2004年5月アーカイブ
リマに着いた。南半球はもう秋で、サマータイムは終わっているからロサンゼルスからリマのフライトは8時間半だった。ランチリ航空は先進国と変わらない設備とサービスで悪くない。スターアライアンスでないのが残念。
夜の12時半到着と言うのに空港にはわんさか人が溢れている。白タクが多いのは当然か。われわれにはガブリエラさんとホセさんが迎えに来てくれたので助かった。
リマは霧に包まれているが、まったく雨は降らないそうだ。ガブリエラさんは東京に来たときに初めて傘をさしたとか。リマでは傘も売ってないらしい。
Katie Hafner, "For some, the blogging never stops," International Herald Tribune, May 29, 2004.
結婚記念日の旅行の最中にホテルのバスルームにこもってブログをしてしまうほどの中毒者が紹介されている。大して読んでいる人がいないブログ(私のブログがまさにそうだ)がほとんどなのに、みんな必死になって書き続ける。自分のアイデアをすべて残しておきたい、書き続けなくちゃいけないという強迫観念にとりつかれ、仕事もすっぽかしてブログにはまってしまう。
よく見たらこのブログもここ数日たくさん書き込んでいるが、明日は無理。11時間半(本当か?)かけてフランクフルトからロサンゼルスへ。約1時間半の乗り継ぎで、ロサンゼルスからリマまで7時間半。おまけに到着は夜中の12時半。誰だこんな日程組んだのは。
Paul Krugman, "America's press has been too soft on Bush," International Herald Tribune, May 29, 2004.
クルーグマンは、自分がコラムを書いているニューヨーク・タイムズを含めてアメリカの報道機関がブッシュ政権に甘すぎたと批判・反省している。9.11後のアメリカの報道機関は愛国精神を鼓舞するためにブッシュ政権批判を弱めてしまったがゆえに、数々の問題を招いてしまったという。
戦争の時に報道機関が体制寄りになるのはよくあること。しかし、異常な時期でも反対意見を許容しておけるか、異常な時期が過ぎたら元に戻れるかが重要だろう。
いよいよチュニス滞在最後の日になった。昼の便でフランクフルトに戻る。
毎朝散歩をしていたが、6時前からカフェの店開きをしたり、店の前を掃除したりしている人がけっこういる。夜遅くまで騒いでいる人が多いのに、早起きの人も多いのは驚きだ。一所懸命掃除をしている姿を見ると、どこの国も変わらないなと思う。
今朝は偶然、魚市場に出くわした。カツオ、サバ、イワシのようななじみの魚から、太刀魚やサメなどもあった。エビも大量に積み上げられている。確かにチュニスのシーフードはおいしかった。残念ながらデジカメのケーブルを忘れたので、帰国してから写真をアップしよう。
Jennifer L. Schenker, "Broadband goal eludes Europe," International Herald Tribune, May 26, 2004.
