“デート”(糸井重里)をめぐる社会学的想像力:1991.3
 
1. 構造分析
2. 長嶋さんからの模範回答
3. ゲームの達人からの回答
-1 状況分析
-2 戦略:知性の差別化戦略
-3 戦略:美貌の痴呆化戦略
-4 戦略:“やさしさ”の戦略
-5 長時間プレイへの回答
4. 山口さんちのマサオ君からの回答
-1 モデルとしての「蒲田行進曲」
-2 長時間プレイへの回答
5. code99からの回答
6. code99:期末レポート"date"
3−1.状況分析

ゲームで勝つには、まずは状況分析が必要です。そこで、“僕”のパワーがどの程度のものであるか、を確認する作業から始めましょう。

パワーはいつも相手との関係のなかで決定されます。関係抜きのパワーなんて無意味です。では、パワー決定要因は何か。つぎの4つです。


《1》 “僕”は彼女にとってどれだけ魅力的な資源(容姿/財力/知性/家柄)をもっているか。これを主体の所有度といいます。魅力をもつほど、所有度は高くなり、“僕”の彼女にたいするパワーは強くなります。

《2》 “僕”の資源に対抗できるような男が彼女の身近にいるか、これも重要です。これを主体の選択度といいます。誰もいなければ(低い選択度)、“僕”は彼女に対して強気になれますが、同じ程度の男が身近にうじゃうじゃいれば(高い選択度)、彼女は『“あなた”でなくてもいいのよ』と言えるので、彼女の方が強気になります。高い選択度は、“僕”のパワーを弱めます。

《3》 彼女が“僕”にとってどれだけ魅力的な資源をもっているか、これを他者の所有度といいます。彼女が魅力的であれば、“僕”は弱くなります。

《4》 最後は、彼女の資源に対抗できるような女性が“僕”の身近にいるか、という問題です。これを他者の選択度といいます。誰もいなければ、“僕”は彼女に夢中にならざるをえないので、“僕”のパワーは弱くなります。もしも美女の楽園だったら、目移りばかりしますから、それだけ彼女にたいして距離がとれるので、“僕”は意外にも彼女にたいして強気のポーズがとれます。

以上の要因に設定にもとづいて、“僕”と彼女の資源状態の確認を急ぐと、つぎのようになります。


《1》にかんして“僕”はどうもどこにでも転がっている若者のようです。「愛する人の美点を語るデート」において、自分達を除くと提案しているところから、“僕”の容姿は劣(★)でしょう。知性にかんしては、彼女の我が侭をいい感じで乗り切っているので、意外に冴えているようです。動物園でのアイディアなどはたいしたものです。しかし学校の成績はたいしたことがないので、結局は並(○)と判定しました。そして家柄は、母のデブから推定して、悪い(★)としました。とすると、料理上手といっても、それはインスタント・ラーメンの作り方がうまいのかな、とやや皮肉っぽく見てしまいました。


つぎに彼女の資源状況をみますと、知性にかんして若干問題を含んでいるようです。根拠は、歴史研究部長にまいる程度では、彼女は知性が高いとはいえないと判断しました。その結果【◎、★、◎】となります。このスコアは《3》のボックスに該当するものです。この点が高いことは“僕”のパワーを低める要因となります。

最後にライバルですが、野球ができて歴史研究部長ですから、学校のスーパースターです。とすれば、すべての点で(◎)になるのは自明です。これは《2》のボックスのスコアであり、強く“僕”の足を引っ張る要因になります。つまりライバルの存在は“僕”の力をダウンさせます。

残った《4》については、“僕”は彼女に首ったけなので、周囲を見渡すなんて不謹慎なことはできません。つまり、彼女しか目にはいらないので、選択度は皆無です。だからこの点でも“僕”は彼女にたいして力をもちません。

さて、ここで4つのボックスのスコア(所有度/選択度)の高低(○、×)によって、論理的には16資源状況パターンと10の関係( A − H )が設定されます。つまり16のパターンは、左右を変換させたパターンとセットになって関係を成立させるので、結果として10の関係になります。つまり《つよい》と《よわい》はセットになって関係を形成します。


以上の準備をもとに、“僕”と彼女の関係を確定しますと、“僕”は《よわい》になり、彼女は《つよい》の(A)セットになります。“僕”にとっては、最悪の状況になっていることが、分析の結果として判明します。だから、“僕”はどんなことがあっても、彼女の奴隷にならざるをえません。

他方、彼女と副主将はどのようなセットでしょうか。少ない情報から判断すると、副主将がやや有利というところでしょうか。すると、ライバルが《ややつよい》となり、彼女が《ややよわい》の(C)セットになります。彼女の知性の劣位が所有度にかんして、副主将との間に格差を生じさせてしまったといえます。彼女はやや苦戦をしいられています。だから微笑が大切な武器なのです。

ゲームの視点からすると、“僕”の状況は最悪に近いことが判明しています。では、このような状況をもとに“僕”はどのような戦略を展開していけばよいのでしょうか。

まず<目標>を設定します。ここでは、勢力的な<強者−弱者>関係から対等な機能的な関係にシステムを変動させることを目標としましょう。つまり、“僕”がいつまでも彼女のいいなりになっている状況《よわい/A》から、“僕”も彼女にたいして少しは対等な口がきけるような関係《ふつう/ F》に改善していくこと、を目標値とします。注意してほしいことは、ここでの目標値として、<彼女をものにする>なんて大胆な目標は設定していない、ということです。確かに、これは“僕”の究極的な目標でしょうが、そこまでもアドバイスを求められても困ります。その時には、高いコンサルタント料を覚悟して相談にきてください。