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2005年05月26日

The Social Construction of Facts and Artifacts


  この論文に述べられているのは、科学技術の分野と社会構成主義の統合化についてである.科学的と技術は相互に影響を及ぼしながら発展し、技術と社会的要請の相互的を論じる社会的構成主義の立場から前述の議論に至る.ここでは自転車の技術の進歩の歴史を例にとり、統合的な社会構成主義者のアプローチは分析的でもあり経験的でもあるという結論に展開している。方法として統合化された社会構成主義のための2つのアプローチである科学知識の社会学における相対主義的実証プログラム(EPOR)と、技術社会学における技術の社会構成( SCOT )を概説し、これら2つの類似性を示すことで、その統合としての社会構成主義の方法を示そうとした。
 EPORはハードサイエンスにおける科学的知識の社会構造を明らかにしようとする。
SCOTは人工物の技術的発展のプロセスが変異や選択の交換として把握され、線形モデルに対する非線形モデルが述べられる。共通するのは技術発展が何らかの環境に依存し、自由度を持つという点である.具体的に自転車の技術発展において社会集団により解釈が異なり、技術的要請が異なることでおこる相互作用に起因することが述べられた.つまり、技術発展は社会学によって説明できるものである.

この論文では技術システムの進化のメカニズムについて論じられている.具体的にはエジソンやベルを例に分析している。技術システムは、社会的に構築され、社会を形成するものという点で、自然のシステムと対になると著者は定義する。技術システムには、物理的な人工物のほか、物理的でない人工物も含まれ、これらは相互作用の中で形成される.よって、システムの各コンポーネントの特徴はシステムに由来するといえる。
 技術システムの発展は発明、発展、革新、技術移転、成長・競争・結合といった段階的に進む。これらの段階は必ずしも連続的なものではなく、重複したり後戻りしたりすることもあり、それぞれの発展段階ごとに適するシステムビルダーが必要となる。そして、システムの成熟とともに技術システムにはスタイルとモメンタムが備わってゆく。
■ コメント
化学の分野に身を置いていた頃、最も疑問に思ったのは、そこで作り出された技術がどのように社会においていきるのか?ということであった.私という人間では科学という系の閉じられたもの、抽象度が高いものだからこそ得ることができた考え方のノウハウが蓄積されるが、ある意味でゲームのようなものである.私も含めて理系にありがちな、社会と切り離されてしまうという弱点を解決するヒントが見いだせるかもしれない.(小池由理)

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The Social Construction of Facts and Artifacts


  この論文に述べられているのは、科学技術の分野と社会構成主義の統合化についてである.科学的と技術は相互に影響を及ぼしながら発展し、技術と社会的要請の相互的を論じる社会的構成主義の立場から前述の議論に至る.ここでは自転車の技術の進歩の歴史を例にとり、統合的な社会構成主義者のアプローチは分析的でもあり経験的でもあるという結論に展開している。方法として統合化された社会構成主義のための2つのアプローチである科学知識の社会学における相対主義的実証プログラム(EPOR)と、技術社会学における技術の社会構成( SCOT )を概説し、これら2つの類似性を示すことで、その統合としての社会構成主義の方法を示そうとした。
 EPORはハードサイエンスにおける科学的知識の社会構造を明らかにしようとする。
SCOTは人工物の技術的発展のプロセスが変異や選択の交換として把握され、線形モデルに対する非線形モデルが述べられる。共通するのは技術発展が何らかの環境に依存し、自由度を持つという点である.具体的に自転車の技術発展において社会集団により解釈が異なり、技術的要請が異なることでおこる相互作用に起因することが述べられた.つまり、技術発展は社会学によって説明できるものである.

この論文では技術システムの進化のメカニズムについて論じられている.具体的にはエジソンやベルを例に分析している。技術システムは、社会的に構築され、社会を形成するものという点で、自然のシステムと対になると著者は定義する。技術システムには、物理的な人工物のほか、物理的でない人工物も含まれ、これらは相互作用の中で形成される.よって、システムの各コンポーネントの特徴はシステムに由来するといえる。
 技術システムの発展は発明、発展、革新、技術移転、成長・競争・結合といった段階的に進む。これらの段階は必ずしも連続的なものではなく、重複したり後戻りしたりすることもあり、それぞれの発展段階ごとに適するシステムビルダーが必要となる。そして、システムの成熟とともに技術システムにはスタイルとモメンタムが備わってゆく。
■ コメント
化学の分野に身を置いていた頃、最も疑問に思ったのは、そこで作り出された技術がどのように社会においていきるのか?ということであった.私という人間では科学という系の閉じられたもの、抽象度が高いものだからこそ得ることができた考え方のノウハウが蓄積されるが、ある意味でゲームのようなものである.私も含めて理系にありがちな、社会と切り離されてしまうという弱点を解決するヒントが見いだせるかもしれない.(小池由理)

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Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts" /Hughes, T., “The Evolution of Large Technological Systems” /吉川弘之、富山哲男、『設計学—ものづくりの理論』

Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts:Or How the Sociology of Science and the Sociology of Technology Might Benefit Each Other,” Bijker, Wiebe E.,Thomas P. Hughes and Trevor Pinch, The Social Construction of Technological systems, The MIT Press,1987,pp.17-50.

Hughes, T., “The Evolution of Large Technological Systems”, Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987, pp.51-82.

吉川弘之、富山哲男、『設計学―ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

■Social Construction of Facts and Artifacts
本章は、技術及び科学を経験的に研究する際の、社会構成主義的アプローチについて論じたものである。本論では、社会科学等先行論文のレビューに基づき、EPOR(相対主義的経験プログラム=科学的知識の社会学)とSCOT(技術研究への社会構成主義アプローチ=技術の社会学)という2つのアプローチを示す。EPORは自然科学を社会的構築主義的に扱うアプローチで、同時代の科学的発展と経験的研究にフォーカスしていることが特徴。SCOTでは技術的人工物の発展段階を、線形の発展ではなく、多方向(マルチダイレクショナル)な発展として描く。例えば自転車は、Penny Farthingモデルから線形に(単に技術的に)発展したと考えることもできるが、多方向(マルチ)に考えると、ある社会的グループに固有の問題、解決方法があり、複数の自転車モデルが生まれたと解釈できる。例えば女性や高齢者にとっては安全性の問題を重視したモデルが適する。即ち技術の役割は、技術的人工物を社会的環境に関係づけること。SCOTは、社会的グループが与える意味に着目することによって技術的人工物を記述する手法である。ただしSCOTは、EPORに比べ遅れている。科学を技術から分離することに注力するのは意味がなく、科学と技術の研究は相互に利益を与えあうもので、本論で論じたように、両者を統合的に考えるのがよい。

