社会ヴィジョンの変容と世代の多様化
 
序論
1. 20世紀の「拡大」ヴィジョン
-1 拡大ヴィジョン実現への5つのモメンタム
  -2 時代の変化と拡大ヴィジョンの変遷
  -3 今後の拡大ヴィジョンへの期待
2 カルチャー・コーホートと社会ヴィジョン
  -1 カルチャー・コーホートの構成
  -2 年代別の生活=文化情報の解釈
-3 カルチャー・コーホート(C・C)別の期待と関心
3. 21世紀の「創出」ヴィジョン
  -1 「創出」という社会ヴィジョンへの期待
  -2 創出ヴィジョン実現への5つの社会的モメンタム
1−2時代の変化と拡大ヴィジョンの変遷

拡大のヴィジョンは時代の方向づけをする一般的な指針であるが、そのヴィジョンに導かれた社会は、その拡大のヴィジョンを過去においてさまざまな社会形態として実現してきた。それはほぼ20年間のスパンで、一つの拡大ヴィジョンが期待され充足され、そして終焉を迎えるというサイクルをもち、さらに一つのサイクルが終わると、そこでは次の拡大ヴィジョンが動き始める、という循環がみられた。それは、具体的には、つぎのような歴史として再構成されよう。

(1)1935ー1954:軍事的拡大ヴィジョンに導かれた時代
第二次大戦での敗戦を境に、戦前と戦後に区分し、その前後はまったく異なった社会であるという常識がある。しかしそれ以上に、拡大のヴィジョンからすると、この前半の10年と後半の10年は連続している、と考えることができる。つまり軍事的な拡大ヴィジョンという視点からすると、戦後の10年は、戦前にあった軍事的な拡大のヴィジョンが敗戦によって挫折し、それ以前の拡大の夢の後始末をした時代であり、時代区分としては戦前から連続して、軍事的拡大の栄光を求めた前半と、その夢が挫折し、その処理に明け暮れた後半という意味で、一括して軍事的な拡大ヴィジョンに導かれた時代といえるのである。実証的にも、日本的な官僚機構にしろ、金融システムにしろ、現在の日本的な制度といわれるものの多くが、戦前のこの時代から社会的なパワーをもちはじめ、戦後も一貫してそのパワーを持続させている。いままでの通念である敗戦を境界に前後を区分するという見方よりも、戦前・戦後を連続して機能している諸制度の視点から日本社会の現実を理解することが重要である。この視点にたてば、この連続する時代状況は、軍事的な拡大ヴィジョンに夢を託して突っ走った時期(戦前)と、そのビジョンの失敗と挫折の時期(戦後)という連続したサイクルとして理解できるのである。

(2)1955ー1974:所得の拡大ヴィジョンに導かれた時代
戦後は終わったといわれる時期になると、軍事的な拡大ヴィジョンに代わって、つぎの新しい拡大のヴィジョンが社会に提示され、それへの期待が社会的に共有された期待として一気に膨らみ、新しい拡大のヴィジョンが社会システムとして実現されていった。それが高度経済成長といわれる経済的な拡大(所得拡大)を求めた時代のヴィジョンである。この時期の頂点が東京オリンピックである。日本社会の経済的な成長の目に見える証しが国内的にもまだ国際的にも求められた時、その具体的でかつシンボリックな表現形態となったのが東京オリンピックである。この社会的なイベントを境に、前半は新しい経済的な拡大のヴィジョンに楽観的な夢を託して突っ走った時期であり、後半は公害や消費者運動や住民運動などの出現にみられるように、単純に経済的な拡大を求めれば、それで幸福になれるという夢が幻想でしかないということが理解され、所得拡大のヴィジョンが挫折する時期に入る。オイルショックは、その夢の終焉を告げる出来事であった。

(3)1975ー1994:(金融)資産の拡大ヴィジョンに導かれた時代
所得拡大のヴィジョンが終焉を迎えた後、日本社会に期待された新しい拡大ヴィジョンは、金融資産の拡大への期待であった。オイル・ショックを諸外国に先駆けて乗り越えていった日本社会に期待されたつぎの拡大ヴィジョンは、世界の金融都市・東京への期待をもとに、東京への都市機能の一極集中を拡大して、その地位を世界金融を代表する世界都市・東京にまで高めていくことであった。その努力と成果の象徴がプラザ合意での日本の相対的な地位の上昇であり、それによって、東京の世界金融都市への道は開かれ、その地位は上昇していくのであった。ここに東京オリンピックでの東京(国際社会の仲間入りをはたした日本)とはまったく意味を異にする新しい世界都市・東京の顔ができあがっていった。そのあと、東京をはじめ日本社会は、一挙にいわゆるバブルの時代に突入し、急激な金融資産の膨張と没落を経験する。円高から地価・株価の高騰そして債券市場の急激な拡大を経験し、さらにそれがバブルの崩壊という形で、大きな挫折をここでも経験するのである。拡大のヴィジョンは、こうして金融資産という視点でも、大きな成功と挫折を繰り返すのである。