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1−1拡大ヴィジョン実現への5つのモメンタム
社会ヴィジョンは、その社会的な実現において、社会システムとの適合性が求められる。社会のメカニズムがどのように機能して、ヴィジョンの社会的実現に貢献したか、が明確にされなければならない。拡大ヴィジョンは、つぎの5つの社会的なモメンタムによって実現されていった。
(1)マシーン・テクノロジーの脅威的な生産性と無限の技術革新
機械化は拡大ヴィジョンを推進するもっとも基本的な社会条件である。機械化がもたらした脅威的な生産性の拡大は、拡大ヴィジョンを実質的に実現する基盤であった。しかもその技術が無限なまでに革新され、まさに日進月歩のスピードで新しい技術が開発され導入されることで、社会はその様相を否が応でも新しい姿へと変貌させていった。
(2)高度産業化と日本的組織による効率的拡大の追求
社会の経済的富の拡大を求めた産業化は、一方では機械化によって実現されたが、もう一方では日本的な組織化と経営という、非常に効率的・合理的な物的・人的な資源配分を追求した企業活動よって大きく推進された。とくに戦後の高度経済成長期に代表される高度産業化への邁進は、経済的拡大を一気に実現し、西欧社会との格差を縮小させた重要な時期であった。
(3)官僚・保守政党主導の政治体制による国家目標の追求
拡大のヴィジョンが日本社会に求めた最大の拡大のテーマは経済的拡大であり、その方向への意志決定と誘導を実行したのが官僚と保守政党との相互補完的な機能関係である。官僚を中心にした中央集権的な支配構造と、その構造にあって周辺にしか位置しない社会層への保護や補助政策による利益誘導によって、その支配構造を維持してきた保守政党という機能分担の関係こそが、拡大への実行とその配分の公平感の維持を実現し、拡大のヴィジョンが国民のレベルで十分に支持させることを可能にした。
(4)都市化による社会統合の均質化と階層的都市構造の維持
機械化を基盤として、その社会的な形態への変換が、経済的な次元での産業化、政治的な次元での官僚化であるならば、社会的な意味でのそれは「都市化」である。ここに貫かれた論理は、機能関係と階層関係の見事な補完性である。ここでは、東京を中心にした都市間の階層構造が維持され、それと同時に、都市化によって都市のスタイルがすべての都市に均質的に浸透して、日本的な平準的な社会統合が完成していった。
(5)教育の大衆化と高等化による知識の高度標準化の獲得
最後は教育体制で、ここでは国民のほぼ全員が高等教育を受ける体制が確保され、知識水準の高度な標準化が達成され、拡大ヴィジョンの高度化を推進する基盤がこれによって維持されていた。大衆のレベルで、これだけの高い教育水準を維持できるところに、上記のような日本的な諸社会制度を形成し維持することを可能にする根拠があった。
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