■The Evolution of Large Technological Systems
技術的システムは、社会的に構成され、社会を形成するもので、分散した、複雑な問題解決の要素から構成される。技術的システムには、人工物、組織、金融機関、リサーチプログラムなどがある。物理的、非物理的人工物とも、共通の目標に向かって他の人工物と相互作用しあう。
現代の巨大な技術システムは、発明、発達、革新、技術移転、発展・競争・統合という発展パターンを持つ。システムが成熟すると、スタイルやmomentum(推進力)が備わる。技術的システムの発展は、連続的なものではなく、重複したり戻ったりする。発明、発達、革新のあとに、さらなる発明があったりもする。各段階では、発明家、マネージャー、財務家など、異なるシステムビルダー(起業家)として求められる。

■設計学
設計は人間に備わる普遍的な能力である。設計学とは、設計を理解するための学問であり、人工物を生産する工学の中心的位置を占めるが、心理学、社会学、経営学的な要素も含む。
人間が作り出したものを人工物(artifact)と呼び、物理的存在(住宅や建設物、機械等)、抽象的存在(計算機ソフトウエア)、制度的存在(社会システム)がある。人工物の創造過程は、製造(実際に作り出す)と設計(どのような人工物を作り出すかを考案、指示)からなる。
設計は、概念設計、基本設計、詳細設計からなる。設計は生産者と人工物の使用者をつなぐ役割を持ち、かつ人工物を製造するために必要不可欠な情報を生成する過程である。
設計学の体系としては、対象に依存せずに抽象的かつ一般的に扱う設計学、具体的かつ一般的な問題または抽象的かつ個別目標に関する問題を扱う設計方法論などがある。
 人工物設計の歴史では、科学は自然を理解するモデル、技術は科学の成果を応用して有用な人工物を発明するものと定義され、科学と技術が直線的に組み合わさるプッシュ・プルモデルが卓越的な考え方だった。しかし技術だけが長く存在し共通基盤技術化し、それが次世代の発明や発見につながるという、サークルモデルも存在する。さらに人工物の発達の歴史は、科学技術だけでなく社会、経済などの要因が大きく影響する。例えば日本の自動車産業は、排ガス規制への対応、ドルショック、石油危機を背景に、低価格、高品質、低燃費を実現した。時代背景や社会的要請を反映した設計でなければ製品は生き残れない。
 人工物は、技術進歩、社会的変化、設計技術そのものの進化を反映して進化してきた。技術進歩の例には、新材料(プラスチックやチタン等)の出現による設計物の変化、社会的変化例には、高度経済成長期に核家族化、都市化の進展、生活の洋風化により起こった住宅の変化がある。これはマズローの欲求階層説でも説明できる。計算機技術の発達による有限要素法等は設計技術の変化例だ。人工物の歴史を理解するうえでは失敗例も重要で、事故により欠陥が明らかになりその後の設計改善に役立った例は多い。

■コメント
3論文から、科学技術は、科学が自然を理解し、技術が科学を応用して人工物を創造するリニアな構造だけではなく、社会的背景のもと、様々な要素の絡むサークル構造のなかで、人工物が創造されることが多いことが明かとなった。例えば映像メディアを活用した人材育成事業(住民ディレクター事業)は、科学的側面(映像メディアの持つ特性?)、技術的側面(ホームビデオの普及、ブロードバンド環境の普及、地上波デジタル放送の開始)といった条件に、社会的側面(顧客間インタラクション傾向の高まり、テレビを使うものとしてとらえる発想)等が絡み、生まれた人工物であるととらえられる。全ての要素の因果関係を検証することは不可能であり、萌芽的人工物の意義を検証し、再現可能なモデルとするためには、どの要素に着目し他要素との因果関係を明らかにするのかが、非常に重要なファクターとなる。全体像を明らかにしたうえで、最もインパクトが大きいと見込まれるキーファクターを早急に絞り込みたい。       (2005年5月26日 高橋明子)

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Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts,” Bijker, Wiebe E.,Thomas P. Hughes and Trevor Pinch, The Social Construction of Technological systems, The MIT Press,1987,pp.17-50. /吉川弘之、富山哲男、『設計学—ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000
 設計とは、あるべき姿を定義する人間の創造行為であり、行動計画や料理の献立、外出計画など日常生活においても用いられる人間に備わる普遍的な能力である。人間は、機械や建物、電子回路、素材などの多様な物理的存在を生みだし、また、ソフトウェアのような知的財産や、社会制度といったものも創造する。これらを人間が創造するものを人工物とするならば、人工物の生産過程は大きく、アイデアを出す設計、と実際に作る製造とに分けられる。
 工業品の設計過程は、対象によらずおおむね共通しており、
 要求(機能、性能) ⇒概念設計 ⇒基本設計 ⇒詳細設計 (構造の設計) 
  ⇒生産設計 (実際に製造するための設計) という手順を踏む。
 また、使用者のニーズを形にするだけではなく、製造⇒使用⇒保全⇒回収⇒リサイクル⇒設計 まで含めた、人工物の一生を規定するのも設計である。こうした様々な対象とした設計を、対象によらない人間の高度な知的活動である創造行為の一つとして体系化し、抽象、一般的に理解するのが設計学である。ただし、設計学を学んだからといって設計を上手に行えるというものではない。
 しかし、要求⇒設計の段階へ至るには、時代背景や時代の要請というものが大きく関わる。(1)科学技術 科学と技術の歴史的な関係を具体例を交えて述べている。科学という法則・原理があり、技術はその科学の成果を応用するという一方向の流れ「プッシュ・プルモデル」(卵と鶏の関係)だけでは科学史は説明できず、実際は大した理論なしで最初の技術が生まれることが多いとする。その技術が次の発明を生む基盤技術になるというサークルモデルを蒸気機関を例に示している。
 (2)社会・経済 初期の大量消費の時代から商品差別化・個別化への消費者のニーズの変化、あるいは環境問題を自動車を例にして挙げ、相対する社会・経済的要請により設計を行う必要を示している。社会や文化の変化は、人の欲求の変化ともいえ、欲求階層説を示し、設計もそれに応じた段階的な変化があることを指摘している。
 また、これら以外にもコンピューターのによる構造計算など「設計技術」が進化することや、失敗した技術からサジェスチョンを得ることによる設計基準の見直しによる設計の変化の重要性も述べている。

Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.
「事実と人工物の社会的構成 : すなわち、科学社会学と技術社会学は互いにどのように恩恵を受けることができるか」(バイカー&ピンチ)
 この論文では、科学論と技術論は互いに学び合うべきであるし、実際に学び合うことができるということを主張したいと述べている。特に、科学社会学の社会構成主義者的見解は出発点として有益であるという。
 第一セクションでは、これまでの社会科学、科学と技術の関係、技術論についての先行研究についてそれぞれ述べており、従来の技術論の直線的なリニアモデルを社会構成主義者的視点が欠けていると批判している。
 第二セクションでは、科学と技術に対する2つのアプローチを提示している。1つは科学論の科学知識の社会学で発達し、十分に議論された「相対主義の経験的プログラム(The Empirical Programme of Relativism, EPOR」である。EPORはハードサイエンスにおける科学的知識の社会構造を明らかにし、技術発達の説明に適用しようとする。2つめは未成熟な技術社会学における「テクノロジーの社会的構成(Social Construction of Technology, SCOT」アプローチである。SCOTでは、人工物の技術的発展のプロセスを、変化や選択の交雑として把握し、リニアモデルに対する「多方向性」モデルを示し、は自転車の技術発展のケーススタディを通して、実証している。
 1870年頃、自転車はオーディナリー(写真3)と呼ばれる、前輪を直接駆動させ、スピードを出すために前輪を極端に大きくし、後輪を小さくしたタイプであったが、サドルが高くて危険であった。その後、サドルを低くし、後輪をチェーンで駆動するセーフティ型自転車が作られた(Lawson’s Bicyclette, 写真13)。危険→安全への、直線的に進歩するものとして歴史的記述では描かれるが、それらの直線的な進歩史観を批判している。というのは、当時の人々の目から見れば、オーディナリーからセーフティへの進歩は、必然ではなく、他の方向に進む可能性があったからである。彼らは「関連社会グループ」という概念で これらを説明している。当時、自転車に乗ることは若い男性のスポーツと考え、安全は重要な課題ではなかった。しかし、長いドレスを着ていた女性グループには、オーディナリーは不便であった。自転車メーカーにも潜在的なユーザーである女性は無視できない存在だった。このように、所属する「関連社会グループ」によって、オーディナリーという同一の人工物に対する解釈が異なる。そして、これらのグループ相互の力関係、関心や利害によって、自転車技術の発展方向を決定するとする。社会が技術から受ける影響を見逃しているという批判を「解釈の柔軟性の制限」という語で示している。
 2つのアプローチによると、科学的発見の解釈の柔軟性は、EPORにもSCOTに共通する。さらに、SCOTは技術的人工物を文化的に構成し、異なる関連社会グループは、異なる理解を人工物に対して持ち、その概念を理解することが重要であるとし、さらにEPORとSCOTを統合的に理解することが重要であるとしている。

大規模技術システムの進化
 1870~1940年の電力の歴史を研究することで、大規模技術システムの進化パターンと発明者(エジソン)の役割を、社会構成主義者の立場から分析している。政治的・経済関係が技術の形式に影響しうることに対する理解を提示している。
 技術システムは、社会的に構成され、また社会によって形成されているものであり、複雑に散らばった問題解決を形を問わず行うもので構成される総体と定義されている。技術システムは、人工物のような物理的要素だけをさすのではなく、組織、規制法案、あらゆる商業システム、金融、教育システムなどの非物理的要素をも包括するものとしている。人間はシステムの要素ではあるが人工物ではない。技術をつくりあげるだけでなく、組織をもつくりあげるシステムビルダーが必要である。次に、ヒューズは、技術システムの進化のフェーズとして発明、開発、技術革新、技術移転、成長、競争、統合を示した。。成長、競争、統合段階では「逆突出部」(reverse salient)を持つ。このフェーズは一方通行ではなく、交互に行き来しうる。進化の過程で、システムが成熟するに伴い、モメンタム(技術的運動量)を獲得し、自律化し、技術軌道(technology trajectory)に沿って発展することになるとしている。

【コメント】(M1 脇谷康宏)
前者はあえて設計方法論や設計原理と分けてまで、独自の設計学というものが必要なのかはやや疑問。設計学の発展から実際の設計への応用ということがありうるのだろうか。とはいえ、水車のように学問体系が技術のシードになるにはタイムラグがあるのかもしれないが…。後者の技術史観はある意味、純粋な技術者の評価を相対的に下げることにもなり、現在の理系不遇や特許の対価のとらえ方にも影響があるのだろうかということを考えたりもします。エジソンの発明「王」たる所以ですね。
 

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吉川とBijker

 吉川弘之、富山哲男、『設計学‐ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年、pp.9-42.
1.設計とは
設計は、さまざまな工業製品の生産活動において製品のあるべき姿を定義する人間の創造行為である。しかし、能力は人間に備わる普遍的な能力であり、日々の行動においても設計は重要な役割を果たしている。 人間の創造能力によって作り出したものを人工物と呼び、人工物を実際に作り出す製造の過程(製造:production)と、どのような人工物を作りだすかを考案、指示する過程(生産:manufacturing)に分けられる。設計は人間に備わる普遍的な能力である創造力の一つであり、工業製品の生産だけでなく日々の行動(行為の計画、意思決定など)においても設計は重要な役割を果たしている。
さまざまな人工物、特に工業製品の生産おける設計-建築設計、機械設計、ソフトウェア設計電子機器設計-の役割を考察している。人工物の設計は要求(機能や性能という形で表現されている)を実現する人工物の動作原理、構造や形状、あるいは挙動を決定していく課程である。設計の過程としては要求⇒概念設計⇒詳細設計⇒生産設計であり、その設計課程には①生産者と人工物の使用者をつなぐ役割、②人工物を実際に製造するために必要不可欠な情報を生成する過程であるという意味を持つという。設計学は設計に関わる知見を体系化したもので、基本的に脱領域性が重要であり、かつ普遍的に議論するために、抽象性、一般性が欠かせない。
2.人工物設計の歴史
科学は自然を理解するための法則を発見していのものであるのに対して、技術はその科学の成果を応用して有用な人工物を発明するものである。科学が技術にとってのシーズになってプッシュする場合と、ある技術を開発すること社会的要請がニーズとなって科学の研究をプルする「科学技術史におけるとプッシュ・プルモデル」を核分裂の連鎖反応の論理的な推定と後、原子爆弾開発というニーズにつながったことを例として説明している。しかし、プッシュ・プルモデルでは必ずしも科学歴史が説明しきれないこともある。また、技術が発明されて実余化されて徐々普及し、次第に技術として一般化し社会全体で共通規範技術かする。共通技術は体系化され次第に新しい発明・発見の種として作用する「サークルモデル」がある。産業革命期における蒸気機関の発達、自動車の歴史を例にあげて人工物設計の歴史を説明している。
3.人工物の進化
人工物の進化には①技術進歩による進化(メカトロニクス技術の例)、②社会的な変化による進化(欲求の量的・質的変化:欲求階層説によって説明)、③設計技術そのものの進化(計算技術の発達)などがある。また、設計の失敗(コメット機の墜落事故、タコマ橋の崩壊事故)による設計の進化もあるのである。
<コメント>
設計というのは技術の改良・改善を効果的に果たすための事前作業の一つだというふうに捉えていたのはすごく断片的であることがわかった。 欲求の社会的な変化による設計の進化や設計が人工物の使用者をつなぐ役割をはたすことなどで顧客の満足を最大化するCRM(Customer Relationship Management)の一つとして捉えるのも可能ではないかと思う。
 Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T.(editors), 〝The Social Construction of Technological Systems.”, MIT Press., 1987, pp. 1-82

