インテリジェンス: 2004年10月アーカイブ

残念ながら日本人の人質が遺体で見つかったようだ。

私は9.11以来、何が彼らをそこまで怒らせているのかについて考えてきた。以前、このブログで下記の本を紹介したが、この本の著者(匿名になっている)の見方に私はだんだん与するようになってきている。

Anonymous, Imperial Hubris: Why the West is Losing the War on Terror, Washington, DC: Brassey's, 2004.

米国の自由や民主主義という価値観を彼らは嫌っているのではない。ただ単に「彼らの土地に異教徒がいる」ことが問題なのだ。もともとイスラムは異教徒に必ずしもひどい仕打ちをする宗教ではない。特に同じルーツを持つユダヤ教とキリスト教には比較的寛容だった。しかし、それは彼らが主導権を握っていた時代の話だ。今は(理由は必ずしも石油だけではないだろうが)異教徒が入り込み、大きな顔をしている。それがアメリカ人だろうが、日本人だろうが、本質的には関係ない。

われわれの価値観で見ようとするから本質を誤っている気がする。29日にアルジャジーラが流したビン・ラディンのテープでは、「米国の不実」が批判されている。そして、「ブッシュ政権は堕落したアラブの政府と変わらない」とも言っている。彼が批判しているのは、イスラムの教えに忠実ではないアラブの政府と人々であり、異教徒だ。だから、彼がサダム・フセインと手を組むはずもない。サウジ・アラビアから追放されたのも、サウジ・アラビア政府の姿勢を批判したからだ。イスラム諸国が民主化されるということにはビン・ラディンは関心を持っていない。イスラムの教えに忠実な政府と国を確立することがねらいなのだろう。そうだとすると、こちら側の目的が何であれ、招かれざる客人としてイラクを訪問することはとても危険だ。自分の家に他人が入り込んで騒いでいたら誰だって不愉快なはずだ。

無論、私はまちがっているかもしれない。だが、以前よりは問題がクリアになりつつある気がする。

上記の本で筆者が指摘しているポイントは下記の六つだ。

  1. 米国の指導者たちは明白な事実を受け入れなかった:われわれが戦っているのは犯罪でもテロでもなくイスラムの反乱(insurgency)であり、これに対処できていない
  2. 軍事力だけが米国のツールになっている:パブリック・ディプロマシーやさまざまな外交対話が成り立っていない。13億のイスラムが米国を嫌うのはその価値ではなく行動
  3. ビン・ラディンは正確に理由を語っている:フリーダム、リバティ、デモクラシーは無関係。イスラム世界での米国の行動が問題
  4. ビン・ラディンが遂行している戦争はすべてイスラム教の教義に関係がある:イスラム教徒たちがイスラム教を信仰していなかったら彼の成功はない。イスラム教徒たちは自分たちの土地が米国と西側に蹂躙されていると思っている
  5. ペルシャ湾の石油と代替エネルギー開発の欠如が問題の核心である:石油がなかったらサウジアラビアのような専制国家を米国が支持する理由はない。ビン・ラディンはこうした専制国家を破壊しようともしている
  6. この戦争は子供の代までの戦いになり、米国本土が戦場になる可能性がある

翻弄

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人質情報に翻弄される日本政府の様子を見るに、情報を収集し、分析するプロセスとサイクルがまだないのだろうなと思う。無論、日本にヒューミント(Human Intelligence)は事実上ないわけだから、現場で直接情報をとってくることができる人はほとんどいないだろう。その結果、シギント(Signal Intelligence)やイミント(Image Intelligence)が及ばないこうした人質事件では、目と耳がない状態になる。いきおい米国に情報を頼らざるをえない。政府が未確認の段階で情報をメディアに流したのは、世論と家族にいきなりショックを与えないようにするためだったのかもしれないが、いい加減さを露呈するマイナスも大きい。「日本にインテリジェンス・コミュニティはいらない。米国から情報はもらえばいいのだから」と主張する人がいるが、それでいいのか、どうしても疑問に思う。無論、現場を知らない私がごちゃごちゃいえることではない。ただ、現地の対策本部ではできることが実はほとんどなくて、座って電話を待っているだけになっている、ということがないように願いたい。

Anonymous, Imperial Hubris: Why the West is Losing the War on Terror, Washington, DC: Brassey's, 2004.

残念なことに神がわれわれの目から驕りを取り除かねば、われわれは負ける。われわれがそれを取り除くことができる兆候は無く、アル・カイダがわれわれよりも世界を明確に見ていることを私は心配している(Sadly, unless the Divinity rids our eyes of hubris, we are lost. There is no sign we can remove it, and, I fear, al Qaeda sees the world clearer then we. )

米国のインテリジェンス・コミュニティで20年以上分析に従事してきた人物が匿名で書いた本。米国の政策がいかにまちがっているか、アル・カイダを理解していないかを告発している。

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