2008年12月アーカイブ

アメリカではクリスマスはほとんどの仕事が休みになる。レストランもほぼ全部休みになり、日本のようにクリスマス・ディナーや忘年会で盛り上がることはない。ほとんど人も出歩かず、道路もすいている。一つの宗教に基づく休日は政教分離に反するのではないかと思うが、とにかくほとんどの人が仕事をしない。サンクスギビングは友人・知人を呼んでパーティーという人が多いが、クリスマスは家族水入らずというところが多いような気がする。クリスマス・イブはラストミニッツの買い物客がいるが、クリスマスになると街はとても静かだ。

CVSという薬局兼雑貨屋は開いているというので、デジカメの写真を印刷しに行った。隣にあるダンキン・ドーナッツも開いていて、かなり人が入っていた。他に行くところがないのだろう。CVSにはキヨスク端末が置かれていて、自分でデジカメの写真を印刷できる。これまでも何回かやっていて問題なかったので、今回も大丈夫だろうと踏んでいた。CVSの店内も、いつもよりも人が入っている気がする。やはり他に行くところがないのだから、案外かき入れ時かもしれない。

キヨスクはいつも通りの様子だったので、タッチスクリーン式の画面で写真と枚数を指定して、印刷の注文を出した。普通なら1分以内に写真が出てくる。しかし、今回は出てこない。画面を見ると、小さなエラーマークが出ているので、クリックすると、「インクリボンがない」と出ている。近くにいた店員に、「インクリボンがないと出ているのだけど、直してもらえますか」と聞いた。

「それ、今日は動いてないから。」でたでた、アメリカ的対応である。「機械は動いているし、注文しちゃったよ。」「担当者がいないから。」これもアメリカ的。「じゃあ、どうやってキャンセルするの。」「ワン・セカンド」といってその人は店の裏へと消えていく。しかし、待てど暮らせど帰ってこない。これもアメリカ的。

仕方ないので、別の人をつかまえて同じことの繰り返し。その彼は店の裏へと消える代わりに、「チッ」と舌打ちをした後、カギを取り出してキヨスクを開け、リボンの交換を始める。これもアメリカ的。こちらも黙って作業させる。すると、先ほど店の裏へ消えた男が、着替えて何知らぬ顔で帰っていく。これもまたアメリカ的。

作業を終えた男はばたんとキヨスクを閉めてあっちへ行ってしまう。写真がバラバラと出てくる。時間はかかったが目的は達したのでよしとしよう。クリスマスに仕事している彼らも楽しくはないのだろう。

今日の教訓:アメリカのクリスマスは家でおとなしくしているべし。

こんなことがあってから家に帰って、トーマス・フリードマンのクリスマス・イブのコラムを読むと、「アメリカをリブートせよ」と言っている。アメリカには才能ある人が集まっているけど、インフラストラクチャもサービスも全然ダメじゃないかと言っている。その通りだと叫びたくなる。

CVSのキヨスクと同じで、便利なものを設置したのは良いものの、ちゃんとメンテナンスが行われないで放置されている社会インフラストラクチャが多すぎる。道路や電車、空港、建物、みんなそうだ。古いものが良いとされるのはイギリスに任せておいた方が良い。歴史の長さが違うのだから。アメリカは金ピカで新しい方が似合う。アメリカは疲れてしまっている気がしてならない。

そして、サービスも悪すぎる。ワシントンDCに住んでいる人は、ボストンの店員がにこやかだと驚く。確かにそうだ。しかし、ボストンでもCVSの店員のようなのはゴロゴロいる。チップをもらえるレストランやホテルの従業員だけがきびきび動く。

先日の東京のシンポジウムでこうした点を批判したら、私は日本での生活にスポイルされているというコメントを頂戴した。日本のクオリティは確かに高すぎるかもしれない。しかし、アメリカが期待よりもただ低いのだと思う。アジアの都市では(暑いのと人が多いのをのぞけば)もっと快適に過ごすことができる。

アメリカは世界一の国だとアメリカ人は言うが、必ずしもそうだとは思えない。フリードマンが別のコラムで書いているとおり、もうアメリカと中国の差はぼけてきている。自慢の資本主義も政府の助力がないとダメになってしまった。他国の産業が政府に保護されているのを批判していたのだから、アメリカの自動車会社をアメリカ政府が救済するのは筋が通らない。エンロンのような不正会計があったと思ったら、マドフ・ファンドのようなネズミ講が社会的信用のある人によっておおっぴらに行われていた。

