インテリジェンス: 2007年8月アーカイブ
スティーヴン・グレイ(平賀秀明訳)『CIA秘密飛行便—テロ容疑者移送工作の全貌—』(朝日新聞社、2007年)。
来月上旬に参加する予定のセミナーの予習として読む。
レンディション(rendition)とは本来「演奏、翻訳、演出、公演」という意味である。しかし、CIAが絡むと「国家間移送」という意味になる。
これはパナマのノリエガ将軍の事例が典型的なように、外国にいる(米国にとっての)犯罪者を本人の意思に反してCIAが米国へ移送し、裁判を受けさせるということを意味した。
ところが、9.11以後、米国は、ドイツからエジプトへというように第三国から第三国へテロ容疑者を移送し始めた。これを「特別レンディション」と呼んでいる。その飛行機はCIAがチャーターした豪華ビジネス・ジェットである。主役級としてこの本に出てくるのは「ガルフストリームV」という飛行機だ。
CIAは何をしているのか。拷問の外注(アウトソーシング)というのがこの本の取材結果だ。拷問は米国法でも禁止されているし、国際的にもジュネーブ条約で禁止されている。そこで米国政府は、「拷問はしない」という口約束だけに基づいてシリアやエジプト、タジキスタンといった国々にテロ容疑者を渡し、実際にはそこで拷問させ、情報を得ているというわけだ。
本書の第一部は、読むのが苦痛だ。無実の人々が誘拐され、拷問された様子が再現されている。もちろん、完全に無実ではない人も含まれているのかもしれないが、実にひどい。それに比べて第二部と第三部は著者の取材過程と特別レンディションに反対する人々の話が展開されておもしろい。
拷問によって得られる質の悪い情報に比べて、彼らと彼らの家族・友人が持つ敵対的な感情は、さらに多くの人を反米テロリストにしていく。こういうのを「ジェニン・パラドックス」というそうだ。
著者の結論は、「拷問をやってはいけないのは、それがわれわれ自身の社会を劣化させるからだ。拷問は社会を蝕んでいき、偽善的な秘密で隠さなければならなくなり、法の支配とわれわれ自身の道徳性の基盤を崩す結果へとつながる。だから、ダメなのだ」というものだ。