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5.組織、という罠
(A)組織と女
《組織と女》は、近代の幻想として、融和されることのない永遠なまでに矛盾する関係にある。女性が組織のメンバーとして生きようと決断するとき、にもかかわらず彼女が「妻さらに母」という言葉を背負おうとすると、その状況は、組織人としての彼女にきつい選択を強要します。
あなたは、
地位を捨てますか、それとも、結婚を辞めますか。
男も女も、ある一定の年齢にくると、恋愛に熱中し、結婚を願望し、愛する人との生活に憧れ、そして子供をつくりたいと思うはずです。そして女の場合だけ、そのような状況が現実的な問題になると、上記2つのとちらかの選択が強いられます。
組織は、非情です。
それは、組織がその境界を鮮明にすることを存立の基盤にしている、ということを意味します。組織は《INとOUT》にこだわり、境界を崩そうとするムーブメントには抵抗します。
”おんな”の記号は、その境界を崩しにかかるいやらしくも不適なムープメントのシンボルです。おんなには、男の溜息が聞こえません。彼女たちには、男たちが懸命になって築き上げてきた近代的組織の城を崩壊させることに何のためらいもありません。「そんなの男の勝手なんだから」で、終りです。
男女雇用機会均等法などは、さしずめ組繊と女の妥協の産物なのでしよう。これからがゲームのみどころです。組織がしたたかな罠を仕掛けて女たちを陥れるか、それとも女たちのいやらしい戦法が組織を危機に陥れるか、本番はこれからです。リブたちの懐かしいカウンターパワーの時代は、戦いのプロローグとしてはそれなりにきまっていました。
組織と女のたたかいは、やっと本舞台の準備が整い、これから開始されます。
組織という怪物とどのようなつきあいを期待しているか、を聞いてみました。
(1)組織は、単なる働く場としての受け皿でなく、それ自体として強烈なパワーをもつ生きた怪物です。組織は大きくなるはど、個人を無力な存在にさせてしまいます。このような組織にかんして、あなたはどのような評価をしますか。
(A−Jまで、それぞれにかんしてどちらかをチェック)
1.“安定”という安心切札
A: 組織は大きければ、安定性をくれます。能力がなくても、入社すれば、最後まで面倒をみてくれます。そんな余裕を安定性というんです。あなたは、組織の安定性を買いますか、それとも拒否しますか。
「私どもの組織は、あなたの一生(すごいところでは、あなたのご家族の一生)の安心を保障します。」といわれると、ついフラフラとついていきたくなります。組織の安定感がもたらす絶大な安心感は、「主体性」程度の安っぽい言葉だけでは、簡単に拒否できるものではありません。自分の能力と将来の家庭生活を真面目に考えるほど、ほとんどの人が「こちらこそ宜しくお願いします」と組織に媚びてしまいます。その瞬間、買われている自分を見つめて、これが現実というものだ、と自己正当化をはかるしかありません。
女性ですら72.4%(男性は67.3%)が組織の安定性を買います。「どんなに偉そうなことをいっても、組織にいない限り、しかも大きな規模の組織にいないかぎり、何もできない」という実感はとこまでも強力です。だからこそ、近代社会は、ここまでの成長を成し遂げてきたのです。
情報社会の到来は、このような組織幻想を根底から覆すはずです。組織に対抗するネットワークという言葉には、組織の安定と安心を転覆させる恐さが潜んでいます。女の自立がネットワークという形態を発見するとき、しかもそれが情報社会にリンクするようにデザインされるとき、パワーは一気に炸裂するはずです。
2.“昇進”は、おいしい餌?
B: 昇進のチャンスは、めったにありません。特に女性はたぶんハンディキャップをおっているでしょう。そんな環境のなかで、あなたは昇進に関心をもちますか、あえてドロップアウトしますか。
「昇進」にかんして、女性はかなり冷めている。この質問はジェンダーの相違が明確にでている。男性は65.1%が昇進に憧れているのに、女性の場合は47.4%が昇進に憧れているにすぎない。
女性たちは、組織における地位の上昇にはかなり冷静な判断をしている。女性の組織における現実を見つめるならば、そう簡単に昇進といったおいしい餌にありつけるはずはない、と思っているようだ。ここでは、女性が置かれたポジションがどの程度のものなのか、にかんして正確な理解がなされている。彼女たちも、「そんなに男社会は甘くはない」という自覚をもっている。
ここで若干の不安が沸いてくる。昇進というおいしい餌には期待しないことは表面的には潔い諦めにも思えるが、「組織の安定性はほしい」の主張と関連づけると、かなり《したたかなサバイバル戦術》を、女性は展開しているのではないか、という解釈がみえてくる。
本来、昇進の栄誉を獲得することがオーガニゼイションマンの選びとった宿命のはずである。にもかかわらず、多くの女性たちはその宿命のカードを放棄する、というのだ。それはどういうことなのだろうか。
たぶん「組織のなかで安易に遊ぼう」という、したたかな生き方が選択されているのだろう。「昇進はいらないから、ゆっくりと遊ばせて欲しい」が彼女たちの要求である。海外旅行に、しっかりと有給休暇を目一杯とって、いただいたボーナスを見事にはたいて、楽しい思い出を創りにいくのであろう。同年齢の男たちが組織のなかで、いつなれるか分からない昇進をめざして頑張っている光景をせせら笑いながら、若い女性は”短い青春”をここぞとばかりに謳歌しているようである。