アメリカは本当にリブートすべきだと思う。よれよれになった社会をさっぱりと新調して欲しい。オバマ大統領就任まであと1カ月足らず。期待しすぎてはいけないと思いつつ、期待してしまう。

とここまで書いて、ブログに上げるのが面倒で放置していた。そして、クリスマス明けに近所のスーパーで買い物。翌日、大学時代の友人夫婦が自宅に来るので準備を開始したところ、買ったはずの品物が見あたらない。レシートを確認すると確かに支払っている。このスーパーでは商品を店員が袋に入れてくれるのだが、入れ忘れたようだ。リターン(返品)はありだとしても、入ってなかった(と客が主張する)商品はどうなるのだろう。

このまま泣き寝入りも悔しいので、レシートを持ち、スーパーに戻った。入っていなかった商品を手に取り、カスタマー・サービスへ。「こんにちは。」「こんにちは。どうされましたか。」「昨日、ここで買い物をして、この商品の支払いをしたのですが、家に帰ったら袋にこの商品が入っていませんでした。」「ああ、そうですか。今日はこれからまたお買い物ですか。」「いいえ、今日はもう買い物はありません。」「それでは、どうぞ。」と出口を指さされた。

ううむ。こちらの言い分を100%聞いてくれたのはありがたいが、いいんだろうか。レシートすら確認しようとしなかった。アメリカ経済が本当に心配になる。

昼前にMITの副学長からメール。12時で全員仕事を切り上げ帰宅するようにとのこと。午後になると雪嵐が来るというのだ。慌てて食料品の買い出しに行くと、すでに同じように買い出しに来ている人で溢れている。

買い物が終わって帰宅する途中、ちらほらと雪が舞い始める。道のところどころで除雪車が待機している。帰宅してしばらくすると本降りになった。アパートの窓から除雪車の動きを見ていると楽しい。夜半まで降った後、翌朝はアパートの窓から見る限りカチンカチンに凍っているようだ。ついに本格的な雪の季節が来た。週末で良かった。

写真がぼけているのは降っている雪のせい。

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通信傍受の話も追いかけているテーマの一つだが、こちらでも進展があった。3年前の今頃、ニューヨーク・タイムズがブッシュ政権の令状なし通信傍受をスクープした。その情報源が誰だったのか(少なくとも私は)分からなかったが、ニューズウィーク誌が司法省の職員Thomas M. Tammであるとして、今週発売された号でカバー特集記事にしている。

まだちゃんと目を通していないが、TammはFBI一家で育ち、あの悪名高いエドガー・フーバーFBI長官の机の下で遊んでいたというから、司法省/FBIの中でも筋金入りだ。その彼が、NSAが違法性の高い通信傍受をしていることに気づき、公衆電話からニューヨーク・タイムズにタレこんだということらしい。しかし、すぐにFBIが知るところとなり、かなりの嫌がらせを受けたようだ。彼は確かに筋金入りだが、組織に対して筋を通したのではなく、正義に対して筋を通す人だった。

「blow a whistle」は「笛を吹く」の意、「blow the whistle」は「内部告発をする」という意になる。

MITは年内の授業と試験が終わり、大学は休みモードに入っているが、ワシントンは賑やかだ。情報通信政策でおもしろい動きが出てきている。

まず、12月6日にオバマ次期大統領が、大規模なインフラストラクチャ投資計画をラジオ演説とYouTubeでのビデオで発表した。アイゼンハワーが州際ハイウェーに投資して以来の規模になるという。ブッシュ政権の乱費と昨今の金融救済案もあって今年度の連邦政府の財政赤字は1兆ドルを超えると見られ、これまでの最高額の2倍以上になっている。それでもやるというのだ。

景気刺激策という意味ももちろんあるが、古くなり、世界的に見ても遅れ始めているアメリカのインフラを何とかしなければ、ますます競争力が低下するという危機感もあるようだ。

