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3.間主観的世界の構成原理
しかし消費社会それ自体がさらなる多様化をすすめ、従来のライフス タイル・アプローチでは、生活者の多様性を理解することに限界をき たすようになってきた。つまり主観的世界の構成原理では、一層進ん
だ多様化を理解することは不可能になってきた。 さらにそこに、情報社会化の進展が重なることで、生活者の多様化は ますます加速化されていった。その結果、新しい方法論が期待された。
それが、今回のジェル・プロジェクトが提案するライフスケープ (life-scape:生活景)のアプローチで、第3の生活世界の構成原理 である。 ここでは、主体と環境の関係は、相互融合的である。客観的世界では、
環境が主体を内部に取り込み、主観的世界では、主体が環境を内部化 したのにたいして、このライフスケープのアプローチでは、環境は主 体にアフォーダンス的な関与を求め、それを受けて、主体は環境に自
己を投射させることで、自己を認知する、という関係にある。つまり 「環境と融合する状況規定的な自己」として自己の認知がなされるの である。したがって、ここで認知される自己のリアリティは、どこま
でも『状況的情報(記憶)』としてのリアリティである。換言すれば、 個別具体的な行動にかんする経験記憶とその記憶の連鎖に規定される リアリティで、「懐かしさとして隠された自己=世界」が状況との関連
で、一気に生活世界に浮かび上がってくる、という仕組みのなかで語ら れる世界である。
ライフスケープをめぐる、3つのスケープ
ライフスケープはまさに生活の情報景であり、客観的な事実でもない し、また主観的な実感でもなく、間主観的な状況規定的な情報(呼び 起こされた記憶)である。これは、つぎの3つのスケープから構成さ
れる。
■シンボリックスケープ(象徴景)
■メディアスケープ(媒介景)
■アンビエントスケープ(環境景)
■シンボリックスケープ(象徴景)
シンボリックスケープは、ライフスケープのなかでは、もっとも意味 世界に関与した生活世界で、そこでは自己投影された意味世界が描か れている。つまりシンボリックスケープは、生活者が現実の社会生活
していく過程で、自己の生活モデルにしている人物が意味する生活世 界である。このモデルへの自己投影によって、生活者は「自分が何で あるか、何をしたいのか、何をなすべきか」を確認し、自己の存在を
認知するのである。しかもここでの自己の存在証明は、モデルとの距 離(尊敬、愛着、嫌悪)によって、多様であり、通常のアイデンティ ティ論のような、一枚岩の主観的な意識として認知されるものではな
い。もっと個別具体的な人物モデルであるから、そこでは一気にシン ボリックな作用(メタファー)が働いて、生活者の意味世界が了解さ れるのである。 「ぼくは、長嶋茂雄を、尊敬している。」「私は、松田聖子が大好き
だ。」という言葉には、そこでの人物モデルと生活者の距離(尊敬、 愛着など)がはかれるし、さらに、その人物モデルが意味する世界が、 生活者のライフスケープを規定する重要な要因になっていることが了
解されよう。つまりモデルは生活者の生活世界を投影する鏡であり、 モデルの意味世界を解釈することは、そのモデルと生活者との距離を 測定しておけば、生活者の意味世界を了解することが可能になるので
ある。
しかもモデルは、生活者にとって、多様である。ここでは加齢の要因 は大きい。すでに5歳あたりから、親の影響を受けながら、自分に似 合ったモデルを模索し始めるものである。したがって、以下のような
モデルを設定することが、シンボリックスケープでは必要になろう。
◇アイドル・タレント
◇スポーツ選手
◇文化・知識人
◇政治・経済人
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