彼女たちは、組織にいてもオーガニゼイションマンではない。組織人としての既成のエートスを欠落させたところで、組織に帰属するだけである。安定性が欲しいのは、そこでのんぴりと暮す機会がもてるからである。しかしこれは組織の維持にとって脅威になるはずである。彼女たちは、組織のなかにいる(IN)のに、組織化からはみ出している(OUT)のだから、もしも彼女たちが短い青春の思い出の1ページのために組織に帰属しているのでなく、「ずっと組織にいたいわ、居心地いいから!」なととほざくような事態になったら、彼女たちの行動は、既存の組織の境界を一気に崩し、組織そのもののあり方を大きく変化させるトリガーの役割をになうかもしれない。彼女たちが、地位の栄誉をおいしい餌と感じることなく、ただ組織の安定性にのみ”うまみ”を感じていることには、組織人の男たちには意外と落とし穴なのかもしれない。男たちがあくせくと組織内の人事抗争などにやっきになっているうちに、女たちは組織自体の乗っ取り工作を無意識のうちに準備しているのかもしれない。
3.“地位”という権力機構
C: 組織では、地位が力の源泉です。地位が低いかぎり、何もできません。経営トップにならないかぎり、自分の二ーズと組織の目的は合致しません。そんな組織のなかで、あなたは地位にこだわりますか。
地位にこだわる こだわらない
ここでもジェンダーの相違は明確である。男性は57.6%が「地位にこだわる」と発言しているのにたいして、女性の場合は43.5%である。
「地位」という恐い言葉、つまり組織の中心性に近づいた言葉になると、「昇進」よりも拒否する女性が若干多くなります。それだけ、男たちの既成の組織にコミットすることに抵抗しているのだろうか。
組織がビューロクラティックな構造であるならば、地位にこだわらないかぎり、なんのために組織に帰属しているのか、分からなくなるはずである。なぜならば、地位を獲得しないかぎり、結局は自分のしたいことができないからである。《自分のニーズと組織における役割期待の合致は、地位の上昇によってしか解決されない》。だから、組織人は、じぶんの欲求の充足のために、高い地位の獲得にこだわらざるをえない。ここでの男性(何を考えているのか分からないと言われている今の大学生でさえ!)も、そのような意識をもっている。それだけ組織と地位は密接な関連性をもっている。
しかしこれは、組織の情報化が進展していない、という前提にたっての話でもある。もしも情報化が進んだならば、いままでのようなツリー状の組織構造は意味を失うという可能性も一方では確かに存在している。リゾーム型のネットワークになり、それに伴い地位の占有の問題(管理・統制)も過去のものになるかもしれない。
既存の組織は、そこでの情報伝達能力にかんして乏しい力しかなかったために、仕様がなく、上位者独りにたいして下位者複数のツリー状のハイアラーキー構造を構成せざるをえなかったのである。したがって今までの組織はその形態にかんして究極のパターンではなく、単なる情報化段階に至る以前の経過的な構造にすぎなかった、ということである。
上図で説明すると、意志決定の所有形態にかんして「集権なのか、それとも分権」なのかという軸と、組織において期待されている役割が「役割分化(典型がスペシャリスト)なのか、それとも役割融合(典型がジェネラリスト)」なのかという軸があり、その2軸の構成から、組織形態の類型が導出される。
従来のビューロクラティックな組織構造は、意志決定権がトップに集中し、すべての組織人としての役割行動はスペシャリストになることを期待されている、という組織構造である。このような組織に帰属しているかぎり、そこにあって自分らしさを表現しようとすれば、一つでも高い地位を獲得することが不可欠な条件になってくる。だから、地位は権力の源泉なのである。
しかし情報化が進展し、新しいネットワーク組織になると、いままでのように地位に固執する必要がなくなってくる。組織のデータはすべてデータベースとして保有され、すべての組織人が同等の権利で自分の端末からデータベースにアクセスできる時、ここでは情報所有の概念が大きく変化せざるをえない。末端であろうが、トップであろうが、情報所有と意志決定にかんして差異がなくなる。現場がそれなりに重要な意志決定権を発揮しないかぎり、組織の運営は十分に機能しない形態になっていく。ネットワーク化は現状ではまだファッションでしかないが、将来的には新しい組織の可能性を暗示する重要な視点なのである。
このような新しい組織の可能性を想定すると、ここで「地位にこだわらない」と発言している56.5%の女性は、どのような認識に基づいて、このような発言をしているのか、気になる。地位の概念が大きく変貌しようとしているとき、地位を無視する勇気をもつ人は、単に今の組織に寄生するだけでなく、地位無視の姿勢が新しい認識の様式なのだ、という自覚をもって、新しい組織への変革につきあってほしいものである。
4.“役割”という部品
D: 組織では個人は部品にすぎません。だから転勤といった、個人の事情なぞおかまいなしの出来事が日常茶飯事になっています。あなたが明日から北海道に転勤などと命令されたら、どうしますか。
転勤という男の組織に固有の事件にたいしては、ジェンダーにかんして鋭い対立があります。男性は79.7%が「辞令に従う」と回答しているのにたいして、女性の場合は59.3%である。既成の組織へのコミットの程度にかんして、ジェンダーでは明確な相違がみられる。
男たちは、組織にいったん入った以上、辞令に従っで北海道に転勤することもいたしかたない、と割り切っている。「組織にいる以上、しょうがない!」ということなのだろう。やはり会社に辞表を提出するまでの勇気はもてないのだろうし、それ以上に組織人として生きる以上、「転勤に文句はタブーだ」と考えているのだろう。そのタブーを疑う視点は男たちには欠落している。かれらの現実的な解釈からすれば「外に飛び出していっても、その風の強さを考慮したら、まだ組織の中でぬくぬくとしていた方が”得だ”」という判断があるのかもしれない。としたら、それだけ組織は面倒みがよいことになる。組織には、外にでていく勇気のない無能な人を養う余裕があるのだから、「組織は優しい」ということになる。