旧知のEwan Sutherlandが引用されている。彼はヨーロッパのブロードバンドを「Bonsai Broaband」と呼んでいる。名言だ。
ネット接続の問題はひょっとするとチュニジアの暗号規制かもしれない。
実は一つのメーラーで三つのメール・アドレスを使っているのだが、うまくいかないのはSFCのアドレスだけだ。SFCのアドレスが他と違うのはAPOPを使っていること。
グーグルで検索してみたら、下記のような情報が出てきた。
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00085/contents/184.htm
http://www.jccme.or.jp/japanese/08/08-02.cfm#Tunisia
ちなみにダイヤルアップでつなぐと、すべてのメール・アドレスで送信ができなくなる。ADSL接続にすると、SFC以外の二つのアドレスからは送信が可能になる。ううむ。
チュニスにはメディナと呼ばれる旧市街がある。聖書に出てくるメディナかと思ったらそれはサウジアラビアだった。
チュニスのメディナは魔窟のような感じだ。フランス門を越えて一歩踏み込むと「日本人か、中国人か。俺の店をのぞいていけよ」という魔手があちこちから伸びてくる。どうもこういうのは苦手だ。基本的にはみんな親切な人たちなんだろうけど、うっかり話を聞いていると「ガイド料を寄こせ」と言ってくる(実際にカルタゴでやられた)。
カルタゴはチュニスから電車に乗って20分ぐらいのところにある。カルタゴと言えば、森本哲郎の『ある通商国家の興亡』という本を読んだことがあるが、すっかり忘れてしまっていた。現地の人がPunicと言っているのも最初は何かよく分からなかったが、古代カルタゴ人のことらしい(フェニキア人とも言う?)。カルタゴ人は子供を生け贄にしたという伝承があるらしく、トフェという子供のお墓がたくさんある遺跡がある。
出張前にもっと勉強してくれば良かったが、後の祭り。できるだけいろいろなものを見ておいて、後でもう一度勉強しよう。
またもやネットワークのトラブルらしい。どこに問題があるのか分からないが、SFCのアドレスからメールを送るとブラックホールに吸い込まれるらしい。今朝、たまっていた返事を20通もいろいろなところに書いたのに、どれも届いていない気配だ。SFCのサーバーにトラブルが起きているのか、それともチュニジアのどこかで……。なぞだ。勘弁して欲しいなあ。
ADSLが使えないから部屋を変えてくれと頼んだら豪華な部屋に変えてくれた。ADSLは完璧につながる。LANの中では100Mbpsらしい。すばらしいじゃないか。ダイヤルアップではメールの送信もできなかったのだが、これも完璧に動いている。ああ、ネットがつながるというのはすばらしい。
今日の夕方会ったベンチャーの社長はなかなか強烈だった。止めないといつまでも話し続ける。約束の2時間が経ったところでちょうど彼の携帯に電話が入った。これで帰ろうかと思って身支度したものの、彼は20分間携帯でしゃべり続ける。終わったところでありがとうと言おうと思ったら、「まあ座れよ。続きを話そうぜ」ということで、結局3時間半、彼はほとんどしゃべりっぱなしだった。
こちらも負けずに議論したのはWSIS(世界情報社会サミット)のこと。シビル・ソサイエティのメンバーをなぜ歓迎しないのかという点。「民主主義の定義は国によって違うし、チュニジアの場合のシビル・ソサイエティは政党になってしまう」というのが彼の主張。「だからって政府だけがインターネットのガバナンスを論じる主体になるべきだということにはならないだろう」と反論したけど平行線。
最後は「国際電話をかけなくてはいけないから」と言って帰ってきた。
チュニジアのチュニスに来た。初めてのアフリカ大陸だが、漠然と抱いていたイメージとは少し違った。建物や町並みはベトナムを思い起こさせる。どちらもフランス文化の影響を受けているからだろう。
イスラム教のせいか女性が一人で歩いている姿はあまり見ないが、ベールもかぶっていないし、男性もひげを生やしていない人がかなりいる。おもしろいのは、やたらとブラブラしている男たちが多いことだ。ホテルは町の中心部の目抜き通りに面しているのだが、ネクタイを締めたビジネスマンが歩くという姿はほとんど見られない。みんなやたらと体を触れ合い、しゃべりながら歩いている。濃密な人間関係が社会の基盤になっているのかもしれない。
ホテルにADSLが設置されている。しかし、つながらない。ケーブルを差し込んでブラウザーを起動するだけでいいと書いてあるのだが、接続を認識しない。ダイヤルアップは28.8Kでつながるのだが、メールの送信ができない。メールを受信はできるのだが返事が書けない。困る。
Kevin Maney, "Now they'll know if you read their e-mail," USA Today, May 20, 2004.
