Tété, Le sacre des Lemmings (2006)
2枚目は、叙情性のあふれる美しいアルバムである。メランコリックで繊細なTétéのよさが出ている。とはいえトータルなコンセプト性は薄く、「よい曲を並べました」という印象が強い。
だが、この3枚目はアルバム全体を貫くコンセプトが明快であり、ついにミュージシャンがアーティストになったと確信させる傑作となった。「レミングの朝明け」で幕が開け、「レミングの夕暮れ」で幕が閉じられるまで、ひとつの色調で曲が成り立っている。その色調とは、「悲喜劇」だ。喜びのなかにある悲しみ、ペーソス感といおうか。単に叙情性に流れないドラマがどの曲にもある。そのためどの曲も3分かせいぜい4分なのに、十分聞きごたえがある。
Fils de ChamやLa Relanceで聞けるとぼけた雰囲気のなかに哀れみを感じさせるようなメロディはTétéにしか作れないオリジナリティあふれるものだ。Madeleine Bas-de-LaineやCaroline On yeah Heyは、Tétéらしい繊細かつポップなメロディが美しい佳曲。そしてComme Feuillets au ventのように懐かしさやせつなさを感じさせる美しいメロディ。またA la vie à la mort、A Flanc de Certitudes、Mon Trésorのようなジプシーとは言わないが、昔の民衆歌謡を彷彿とさせる曲もある。
このように書くと、きわめてバラエティに富んだ印象もうけるが、Tétéの曲にはどれにも単純にはわりきれない情感の豊かさを感じる。その情感の起伏に今回のアルバムでは特にストリングスなどのオーケストラをバックとして、奥行きが与えられている。
アフリカ、パリ、モントリオール。Corneilleはそうした旅を余儀なくされた人物であるが、彼の音楽は素直なほど、アメリカのソウルの文脈に忠実である。それに対してTétéは同じように音楽の旅を続けながら、そしてどんよくに様々な音楽を吸収しながら、やがて彼にしか作れない、豊かな叙情の音楽へと至った。その美しく細いヴォーカル、決してわかりやすくはないが随所に感じられるユーモアセンスや寓話性に満ちた歌詞、そして最初からTétéの才能を決定づけていたメロディの美しさ、それらをすべて含みこんだうえで、出来上がったのがこのサードアルバムである。