当然、組織の都合による転勤だから、個人は組繊の中では「役割という名刺をもった部品」にすぎない。組織が優しいことと、部品としての扱いには、微妙な綾が隠されている。組織は、適材適所のルールにのって人員配置をするかぎり、個人の能力の総和以上の力を発揮するものである。それが、個人という人格ではなく、部品(正確には、役割)としての扱いをしている結果なのである。能力のあるトップと無能な底辺という構図には、それなりに納得できる関係が形成され、それによって、組織としての生産性は確保される。
しかしすべての人が仕事において有能さを発揮できるならば、ツリー状の組織は無用である。無用であるならば、そのような組織ではすぐに反乱が起こって、その組織は崩壊するはずである。有能な人が集まったとき、ネットワーク型の組織が有効性を発揮し、そこでは「支配と服従」の関係ではなく、「対等な交換関係」としてのネットワークが作動しよう。
会社に辞表を提出できるような人が集まらないかぎり、このような新しい組織形態の発生はありえない。
このように考えてくると、女性のじつに40.7%が「会社に辞表をだす」と息まいている事実は気になるところである。男性の20.3%の倍の数字になっており、女性が組織のルールを無視する態度を強くもっていることが分かる。「なんで組織の都合で、辞令一つで北海道まで飛ばされなければいけないのよ。北海道なんて、スキーが好きな人がいけばいいのよ!」といった素直な反応が飛びだしそうである。この素直な反応は、既成の組織のルールにコミットする男たちには苛立ち以外のなにものでもないが、女たちにとっては意外と常識なのかもしれない。
ルールをもう一度疑うことは、いま必要なことなのかもしれない。
5.“競争”というゲーム
E: 周りの同僚はみんな敵です。ペエスケの世界はドロップアウトを決めたからできるメルヘンの世界です。組織人ならば、同僚を出し抜く勇気が必要ではないでしょうか。あなたには、そんな気力がありますか。
朝日新聞には、「フジ三太郎」と「ペエスケ」が毎日載っています。二人とも、なぜか、会社での昇進をめざした競争ゲームから脱落しています。フジ三太郎は、本人の意志としてはゲームに参加したいのに、客観的に判断して参加資格が与えられていない、という人物設定(無能な人)です。これにたいして、「ペエスケ」は、ゲームに参加する意志すらみせません。組織のなかで、気楽に生きることの見本を教えてくれます。それがいかにも朝日新聞らしいスタンスなので、つい真面目に漫画の解読を真剣にしてしまいます。
ここでもジェンダーが強烈な影響力を発揮している。男性は、55.8%が競争ゲームにのって「闘う気力充実」と回答しているのに、女性の場合はたった37.0%の反応しかない。《組織のテーマは、ジェンダーを無視しては語りえない》問題である。
女性の63.0%は競争ゲームから「逃げたい」と発言している。これを単に文字通りに「女々しい」と解釈すればいいのか、それとも新しい同僚関係の方向性を示唆していると解釈すればよいのか、判断に戸惑う。
常識としての組織を前提とすれば、このような逃げをうつ人は、「これだから女や駄目なんだ。結局こういうタイプは最後のところで自分の責任を放棄して敵前逃亡するに決まっているんだ」というレッテルを貼られるはずである。この前提には、同僚と熾烈なサバイバル・ゲームを展開し、勝った者だけがトップの座を獲得し、支配権を行使する立場を獲得するものなのだ、という常識がある。だから組織は機能関係(適材適所による人員配置=役割<部品>としての自己)のシステムであると同時に、権力関係(支配と服従による組織目標達成=統合原理)のシステムであることによって、ツリー状のピラミッドを形成するのである。
これにたいして、「だから、いやなのよね」といったスタンスで逃げることを積極的に支持するのであれば、話はかなり変わってくる。ここでは「女々しい」のではなく、新しい組織を形成するには、競争(足の引っ張り合い)ゲームはもう止めよう、というメッセージが発せられ、ネットワーク化の発想がアピールされてくる。
40.7%の「逃げたい」という発言が、新しい組織形態の模索につながるのか、それとも単なる回避にすぎないのか、どのような方向性を示唆しているか、まだ分からない。男の陰にあってひっそりと、しかししたたかに生きる女を演じようというのか、それとも男の組織を一気に潰す意欲をもっているのか、定かではない。推定するに、男との全面的な抗争を挑んでいるのではないようだ。しかしとはいえ、男の陰に生きることで満足しようというのでもないようだ。逃げる彼女たちも、うろつきながら、戸惑いながら、なんらかの道をクエストしているような気だけは強く感じられる。まだどうなっていくのか予想もつかない未知なる遭遇を求めて、彼女たちは厳しい選択をしようとしているようだ。競争の世界に生きるには女たちはあまりにも賢明すぎるのかもしれない。
男たちは、自分たちが築いてきた世界への慈しみからなのか、競争原理の自明性を疑う視野をもてない。すでに情報社会へのテイクオフが始まっているのに、相変らず競争に夢中になって、地位獲得に熱くなり、管理者になる一直線のコースから弾き飛ばされないようにただ頑張るだけである。接待ゴルフに、接待カラオケと虚しい頑張りを続ける。
そんなときに、女たちは逃げる戦略によって新しい世界を築こうとしている(のか)。
6.“ブランド”になった組織
F: 一流企業にはブランドがあります。そのブランドにのることは気分がいいものではないでしょうか。ついブランドを誇示したくなります。そんな時のご気分は?
