの異なるこの二人のフュージョンでお届けします!

    iba160.jpg 井庭 崇(いば たかし)
    慶應義塾大学総合政策学部 教授。
    株式会社クリエイティブシフト代表取締役社長、および、The HillsideGroup 理事も兼務。
    2003年、慶應義塾大学後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。
    様々な創造実践領域の研究を通じて、創造とはどういうことかを明らかにするために、創造システム理論を構築・提唱している。また、創造社会(Creative Society)の実現に向けての社会論、および、創造実践の支援の方法としての「パターン・ランゲージ」の作成・研究に取り組んでいる。
    編著書・共著書に『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(NTT出版、1998年)、『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(慶應義塾大学出版会、2011 年)、『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『プレゼンテーション・ パターン:創造を誘発する表現のヒント』(慶應義塾大学出版会、2013年:2013年度グッドデザイン賞受賞)、『旅のことば:認知症とともによりよく生きるた めのヒント』(丸善出版、2015年)、『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』(翔泳社、2016年)など。『旅のことば』は、オレンジアクト認知症フレンドリーアワード2015大賞、および2015年グッドデザイン賞を受賞、さらに2016年度かわさき基準の認 証を受けている。また、2017年には中国語(繁体字)での翻訳書が香港で出版された。2012年にNHK Eテレ「スーパープレゼンテーション」で「アイデアの伝え方」の解説を担当。


    wakashin160.jpg若新 雄純(わかしん ゆうじゅん)
    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授。
    株式会社NewYouth代表取締役、NEET株式会社代表取締役などを兼任。
    慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。
    専門はコミュニケーション論。人・組織・社会における創造的な活動を促すコミュニケーションのあり方を研究・模索。
    大学在学中に、障害者の就労支援を行う株式会社LITALICO(東証一部上場)を設立し、取締役COOに就任。その後大学院で研究活動に取り組み、独立。
    日本全国の企業・自治体・学校などで実験的政策やプロジェクトを多数提案・実施中。全国の若年無業者(ニート)を100人以上集めた株式会社の発足や、週休4日の「ゆるい就職」プロジェクト、女子高生がまちづくりを模索する「鯖江市役所JK課」プロジェクト(総務大臣賞を受賞)などを企画。
    社会のさまざまな現場で調査・フィールドワークを行い、ビジネス誌等での執筆や、テレビ番組のコメンテーターとしての出演、講演実績多数。著書に『創造的脱力~かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論』(光文社新書)がある。
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