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2.ネットワークの社会的意味
3)情報共有と情報生成(創造性)
すでに了解されたように、希少性の原則にこだわるかぎりネットワークは理解できない。ネットワークには『よいもの(goods)はたくさんある』というアバンダンス(豊かさ)の認識が必要である。その認識が理解されるとき、そのよいものを媒介にして、すべての人々が相互に共有したり公開して、よいものを「よりよいもの」にしようとする関係がネットワークのなかで生成される。こうして、よいものは公開されてさらに多くの人々に共有され、そしてさらによりよいものへと変換されていく。
情報の公開と共有が、よいものをさらに多くの人にもたらし、しかもよりよいものを創造する、という関係が生成される。これが、ネットワークにおけるアバンダンスの原則である。情報の秘匿と所有は「もの」の希少性を前提とする貧しい世界では基本原則にならざるをえなかったが、ネットワークの世界ではそのような原則は放棄される。ネットワークでは希少性は無意味なコンセプトである。
そもそも情報はその本質において所有する価値がない。「もの」がその所有する主体から離れた瞬間、その主体のもとには存在しえない特性をもつのにたいして、情報にはそのような性質はない。「もの」は他者が獲得すればすでに自分のものではないが、情報はいくらしゃべっても自分の頭から消えることはない。「もの」が基本的に所有されることで価値をもつのにたいして、情報はすべての人に共有されることで価値をもつ。「もの」はそれを所有する人によって、その価値が強く規定されるけれど、それとは対照的に、情報はそれを共有する関係によって、その価値が規定される。しかも共有する規模が大きくなり、情報公開が徹底されるほど、またそれによって、情報それ自体の再創造が生成される過程によって、情報の価値はますます増大する。このように、情報はその本来的な特性において希少性・秘匿・所有を排除し、創造性・公開・共有を自明とする。これがアバンダンス(豊かさ)の原則を支える。
ネットワークでは情報は公開と共有によって無限に新しい情報へとつねに創造されていく。この創造プロセスが、よいものは無限にある、という豊かな社会をうみだす。豊かな社会は、「ものにあふれる」という50年代の社会的な意味を超えて、ここにおいてはじめて、ネットワークでの情報の基本原則(アバンダンス)によって、まったく新しい社会の構成原理として再構築されるのである。
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