ブランド志向にかんしては、ジェンダーによる相違はない。女性の方が素直な分だけブランド志向は強く(51.4%)、男性はやや痩せ我慢をして「醜く思う」の方が55.8%と多くなっている。
組織に帰属することによるブランド効果とは、つぎの3つである。
<a>社会的アイデンティティの確認幻想
知らない人に会っても、自分のアイデンティティがすぐに理解される。一流会社の名刺を差し出すときの晴れがましさは、気分いいものである。それは自分のアイデンティティがその会社の社会的な地位によって評価されるからである。といっても、そのアイデンティティは本来的には組織のものであって、個人のものではないが、組織ブランドが個人を”いい気分”にさせる(組織と個人の一体化)ので、あたかも自分のことが十分に理解されたと誤解できる。これを、いい気分幻想と呼ぶ。
<b>内外の境界線強化:統合と排他
ブランドを共有することの価値が高まると、その価値を共有できる人とできない人との境界線を明確にすることが重視されてくる。一流ブランドのバッチをスーツの襟にさりげなく誇るように飾っている姿には、「ぽくたち○○マンだもんね!」という意識がみえてくる。その意識の共有は、組織の内部にたいしては役割遂行者としての結束を高め、同時に外部にたいしては境界を明確にすることで排他的になり(”うち”と”おたく”とは違うの!)、結果として自分達の選民性をくすぐる。オーガニゼイションマンとしてのモラールは、こうして高い水準で維持される.
<c>管理システムの強化
ブランドの通りがよいほど、組織はそれを利用して、内部への管理システムを強化する。「わが社の名誉を汚さないように」という名目のもとで、社員にたいする管理を強化する。細目にわたる規則(挨拶は何度の角度ですべきか!)があるのは、ブランドのある組織(とくに伝統的な歴史を誇るビューロクラティックな組織)の証拠である。事実、一流ブランドの組織であるほど、そこでの社員教育は徹底している。
大学生活でのだらけた姿勢を一気に真面目な組織人に変換する新入社員教育という<儀式>を、どれだけ徹底できるか、はすべてブランド幻想にかかっている。ブランド幻想が強いほど、かれらは徹底的な社員教育によって自己変革されることに強い《快感と共感》をもつ。「これでやっと、○○マンになれた」という実感をもたせるには、したがって強力な管理システムが不可欠なのである。
かくして、<管理>と<いい気分>と<統合と排他>は、ブランド効果の豪華3点セットなのである。
7.組繊には、<若い>女性が似合う
G: 組織は女性には期待してません。だから甘やかします。そのかわり、若いうちに結婚でもして退社してほしい、と思っています。その取引は当然と思いますか。
ここでもジェンダーは強い影響力をもっている。男性は72.7%が「仕様がない」と発言しているのに、女性の場合は56.6%にすぎない。圧倒的に、男性は「女は、結婚すれば、退社すればいいんだ」と考えている。まだ組織の実体を知らない大学生の男たちでさえ、「女に、組織は似合わない」と信じている。
男の世界である組織は女性に多くのことを期待しようとはしない。どんなに女性のことを重視しているといっても、それはリップサービスであり、法的な保障である男女雇用機会均等法ができたとしても、女性は安心してはいけない。組織にとって、女性は若ければいいのであって、それ以上ことは期待されていない。つまり女性は仕事ができるかとうかではなく、美しいかどうかが問題なのである。したがって女性がそれ以上のことを期待すると、裏切られてきた、という悲劇が生じることになる。組織は、結婚までの若い女性だけを必要としているのである。
組織の常識としては、女性は補助作業を期待されている。成人の男性だけが組織の<仕事>をするメンバーではあり、その他のメンバーは補助作業の機能を有能に表現してくれれば、それでいい。つまり成人の男性の仕事を気分よく助けてくれる人が望ましい(作業する)女性像である。<若くて文句をいわない、できれば美しい女の子>が、組織には望ましい。それが男の仕事を活性化させるのである。
このような若い女の子は、結婚までの腰掛として会社に勤めます。会社の方も、結婚を契機に退職してくれることを強く望んでいます。その取り引きが成立しているかぎり、会社も女の子も楽しい交換関係にあり、相互の有利化が維持存続されます。ここでは、会社はただ黙って女の子のリクルートを待つだけでいい。女の子の方が、適当な時期に自主的に辞めていってくれるからである。こうして、会社はいつまでも若さを保つのである。ある意味では卑怯な戦術ではあるが、これが今までの組織の活力の源だったことも事実なのである。
とすると、<成熱した女性>が組織のなかを闊歩することは、今までにない経験なので、男たちはみんな困るはずである。女性の社会的進出は、組織のイメージを大きく変えるはずである。女性が若さだけではなく、それ以外の資源(仕事ができるという能力)をもって、組織と交換関係を生成しようとしているのだから、それは組織そして女性にとっても大変な事件である。
43.4%(「我慢ならない」の発言)の女性は、組織に生きる美しく成熟した女性の姿に憧れをもっている。彼女たちは「組織にあって、性別による差別は無効である。なぜならば”有能なのが男性で、女性は無能だ、という命題は過去の幻想である”ことが多くの事例によって支持されているからである」という意見を支持し、《女性は、仕事ができなければならない。されど美しいなければ女ではない》という過去の経験では矛盾する命題に果敢に挑戦しようとしている。