ブロードバンドへの投資も大きな柱となっている。オバマはインターネットの威力を分かっているだけに、力を入れたいところだろう。

As we renew our schools and highways, we’ll also renew our information superhighway. It is unacceptable that the United States ranks 15th in the world in broadband adoption. Here, in the country that invented the internet, every child should have the chance to get online, and they’ll get that chance when I’m President - because that’s how we’ll strengthen America’s competitiveness in the world. (引用元

そうなると、連邦通信委員会(FCC)の人事が焦点となるが、おそらくブッシュ政権退場とともに辞任するであろうケビン・マーチンFCC委員長に対する批判が吹き出てきている。下院のエネルギー・商業委員会の多数派スタッフがレポートを出し、そのタイトルは「欺瞞と不信:ケビン・マーチン委員長下の連邦通信委員会(PDF)」である。

タイトルほどには中身はすごくなくて、マーチン委員長が自分でマイクロコントロールしたがるので、他の4人の委員や部下たちがやってられないとこぼし、業者たちがぶつぶつ言っているということだろう。最大の問題とされているのは、視聴覚障害者のための資金を集めすぎていて、一般利用者の料金が(わずかに)上がっているということのようだ。

しかし、以前からマーチン委員長は議会の問いかけに応じないなど、問題が積もり積もった結果としてこうした批判が出ていると見た方がいい。FCCは独立委員会なので、行政府の一部のように見えながら、報告義務があるのは議会である。委員を指名するのは大統領だが、議会に対して説明責任を負っている。議会の問いかけに応じないのはやはり問題だ。

マーチン委員長が就任したとき、確か30代後半で、今の私の年齢とさほど変わらなかったはずだ。そんな大役を任されるとしたらぞっとするが、若さ(そんなに若くはないが、政治的には若い?)ゆえに、マイクロコントロールし、成果を出したかったのだろうか。マーチン委員長下のFCCはソ連のKGBのようだという冗談まで出ている。

そのマーチン委員長、一月さかのぼって11月にはテレビの電波の隙間にあるホワイト・スペースと呼ばれる電波の解禁を認める決定をした。この話もよく調べるとおもしろくて、ブロードウェーのアーチストたちが反対に回り、賛成派のグーグルなどと対決していた。ブロードウェーのミュージカルではマイクを使用しているが、ホワイト・スペースが解禁されると干渉するから嫌だというのだ。電波は見えないだけにいろいろ変な話が出てくる。

オバマ次期政権の技術顧問にはケビン・ワーバックなど技術と政策に明るい人が入っている。FCC委員長が誰になるのか見物だ。

観光気分の東京

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12月5日に慶應の三田キャンパスで開かれたシンポジウムに参加するため、一時帰国。3月24日に渡米して以来なので、約8ヵ月ぶりの日本である。成田空港に着くと、まず暑いと思った。だいたいボストンの最高気温が東京の最低気温ぐらいなので仕方ない。成田エクスプレスに乗って品川に着くと、人が多い。歩けない。こんなところを毎日平気で歩いていたのかと思うと不思議だ。

シンポジウムの最中は時差ぼけで眠ってしまうのではないかと思ったが、思いの外、目は覚めていて楽しめた。翌日、オバマ次期大統領がインフラストラクチャへの大規模投資を発表して、我が意を得たりという気分だった。ブロードバンドへの投資も本腰を入れるようだ。

インフラやサービスのレベルを日本を規準にして考えてはいけないのは分かっているが、世界一の先進国だという割にはアメリカはあまりにもお粗末で嘆きたくなる。配達ものが本当にひどくて、指定した日に届かないのは当たり前というのはどうかしていると思う(だったら最初から指定させるべきではないだろう)。パネルの中でアメリカのコンビニの悪口を言ったが、要は物流インフラとそれを支える情報インフラがしっかりしていないので、新鮮な食品をコンビニの店頭に並べるということができない(例えばShintaroさんのブログを参照)。おそらく同じ理由で新鮮な魚がスーパーに並ぶということもない。電車はおんぼろでうるさく、一定の間隔で運行できないので、固まってきたと思ったらずっと来なくなったりもする。飛行機は国際スタンダードでそれなりに定時の運行ができるのだから、電車だってやればできるはずだ。