この記事によると、DidTheyReadIt.comという会社のサービスを使うと、自分が送ったメールを相手が読んだかどうか、どれくらい読んでいたか、それを転送したかが分かるという。おっそろしい。しかも、受信者は自分のメールにそうしたトラック機能がついているかどうか分からない。
FirstClassのような昔のグループウェアにはそうした機能が付いていたけど、それは小さなコミュニティの中だから機能したように思う。それにお互いそういう機能が知っていたから使えた。知らない間にそうされているとなると、どうなのかなあ。
ベルリンのイベント・カレンダーを見ていたら、たまたま小澤征爾がコンサートを開くことが分かり、チケットを入手して聞きに行った(昼間はちゃんと仕事しましたよ)。演奏はサイトウ・キネン・オーケストラでほとんどが日本人。客席は少し空きがあるくらいで、当日チケットを入手したのにもかかわらず、指揮者の真後ろ10メートルぐらいの席がとれた。
クラシックをよく知らない私はサイトウ・キネン・オーケストラに正直期待していなかった(スミマセン)。しかし、演奏はすばらしかった。期待をはるかに上回ってダイナミックで迫力があった。(言っては悪いが)指揮者ひとりでこんなに変わるものかと驚いた。みんなのびのびと自己表現していて、今まで日本で見た日本のオーケストラとは段違いだった。
アンコールも終わって、演奏者が壇上からいなくなっても拍手が鳴り止まない。結局、拍手が小澤をもう一度ステージに呼び戻した。そのすばらしさは真にベルリナーを感動させたと思う。
ドイツのホテルに入って困ったのが、久しぶりにダイヤルアップで
つながなくてはいけないこと。最近のアメリカのホテルではたいて
い有線か無線のブロードバンドが入っている。多少お金はかかるが、
イーサーケーブルをつないでブラウザーを起動するだけで使えるの
は非常にうれしい。
しかし、ダイヤルアップは電話番号を探してからIDとパスワードを
入れて、その他もろもろの設定をするのにえらく時間がかかる。何
といっても遅い。それに従量課金だ。
おまけに今回は教えてもらったパスワードが違っていて最初はつな
がらなかった。こういうのは何回やってもイライラする。
たまたまメールを送ってきたイギリスの友人に愚痴を書いたら、
Dial-up is good to remind you of how other's suffer :-)
だと。なるほどね。
ベルリンでクリエイティブ・コモンズのドイツ版を担当しているRoland HonekampとGerd Hansenに会った。彼らの話によると、今日(5月24日)フィンランドがライセンスをリリースし、来月にはイギリスとドイツがライセンスをリリースするそうだ。iコモンズの動きが加速してくる。
ドイツの話を聞いていると、隣接権や人格権、パブリック・ドメインなど共通の問題が浮かび上がってきている。日本法はドイツ法を参考にしたのだから当然か。
日本からドイツへ。機内で見た映画『半落ち』には泣けてしまった。骨髄移植のドナー登録は重要なので検討してみたい。
『半落ち』の著者がさりげなく(いやかなり目立つ形で)裁判の傍聴席に座っていたのには笑ってしまった。
「コンテンツ産業強化がソフトパワー強化ではない」がホットワイアードに掲載された。少し反発を買うかもしれないけど、ホントの話。
雑誌部数、水増し「公称」やめます 「印刷部数」公表へ (asahi.com)
やっぱりいいかげんなものだったんだ。出版業界はデジタル化で危機だとあせっているけど、自らの商売のやり方を正さないとどうにもならないのではないか。