8.醜い徹夜の仕事
H: 組織のなかでパワーを獲得するには、仕事をやることが肝心です。若いうちは残業ができないようでは偉くなれません。そこが女性のネックではないでしょうか。あなたは徹夜の仕事に耐えられますか。
ジェンダーによる相違は明確である。徹夜は「平気です」と頑張るポーズをみせるのは、男性で73.3%、女性では58.3%である。一応女性は、41.7%が「ダメそうです」と弱気なポーズをみせている。
まだまだ男子学生も意地をみせて、徹夜仕事もできるぞ、と頑張るポーズをとるが、どこまで本当にできるのか、組織としては不安であろう。すでにギブアップを表明している26.7%は将来どうするつもりなのだろうか。会社に入って組織人として立派に出世コースに乗っていけるのだろうか。まあ、駄目でしょう。しかしかれらもしたたかで「ほどほどでいいや、楽しく暮せれば!」とすでに自覚しているのだろう。
これにたいして、女性は意外に善戦している、と評価できる。一応過半数の女性が徹夜だってできる、と気負いをみせているので、そのポーズを信じるしかあるまい。徹夜がよいことなのか、といった評価は別にして、この程度のことならば可能である、という女性の意気込みだけは素直に評価すべきなのだろう。
しかし、もしかしたら、そのような意気込みが問題なのかもしれない。あるいは、それは経営者にとっての巧妙な戦略なのかもしれない。徹夜仕事や転勤を「踏み絵」として利用する経営者にとっては、徹夜仕事ができるタフな女性は、「良い鴨(いいかも!)」なのかもしれない。そうやって、男女雇用機会均等法を逆手に利用する賢明な経営者は、涼しい顔をして女性の徹夜を歓迎するのである。
女性は、男性とどこまで同じことをすれば、いいのか(気がすむのか)、いま考える時である。たとえ徹夜仕事が組織への忠誠の証だとしても、それ自体を疑う視野をもつことが、新しい組織への展望を開くことなのではないか。どれだけ長時間組織に拘束されているか、によって組織人の評価が決定される時代は、確実に後退しつつある。情報社会への変貌は、既成の組織の自明性を拒否することから開始されるはずである
。
9.アフター5という窓際
I: 組織にあって、アフター5を気にしているようでは、たぶんモノにならないでしょう。組織はそんなに甘くはありません。カルチャーセンターがあるからアフター5を大切にしたいと言うならば、潔く窓際に机をとる決意が必要です。どうしますか。
「真ん中の席にいたい」ということは、アフター5は諦めます、ということである。既成の組織に生きようとするかぎり、中心の地位をめざす組織人には、アフター5のカルチャー活動をするような余裕は認められていない。なんでもいいから、組織に積み込んでがむしゃらに働くことだけが至上命題になっている。これが組織に生きる男らしさである。
ここでもジェンダーの相違は明確である。男たちにかんしては、「本当にそうかよ!」と言いたくなるほど、組織にべったり寄り添って生きようとしている。「いまどきの男子学生は新人類だから・・・」と非難されるかれらであっても、窓際にいく覚悟をもつ者は27.0%にすぎない。じつに73.0%がアフター5を放棄してまで組織にコミットしようとしている。涙ぐましい努力の結晶である。
問題は「窓際と真ん中の席」のコンセプトが依然としてビューロクラティックな組織を前提としていることである。組織が明確な境界線をもち、それによつて「内と外」の区分が明確である状況では、真ん中は「偉く」、「窓際」は「駄目」という図式は有効ではある。地位の上下関係は、そのまま組織への貢献度そのものである。真ん中の席に座っているほど、組織と社会との関係がよく見え、周辺に飛ばされるほど、何が進行しているのか分からなくなる。これがビューロクラティックな組織の特徴である。だから、組織人であろうとすれば、かれらは中心を目指さざるをえない。
しかしその境界が見えにくくなっているとき、中心と窓際の関係は一気に逆転する。窓際にいることは、ほころびた境界の隙間から組織の外の景色を眺めることができることを意味し、中心に座していることは、周辺のあいまいな情報が的確に吸い上げられないので、現状の認識や評価に陰りが生じる危険性をもたらすことを意味する。このような事態の発生は、中心と周辺のコンセプトそれ自体がすでに過去のものになりつつあることを暗示する。つまり現場の一線にあって事態の推移を共有する組織人でないかぎり、組織に生きることにはならない、という新しい状況が生じている。「管理」の軸が有効性を発揮していた《中心と周辺》の組織の時代から、「編集・制作」の軸が有効性を発揮する《境界不毛》のネットワークの時代へと、大きな変換が迎えられようとしている。
このような新しい展開を想定すると、窓際の意味を低くみることはできない。確かに、窓際族に代表される組織からのどうしようもないドロップアウトという意味もあるが、新しい組織論の萌芽を窓際に求めることもまた可能である。情報社会にあっては、現場に生きて編集・制作を志向する組織人が新しい窓際としてネットワーク組織を生成していくのである。
とすると、女性の39.0%の「窓際にいきます」という主張には、簡単に無視できない何かが潜んでいるのかもしれない。
10.チャンスまで、待って
J: 自分が望んだ職場に配属される可能性はかぎりなくゼロに近いのが組織というものです。個人のニーズなんかに一々対応していたら、組織は死んでしまいます。組織に個人をいかにうまく適応させるか、が組織運営の核なのです。そこで、あなたが願った職場に配属されなかったらどうしますか。”宣伝にいきたかったのに、営業だなんで”
