国際関係論: 2006年3月アーカイブ

ローリング・ストーンズの東京ドーム公演を逃すという失態をしたが、収穫のある学会参加だった(昨日夕食を一緒したNK先生はサンディエゴで日本対キューバ戦を観戦したらしい。こっちも逃した私はアホだ)。

あるパネルで、シンガポールの研究者が、「なぜアジア発の国際関係の理論はないのか」と問題提起していた。日本国際政治学会がスポンサーになったパネルでも日本の国際関係論の現状について論じたようだ(私は出ていない)。

アジアや日本発の理論が皆無というわけではないが、量的には確かに少ない。一般論として言えば、それぞれの時代の覇権国で理論は栄えるものだ。それは自己正当化のためでもあるし、そうした研究に費やすリソースが豊富だということもあるだろう。

長風呂でおすすめだった『国家の品格』を休憩時間を利用して読んだ。著者の藤原正彦氏によると、数学の世界では美的な感覚が理論(定理)を生み出すために必要であり、日本は多くの数学の天才を生んでいるという。

この本は、「論理一辺倒だと破綻するよ」ということをいっているが、現在のアメリカの実証主義的な国際関係論のパラダイムでは論理がすべてといってもいい。今回の学会のパネルでも、分析の枠組みは何なのか、仮説は何なのか、適切な方法で仮説が検証されているか、といったことが厳しく議論されている。

薬師寺泰蔵先生が、イギリスの歴史主義・規範主義を第一の国際政治学とし、アメリカの実証主義を第二の国際政治学とすると、第三の国際政治学は、公共政策論の視点を入れた現実即応型になるだろうと指摘した。論理で演繹して社会で実験するというやり方は危険だ。社会実験が失敗したら取り返しが付かないからだ。だから、現実の問題をいかに解決するかという視点で理論を組み立てることが重要になるだろう。

日本や韓国は、アメリカ人の研究者から見たら「奇跡」といわれるやり方(つまり、なかなかそれまでの理論パラダイムでは理解できないやり方)で、経済復興を成し遂げた。ということは、うまくやれば新しい理論を組み立てられるということだろう。現実の後追い理論になる可能性はあるとしても、帰納的に出す理論があってもいい。

国際関係論とは離れるが、例えば、日本や韓国のブロードバンドがなぜこんなに普及したのか、欧米の人たちには理解できない。これをうまく概念化して説明できればいいのになと思う。

さて、飛行機に乗ろう。

まだサンディエゴで学会に出ている。昨日と今日はそれほどヒットする発表がなかった。インテリジェンス関連の発表は、3週間前にCIAを辞めたばかりですとか、国務省の担当者でしたとか、現職のDNIのスタッフですとか、そうそうたる人たちがいるので話の中身が濃く、得るところは多い。しかし、他の普通のパネルはno-showが多すぎる。まあ、6月にプロポーザルを出して翌年の3月に学会だから予定がフィックスできないのは分かるが、それにしてもねえ。特に有名人はキャンセルが多くて残念だ。

おもしろかったうちの一つは、John Mearsheimer教授("Back to the Future"という論文で知られる)が出ていたラウンドーテーブル。誰か(日本人?)が「二極システムのほうが安定しているんじゃないか」と質問したら、Mearsheimer教授たちが「いや、一極システムのほうが安定している。覇権国は覇権を引き延ばすために公共財(サービス)を提供するからだ」というようなことを言っていた。当然、一極が安定しているという議論は現状の米国の覇権維持を肯定することになる。三極のほうが安定するという議論もあるし、極論争はまだ続くのだろうか。

夕方、気分転換に電車に乗ってハーバーに出かける。ちょうど巨大フェリーが出航したところだった。

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日本チームと入れ替わりで昨日からサンディエゴに来ている。しかし、ダウンタウンから離れたホテルで開かれている学会(International Studies Association)に缶詰なので野球の余韻はまったく味わえない。ただし、日本の面影は写真のような店で見ることができる。店内はミニ秋葉原みたいな感じだ。私が泊まっている別のホテルにも本格的な寿司バーがある。寿司は本格的に流行っているなあ。

この学会は、40ほどのセッションが同時並行で進み、それが午前2回、午後2回、4日間繰り広げられる巨大なものなので、きっとおもしろい話を聞き逃しているに違いない。テーマと発表者で選んで聞くしかないが、当たり外れが当然ある。外れだと非常にがっかりする。

今日聞いた中でおもしろかったのを紹介すると、まず、ジョージタウンのJennifer Simsの「インテリジェンス理論の開発」と題する話。「インテリジェンスの目的は真実を見つけることではない。競争上の優位を獲得することだ」とのこと。そうだとすると、イラク戦争は必ずしも失敗ではない。

次に、インディアナ大学のJeffrey Hartの「情報通信技術の国際レジーム」。私と問題意識が近い。同じセッションのアメリカン大学のSimon J. Nicholsonの「遺伝子組み換え食品のアンビバレントな政治」。ザンビアへの援助として遺伝子組み換え食品が送られているのに対し、ザンビアの大統領は「毒付きだ」といっているそうだ。

一番おもしろかったのは「インテリジェンスにおける歴史的な教訓を活用する」という題のセッション。イスラエルのハイファ大学のUri Bar-Josephは、イスラエルの情報機関のパフォーマンスを1953年から2003年まで検証すると、成功したのはたった5%だという。これは低すぎる数字のような気がするが、どうなのだろう。

同じセッションで神戸大学の簑原俊洋助教授が「日本のブラック・チェインバー」と題して発表した。アメリカの暗号解読機関について暴露したハーバート・ヤードリーの『American Black Chamber』をもじったタイトルだ。日本の戦時中のインテリジェンス活動については、1945年8月13日にほとんどの文書が燃やされてしまったが、簑原先生が見つけた文書では、米国、英国、中国などの暗号を解読していたらしい。パネルの聴衆はインテリジェンスの専門家ばかりだが、みんなよく知らなかったらしい。これは大きな発見かもしれない。ペーパーが公刊されるのが楽しみだ。

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