同僚のF先生と話す機会があった。F先生はSFCの研究室にベッドを持ち込み、毎週水曜日から金曜日の2泊3日泊まり続けて研究するらしい(週3日はキャンパスに来なくてはいけないという約束がSFCにはある)。自宅がキャンパスから遠いからというのが理由だが、30歳を過ぎて(失礼)そのパワーはすごい。悩みはずっと研究室にいて運動不足になることだとか。学者も体力勝負だ。
先日、某SI(システム・インテグレーション)会社の課長さんにお会いした。情報産業の将来をどう思うか意見を聞きたいとのことだった。彼の意味する情報産業は、デバイスというよりも、ソフトウェアを含めたSIの話だったので、私は門外漢だ。だから逆にこちらがいっぱい質問をする形になって申し訳なかったが、得るところが大きかった。
一番おもしろかったのが、土建屋とソフト屋のアナロジーだ。一円入札が話題になるなど、SI産業は土建産業に近い側面を持っている。政府が大規模な発注をするとそれに群がるという構図がよく似ているからだ。最近の電子政府がらみの動きは、公共事業的側面がよく出ていた。
しかし、ソフトの発注を受けて各社が入札するわけだが、ハードウェア・メーカーも兼ねているようなところは、SIで儲けずに、抱き合わせのハードウェアで儲けることができる。ハードウェアを持たない純粋SI会社だと、同じ条件では競争できない。仮に入札に勝ったとしても、いざシステム構築という段階ではハードウェア・メーカーの世話になる。そこのレイヤーが分離されていないから、とても平等な競争条件とはいえない。
さらに問題なのが、ソフトウェア開発をどう評価するかだ。ここでは土建屋のアナロジーはきかない。土建屋が造るものは、道路にせよ建物にせよ、はっきりと目に見える形で残る。そこで誰がどれだけの時間と労力を掛けて作業したかがよく見える。しかし、ソフトウェア開発においてその工程とアウトプットがそこまではっきりと見えることはない。
ソフトウェアの価格はいわゆる人月で決まる(『人月の神話』で論じられた問題だ)。何人がどれだけの時間をかけたかを積み重ね、人件費単価で掛けるわけだ。このルールに従えば、ダラダラと無駄なプログラムをゆっくり時間をかけて作ればいいことになる。しかし、優秀なプログラマーは短時間で美しいプログラムを書いてさっさと仕事を終わらせてしまう。なのに彼の給料は安いままになるだろう。
産業の発展形態としてみれば、(1)土建産業のように、現在の工房的ソフトハウスの段階を脱して大量生産型のマス・ソフトハウスが登場するという見方と、(2)プログラミングは芸術的産物としてプログラマーのカリスマ化が進むという見方を考えることができる。しかし、現在のところ、大手ソフトハウスや大手SI会社が会社を飛び出して自立するという例はほとんどない。カリスマが存在しないのだ。建築家がやがて独り立ちするのとは大きく異なる。
結局のところ、ソフトウェア開発の仕事をどうやって評価するのかというメソドロジーが確立していないのが問題だ。ここが確立しなければ、SI産業は成熟へ向かうことはできない。なかなか悩みは深いのだと教えてもらった。
「印税も支払わぬという非常識」(sankei.co.jp)
私は本で印税をもらったことは、自慢じゃないがほとんどない。しかし、出版社がこんなことばかりしていると、ますますデジタル媒体に逃げていってしまうんじゃないのかな。
RFIDに対する反対運動をしているCASPIANがふたたび動き出した。中心人物のキャサリン・アルブレヒトが出産のためしばらく活動休止だったが、5月11日付でプレスリリースが出た。
Wal-Mart Tries New PR Spin to Accompany Item-level RFID Tagging
それによると、ウォルマートがHPの製品にRFIDを付けてテキサス州の七つの店に置いているという。
残念ながら先日の出張では彼女に会えなかったが、CFPでも多くの人が彼女に言及していた。反対運動の中心的な人物である。