-Trevor J. Pinch, Wiebe E. Bijker, The Social Construction of Facts and Artifacts: Or How The Sociology of Science and the Sociology of Technology Might Benefit Each Other
Pinch&Wiebeは自転車(人口物)の技術的な発展過程のケース・スタディをもちいて、技術と科学を社会構成的なアプローチで述べている。 科学社会学、技術と科学の関係、技術研究の3つの分野で科学と技術の社会的な関係を説明している。 技術と科学は相互にいい影響を与えながら、社会の発展をうながす。 技術研究は社会発展を可能にさせたものだと因果関係的な捉え方ではなく、社会的関係のなかから構成されるものとして社会構成的な観点から説明している。
科学と技術を説明することにあたって2つ-EPOR(The Empirical Programme of Relativism)とSCOT(The Social Construction of Technology)-のアプローチがあげられている。EPORはハードサイエンスでの科学知識の社会構成的な観点を論証することであり、SCOTは技術の社会構造的な観点を論証するものである。 EPORとSCOTの目的は論理的な類似性をもっている。 特に、科学的な発見物の解釈の自由度やソーシャルグループの概念が技術の社会学において経験的な関係から成り立っていることである。

-Thomas P. Hughes, The Evolution of Large Technological Systems
技術システムは複雑で複合的な問題解決から構成される。 技術システムには物理的な人工物以外にも製造会社、投資銀行などのような組織、大学の教育・調査プログラム、法律規定などまで含まれる。 システムビルダーや提携者によって技術システムは発明され、発展されるため技術システムは社会的構成の人工物である。 また、技術システムの相互作用の部分はシステムから成り立っていることから特徴付けられる。 利用可能な手法をとりながら問題解決や目的を満たし、人工物や人の操作による統制の限界が制限される、インプットとアウトプットをもつというのが技術システムの性質であると説明されている。 本章はおもに技術システムの発展のパターンを説明している。 技術システムは段階的に「発明、発展、革新、技術移転、成長・競合・統合」の発展のパターンを見せながら進んでいく。これらの発展パターンは単純に連続的に起るのではなく、重複したり後に戻ったりする。たとえば、発明、発展、革新にはまた、発明が存在しえる。

<コメント>
Pinch&Wiebeは、技術の発展は社会的関係から構成されるものとしてとらえ、技術は社会構成の一部分であるという見方である。一方で、Hughesは、技術は成長するものとして捉えている。しかし、両方とも技術が社会との相互作用の関係であることは同じ見方であろう。 今、急速に発展している技術は社会においての衝突も生じえると思う。 その捉え方としてどういうものがあるだろうか。                            (池 銀貞)
                                   

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設計学

 まず、設計とは様々な人工物(物理的な存在のみならず抽象的な存在、制度的なものを含む)の生産活動において製品のあるべき姿を理解する人間の創造的行為と定義した上で設計学(design theory)とは設計を対照によらずに人間の高度な創造行為の一つとして、一般に理解するための学問と述べ、具体的な個々の人工物の設計方法を工学的な観点からみる設計方法論に対して、設計の自動化や合理的な設計の進め方が明らかになる点において有用であるとする.人間の創造の過程を筆者は総じて生産と定義しているが、実際に製造する過程に対し、考案、指示する過程を設計としている.この設計過程は人工物において概ね共通であり、要求(機能や性能というで表現)を実現する人工物の動作原理、構造や形状、挙動を決定してゆく過程で、具体的には概念設計、基本設計、詳細設計、生産設計という段階がある。ここでは設計過程の意義である①生産者と顧客(人工物の使用者)をつなぐ、②製造するために必要な(製造のみならずライフサイクルを規定する)情報を生成する、という点を念頭におかなければならない.
 人工物進化の歴史は発明や発見の歴史であるだけでなく人工物設計の歴史、つまり設計者の意図を反映したものでもある.この進化のメカニズムは科学が技術にとってのシーズとなる(プッシュ)、技術開発の社会的要請がニーズとなる(プル)という直線的な関係性を科学技術が進行してゆくプッシュプルモデルで説明されていたが、科学に比べ技術のみの存在時期が長いという観点からより適したサークルモデル(ノンリニアモデル)が提唱された.これは技術の発明、一般化、共通基盤化、体系化、次世代の発明発見の種というサイクルをしめす。さらに実際の人工物設計の歴史は社会、経済、文化(時代背景、社会インフラ、特許制度など)からの影響が大きいということを示し、社会的要請や、トレンドによる製品淘汰のメカニズムを表している.この人工物の進化の要因としては、①技術の進歩による進化(新素材の発見、メカトロニクス製品の出現など)、②社会的な変化による進化(欲求の量的、質的変化)、③設計技術そのものの進化(シュミレーションなど計算機技術の発達)、の三点が挙げられている.また進化の過程で重要となるのは失敗経験から学ぶことであると筆者は述べる
■コメント■+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
設計を設計対象による切り口ではなく、設計の際の人間の知能の働きという切り口でみているてんで面白い.現在、鋳型における効率的な生産手法をほかの生産ラインに添加するという動きも出ているが、事象を抽象化すること(学問)はこの点で生きるのではないかと技術の進化サイクルに納得できた.産学連携という流れもサイクルの中の学問という本来の自然な流れにたち返すことを目標とすればうまくいくのではないだろうか?
 加えてリサイクルの流れまで視野に入れた設計(ライフサイクルアセスメント)や失敗から学ぶ際にも設計自体ではなく、組織や社会上の問題まで視野に入れる方法(モダンPM)なども時代の要請として興味深い.どちらも線形な部分だけではなく全体を俯瞰することで手に入れることのできる視点のように感じた.(小池由理)

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2005年05月25日

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000 / Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000
【概要】
第1章
設計とは、さまざまな工業製品の生産活動において製品のあるべき姿を定義する人間の創造行為である。設計学とは、この設計を理解するための学問であり、人工物を生産するための工学において中心的な位置を占めるが、心理学・社会学・経営学的な要素も含む学問である。
人間の創造能力により作り出した(元々は自然には存在しない)ものを人工物と呼ぶ。この人間の創造の過程は、製造と設計に分かれる。工業製品の場合、この設計・製造を合わせて生産と呼ぶ。
人工物の設計には、CAD、CAE、CAMなどのシステムを活用した建築設計、機械設計、ソフトウェア設計、電子機器設計などがある。この中でソフトウェア設計は他の設計に比べて、設計と製造に明確な区別がないことが特徴である。
設計のプロセスは二つの意味がある。第一は、生産者と人工物の使用者をつなぐ役割であり、要求に基づいて「概念設計」、「基本設計」、「詳細設計」、「生産設計」を経て、設計解が生み出される。第二は、これから製造する人工物を実際に製造するために必要不可欠な情報を生成する過程であり、「設計」、「製造」、「使用」、「保全」、「回収」、「再利用」というライフサイクルを規定する。
設計に関する学問体系は、「設計方法」、「設計システム」、「設計方法論」、「最適化設計方法」、「設計原理」、「設計学」などに分類される。

