情報通信政策: 2008年8月アーカイブ
土屋大洋「サイバーセキュリティーが米新政権の課題に」NIKKEI NETネット時評(2008年8月18日)
ウォール・ストリート・ジャーナルの社説が連邦通信委員会(FCC)のケビン・マーチン委員長を徹底的にこき下ろしている。
"FCC.politics.gov," Wall Street Journal, June 30, 2008, Page A14.
書き出しはこうだ。
悪い人事決定がブッシュ政権にはつきまとってきたが、最大の失望のうちの一つは連邦通信委員会委員長のケビン・マーチンである。メディア・ユニバースの主としての最後の半年で、彼はインターネットの政府規制を拡大しようとしているようだ。
ネットワーク中立性に関連してマーチン委員長は、「中立性を確保するための」規制を導入しようとしている。この中立性の議論はなかなかねじれているが、「ネットを中立にしておくために規制が必要」とする人たちと、「ネットを自由にしておくために規制は不要」という派に収斂しつつあるようだ。「ネットを中立にしておくために規制は不要」や、「ネットを自由にしておくために規制は必要」というオプションはなくなってきている(ややこしい上に、どれも議論としては成り立ちそうだ)。
伝統的に共和党は規制反対のはずなのに、マーチン委員長(共和党)は、他の4人の委員のうち民主党の2人と組んで規制を導入しようとしている。
この記事は、言うことを聞かないコムキャスト社をこらしめるためにマーチン委員長が規制を導入しようとしているという政治的な意図を示唆している。しかし、その結果として政府の規制が拡大するのはけしからんというのが同紙の立場だ。記事の最後はこう締めくくられている。
規制者たちは、通信市場全体を競争的にしておくことに集中することで良い仕事をするだろう。もしコムキャストの顧客が同社のネットワーク管理方針が気に入らないのなら、ベライゾンやAT&T、その他のインターネット・サービス・プロバイダーに乗り換えるのは自由だ。ケビン・マーチンと彼の政治的な友達が運営するワールド・ワイド・ウェブは、粗末の質の数少ない選択肢しかわれわれに残さないだろう。
マーチン委員長の本心がどこにあるかは分からないが、この議論はよく分かる。日本でネットワーク中立性の議論がそれほど盛り上がらなかったのは、ユーザーに選択肢があるからだ。NTTが変なネットワーク規制をしたなら、KDDIにでもソフトバンクにでも切り替えれば良い。ISPなら他にもたくさんある。問題は日本でもアメリカでも、選択肢の少ない過疎地で、そこでの選択肢を確保できるようにすることが政策的に必要なことだろう。