ボストン: 2008年3月アーカイブ

5日目の朝、メールを読もうとMITまで出かけると、Kenneth Oye教授に会った。Oye教授とは1月に東京で会っている。Cooperation under Anarchyの研究で知られており、私がMITで所属する研究所の前所長でもある。今は技術と国際関係に関するプロジェクトを展開しており、それに私も少し参加させてもらうことになっている。Oyeという名前はおそらく「大家」で、日系の先生なのだが、日本語はほとんどお話しにならない。

Kendallの駅を見晴らす眺めの良いOye教授の部屋で少し話をして、生活の立ち上げがまだ十分できていないと言ったら、今から買い物に行こうと言ってくださる。しかし、平日の昼間から買い物に行ったら仕事に支障が出るのではないかと言ったら、どうやら今はイースターホリデー期間らしく、大学はお休みモードなのだそうだ。各所の事務部門は開いているので気づかなかったが、授業は行われていないらしい。メールを読み終わる前にせかされるように買い物に行くことになった。

教授のスバル・レガシーに乗り、私の自宅で妻を乗せてから、日本食を売っている郊外の店へ向かう。途中、Porter Squareというところで日本食を売っているお店と小さなレストランが集まっていると教えてくださったが、そこはちょっと高いらしい。そこから少し離れたところにあって、車がないと行けないReliable Marketというお店が目的地だ。韓国系のお店だが、日本の食材はほぼ完璧に揃っている。ワシントンDCの日本食材店よりも豊富だし、賞味期限が切れていない。たぶん入手できないだろうなと思っていたしゃぶしゃぶ用の薄い肉まで売っている。ケンブリッジはあなどれない。外国に住むとにわかナショナリストになってしまうことが多いが、そんなときは日本食を食べて元気を回復しよう。

もう一軒行こうと連れて行ってくださったのがポルトガル・パンの店Central Bakery(732 Cambridge Street, Cambridge, MA 02141)である。実に地味な構えで、紹介がなければ入る気のしないお店だ。ポルトガル特製のコーン・ブレッドという大きなパンがおすすめらしい。私たちの次の客は大量に買い込んでいる。レストランで出しているらしい。帰宅してから食べてみると、外側はカチカチに固いのだが、内側はもちもちしていて確かにおいしい。

このパン屋の周辺はいろいろなエスニック系の店が並んでいるようだ。高層ビルが建つボストンからチャールズ川を隔てたケンブリッジ側は、あまり高い建物もなく、田舎町の風情が少し残っているが、なかなか捨てたものではない。大きすぎるニューヨークや、ぎすぎすしたワシントンと比べても、住み心地の良いところに思えてきた。J・K・ガルブレイスの本の中でケンブリッジが良いところだと書いてあるのも分かってきた。世界中から研究者が集まってコスモポリタン的だし、学生・大学院生が多いから活気もある。

ボストンに着いてから生活の立ち上げに追われている。到着の翌日にはヘルスケアのオリエンテーションがあり、アパートの入居手続きをしたり、銀行口座を開設しに行ったりした。3日目は車をレンタルし、家具や生活道具を集める。本当なら家具付きのアパートにしたかったが、ボストンにはあまりないようなので、仕方なく家具なしのアパートにした。

4日目はお世話になる国際関係研究所(Center for International Studies)に行って事務手続きをする。ここは地下鉄レッド・ラインのケンドール駅の上にあり、ビルの1階はMIT Pressの本屋、向かいにはMITの生協があり、絶好のロケーションである。アパートもレッド・ライン沿線なので、地下鉄で15分程度で通える。個室はもらえないが、在外研究の場合はいろいろ教えてもらうために相部屋のほうがむしろ望ましい。同室にはなんと早稲田の教授がいらして、他にインド系アメリカ人の若い研究者がいるらしい。この部屋には窓がないのがさびしい。International Scholars Officeのオリエンテーションに参加すると、私の他に、中国人2人、台湾人1人、韓国人1人、タイ人1人、インド人1人、ブラジル人1人とアジア・シフトが著しい。

問題はこの4日目の午後、発生した。午後1時に約束した家具が届かないのである。MITにはStudent Furniture Exchange(FX)というすばらしいサービスがあって、MITの関係者がいらない家具を寄付し、それを安く再販売している(学生じゃなくてもMITやハーバードなどの関係者は買える)。家具をレンタルすると毎月500ドルぐらいかかってしまうが、FXで最低限必要なものを揃えたら500ドルぐらいで済んだ。新品の家具ではないが問題のない家具ばかりで、500ドル×11ヶ月分浮くのは良い。