第二章
科学と技術の間には、科学が技術にとってのシーズとなってプッシュする場合と、ある技術を開発する社会的要請がニーズとなって研究室での科学の研究をプルする場合がある。この両者が直線的に組み合わさって科学技術が進展し、これをプッシュ・プルモデルと呼ぶ。しかしこれで全ての現象を説明することはできない。
サークルモデルとは、「基盤技術」、「前競争的技術」、「競争的技術」、「後競争的技術」がサイクルになり、科学技術が発展するモデルである。
「蒸気機関」をケースに、発明は時代背景、社会的要請、工作技術などの技術インフラ、特許制度など発明者の権利保護などの要因が複雑に絡み合っていることを示す。
「自動車」をケースに、設計は社会的・経済的影響が大きく、社会や経済あるいは文化から影響を受けることを示す。
工業製品の設計の歴史は、必ず時代背景や時代の要請が色濃く反映されている。

(牧 兼充)


Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.【概要】
“The Social Construction of Facts and Artifacts: Or How the Sociology of Science and the Sociology of Technology Might Benefit Each Other”
 本章は、科学と技術の社会学的研究を、技術が社会を規定する「技術決定論」ではなく、技術と社会が相互インタラクションを行いながら発展する「社会構築主義」の観点から論じたものである。現状では科学と技術に関する研究はそれぞれ独立のものとして扱われており、相互のインタラクションが有益である。
 はじめに、科学と技術の研究について3つの先行研究を紹介する。「科学社会学」は、科学的アイディア、理論、実験などをデータとした分析を行う。「科学と技術の関係」は区別されており、科学が真実の発見であるのに対し、技術は真実の応用である、と考えられている。技術論は、イノベーション論、技術史、技術社会学により構成されている。
 次にEPOR (The Empirical Programme of Relativism)とSCOT (The Social Construction of Technology)を論じる。EPORは、科学的知見による社会構築主義をハードサイエンスに適応させたものである。科学社会学から発展しており、研究手法も確立している。SCOTは、技術的人工物の開発プロセスを他方向モデルとして説明する。このプロセスについて、自転車の設計をケース・スタディとして検証する。ただし研究手法は未だ十分に確立していない。

“The Evolution of Large Technological Systems”
大規模な技術システムの成長や進化のモデルを提示している。大規模な技術システムは、複雑な課題を内包しており、その解決方法は社会的に構築され形成される。技術システムは物理的な人工物に限らず制度、政治、経済などの非物理的な社会的システムなどを含めた相互のインタラクションにより形成される。従って、各人工物は、全体システムの影響を受けてその特性が決まる。例えば、発電システムは、投資銀行の政策などに影響を受けて形成される。また大学の工学部から教育体系の重点をDCからACに切り替えるだけで、人工物の生成にも影響を与える。
大規模な技術システムは、「発明」、「開発」、「イノベーション」、「技術移転」、「成長」、「競争」、「合併」のプロセスで発展するが必ずしも連続的ではない。発展のプロセスにおいて、システムは、スタイルとモメンタム(勢い)を獲得する。また、各プロセスにおいて中心となる人物が、発明家型アントレプレナー、管理者型アントレプレナー、財務型アントレプレナーと変化する。

【コメント】
 大学をベースとしたインキュベーションは、「技術決定論」的アプローチと「社会構築主義」的アプローチという整理が可能であることが分かった。この理論をフレームワークとすることにより、TLOを中心とした「技術決定論的インキュベーション・モデル」の特性と限界を示し、SIVが構築する「社会構築主義的インキュベーション・モデル」の有効性を示せる。この二つのモデルは、博士論文におけるフレームワークとして、ケース・スタディによる比較検証が可能なため、今後深く掘り下げていく。 (牧 兼充)

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2005年05月20日

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.  /Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.

本論では、情報システム(IS)分野において、定性的研究方法の一つとしてケース・スタディ戦略を提案したものである。とりわけ、ISジャーナルからのケースをサンプルとし、その評価を通して、情報システム分野におけるケース・スタディの長所・短所の評価の確立と、適切な研究トピックの選別を試みている。
情報システムエリアは一定の技術進歩および革新によって特徴づけられる。これらにおいてケーススタディ研究が有効である3つの理由があるとする。第1に、研究者は、そのままの環境中の情報システムを研究し、最先端技術に関して学習し、事象から理論を一般化することができること。第2に、「どのように」と「なぜ」の質問への回答を提示するためにケース・スタディ・リサーチが有用であること。第3に、従来の研究が行なわれていないエリアを研究する適切な方法であるとしている。
 あるがままの環境、あるいは同時代の出来事への焦点が必要な場合、ケース方法論は明白に有用である。同様に、強い理論的な基礎によってないような研究現象は、ケース・スタディが有益たりうる。反対に、研究に主題または出来事をコントロールするか操作しなければならない場合、ケース戦略は適切ではない。しかし、多くの場合、使用するかの決定要素は明確ではない、そのためYinやBonomaの議論を紹介し、ケース・スタディの鍵となる特徴を提示している。
ケース・スタディ研究における、長所および短所の両方を例証するための、4つの事例研究をサンプルとしてとりあげている。
(1)マーカス:ISインプリメンテーション (2)ダットン:会計のインパクト・モデル
(3)ピバーン:戦略のIS立案       (4)オルソン:システム開発機能
以上を踏まえ、ケース・スタディの総括的評価を述べる。

・研究テーマ ケース・スタディの主なテーマは、インプリメンテーション(Ex.情報システムや意志決定支援システムの成功か失敗の可能な原因)である。
・研究目的 一般に、研究者の目的は明らかには指定されていない。
・分析およびサイト選択のユニット 分析のユニットは、公表された多くの中で提供されませんでした。明瞭な研究目的の不足と一致する問題および恐らくその結果である。
・単一のケース対複合のケースのデザイン
研究者は、できるだけ多くの同様の特性を備えた均質のサンプルを求めている。しかし、多くの場合、選択する単一or複合の設計の理由は説明されてはいなかった。
・データ収集
 ケース・スタディの約半分は、多数の手段で集められたもので、もう半分はもっぱらインタビューであった。多くの場合では、データ収集方法は曖昧であり、また、詳細は提供されていなかった。また、信頼度を増加させる三角測量の使用もまれであった。我々は、データ出所の明瞭な記述、およびそれらが研究の発見物に寄与する方法が発見物の信頼度および有効性の重要な様相であると信じている。
Yinに記述されるように、手続き規則を厳守するべきである。

Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

本論文ではGTC社における財務情報システム(FIS)の導入に伴う、社内の抵抗の要因に関するケース・スタディである。この経営情報システム(MIS)の導入に際して起こる抵抗の理由を3つの基本的な理論によって、分析し、その対応策を述べている。結果、MISよりよい導入戦略、およびコンピューター利用技術がインストールされた組織造りのよりよい結果に結びつくことを願っている。