しかし、CFP以外の場所で聞くと、反対運動は大した影響力がないともいう。つまり、技術的・コスト的な問題の方が深刻だというわけだ。
その中でもウォルマートと国防総省の動向は注目されている。来年1月までに納入業者は対応できるのだろうか。
「盗聴できない量子暗号、実用化に一歩 産総研が最速通信」(asahi.com)
量子暗号や量子コンピュータというのは何度読んでもよく分からない。「従来の約100倍、世界最高速の毎秒45キロビットを達成した」というけど、そんなに遅いのかと驚いてしまう。いい解説書はないものだろうか。
『若者たちの《政治革命》−組織からネットワークへ−』(中央公論新社)
丸楠恭一/坂田顕一/山下利恵子 著
旧知の丸楠先生と坂田さんが本を出したそうだ。
インターネット元年(1995年)、インターネット政治元年(2000年)を機に、ふつうの若者の中から、政治を面白がる「ネットワーク族」が現れた。彼らは統制を嫌い、NPOやボランティア通じて公共空間を遊泳する。無党派知事の誕生も、小泉現象も、この地殻変動の上に成り立つ。本書はこの静かな《政治革命》の来歴と構造、今後の展望を分析する。また急増する若手議員たちの論理と心理に斬り込む。「若者の政治離れ」論が虚像であることが明らかになることだろう。
オンラインの政策誌『政策空間』をベースに生まれたという。
http://www.orkut.com/てどうなんだろう。誘われて入ったものの、いまいちよく分からん。年を取った証拠か。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/weblog/2004/05/somethings-gotta-give.html
> ヒロイン(?)のエリカは劇作家という設定。
> 海辺の豪邸で執筆に励む。アップルのパワー
> ブックG4(15インチ?)を使っている。欲
> しい。なぜ映画に出てくるパソコンはアップ
> ルが多いのだろう。アップルが強力にプロモー
> ションしているか、映画関係者がアップル好き
> か。
YT氏からタレコミがあった。
> あ、余談ですが、映画でマックの登場率が高いのは、
> 「映像にする際の使用料が安いため」とも聞いたこ
> とがあります。真相はよくわかりませんが。。。
なるほど。やっぱりプロモーションなんですな。
「「フレンズ」最終回放映、10年のロングランに幕」(CNN.co.jp)
『フレンズ』最終回見たかった。アメリカ出張がもう少しずれていれば見られたのに。アメリカにいた頃はあまり見なかったが、日本に帰ってきてからCSでよく見ていた。『Xファイル』の英語は難しいが、『フレンズ』の英語は比較的分かりやすいしユーモアもある。
日米でまたもや引き際が問題になっている。福田官房長官は突然やめた。民主党の菅代表を引きずりおろす計算だろうか。福田さんには次の可能性がある。官房長官の在任記録まで更新した後だから、ちょうどいいといえばいい時期かもしれない。しかし、菅代表には後がない。ここでおろされてしまえば、つらい立場に置かれる。
ただ、民主党が一枚岩でないことも背景にはあるだろう。菅代表の「未納三兄弟」という批判が行き過ぎであったとしても、「菅代表で政権をとる」という一致した思いがあれば、民主党内からも辞任を求める声は出ないはずだ。
アメリカでもラムズフェルド国防長官が集中砲火を浴びている。一年前に戦闘終結を宣言した頃が絶頂だったのかもしれない。
林紘一郎先生が書いている「「引き際」を「科学」する」という文章が参考になる。「自分の引退は自分で決められる」という仮説が虚構だというのは手厳しい。
China, U.S. strike trade accord (ZDnet)
China Downplays Wireless Security Delay (Yahoo!)
