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1.前提という制約
「女のくせに」の調査は、そのスタートにおいて、<前提条件>が何であるか、を明確にしなければなりません。1007名の協力者がどのような属性をもった集合であるか、は調査のあり方を制約し、解釈の自由に一定の枠を設定する悪魔です。調査の協力者であるにもかかわらず、その人々が協力者であることによって発生する制約という枠と、それに対抗する解釈の自由との葛藤は、分析者にとって永遠のジレンマです。
(A)”おんな”と”おとこ”
1007名の協力者は、女性が855名で、男性が152名です。男性の協力者は、ここでは女性の仕事と生活にかんする実体を理解するための一つの準拠点としてしか意味をもちません。男性それ自体の解釈は、無用です。男性は女性の仕事と生活を解釈するための手段にすぎません。
(B)ジェンダーと満足
男であり、女であることは、どこまで自分らしさの表出にとって重要な条件なのであろうか。そこで<性>と<自分の性にかんする満足>のクロスをみると、つぎのようになる。
1: 男にとって、自己の性は非常に高い満足度をもたらしている。男であることは、かれらにとって自明のことなのであろう。男は男であることを疑問に思わないし、男らしくあることは素直に好ましいことなのである。
2: 疑問を感じないだけ、男は、男であることに無意識であり、無関心であるともいえよう。男が社会関係の中心に位置し、女はマージナルに位置する、という関係の認知は男にとって既得権益である。したがって「中心に位置する主体には、その構造を変革する視野を生成しない」という一般的命題は、ここでもしっかりと検証されている。
3: 女は、かなりはっきりと女であることに不満をもち、苛立っている。少なくとも男のように自分の性にまったく疑問をもたない、という傾向は弱い。
4: はっきりと不満を主張している層(16.2%)は、女であることに不満なのであろうか(つまり男になりたいのか)、それとも既存の女らしさ(つまり男によって創られた女らしさ)に苛立っているのだろうか。
(C)ペイシックロール
家庭から一歩外にでたら、そこでは社会に向けて発信する顔をみせなければならない。それをペイシックロールと呼ぶ。ペイシックロールは、<外向けの自分らしさ>を形成するプライマリーな社会的役割である。
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大学生 |
有職者 |
専業主婦 |
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おんな |
54.2 |
32.9 |
12.9 |
(100%) |
おとこ |
100 |
0 |
0 |
(100%) |
男性はすべて現役の大学生である。したがって、準拠点である男性は、ペイシックロールとして大学生であることを共有した集合であり、いわゆる男性一般ではない。女性のペイシックロールは多様である。現役の大学生がもっとも多いが、仕事をもっている女性が32.9%、事業主婦が12.9%である。したがって女性というカテゴリーそれ自体の解釈(男性との比較)は、ペイシックロールとの関連では、女子大生にやや偏ったものにならざるをえない。
(D)年齢階層
年齢楷層は、大学生から団塊の世代までに限定している。まだ子供の尻尾を残している年齢から、あれから20年たってやっと大人の様式に適応(既存システムヘの順応そして保守化)したといわれる団塊の世代までに限定して、女の世界をクエストすることにした。団魂の世代以上の年齢層を無視したのは、女の世界が新鮮なテーマとして社会的に許容されたのが団塊の世代からである、という根拠による。
ここでは、年齢階層を3つに区分している。20歳までの、活動領域が限定され(友人関係というインフォーマルな関係が優先されているために)甘えが社会的に許容されている年齢階層、つぎに、24歳までの、”社会”という大人世界とのコンタクトをもちはじめた年齢階層、最後に25歳以上の、社会との格闘を本格的にしている年齢階層の3つに区分している。
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20歳以下 |
21-24歳 |
25歳以上 |
おんな |
35.4 |
38.8 |
25.8 |
おとこ |
34.2 |
59.2 |
6.6 |
男性は、大学生であることから25歳以上は6.6%と少ない.多くは21-24歳に集中しており、大学生でも高学年が多いことが想定される。
女性は、若干25歳以上が少ないが、一応3つの年齢階層に拡散しており、多様な年齢階層がここでの問題に挑戦してくれている。
(E)エイジ感覚
年齢そのものではなく、自分を「まだ子供」と認知しているか、「若者」か、それとも「もう大人」と認知しているか、をみると、つぎのようになっている。
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まだ子供の気分 |
しっかりと若者気分 |
もう大人の気分 |
おんな |
33.1 |
46.3 |
20.7 |
おとこ |
39.6 |
49.0 |
11.4 |
