生活世界をめぐる、3つの構成原理
 
1. 客観的世界の構成原理
2. 主観的世界の構成原理
3. 間主観的世界の構成原理
4. メディアスケープ(媒介景)
5. 核家族の視点(産業社会に対応)
6. 粒子家族の視点(消費社会に対応)
7. 携帯家族の視点(情報社会に対応)
2.主観的世界の構成原理

しかし1975年以降、生活の豊かさが消費生活での多様化をもたら した結果、構造論的なアプローチの有効性は後退せざるをえなくな った。そこで有効性を期待されたのがライフスタイル論であり、か つそのライフスタイル論を背景に企業からの戦略として採用された マーケティングの手法である。つまりライフスタイル論とマーケティ ング戦略は、1975年以降の消費社会における消費者の生活を認知 し、かつ消費者の購買行動ににまで結びつけるための方法論だった のである。 ここに第2の生活世界の構成原理が見いだせる。ここでは、社会環 境はすべて主体のなかに包含され、したがって内化(主体化、主観 化)された環境と主体の集合として、主体と環境をめぐる生活世界 が認知される。ここで認知された自己のリアリティは『実感』とし てのリアリティであり、客観的事実としてのリアリティとは、まっ たく対照的な意味をもつリアリティである。同じリアリティであっ ても、ここでは、すべて主体の主観的なフィルターを通して実感さ れるものであり、他の主体との共有された了解としてのリアリティ は基本的には放棄されている。自分が感じることが、世界のすべて なのだ、という形式で、生活世界を認知することが優先されるので ある。 したがって、主観的世界としての生活世界は、つぎのような実感さ れるリアリティを表現する形で階層化されている。

◇基本様式 :(1)価値意識、(2)欲求

◇派生様式1:(3)家族意識、(4)地域意識

◇派生様式2:(5)趣味、(6)生活=消費意識、(7)支出意識

これは、主体を生活世界に位置づける第2の原理で、主観的な世界が どのように構成されているかが了解されるはずである。このような生 活世界を、ここではライススタイル(life-style:生活様式)を呼ぶ。

このライフスタイル・アプローチは、生活者の生き方、とくに消費生 活が多様化し、職業(学歴・所得)階層によって、ほぼ一義的に消費 生活が規定される、という関係は、75年以降ますます希薄になった。 つまり生活者の消費行動は、家族を支える主人の社会的地位(職業構 造:会社の規模と地位の高さ)によって語られる時代ではなくなり、 主婦や子供も、自分なりの価値意識と要求によって、自分たちの世界 を語り始めたのである。その結果、構造論的なアプローチの有効性は、 生活世界を理解することにかんしては、あきらかに後退した。 生活世界は、家族(とくに核家族)における地位の拘束から解放され、 各自が独自の価値意識と欲求によって、描かれるものになっていった。 その結果、各人のライフスタイルを価値意識と欲求の観点を核にして 理解する方法が模索されるようになった。それが、ライフスタイルと マーケティングの分析手法である。また、この手法は、その背景は異 にするが、ブリュドゥーの考え方と同一のものであった。 ブリュドゥーの考え方を利用すれば、職業構造が、学歴(文化の軸) と所得(経済の軸)の高低との関連で規定され、だからこそ、産業社 会の生活構造を理解するうえでもっとも有効な変数であった。これに たいして、消費社会にあっては、職業構造に対応する変数は生活-消 費意識のパターンであり、それが学歴ではなく趣味(文化の軸)、所 得水準ではなく支出意識(経済の軸)によって、強く規定されるよう になることで、新たに有効な変数になってきた。つまり各人が、どの ような趣味のパターンをもち、そしてそれとの関連でどのような消費 -支出パターンをもつかによって、各人の生活-消費意識は多様なパタ ーンをもつようになり、そのパターンのありかたが、各人の価値意識 と欲求の反映として具現化されて、多様なライフスタイルの出現をも たらしたのである。 こうして、消費社会における生活世界は、各人の主観的世界の投影で あるライフスタイルを理解することによってもたらされたのである。 ここでは、各人のライフスタイルをもとに『実感』されたリアリティ にこそ、かれらの生活世界の本質が語られるのである。