(1)三つの抵抗要因
①内部要因 個人や組織における内部要因を起因として発生する。互換的な結果として、「全ての変化に抵抗」、「分析的認識能力を持つ人は賛成し、一方直感的思想の持ち主は導入に抵抗する」などが想定される。抵抗発生点は、システム利用者である。
②システム要因 システム自体の要因のために抵抗した場合。互換的な結果として、技術的に不十分なシステム、人間工学で設計されていないシステム、およびユーザー・フレンドリーでないシステムに抵抗するのである。
③システムと使用者の相互作用要因 政治的なバージョンとも呼べる。システムとシステム使用による業務内容が密接に相互関係を持っていることにより発生する。例として、MIS導入によって権限を失う部署からMIS導入への反発が起きる。抵抗は、システム使用者に加えて、システム設計者によっておきる。

GIS社の「相互作用論」に相当するケースを分析し、
コンピューターベースのシステムが根本的な組織変更のタスクを単独で遂行することができないということ、システムの特定のデザインが一部分ユーザとデザイナーの関係の製品であるということ、そして、導入戦略のため、システムの特定の設計内容のための最良の規定が、完全な分析を行うべきということを示唆している。

また、解決方法として
(1) より快い方法でシステムのデザインを変更すること
(2) システムのために使用者の目的のうちのいくつかを犠牲にすること
(3) システム設計過程の選択された面あるいはすべての面にユーザーが参加することを可能にすること
(4)それらによって評価された他のいくつかの譲歩を分割上のユーザーに与えることにより、システムの受理を「買う」こと
(5} スタート時からシステムをユーザーに参加させ、売り込むこと
(6) そもそもプロジェクトをさせる
という選択肢があることを指摘している。

【コメント】
Benbasat等が指摘するように、ケース・スタディを行う際の不十分なマイナス要素が頭に残った。Markusの単一ケースながら分析過程は美しく思うが、のケース・スタディは他の手段が無いために、やむなく選択せざるをえない不完全で難しいものというYinを読む以前の元の感覚にまた戻ってしまった気がします。(M1 脇谷康宏)

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2005年05月19日

Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987,

本論文では、情報システムの分野におけるケーススタディー戦略を定義、議論し、具体的な論文について評価することで、ケーススタディーにおける枠組みを与えようとしている.
 ケーススタディーの定義として筆者は、“複数の手法に基づいて情報を収集し、現実事象を観察するもの”としている. ケーススタディーにおいては研究者が客観的立場を取り、リサーチクエスチョンは研究の前に特定されており、この点で著者の経験から指摘を行うアプリケーションディスクリプション、問題解決と同時に変化を観察するアクションリサーチと区別されている。
 具体的な4つの論文について、長所と短所を挙げ、留意点と指針を明確にしている.指針に対照した批評から得られた留意点としては、ケーススタディーにおいて適した分析単位を決定することが必要であり、リサーチクエスチョンの妥当性を事前に検証し、ゴールを追試や探索など明確にする必要がある.それに伴って、調査対象の選定は偶発から、結果の観察、因果関係の仮説の検証へと戦略的に行われなければならないといった点である.
 また、長所から導かれた結論としては、ケーススタディーは情報システム研究に適しているということである.これはケーススタディーが探索的、仮説確認アプローチに適当であることから、変数が制御可能な環境ではなく、実際の企業という現実に発生している事象から理論を一般化できる点、“なぜ”、“どのように”という問いへの答を導く点、技術革新のスピードが著しく、先行研究が少ない分野において有効である点からいうことができる.情報技術分野において技術に対する関心から、組織に対する関心へと移行する流れからもケーススタディーは有効な調査方法の一つとしながら、方法論における留意点も喚起している.
■ コメント
ケーススタディーのケーススタディーともとれるような具体例から注意点を学ぶことができた。情報技術における関心が技術面から組織面に移行しているとの言及に関しては先生が技術を設置することから場を設計することへと移行していくべき(?)とおっしゃっていたのに重なり、ケーススタディーは重要な研究手段となることを再確認した.指摘される客観性や研究課題、過程の設定については手法に沿うことを心がけるべきだが、社会科学においては事実の証明よりもひとつのフレームワークを与えることが重要となるのではないかと感じた.(小池由理)


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Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.  /Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386. 

■要約
本論は、IS分野でのケース研究戦略について論じたもので、ケース研究の方法論を確立するとともに、よりよい研究方策を提示している。ケース研究は初期段階の理論形成段階で有効であり、ケース研究の排他的利用を推奨するものではない。
ケース研究がIS戦略として有効なのは、ISを現実の事象を研究し理論を一般化できること、研究者に進行中の事象を理解する「how」「why」を与えること、先行研究が殆どなく、変化のスピードが早いIS分野で適切な手法であるという3つの理由によるものだ。
ケーススタディの標準的定義はないが、BenbasatやYinらの定義をもとに、本論では「1ないし複数事例から収集されるデータを用い、現実の事象を複数の手法で検証するもの」と定義する。
 ケース研究の手法としては、1)分析単位:調査に着手する前に決定する、2)分析対象:複数ケースが望ましいが、Yinによれば実験的、理論検証的、他に存在しない独特の事象等、シングルケースが適切な状況もある、3)事象の選択:現実及び理論を反映したケースを選択、4)データ収集:複数ソースから収集する等が重要である。
 次に、Murkus,Dutton,Pyburn,Olsonの4つのケーススタディを検証し、ISケース研究の評価、批判を分析した。ISケース研究のテーマは、Implementation(実装)だ。しかし研究の目的は、明確でない場合が多く、このため分析単位及びケース選択も明記されていない論文が多い。半数のケース研究は複数手段でデータを収集するが、半数はインタビューのみによっている。またデータ収集における問題点は、データ収集手法が明かでないことだ。
 つまり研究者が方法論的問題を考慮してこなかったことが問題であり、調査目的が不明確、シングルケースか複数ケースかの選択の説明不足、事象選択が調査戦略と結びつかない、データ収集手法があいまいで詳細が提示されない、信頼性を増すトライアンギュレーションはほとんど行われていないなどが指摘できる。ケース研究は、事象を説明するものであるとともに、仮説を検証するものであるべきだ。Yinはケーススタディの読者が、リサーチクエスチョンから結論までのどのような証拠源も検証できることの重要性を主張した。証拠源の連鎖がデータの信頼性を高める。ケース研究は単なる記述ではなく、ある種の手続きのルールである。

■コメント
Yinの主張等に基づきながら、4つのケース論文をもとに、IS分野におけるケース研究のメリットを提示するとともに、批判(問題点)を明らかにし、ケース研究のあるべき姿を描いている。ケース研究が理論に基づく仮説検証型で、証拠源の追試を可能とする調査メソッドであることが、Yin論文に続き確認できた。
(2005年5月19日 高橋明子)

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Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