年齢階層と「子供/若者/大人」の気分との相関が高いのは当然であるが、エイジ感覚にかんしては、女性はより若い気分を希望し、男性は反対により高年齢の気分を求めている。つまり男は年齢以上に「背伸び」することに価値を求め、女は年齢以上に「子供っぽさ(かわいらしさ)」に価値をみいだしている。
(F)学歴
学歴にかんしては、現役の大学生を除くと、女性の有職者と専業主婦の学歴を確認しておかなければならない。
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大学卒 |
短大高校卒 |
有職者 |
21.7 |
78.3 |
専業主婦 |
11.2 |
88.8 |
女性の場合、有職者でも大学卒は21.7%であり、事業主婦では11.2%にすぎない。有職者の高学歴者は専業主婦のほぼ2倍のスコアになっている。
(G)未既婚
大学生は未婚者であり、専業主婦は既婚者であるが、有職者はどうかを確認すると、有職者の既婚者は「27.9%」でしかない。その他の72.1%は未婚者である。
(H)居住形態
誰と一緒に生活しているのか、という居住形態を確認する。まず未婚者にかんしては、つぎのような傾向になっている。
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親と同居 |
独居 |
おとこ |
49.7 |
51.3 |
おんな |
女子大生 |
72.8 |
27.2 |
有職者 |
67.5 |
32.5 |
男性は独居が半数とかなり多い。これにたいして、女子大生は親と同居している人が多く72.8%にも達している。有職者の場合でも、男性よりも親と同居する割合が高い。ここでは男と女の差異がはっきりとでている。男が背伸びを求め、女は可愛らしさを求める傾向は、同居形態によっても検証されているといえよう。
つぎに既婚者の居住形態を確認する。ここでは子供と祖父母(との同居)の有無が問題である。子供の有無と祖父母との同居の有無から4つのパターンが導かれる。
(1)配偶者と2人だけ : 子供・祖父母、共に<なし>
(2)核家族 : 子供のみ<あり>
(3)親と同居 : 祖父母のみ<あり>
(4)拡大家族 : 子供・祖父母、共に<あり>
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(1) |
(2) |
(3) |
(4) |
有職者 |
29.3 |
34.6 |
8.0 |
13.3 |
専業主婦 |
18.9 |
65.1 |
0 |
16.0 |
専業主婦の場合には、核家族のパターンに特化している。また子供をもっているケース(2+4)が非常に多く、81.1%にも達している。これにたいして、有職者の場合には、確かに核家族のパターンが優先されてはいるが、専業主婦ほどではない。有職者では相対的に子供をもたないディンクス(1)がやや多いし、また親と同居していて子供がいないパターン(3)にもやや有職者らしい特徹が見受けられる。
専業主婦には「子供」、有暇者には「仕事」という連想が強く感じられる。
(I)有職者の仕事
<a>会社の規模
有職者にかんして、どのような組織に帰属しているかを確認する。
いわゆる「組繊」に帰属する割合が41.4%と最も多く、ここでの対象者が一応大企業志向であることが分かる。
流行のフリーアルバイターとして組織との関係をつけている人は19.3%である。このスコアが多いのか、少ないのかは明確ではないが、ある一定の規模で存在していることだけは事実である。
<b>学歴との関係
学歴との関係をみると、大学卒が多いのは<組織(大企業)>であり、小規模の会社には高卒者が多く、フリーアルバイターはその中間の短大卒に多い、という関係になっている。フリーアルバイターの現状がどのようなものであるか、はここからからある程度推測できよう。短大生とフリーアルバイターという中間的で揺らいだ性格をもったクラスターが確認できよう。
<c>年収との関係
どの程度の年収を獲得しているか、を確認すると、つぎのようになる。
まず、無解答が多い。これは、まだ年収がかなり低いことを意味しよう。
301万円以上の年収を獲得している層は、やはり<組織>に帰属している層に多く、たぶん高学歴であろう。
フリーアルバイターの年収は最も低い。これが現実であろう。
<d>知的職業意識との関係
どの程度の知的生産活動への関与度がみられるか、を確認する。
<組繊>に帰属する人(大学卒)ほと、知的生産に関与している意識が高く、フリーアルバイターが最も低くなっている。これは、年収と同じ傾向である。流行としてのフリーアルバイターと現実との格差がここでもみられる。
<e>仕事満足度
最後に有職者の仕事にたいする満足度を確認する。
ここでは、大企業であろうが、小企業であろうが、フリーアルバイターであろうが、仕事に関する満足度については、全体的にはほとんど差異はみられない。
若干の相違としては、フリーアルバイターの評価が非常に満足と不満にやや分化していることであろう。ここにもフリーアルバイターの特性を見ることは可能のようである。
(J)制的条件
以上の個人属性を前提にして、ここでの分析は展開される。男子学生と女子大生、そして有職者と専業主婦というペイシックロールの制約のもとで、かれらが「女の仕事」にかんして、とのような気分を示し、どのような顔色をみせるか、を探索していこう。
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