ここでは珍しくジェンダーの影響力はない。ほとんとの人が「チャンスの到来をと待つ」と発言している。女性でさえ、「退職を覚悟する」と勇気ある発言をする人は18.0%にすぎない。みんな、組織の力には従順である。
男性も女性も、チャンスなどただじっと待っているだけではやって来ないことを知っていながら、待つということで自分の能力に見切りをつける機会を待っているのだろうか。つまりこの背後には、「どんな仕事をしたいのか」よりも「どんな組織に帰属していたいのか」が重視されているような気がする。職務よりも、ブランドの方がかれらには大切なようである。
このスコアは、組織がいかに強いパワーをもつ実在であるか、をまざまざとみせつけている。個人を圧倒する組織の力が何であるか、をこのスコアは表現している。しかもそのパワーはかつての常識のように、単純な意味での「搾取」なとではなく、「弱者の擁護・庇護」という解釈すら可能にするものである。組織は、そこに帰属した弱者(つまり無能な社員)にたいしては、全面的な面倒をみざるをえない。なぜならば、そのような弱者は組織から離れられないからである。組織は、その意味では生きた神である。だから、弱者は誰も文句をいいません。
これはあまりにも日本的なパターンである。いつも組織の枠のなかで問題の解決をはかろうとして、組織の枠を越える視野をもてないという日本文化的なパターンは、情報社会のネットワーク化にとってはネガティブに件用しよう。組織の枠と枠が強固すぎることは、ネットワーク化の生成を遅らせるはずである。
(B)組織化スケールという”男らしさ”
組織というテーマは、ジェンダーが強い影響力をもっている。《男らしさと女らしさ》は、組織にたいするコミットメントに関連して形成されている。
上記の10項目にかんして、男らしい組織を構成する要因(質問項目における選択肢)を仮定すると、つぎのようになる。
1.“安定”という安心切札 →組織の安定性 ・・・ 1)ほしい
2.“昇進”はおいしい餌? →組織での昇進 ・・・ 1)昇進にあこがれる
3.“地位”という権力機構 →地位の獲得 ・・・ 1)地位にこだわる
4.“役割”という部品 →転勤の辞令 ・・・ 1)辞令に従う
5.“競争”というゲーム →同僚を出し抜く ・・・ 1)闘う気分充実
6.“ブランド”になった組織 →ブランド誇示 ・・・ 1)最高の気分
7.組織には、<若い>女性が似合う →結婚即退社 ・・・ 1)仕様がない
8.醜い徹夜の仕事 →徹夜の仕事 ・・・ 1)平気です
9.アフター5という窓際 →窓際にいて文化重視 ・・・ 2)真ん中の席にいたい
10.チャンスまで、待って →職場配置 ・・・ 2)チャンスまでじっと待つ
この10項目の選択肢にかんして、ジェンダーがどの程度の支持を表明しているか、をみると、上の図になる。ここでは、つぎの点が指摘できる。
(a) 10の選択肢のうち、つぎの8選択肢にかんして男性の支持率が高い。しかも10を除いた7つ選択肢は、1%水準で有意な相関(◎)がジェンダーについてみられる。
2.昇進にあこがれる ・・・◎
3.地位にこだわる ・・・◎
4.転勤の辞令に従う ・・・◎
5.地位獲得競争を闘う気力充実 ・・・◎
7.若い女性が結婚して退社するのは仕様がない ・・・◎
8.徹夜の仕事は平気である ・・・◎
9.アフター5を無視して、真ん中の席にいたい ・・・◎
10.職場配置されたら、チャンスまでじっと待つ
(b)女性の支持率の方が高い選択肢は、つぎの2つである。しかしこの2つの選択肢にかんしては1%水準での有意な相関はみられない。
1.組織の安定性が欲しい
6.組織のブランドをもつと気分がいい
(c) 男性に顕著な8つの選択肢の内部の関連性をみると、男性が高い支持率を示している選択肢は10(チャンスまで待つ)と4(転勤の辞令に従う)であり、もっとも低い支持率は5(地位獲得競争を闘う)で、その次に低い支持率は3(地位にこだわる)と2(昇進にあこがれる)である。ここから推測される《男らしい組織》とは、つぎの条件をもつ組織である。
★ 組織は個人に優先される存在である。
★ 個人は、組織の要請にいかにうまく適合するか、によって評価される。
★ 組織内の地位や役割は、個人が積極的に獲得するものではなく、結果として組織によって付与されるものである。
★ 組織は、個人が競争するゲーム空間ではなく、個人が組織のために貢献する演劇空間である。
このような条件からなる男らしい組織とは、じつに日本的な文化風土に規定された特殊な組織構造である。
つぎに、10項目を数量化V類によって、項目間の位置関係をみると、つぎのようになる。
a:"頑張る"と"逃げる"
第一軸は、組織へのコミットの形式による弁別であり、「頑張る」と「逃げる」がここでのテーマである。地位にこだわり、昇進に憧れ、同僚との地位獲得競争に闘う姿勢を鮮明にもつなど、組織にルールにのって「頑張る」をとるか、それとも組織のルールにのらないで、そこから「逃げる」ポーズをとるか、がここでの問題である。
b:"強気"と"弱気"
第二軸は、組織コミットの程度による弁別であり、「強気」と「弱気」がここでのテーマである。組織の安定性を欲しがったり、企業ブランドにいい気分を求めたり、結婚したら退職するのは仕様のないことだなど、組織の現状をそのまま肯定して、従順に適応することを重視する「弱気」の視点と、安定性を拒否したり、職場の配置転換には退職を覚悟するなど、組織のルールにかなり批判的なポーズをとる「強気」の視点が、ここでの問題である。
