2002年度春学期研究会

近代日本を分析する

(Analyzing Modern Japan)

担当者 小熊英二(総合政策学部) B型

最終更新日 2002年4月9日

  1. 主題と目標

 近年の日本近代史の研究は、大きく変化している。一言でいえば、歴史学が社会学の影響を受けて、「日本の歴史を研究する」という考え方から、「日本という地域を題材に近代社会のあり方を研究する」というパラダイムの転換したといってよい。

 近年、社会学と歴史学の境目は、はっきりしなくなってきている。九〇年代以降、ポストコロニアル論や国民国家論、ナショナルズム研究やアイデンティティ研究など、社会学の成果が歴史学に導入されていった。その結果、これまでの歴史研究にはなかった視点から、日本という地域を分析する研究が、数多く現れている。

 その特徴は、人間のアイデンティティとその構築の問題、つまり「自分は××である」という意識がどのように構築されてきたのかという視点から近代日本の政治や文化を研究するという点にある。すなわち、ナショナル・アイデンティティ研究やジェンダー論研究の影響を受けて、「〈日本人〉という意識はどのように構築されたのか」「〈女〉という意識はどのように構築されたのか」という、近代日本社会を見直してみるということが、アプローチの基本になっているものが少なくない。もともとこうした問題意識は、従来の経済史や政治史を中核とした歴史に対するアプローチが、とりこぼしてきたものであった。

 研究会では、このような近年の日本近代史研究の成果を紹介しながら、その基盤となっている社会学の理論にも言及してゆく。理論の勉強だけでは抽象的にみえるものも、このように具体例に応用してみると、現実の分析のために使える道具であることがわかる。またそれは、ナショナリズムやジェンダー、文化などに関する、社会学の理論の学習にも役立つだろう。なお、担当者の関心がナショナリズムにあるので、ややそれに傾くところがあるかもしれない。

2、研究会スケジュール

 1〜2回のオリエンテーションを経て、講義を行なってゆく。学生の発表も、可能なかぎり織り交ぜたい。

3、基本テキスト

 昨秋の研究会1の課題図書をホームページで見て、社会学方面の本は確認すること。 アンダーソン「想像の共同体」(NTT出版)と田中克彦「ことばと国家」(岩波新書)は、最低でも読んでおいた方がよい。あとは歴史でとりあえず読んでも損はない本をいくつか挙げておくので、休みの間に見ておくとよい。

  イヨンスク「『国語』という思想」(岩波書店)

  フジタニ「天皇のページェント」(NHKブックス)

  牧原憲夫「客分と国民のあいだ」(吉川弘文館)

  上野千鶴子「ナショナリズムとジェンダー」(青土社)

  小熊英二「〈日本人〉の境界」(新曜社)

4、受講者への期待

 やる気のある人が来てください。昨年の研究会ないし「ヴィジョンと社会システム」を受講した者が好ましいが、そうでなくとも可。やる気があれば聴講も可。

5、研究会履修申告に関して

追加! 2002年度研究会履修に関する注意 追加!

<発表用レジュメ>
4/22/2002 イヨンスク『「国語」という思想』(南 智佳子)
4/22/2002 イヨンスク『「国語」という思想』コメント(飯島要介)
5/13/2002 吉見俊哉『<声>の資本主義』(今井 義浩)
5/20/2002 フジタニ『天皇のページェント』(高橋 直樹)
5/27/2002 橋本毅彦・栗山茂久編『遅刻の誕生』(木村 和穂)
6/10/2002 牟田和恵「戦略としての家族」(石澤 洋平)
6/10/2002 牟田和恵「戦略としての家族」コメント(鈴木 麻衣子)
6/15/2002 佐伯順子『色と愛の比較文化史』(小林 みのり)
6/24/2002 木村直恵『<青年>の誕生』(竹内 俊介)
7/15/2002 小熊英二『<日本人>の境界』(松井 洋治)
7/15/2002 小熊英二『<日本人>の境界』コメント(小山田 守忠)
7/15/2002 小熊英二『<日本人>の境界』コメント(野村 知一)

小熊研究室ホームページ