シンポジウム翌日の土曜日は朝からいくつかの用事を片付ける。春に亡くなった小島朋之前学部長の墓参にようやく行けたのも良かった。いろいろなめぐり合わせで葬儀にも偲ぶ会にも出られなかったので、やっとという思いだ。一緒に行ってくれた同僚の清水唯一朗さんとカツ丼セットを食べられたのも良かった。本物のカツ丼だった。

夜はICPCの合宿へ。さすがに時差ぼけが出てきて、夜通しの議論にはつきあえず残念だったが、議論は大いに盛り上がっていて良かった。この合宿で使った日本橋のホテルは、びっくりするほど狭い部屋のビジネス・ホテルなのだが、大きな風呂があるのはうれしかった。久しぶりに首まで湯につかることができた。やはり外国には長く住めない。私には風呂が必要だ。温泉に行きたい!

驚いたのはこのホテルには外国人旅行者がたくさん泊まっていて、白人の若い女性三人がぞろぞろと浴衣で歩いていたり、夜中に修学旅行生のように廊下で騒いでいたりしたこと。観光地としての東京の人気は上がっているのかなと思う。

翌朝、日本橋の小舟町から東京駅まで歩く。江戸橋の横を通り、日本橋を渡り、永代通りをゆっくり歩いた。日曜日の朝なので人通りは少なく、すがすがしい。振り返るとコレド日本橋に朝日が反射していてきれいだった。今回はホテルに3泊したが、観光気分で東京を見ると予想以上に楽しいなと思い直した。

ボストンはアメリカのスタンダードで言えば都会だけど、東京は桁違いに大きくて、人と文化がぎっしり詰まっている。東京は住むには通勤などが大変だけど、観光客として訪れるにはとても楽しいところなんだろう。東京駅で土産物屋が開くのを待っていたら、友人のNさんに見つかった。こんなにたくさん人がいるのに不思議なものだ。

あっという間に一時帰国は終わり、シカゴまで飛ぶと雪が積もっていた。ここでオバマ次期大統領は政権構想を練っている。さらにボストンまで飛ぶ。この日は雪が降ったそうだがまだここでは積もっていない。

と、ここまで一週間以上前に書いたのだが、ボストンに戻ってきてからあわただしく、そのままにしておいたら、今朝雪が積もった。いよいよ冬が本格化する。

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だいぶ前の話になるが、11月27日はサンクスギビングデーだった。この日の夜はMITで所属する研究所の所長宅に招いていただいた。実に広々としたリビングがあり、25人ぐらいのゲストが来ていたが、まだ余裕がある。日本研究者だけあって壁には浮世絵や日露戦争時のめずらしい漫画地図など、興味深いものが飾ってある。奥さまはプロの料理人ということもあって、たくさんの料理本も並んでいる。日本語の料理本も多い。

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アメリカの大学の先生の給料は平均するとそんなに高くないらしいが(日本のほうが高いという話も聞いたことがある)、こんな広々として居心地の良い家に住めるなんてうらやましい。まあ、実際にアメリカに住むとなると考え込んでしまうが、こんな家を日本で建てられたらさぞかし快適だろう。

サンクスギビングの主役ターキー(七面鳥)の丸焼きは時間をかけて作った自家製で、大きなものが二羽出てきた。マッシュポテトなど伝統料理も並んで壮観である。サンクスギビングの料理は、アメリカ料理らしくなく、手間暇かけて作られるので実においしい。

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ゲストも多様で、博士課程の日本人学生や中国人留学生、教授がメンターになっているバングラデシュからのエンジニアの学部生、MITジャパン・プログラムのスタッフ、イタリア人家族、その他、多様なグループから来ており、賑やかで実に楽しかった。皆で持ち寄ったデザートもおいしい。かなりカロリーオーバーだった気がする。

この多様なゲストと楽しい時間を過ごしながら、アメリカという国のダイナミズムを思う。ここにいる外国人のほとんどにとってサンクスギビングなんて関係ないのだが、こうした機会に集まり、いろいろな情報交換をして、ネットワークを広げていく。自宅(そして自国)をこれだけ開けっぴろげにして懐深く入れてしまう。外国人もいつの間にかアメリカ的生活様式を身につけ、アメリカ人になっていく。ここにいる何割かの人はアメリカに残り、グリーン・カードを手に入れ、帰化していくのだろう。

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