上記2軸をクロスさせ、そこににプロットされた10の質問項目(20の選択肢)のなかで、男の組織の条件として仮定した10の選択肢(1から10をクラスター化すると、つぎの2つのクラスターを設定することができる。
c:クラスター1《頑張る組織化》・『組織化スケール』
一つのクラスターは「頑張る」の志向性にかんして、つぎの6つの選択肢から構成される。
2. 昇進に憧れる
3. 地位にこだわる
4. 転勤の辞令には従う
5. 同僚との地位獲得競争に闘う気力充実
8. 徹夜仕事も平気である
9. アフター5は我慢して、真ん中の席にいたい
これは、ビューロクラティックな組織に生きる男たちの本音の処世術を示すクラスターである。男は組織で生きるには、地位の獲得を求めなければならない。なぜならば、高い地位が獲得されたときにしか、自分らしさの表現が可能にならないからである。そのときのために、男たちは黙々とつまらない仕事をこなしていく。将来の栄光をめざして頑張ることで、男たちは現在の仕事に耐えるのである。転勤の辞令に従い、徹夜の仕事に明け暮れるのも、それ自体ではつまらないことでも、それが将来の自分の地位につながる夢として描くことができるとき、薔薇の香りがする仕事に転換されているのである。
そこで、この6つの選択肢をもとに、『組織化スケール』を作成する。男らしい組織の生き方にどの程度の共感がみられるか、をスケールとして表現する。
結果は、つぎのとおりである。
ここでは、ジェンダーの影響力が明瞭である。いまどきの大学生でも、男性であるかぎり、しっかりと男らしい組織の生き方に強い共感を示している。最頻値がスコア5で、25.8%の支持率になっている。これは驚異的な結果である。”おとこ”というだけで、まだこれだけの支持を鮮明にするポーズをとらなければならないのだから、男であることは辛い。しかも産業社会の論理が崩壊の兆しを示し、情報社会の到来が約束され、そこでの組織のあり方には全く異なった論理が期待されているにもかかわらず、既成の男らしさにしがみつかざるをえない男たちの心情には、《企業戦士に予定された無駄な戦死》という無念さがつい想定されてしまう。男たちの、このようなハイスコアは「最後まで頑張るぞ!」と宣言する若者たちの悲痛な叫びのように思えてならない。
これにたいして、女性たちは冷めた反応を示している。最頻値はスコア3の20.8%であり、スコア8はわずか6.9%(男性はその3倍近い18.2%)にすぎない。彼女たちからすれば、「いまの組織は男たちのものだから、そんなものになんで”おんな”が共感しなければならないのよ!」といったことなのであろう。
「アフター5は大切だから、残業はしません。ボディ&ソウルのリフレッシュには、アフター5をいかに有効に利用するか、が重要で、残業なんかをしていたら時代から取り残されてしまいます。もちろん徹夜の仕事は拒否します。無意味なことはしない主義です。転勤しろといわれても、自分の生活を考えならば、簡単に辞令に従うわけにはいきません。会社に辞表をだす覚悟もあります」といった反応がとぎれることなく連発されそうである。それだけ、女性は、男らしい組織への共感にかんしては冷たい。
d:クラスター2《弱気な組織化》
もう一つのクラスターは、「弱気」の志向性に関連してまとまり、つぎの4つの選択肢から構成される。
1. 組織の安定性が欲しい
6. 組織のブランドをもつと気分がいい
7. 結婚そして退社のコースは、仕様がない
10. 職場配置されたら、チャンスまでじっと待つ
これは現状の組織にそのまま適応するポーズであり、組織の既成のルールに従願であることを支持する選択肢からなるクラスターである。そこでこれを「弱気な組織化」と呼ぶ。
この4つの選択肢のうち、7を除くと、ジェンダーの影響力が弱く、その意味では男らしい組織の原理ではない。むしろ1の安定性や6のブランドは女性の方が好みの選択肢であり、男性に固有な頑張る組織化とは異なったディメンションにある。
7の結婚退職コースにかんしては、強い反発が女性にみられる。男性はそのコースを自明(あるいは、そうあってほしいと願望)としているのにたいして、女性は「これこそが諸悪の源泉である。女は会社のアクセサリーではない!」と怒りをこめて反発をしている。その結果が、数量化V類の位置関係における7(結婚退社仕様なし)と−7(結婚退社我慢ならない)の逆転として表現されている。つまり仮定として設定した10の組織化条件のうち、7だけが女性によって拒否されている。女性はFだけは組織化の条件から排除すべきだと抵抗している。女性たちは、「組織には若い娘だけしか似合わない、というような時代錯誤の認識によって男の城を守るようでは、組織の存続は危うい」と厳しく警告している。組織も、成熟した女性が闊歩する世界に開かれないかぎり、明日はない、と彼女たちは宣言している。
もちろんこのような宣言は、弱気の組織化クラスターの話ではない。このクラスターでは、相変らず組織には未婚のかわいい女の子の方が似合う、という既成の路線が維持されている。『弱気の組織化』では、「若くてかわいい女の子が好まれ、企業ブランドにワクワクする軽いのりが期待され、そして安定性は充分に確保されているからと安心感がアピールされ、ただしつまらない職場に配属されても、くさることなくじっと我慢してチャンスを待ってください、とアドバイスがされる」のである。ある妥協を前提とすれば、これは気楽で楽しい組織といえよう。
(C)”おんな”にとっての組織化