ちょっと古いけど、中国は独自の無線LAN技術標準採用を見合わせることで米国と合意した。この標準が採用されると、無線ネットワーク上のあらゆる通信を政府が解読できることになるという。いやはや。
創発に関する研究プロジェクトを進めている。機中で読んだジョンソンの本の抜き書き(文中太字は原文のママ)。
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スティーブン・ジョンソン(山形浩生訳)『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク―』(ソフトバンクパブリッシング、2004年)。
p. 10
[アラン・]チューリングが一九五四年に死亡する前の、最後の刊行論文の一つは、「形態形成」の謎を取りあげたものだった。形態形成とは、あらゆる生命形態が、とんでもなく単純な出発点から、すさまじくバロックで複雑な体を発展させる能力のことだ。
p. 12
チューリングの形態形成に関する研究は、単純なエージェントが単純な規則にしたがうだけで、とんでもなく複雑な構造が生成できるような数学モデルの概略を述べていた。
p. 16
それは複数のエージェント同士が、複数の形でダイナミックに相互作用して、ローカルなルールにはしたがうけれど、高次の命令などまったく認識していないシステムだ。でも、これが本当に創発的なものとして認められるのは、こうしたローカルな相互作用が、何かはっきり見えるマクロ行動につながった場合だけだ。(中略)つまり、ローカルなエージェント同士の複雑な並列相互作用で、高次のパターンが生じるということだ。
p. 68
アメリカ企業でも、流行り言葉は「品質管理」から「ボトムアップ知性」になりつつあり、ラディカルな反グローバリズム抗議運動は、意識的に自分たちのペースメーカーなしの分散組織をアリの巣や粘菌にしたがってモデル化している。
p. 74
そもそもデボラ・ゴードンがアリに興味を持ったのも、このミクロ組織とマクロ組織との結びつきのためだった。「個体が全体的な状況を判断できないにもかかわらず、協調して働くようなシステムに興味があったんです。そしてアリは、局所的な情報だけを使ってそれを実現しています」と彼女は今日語る。
実は局所性こそが、群生理論の力を理解するにあたっての鍵となる用語なのだった。アリのコロニーのようなシステムに創発行動が見られるのは、システム内の個別エージェントが上からの命令を待つのではなく、その直近のご近所に関心を払うからだ。彼らは局所的に考えて、そして行動も局所的だけれど、その集合的な行動はグローバルな行動を生みだす。
p. 77
この局所的なフィードバックこそは、アリ世界の分散化した計画の秘密なのかもしれない。アリの個体は、その時点で何匹の食糧調達アリがいるか、巣作りアリがいるか、ゴミ集めアリがいるかを知るよしもない。でも自分が一日の行程でそれぞれ何匹に会ったかは記憶できる。その情報――フェロモン信号そのものと、その頻度――に基づいて、自分の行動を適切に調整できる。
p. 84
DNAの圧政は、創発の原理に反するように見える。もしすべての細胞が同じ台本を読んでいるなら、それはまるでボトムアップのシステムではない。究極の中央集権だ。それは、アリのコロニーでそれぞれのアリが一日の始めに慎重に計画された予定表を読むようなものだ。昼までゴミ出し作業、その後昼食、午後は片づけ、という具合。これは指令経済であって、ボトムアップシステムではない。
p. 85
細胞は、DNAの図面を選択的にしか参照しない。それぞれの細胞核は、人体すべてについてのゲノムを持っているけれど、個別の細胞が読むのはそのごく一部でしかない。
p. 85-86
細胞は近隣から学ぶことで、もっと複雑な構造に自己組織化する。
p. 87
でも細胞は自分を含む組織の俯瞰図は持っていないけれど、細胞連接経由で送信される分子信号を経由して、街路レベルでの評価を行うことができる。これが自己構成の秘密だ。細胞共同体は、各細胞が自分のふるまいについてご近所を見ることで生じる。
p. 100
エージェント間のフィードバックが必要なのだ。他のセルの変化に応じて他のセルも変化しなければならない。
p. 103