問題は配送である。アメリカの配送システムは全く当てにならないことを前回のアメリカ生活で学んでいたので、期待はしていなかったが、やはりうまくいかない。ソファのような大きな家具があると宅配業者ではダメなので、引っ越し業者に頼むのだが、最初は午後1時に持ってきてくれるという話だった。ところが、メールが来て、その日はダメになったので、一日早く持ってきたいというのである。しかし、前の日はレンタカーを予約してあり、各所を回る予定になっていたので、約束の日に持ってきて欲しいと電子メールで返信する。最初はホテルのネットを使っていたが、自宅にはまだ通信回線がなく、3日目にはホテルをチェックアウトしてしまったのでコミュニケーションがとれなくなる。配送当日(4日目)の朝、MITでメールを開いてみると、午後遅くに配送すると連絡がきた。とにかく電話がないので、ずっと部屋にいるから持ってきてくれと返信し、すぐにアパートに戻る。

午後遅くと書いてあったので、1時に持ってきてくれるということはないだろうと思い、本を読んでいたが、時差ぼけのせいか、昼寝をしてしまう。目を覚ますと午後4時で、まだ来ない。アパートの管理人のところに行ってきいてみるが、まだ何も連絡はないという。ああ、まただめかと思ったが、日本のようには行かないなと思ってあきらめ気分になる。

アパートの窓から外を見ると、帰宅ラッシュが始まり、大渋滞になっている。幹線道路に出るための道が混雑し、クラクションを鳴らす車も多い。ニューヨークほどではないが、ボストンの人たちはワシントンDCや西海岸と比べて割とクラクションを鳴らすような気がする。渋滞の車を上から見ているのはけっこう楽しくて時間が早く過ぎていく。今日は家具は届かないかなあと思っていたら、午後7時半になってトラックがゆっくりとアパートの前に止まった。FXから家具を運び出してから、部屋の中に設置するまで2時間半かかったらしく(そりゃ渋滞の中を走って来ればそうなるわな)、時間制の配送料はかさんでしまったが、その日のうちに到着しただけでも良しとしよう。

ここまで数日経ってみて、2001年にワシントンDCに行ったときよりも、格段にスムーズに事が進んでいる。2回目ということもあるだろうし、私の英語が少しましになったこともあるかもしれない。ワシントンDCよりもボストンが効率的とは考えにくいが、それもあるかもしれない。しかし、たぶん、ITを使って生産性が上昇しているのではないかという印象を受ける。特に大きな組織は改善しているように見える。入居したアパートの管理会社は手広く多くのアパート管理をしていて、賃貸料はアメリカではめずらしく銀行引き落としができるようになっている。補修などのリクエストもウェブで予約できるようになっているのは新しい。銀行口座の開設では、コンピュータの端末を目の前で担当者と一緒に操作しながら各種情報を入力し、その日のうちに一時的に使えるATMカードと小切手をもらうことができた。同じ銀行で2001年に口座開設をしたが、その時は1週間かかった。MITの一連の登録作業も効率的で、私のデータベース情報が一元化されていて、ペーパーワークはほとんどない(テロ対策の一環として外国人管理を徹底するよう政府の意向が働いているという側面もある)。

しかし、引っ越し業者のような中小企業では、まだこうしたIT機器・サービスを徹底することができていないのではないだろうか。もちろんたった一件のケースで判断することはできないが、前のエントリーでも紹介した梅田望夫『シリコンバレー精神』では、大企業・大組織こそがITで生産性を上げるという話があった。ITはベンチャーや中小企業にとっても大きなメリットをもたらすが、ネット系ベンチャーでもない限り、昔ながらのやり方を大きく改善するのは難しいかもしれない。私が使った引っ越し業者もウェブページを持っていて、そこから引っ越しのリクエストを出せるのだが、メールのやりとりを見ると、どこかのホスティングサービスとアプリケーションサービスを中途半端に使っているようで、設定がうまくできていないのではないかと思えた(例えば、ウェブ上に掲載されているメールアドレスにメールを出すと不達エラーになる)。

アメリカには毎年のように来ていたが、生活をしてみて分かってくることがやはり多い。ホテルに数日滞在しただけでは生活文化に触れることは難しいと再確認させられる。数年を隔ててまたアメリカ生活を経験できるのは貴重だ。

ボストンへ

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3月13日にトルコのアンカラ帰ってきてからあっという間に10日間が過ぎた。17日から20日までの4日間はいろいろな人たちと会い、ご飯を食べまくった。大学の研究会(ゼミ)も解散になるので、OB&OGも含めた解散パーティーを企画してくれて、これは愉快だった。なんといっても学生たちの才能の豊かさ、発想のおもしろさにはいつも驚かされる。最初に会ったときは無個性に見えた彼らが、だんだんと本性を現し、おもしろいことを話し出すのを見ているのは実に楽しい。

21日から23日までは家族や親戚と会ったり、お墓参りをしたり、最後の荷造りをしたりして過ごした。その間も外食が多かったので、確実に太ったと思う。

そして、24日、雨の中、大きな荷物と共に成田空港にたどり着き、飛行機に乗った。実に疲れた。天候が悪くて離陸してからしばらくは揺れがひどかった。本を読み始めたのだが、揺れが帰って気持ち良くなり、すぐに眠ってしまった。目が覚めてからまた本を読み続けた。