組織化にかんしてはジェンダーの影響力が大きいので、その影響力をなくすために、分析の対象を女性に限定して、組織化が女性の間ではどのような意味をもつのか、をみることにする。具体的には、女性だけのサンプルにおいて、組織化スケールにおける高低は「弱気の組織化」とどのように関係しているか、を双対尺度法によって分析する。
結果は、つぎのとおりである
(a)組織化(+)の女性には、
6. 組織のブランドをもつといい気分
7. 結婚そして退職のコースは、我慢ならない が似合う。
男の組織のなかで生きていくことに強い関心(地位獲得競争に頑張る!)をもっている女性(組織化+)は、弱い組織化の条件について、「ブランドは最高」というミーハー気分には共感を表わしても、「結婚そして退社コース」には強い嫌悪感を示している。組織へのコミットメントの強い女性は、装飾品の機能をもつ若い女性だけを必要とする既成の組織にたいして、強く抵抗している。「女性も、男性と同じスタートラインにたって競争させるべきで、そのためには結婚の条件でハンディキャップを負わせるのは卑怯なルールである」という主張がここにはみられる。しかし彼女たちは、けっして組織そのものに反対しているわけではない。あくまでも組織ブランドの気分には共感しているわけだから、男の組織の全面的な否定を画策しようとするわけではない。彼女たちは、いわば体制内変革派であり、部分工学的な発想にもとづいて「女性に不利な条件はそれなりに改革して、そのかぎりで男性との協調路線を形成して、組織の発展に寄与しよう」と考えている。
(b)組織化(±)の女性には、
1. 組織の安定性が欲しい
10. 嫌いな職場に配属されても、チャンスまでじっと待つ が似合う。
ほどほどに組織にコミットしている女性(組織化±)は、弱い組織化クラスターを構成する2つの選択肢(1と10)に強く共感している。彼女たちにとって、組織は基本的に共感できる実在である。彼女たちは、組織の安定性のなかに安心感を認め、組織の”おいしい水”をしっかりと飲んでいこうと考え、同時に嫌な部署に配属されても、ちょっと我慢してチャンスを待っていれば、なんとかなるだろう、としたたかな読みをしている。「つまらない仕事ならば、休みはしっかりとって海外旅行なんかを楽しみ、自分の新しい能力の開発に磨きをかけ、チャンス到来の時期をみつめていこう」といった、組織にべったりすることもなく、さりとて組織にそっぽを向くのでもない微妙なバランスをとって組織の中を遊泳する気分が、彼女たちの組織気分なのであろう。
(c)組織化(−)の女性には、
1. 組織の安定性は、いらない
6. 組織のブランドに頼ることは、醜い
7. 結婚そして退社のコースは、仕様がない
10. 嫌いな職場に配属されたら、退社の覚悟をする が似合う。
男の組織化にたいして否定的な立場をとる女性(組織化−)は、弱いの組織化クラスターにかんしては7(結婚そして退社のコースは、仕様がない)にのみ強く共感しており、その他3つの構成要因にたいしては冷淡である。彼女らは、「安定性はいらない」(−1)と言い、「組織ブランドに頼ることは醜い」(−6)と発言し、「嫌いな職場ならば、退職すればよかろう」(一20)と突き放す。
このような3つの冷淡な発言(−1/一6/−10)が、もしも−7(結婚そして退社のコースは、我慢ならない)と強い関連性を示しているとしたら、そこでは組織にたいしてラディカルな反発と拒絶が発揮されるはずである。それは、かつてのリブに共通するアンチ組織の運動に連動するものであろう。
しかし組織化(−)の女性は、基本的には「結婚そして退社のコースは、仕様のないことである」という現状維持の姿勢を明確にしている。しかもこの選択肢が組織化(−)にもっとも近接した位置にあることからしても、彼女たちにとって、組織を回避することは「仕事から離れて結婚するコースを選択する」という《常識》に繋がっているのではなかろうか。とすれば、このタイプが、もっとも男の組織に都合のよい反応を示している、といえる。つまりこのタイプの存在によって、『男は組織に生き、女は家庭に生きる』という棲み分け(役割の機能分化)が制度化されるのである。このように考えると、組織の安定性やブランド信仰の拒否と退職覚悟の勧め、は結局のところ「いつまでも組織にぐずぐすしていて、結婚のチャンスを失って、醜いOGになるよりは、さっさと結婚した方が女の幸福だし、会社もその方が本音では望んでいることなのよ!」と解釈されるべきなのであろう。
(d)組織と生活: 《分化から融合へ》
組織化(+)と組織化(±)は、組織化(−)にたいして、比較的近接した関係を「弱気な組織化」クラスターにかんして形成している。つまりある程度の組織化への共感をもっている女性は、「安定性が欲しくて、組織ブランドはいい気分で、組織に残ってチャンスを待つ」が、「結婚そして退職のコースには、我慢ならない」という、男性の組織観とは違った女性固有の組織観を形成している。ここには、組織化(−)の女性がもつ《組織と生活の分化(棲み分け)の発想》は後退し、女性も成熟した女として組織の中で活躍(高い地位の獲得)してもいいのではないか、という《組織と生活の融合》への発想が開花しつつある。これは、女性がスタートをきった新しい組織論の方向性である。女性は、家庭を守るばかりが女の幸福ではない、もっと多様な方向があってもいいではないか、ということに気づき始めている。・・・・・・たぶん男たちは、気づきたがらない、のである。
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