その速度で見ると――千年紀単位の高速度撮影で見ると――人間個人の自由意志はコロニーの一五年にわたる存在のうち、ごく一部しか生きて見届けられないゴードンの収穫アリとそんなに異なるようには思えない。今日の都市の歩道を歩く人々は、アリがコロニーの生命について無知なのと同じくらい、大都市の千年単位のスケールという長期的な視野については無知だ。このスケールで見てやると、都市という超有機体の成功こそは過去数世紀における唯一最大のグローバル現象かもしれない。
p. 117
ただしこうした住民たちは、別に居住地を大きくしようとして努力したわけではない。みんな、自分の畑の生産力を上げるにはどうしよう、とか、発達した都市の排泄物をどう処理しよう、といった局所的な問題を解決しようとしていただけだ。でも、こうした局所的な意思決定が組み合わさって、都市の爆発というマクロな行動が形成される。
p. 147
台風や竜巻もフィードバックの強いシステムだが、だからといってそれを裏庭に欲しいという人はいない。構成パーツや、その組み合わせに応じて、創発システムは多くの違った目的に向かうことができる。
p. 180
システム全体が、初期条件にきわめて敏感です。
p. 247
創発の進歩的な可能性が最もはっきり表れていたのは、反WTO抗議運動だった。これは意図的に、自己組織型システムの分散型細胞構造に基づいて自分たちを組織化していた。一九九九年のシアトルの抗議運動は、驚くほどの分散組織に特徴づけられていた。
その3は「Something's Gotta Give」(よく考えるとPaycheckを見たのはサンフランシスコからワシントンDCに行く機中だったかもしれない。帰りの機中は映画を2本見て、本を1冊読んだからほとんど眠っていなくて、おかげで時差ボケがひどい)。
「ええ加減にしろエロ親父」という感じのする映画。主人公のハリーは30歳以上の女性と交際したことがないという独身貴族。ジャック・ニコルソンは悪役顔なのに最近こういう役柄を好んでいるらしい。
『マトリックス』のキアヌ・リーブスが脇役で出ている。007シリーズのロジャー・ムーアのように、キアヌ・リーブスはマトリックスのネオしか演じられなくなるのではないかといわれていたけど、そうでもなかったようだ。
ヒロイン(?)のエリカは劇作家という設定。海辺の豪邸で執筆に励む。アップルのパワーブックG4(15インチ?)を使っている。欲しい。なぜ映画に出てくるパソコンはアップルが多いのだろう。アップルが強力にプロモーションしているか、映画関係者がアップル好きか。
その2は『Paycheck』。
ベン・アフレック扮するリバース・エンジニアが危険な発明に手を貸すのだけど、記憶を消されてしまう。おまけに命をねらわれてしまう。記憶が消される前に何があったのかを追いかけるというストーリー。タイトルのペイチェックは仕事の報酬でもらえる小切手のこと。
やや設定に無理があるかなあ。脳内に発射するレーザーで記憶のペプチド結合を破壊して記憶を消してしまったり、未来がのぞけるレンズなんてちょっと考えにくいなあ。
帰りの飛行機で見た映画その1。「Chasing Liberty」。
現代版『ローマの休日』といったところ。しかし、お姫様はアメリカ大統領の娘になり、お姫様が旅するのはプラハ、ベネチア、ベルリンなど。そしてお姫様に身分を隠して旅をともにし、恋に落ちるのはなんとCIAエージェント。といっても切迫感はぜんぜん無くて、のほほんとした映画。それなりに楽しい。
大統領一家にはコード名が付く。シークレット・サービスは大統領のことを「イーグル」と呼ぶように、大統領の娘のことは「リバティ」と呼ぶ。主人公は権威的な大統領の目から逃れて自由(リバティ)が欲しくて仕方ない。主人公は自由を求めて(chasing liberty)旅に出て、追いかける側のシークレット・サービスはリバティ(大統領の娘)を探し求める(chasing liberty)という二重の意味がタイトルにはある。
『ローマの休日』のアイデアに従っているところからすると一種の二次著作物なんだろうけど、怒られないのだろうか。エンドロールにクレジットが入っていたりするのかな。
出張から帰国。12日間の不在中、すべて電子メールはメール・サーバーに残しておく設定にしておいた(サーバー管理者の方すみません)。その間に届いたスパムやウイルスは約651通。1日50通以上。ほとんどはフィルタでゴミ箱に入るからそれほど気にならないとはいえ、やはり迷惑だ。
メールに返事を書いていない皆様、申し訳ありません。なるべく早く書きます。