読んだのは、Nさんに紹介してもらった勝間和代さんの『効率が10倍アップする新・知的生産術—自分をグーグル化する方法—』(ダイヤモンド社、2007年)である。Nさんのお知り合いだとかで、おもしろい人だとうかがっていた。本の内容も強烈だった。私が最もショックを受けたのは、カカオ(チョコレート)も一種の依存症を引き起こすものであり、それに依存しているということは頭の働きがかなり落ちている可能性があるという指摘である。私は麦チョコが好きだったと言ったら、学生が山ほど麦チョコをくれたことがあったが、チョコなんか食っているのは知的生産者としては失格ということになる。まずいなあ。

機内での食事が終わって、ようやく一息付けるようになったので、ノートパソコンを開いて、このエントリーを書き始めた(ブログに乗るのはまたしばらく先になるだろう)。3月に入ってからはメールを書く余裕もなくなり、読む時間すらなくなったので、返事待ちがたくさんたまっている。出発前に終わらせなくてはいけない仕事も結局持ち越してしまった。悪いことに、最近は神経が麻痺してきて、メールを読まなくてもいっこうに平気になってしまった。

もう一冊読んだのが、梅田望夫『シリコンバレー精神』(ちくま文庫、2006年)だ。とてもおもしろく読んだのだが、えっと思ったのが岡本行夫さんとの出会いの話。梅田さんと岡本さんが出会った直後の頃だと思うが、岡本さんとほんの一瞬だけ仕事をご一緒したことがあって、この本に出てくる話を聞いていたことを思い出した。あの話は梅田さんの話だったのかと驚いた。

乗り換えのシカゴに近づき、飛行機の窓のシェードを開けると、白い雲が一面に見える。ところが地面も真っ白だ。3月の末だというのにシカゴでは雪が降ったらしい。幸い、ボストンでは雪はなかった。しかし、東京よりはまだ寒い。

ところで、なぜ飛行機に乗ったかというと、普段お付き合いのある方々にはすでにお知らせの通り、これから来年の春まで約一年間、米国ボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)で在外研究を行うことになっている(正確には、MITやハーバードはボストン市の隣のケンブリッジ市にある)。なぜ米国か、なぜMITかという説明はとても長くなるのだが、ヨーロッパに行こうと思っていたけど、扉が重くてなかなか開かず、知り合いが誘ってくれたのでMITにしたというのが簡単な説明だ。7年前にも米国に行き、1年間過ごしたことを考えると、ヨーロッパのほうがおもしろそうだと思っていたのだが、今年は米国の大統領選挙があるということも米国に方針転換する要因になった。ここまでもつれるとは思っていなかったけれど、おもしろい展開である。

しかし、大統領選挙を研究しに行くわけではない。おそらく、マスメディアや在米日本人ブロガーがたくさん大統領選挙はウォッチするだろうから、私が出る幕ではないと思う。純粋にエンターテインメントとして楽しもうと思う(エンターテインメントといったら叱られるかもしれないけど)。

さっきの勝間さんの本では、五つのテーマを普段から持っていると良いと書いてあるので、この一年間見ていきたいテーマを五つ挙げておこうと思う。たった1年で五つを追いかけるのは難しいかもしれないけど、テーマを一つに絞れない私としては片手で数えられる五つを積極的に追いかけていこうと思う。

・インテリジェンス・コミュニティ:特にブッシュ政権の通信傍受。たぶん、これについては複数進んでいる裁判の判決が出るとともに、議会もそれなりの対応策(通信会社の免責法案など)を決めるのではないかと思う。

・情報通信政策:これは私にとってはサブテーマなのだけど、なぜかこちらのほうが需要が大きいのでやめられなくなっている。通信と放送の融合や、電波政策などの他、新しい動きがあればウォッチしたい。ただし、大統領選挙中なので、あまり大きな動きは出なくなっているのではないかと思う。FCCの高官たちも身の振り方を考えなくてはいけない時期だ。しかし、逆にどさくさ紛れに変な動きが出るかもしれない。

・国際政治理論:大学でのメインの授業は国際関係論ないし国際政治理論なので、この動向もウォッチするとともに、日本やアジアの思想・理論をどうやって統合するかも考えたい。

・文明論・帝国論:米国が衰退しているといわれたり、イラク戦争とアフガン戦争が終わらなかったりしている中、大統領選挙が行われる。米国がこの先どうなるのか、長期的な視点で考えたい。

・科学技術政策:最近興味があるのが遺伝子だ。この分野での発展は著しい。ヴァネバー・ブッシュ以来、MITは米国の科学技術政策に大きな影響を与えてきたので、この辺も追いかけていきたい。

全部で成果を出すのは難しいかもしれないが、とにかくどん欲にやってみよう。

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