グランド・ストラテジーを考える: 2004年8月アーカイブ

日本をよく知る研究者と夕食をともにした。彼は日本語が堪能なこともあり、ここ数年毎月のように日本に通って、電子政府の講演を続けてきた。しかし、もうしばらくは行くのをやめるという。いくら改革を勧めても日本は一向に変わる気配がないからだという。

なぜ日本の電子政府が進まないのか。同行しているシンクタンクの研究員は、行政の職員に何もインセンティブがないからだという。減点主義の行政では何か新しいことをやって失敗すると、昇進に響く。改革派の首長に従って新しいことを始めても、首長が変わってしまえばはしごを外される。

しかし、地方自治体では多選が現実なのだから、首長がその気になればいい。ところが、その首長がITにまったく興味がない。自分が知らないことを進める気もないし部下に教えを請うこともいやなのだろう。だが、ある市では、市長が自分で電子メールの返事を出したら、職員が一斉に使い始めたという。潜在的なニーズはある。首長のためのIT講習をこっそりやってもいいはずだ。

なぜやる気のない首長がそもそも当選してしまうのか。韓国では落選運動も激しいし、政治家のブログのランキングまであるそうだ。日本の政治家の中で自分でブログを書いている人はまだまだ少数派だろう。そもそもITが使えるということは政治家の資質には入っていない。選挙でインターネットを使うことすらできない。

e-Japanで日本中でブロードバンドが使えるようになったと総務省は胸を張った。しかし、同じ総務省(の自治省系)は選挙にインターネットを使わせない。選挙は紙でやるもので、インターネットでは多くの人に情報がいきわたらないからだという。これは大きな矛盾ではないだろうか。

シンクタンクがそうした批判と提言をすればいいではないかというと、シンクタンクは役所の仕事で食っているからできないという。その韓国の研究者は、「日本では役所にぶらさがって生きている人が多すぎる」という。その通りだ。見かけ上、霞が関や地方自治体の職員は減っているが、財団法人や関連団体に追いやられているだけで、事実上公務員という人がたくさんいる。シンクタンクや大学なども、政府のお金で仕事をしている部分が大きい。

では、政府から独立した大きな資金があるかというと、アメリカ型の大きな財団は育っていない。市民側にも寄付をする土壌やインセンティブがないし、財団を作れば節税行為にしか見られない。どこかにあるはずのお金が日本では回っていない。

韓国は今、IMF危機を上回る経済不況にあるという。だから、ITによって景気回復が進むというほど単純ではない。韓国の家電メーカーは輸出で大いに儲けているが、その儲けを投資に回さないので、国内で金が回らない。ITで人減らしがどんどん進んで、失業率が高止まりしている。それでもこれが本当の構造改革だと韓国の人々は信じて、次を目指そうとしている。

日本は、構造改革といいながら、どうしても韓国ほどの危機感を持てない。不況の10年だって、多くの人がほどほどに幸せに生きてこられた。しかし、複雑に絡まったさまざまな社会機能の不全をそのままにして景気が回復してしまうと、いい方向に行くかもしれないが、問題を先送りにしてしまうだけのような気もする。「韓国なんて見てもしょうがないよ」という人はいまだに多いが、そんなことはない。社会システムが似ている韓国から学べることはたくさんある。

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