羊をめぐる冒険をめぐる解釈
僕=村上書樹のモダニティをめぐるシンボリック・アナリシス
 
1. 登場人物紹介
2 登場人物のおりなす関係
  -1 僕をめぐる性的な関係:排他性と完結性
  -2 僕をめぐる男友達(=青春)の関係:共存性と曖昧性
-3 羊をめぐる権力:“ゲーム”と“物語”
  -4 羊をめぐる交霊者の悲劇:権力と弱者
  -5 メディアとしての<物語環境>
  -6 コミュニタス・トラッドの世界
-7 ロンリークラウドの世界
  -8 とまどうハッピー・クエスターズの世界
  -9 メディアとしてのゲーム環境
3. 構造分析
1.登場人物紹介

『羊をめぐる冒険』は、村上春樹らしさでいっぱいです。そこで村上ワールドの物語の構造を考えることにしました。まずは登場人物の紹介です。

登場人物(1) 僕がはじめて彼女に出会ったのは1969年の秋、僕は20歳で彼女は17歳だっ た。昔あるところに、誰とでも寝る女の子がいた。それが彼女の名前だ。1978年7月彼女は26歳で死んだ。 『寝る女の子』
登場人物(2) それは彼女が離婚したいと言い出した6月の日曜日の午後で、僕は缶ビールのプルリンヴを指にはめてあそんでいた。彼女は彼女の何枚がのスリップとともに僕の前から永遠に姿を消した。1978.7.24 『離婚妻』
登場人物(3) 彼女は21歳なほどに完璧な形をした一組の耳を持っていた。彼女は出版杜のアルバイトの校正係で、耳専門の広告モデルであり、コールガ一ルでもある。その3つのどれが本職なのか、僕にも彼女にもわからなかった。 『耳のモデル』

この3人の女性は、「羊をめぐる冒険」が開始される<以前>に紹介されています。そして冒険物語に直接関連するのは耳のモデルだけで、他の2人は物語のプロローグですでに死んでいます。<死と離婚>は同値てす。

登場人物(4) 大学時代の唯一の友人だった僕の共同経営者は、1973年には楽しい酔っ払いだったが、1978年の夏には初期のアルコール中毒になっていた。かれは「昔の方が楽しかったし、今は搾取している気がする」と思いながら広告コピーや翻訳業を営んでいる 『相棒』

『相棒』が登場したところから冒険物語が開始されているので、この物語は本来ならば僕の『相棒』の冒険物語になるべきだが、相棒は『相棒』ではなく『耳モデル』に変換されている。理由は、『相棒』か『寝る女の子』(死)と『離婚妻』(離婚)と同様、<過去>の世界に共生したパートナーであり、物語の始めにあたって廃棄(別離)すベき絆なのです。物語の発生には、過去に生きる『相棒』から今に生きる『耳モデル』へのバトンタッチが必要だったのです。

「我々は昔友達だったな」と相棒が言った。
「離婚してほしくなかったんだ」
「知ってるよ」と僕は言った。「でもそろそろ羊の話をしないか?」

CCCCCCCCCC(上:P84)

こうして、羊をめぐる冒険の物語が始まる。

登場人物(5) 彼は脳卒中で再起不能の噂が流れている右翼の大物で、敗戦のどさくさに紛れて掴んだ巨富で保守党の派閥と広告業界を買い取り、杜会の黒幕として君臨している。なお彼はこの物語でも実際には登場しない。彼はここでも黒幕のまま存在する。 『右翼の大物』
登場人物(6) 洗練された不吉なニュースのように突然現れた男は、右翼の大物の秘書で、組織の実質的な経営を任されているナンバー・ツーで、表情がなく黒のスーツを着た背の高い日系二世である。僕は、彼のために拒否権の行便ができないビジネス(=冒険)を迫られる。 『黒服の男』
登場人物(7) 彼はみためよりは人なつっこそうな本物の運転手で、先生(右翼の大物)を神の次に立派な方と信じている。彼(のような人)は、僕の冒険の間、僕の年老いた猫の世話をしてくれる。 『運転手』
登場人物(8) 妻に「可愛そうな人」と言われた僕の友違で、手紙で二つの頼みをしてきた。一つは過去に関することで、僕がかつての街に帰ることがあったら2人のひとに「さよなら」を伝えてほしいということ。もう一つは、<羊の写真>を人目のつくところに発表してほしいということ。 『鼠』
登場人物(9) 1963年ベトナム戦争が激しくなった頃、僕の街にきてパーを開いた男やもめ中国人。僕は17歳の無口な高校生の時からこのバーに通い、そこで鼠に出会った。鼠が僕にさよならの伝言を頼んだ人。僕や鼠の青言のルーツがここにある。 『ジェイ』
登場人物(10) 1905年仙台の旧士族の長男として生まれ、神童からスーパー・工リートそして農林省に人省。緬羊増産計画大綱をまとめ、現地視察で満州に渡った1935年、行方不明になり、そこで〈羊と交霊する〉経験をもち、東亜の農政の中枢から追放される。1937年農林省を辞して北海道に渡り羊飼いになリ、敗戦後1947年緬羊協会に動務する。 『羊博士』
登場人物(11) 150センチで猫背で足が曲り、頭から羊の皮をかぶり、羊的なものと人間的なものが同居する。十二滝町の生まれだが、戦争拒否の理由で山中に一人で住む。なぜが鼠の意思を反映したと思われる行動をとる。 『羊男』
登場人物(12) 羊をめぐる冒険にでかけるこの物語の主人公で、もうすぐ30歳になる。 『僕』

この12人は、村上春樹的世界の創造に尽くす使徒なのです。