■要約
本論文は、MISの導入への抵抗に関する3つの理論を提示したうえで、GTC社のFIS(Financial Information System)の導入に関するシングルケースデータで、理論を検証し、システム導入に関する推奨方策を提示したものだ。3つの理論とは、1)人間は本質的に変化に抵抗する(人間決定理論:Peaple-Determined)、2)システムに内在する要素(ユーザーフレンドリーでない等)が抵抗を招く(システム決定理論:Systeme-Determined)、3) 利用者とシステムの相互作用が抵抗を生む(相互作用理論:Interaction Theory)。例えば組織のパワーバランスを変革するシステムは、権力を失う利用者から抵抗を受け、力を得る人から承認される。相互作用理論には、社会技術的理論Sociotechnical variant(事業部従業員とシステムの相互作用にフォーカス)と、政治理論Political variant(組織内権力の分散とシステムの相互作用にフォーカス)がある。
 GTC社のFISの導入ケースでみると、最初に導入した事業部では抵抗がなかったのにあとから導入した事業部では抵抗があり、全社部門は導入を歓迎した。全社部門が事業部とのパワーバランスを完全に変えることに成功したわけではないが、全社部門がFISにより会計データに直接アクセス可能となり、ある事業部は権力を失ったことが要因だ。
 このようにFISケースでは、政治的相互作用理論が説明力に優れることが検証された。
ISは単独では、革命的な組織の改革を行うことはできないし、システムデザイナーもユーザーであり完全に中立的ではない。相互作用理論から導かれる最も重要な示唆は、抵抗を受けないシステムをデザインしたり、抵抗を受けているシステムを改修するため、技術的な観点だけでなく、社会的政治的観点からも分析することだ。具体的には、システムを導入する前に組織的問題を解決すること、ユーザーのインセンティブを再構築すること、ユーザーとデザイナーの関係を再構築することなどで、システム設計へのユーザーの参加は必ずしも必要ではない。FISケースでいえば、分析(=導入)者自身の動機を認識したうえで、1)事業部にも適合するようシステムデザインを変更、2)全社的目的のいくつかを犠牲にする、3)事業部にシステムデザイン設計段階への参加を認める、4)事業部に妥協することで受容を”買う”、5)最初から、システムを究極の「経営者の会計システム」として扱う、6)プロジェクトを終える、といった選択を決定していくなどの戦略が考えられる。
つまり相互作用理論は、普遍的でないという欠点を持つが、抵抗を予測し、可変的で独創的な戦略を立てることができる点で、他の理論より有効だ。導入者も分析の一単位であり、ゴールは抵抗をなくすことではなく、それを回避すること、可能なら建設的に扱うことである。

■コメント
本論は、実務者(システム導入者)に対しては、システム導入に関する具体的推奨方策を理論に基づき提示することで、説得力を増している。研究の方法論としては、シングルケースのデータに基づき、パターンマッチングにより、理論を検証している。得られたモデル(理論)は、普遍的一般性は持たないことを明らかにしつつ、他の理論に対する優位性、目的に対する有効性を明示し、研究と実務を結ぶ方法論のひとつを提示した。
現在進行形の問題を考える社会科学の特徴として、ISの導入者が同時に問題解決を考える分析者でもあることは、二重の意味でのアクションリサーチ(本論文そのもの、及び本論文で提示された事象そのもの)になっているようで興味深かった。 (2005年5月19日 高橋明子)

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The Case Research Strategy in Studies of Information Systems

Benbasat, Izak., Goldstein, D.K. and Melissa Mead, "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly, Vol. 11, Issue 3, 1987, pp. 369-386.

本論文は定性的な研究方法のなかでひとつであるケース・スタディ・戦略に関して議論し、定義している。特に、IS(Information System)分野において、定性的なケース・リサーチ戦略の手法を提案した。IS分野とケース・リサーチ戦略が適合、実行可能なことである理由としては、次のような3つの理由があげられる。①研究者はふだんのままのISを対象に研究できるし、②「HOW」と「WHY」の問題に答えられる、③IS分野は毎年新しく出てくるトピックスが多いので、先行研究の数少ない領域の研究に有効であることである。
ケース・スタディの定義の標準的なものはないであるが、Benbasat,  Bonoma,  Kaplan, Stone, Yinによって提示されてことからケース・スタディのキーとなる11個の特徴を取り出し、研究対象のケース・スタディの適合性を図るチェック・ポイントを提示している。

1.ケース・スタディ実施
ケース・スタディ実施については、①分析単位、②単一ケースと複数ケースの関係、③現場選択、④データ収集法ごとの議論、戦略を述べながらケース・スタディへの理解を高めている。
2.事例に基づく調査
4つ(Markus, Dutton, Pyburn, Olson)のケース研究論文を取り上げ、各々の研究調査のメリット、ディメリットを考察する。 その内容としては 「①Markus: ユニックな事例を扱いう。 分析単位を同一にし、内的妥当性が強まる。 しかしデータ収集に関して詳細に論じられてない ②Dutton: 資料収集の詳細な分析が行なわれたが、研究目的が不明確である ③Pyburn: 比較ケース研究で、データ収集の前に研究目的を明らかにしている ④Olson: 2つのケースを観察し、結論をだしている。 まだ基礎的調査であると指摘」という内容で詳細に説明されている。 各論文に関しても分析単位、単一ケースと複数ケースの関係、現場選択、データ収集法の項目を中心としたケース・スタディの評価が行なわれている。

IS分野において技術は常に新しいことであることと技術的論理から組織的管理の問題へ関心が移動していることからISの分野においてもケース・スタディが適合であることをもう一度強調しつつ、これからの研究者に定性的な方法論の課題を残している。

<コメント>
ケース・スタディにおいて、特に、定性的な方法の場合は客観性をどうやって保つのかというところがすごく重要であると思う。 分析単位から資料収集までの整合性のとれた客観性であろう。たとえば、分析単位を同一することで内的妥当性を高めることは可能であるが、資料収集・分析の信頼性を高めるのは難しいのではないかと思う。          (M2:池 銀貞, 2005.05.19)

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2005年05月18日

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386. / Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-4

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.

【要約】
本稿は、IS研究におけるケース研究の定性的な技法について論じたものである。ケース研究は特に研究者が、1)ISの現象の中から現状を学び、理論を導き出す場合 2)複雑な現象を理解する際に、「なぜ」もしくは「どのように」という問いに答えたい場合 3)研究や理論化の初期段階の分野を扱おうとする場合、に有効である。
ケース研究とは、ある現象を理解するために、複数のデータ収集手法を用いて、1つ以上の構成要素(人、グループ、組織)からの情報をまとめあげることである。その際には、現象の境界は曖昧であり、また研究者による実験・操作は行われない。
ケースリサーチを行う際には、「分析単位」「シングルケース or マルチケース」、「分析対象」、「データ収集方法」の決定を行い、最後の分析が必要となる。
「Markus: IS Implementation」論文は、研究対象がユニークであるため、我々に有益な知見を提供している。しかし、データ収集手法が全く述べられていない、その他の三角的測量法・妥当性の検証につながる情報があるかどうかが明らかになっていないなどの課題がある。
「Dutton: Adoption of a Fiscal Impact Model」論文は、ISの実装プロセスにおける重要な要素を探索的に提供している。しかし、この研究の目的は何か、なぜこの対象を選んだのか、この現象を回顧的に分析する前にアウトカムについて理解していのか、などの点が明らかになっていないことが課題である。
「Pyburn: Strategic IS Planning」論文は、他の事例にも応用可能なMISの計画の分類スキームを提示した探索的研究の良い手本である。しかし、具体的な事例が詳しく述べられていないことがこの研究の欠点である(論文の長さの制限があったのであろうが、その場合には本などの他の発表手段を検討すべきである)。
「Olson: Centralization of the System Development Function」論文は、現象の違いを示すための適切なサンプルの選択、複数のデータ収集法、回顧的なデータ収集を避けるために最近の事例の活用などを含めて、ケースに基づいたアウトカムについての説明が適切になされていることが強みである。しかし、サンプルの具体的な内容が少なく、ケース数も2つであるため、基礎的な探索的研究の域を脱しないところが欠点である。
ケース・スタディを評価するためには、「研究テーマ」、「研究目的」、「分析単位とサンプルの選択」、「データ収集」、の観点が重要である。


Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.
【要約】
 本稿は、「ISの組織における導入がなぜうまくいかないか」の理由をケース・スタディ法により分析したものである。
 先行研究では、「トップマネジメントのサポート」、「ユーザフレンドリーなシステムを作ること」などの知見が提供されているが本質的な解決になっていない。
Klingは、IS導入への抵抗要因として、合理主義的、構造的、人間関係的、相互作用的、組織政治的、階級政治的の6つの視点を提供している。本稿ではこの視点を整理し、抵抗要因として「People-Determined」、「System-Determined」、「Interaction Theory」の3仮説を立てた。People-Determinedとは、「ユーザは新しいものへの変化を拒む」などの人的要因による抵抗である。System-Determinedとは、「システムがユーザフレンドリーではないため拒む」などのシステム的要因による抵抗である。Interaction Theoryとは、「Sociotechnical」と「Political」に2分されるが、本稿で取り上げる「Political」とは、「IS導入により、新たな力を得る者は導入し、力を失う者は導入を拒む」などの、組織政治による抵抗である。
この3仮説の有効性を検証するために、Golden Triangle Corporation (GTC)におけるFinancial Information System (FIS) の導入をケース・スタディとして分析を行った。
このケースでは、社内のある部門はFISの内容を評価し導入、ある部門は内容を評価せず導入を拒否するということが発生した。同じシステムを使っているにもかかわらず部門間の格差であったため、People-Determined及びSystem-Determinedではその説明をすることはできない。
詳細な調査の結果、部門間の政治的な要因が背後にあることが明らかになった。FISを導入した本社会計担当は、このFIS導入により個別の事業部を含めた全社の会計情報をリアルタイムに得ることが可能になる。一方FISの導入を拒否した事業部会計担当は、このFIS導入により、全ての情報が本社会計担当に筒抜けになってしまう。
上記のケースに見られるような、部門間の政治的な力学の変化が、部門により導入の可否を分けた。以上の分析により、Interaction Theoryは、ISの導入における要因を説明するための理論として適切であることが証明された。
本稿にて得られたIS導入におけるInteraction Theoryの重要性は、様々な知見を提供する。システムそれ自体は、組織変革には貢献しない。IS導入におけるデザインと戦略は、システムを活用する組織に根ざしているのである。

【コメント】
 Benbasat論文は、論文の評価を具体的に行っているところが有益であった。Markus論文は、ケース・スタディ論文としては課題があるものの、モデルケースとして多くのことを学んだ。Markus論文をベースに、SIVコンテスト運営の「誘因と貢献のメカニズム」に関するケース・スタディ論文の執筆を進めていこうと考えている。
(牧 兼充)

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2005年05月12日

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods". Chapter3-6

<3章/データ収集の準備>
 ケーススタディの準備として1研究者の事前のスキル、2特定のケースのための訓練と準備、3ケーススタディプロコトルの開発(洗練)、4パイロットケースの実施の段階が挙げられる.ケーススタディに必要なスキルは以下の5つである:優れた問いと解釈、優れた聞き手であり、自分自身のイデオロギーや先入観にとらわれないこと、適応性と柔軟性、研究中の課題の把握、バイアスをかけないこと。研究者が質の高いケーススタディを実行できるよう準備するためには、集中的な訓練セッションが計画されるべきであると述べている。ケーススタディプロコトルは研究の信頼性を高め、正しいデータ収集のための戦術であり、調査における指針の役割を果たす。ケーススタディ研究の全体像、実地における調査手順、調査問題、論文作成のガイドなどが含まれる.特にリサーチが複数ケーススタディ設計に基づく場合やそれに複数の研究者が参加する場合には、こうした手続きが必要となる.
<4章/証拠の収集>
 ケーススタディの証拠としては以下の6つが挙がる:文献、公的記録、インタビュー、直接的観察、参与観察、物理的なもの、6つの源泉が挙げられる。それぞれにスキルと方法論が存在するが、これらのデータを収集する上での原則は以下の三つが挙がる:複数の根拠を用いること(三角測量的手法)、ケーススタディのデータベースの作成、それぞれの根拠の間に関連性の連鎖を設けること。以上がケース・スタディの構成概念妥当性と信頼性の担保となる。
<5章/ケーススタディの証拠の分析>
 ケーススタディのデータ分析においては分析戦略をもつことが重要である。戦略として大きな枠組みはケーススタディによって明らかにしようとする理論的命題に依拠すること、対抗解釈の論理的妥当性の検証、体系化するための記述的枠組みを開発すること、の3つである。また、これらの戦略は、次の5つの主要な分析技法を用いるべきだとしている:パターン適合、説明構築、時系列分析、論理モデル、ケース間統合(複数ケースの場合)。ただし、すべての証拠に依拠していること、すべての対抗解釈を吟味すること、最も意味ある側面に注目すること、専門的知識を生かすこと、に前提として留意することが必要となる.
<6章/ケーススタディーリポートの作成>
 リポートの作成においてはオーディエンスを意識し、記述形式や構造を選択する必要がある.作成構造としては線形分析構造、比較構造、年代記構造、理論構築構造、「サスペンス」構造、非連続構造の6つが挙げられる.加えてリポート作成の留意点としては、初期の段階から作成すること、必要に応じて実名での記述を考慮すること、レビューによる妥当化を検討することなどが挙げられている.模範的なk−巣スタディーとなるのは重要、完全、代替的な視点の提示、十分な証拠、魅力といった条件を満たすものである.

■コメント
 ケーススタディーという多様になりがちなものを類型化、一般化して再現可能にすることで、クオリティーを保とうとする姿勢が読み取れた.実際には扱う事象によって、一般化が難しいのではないかと想像される部分もあるが、述べられている方法を念頭に置くことは非常に有用だと感じた.
(小池由理)

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Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994.

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994.
(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.)
              
ケース・スタディのデータ収集は、①ケース・スタディ研究者の望ましいスキル(問題を問うこと、傾聴、適応性と柔軟性、研究中の課題の把握、バイアスのないこと)、②特定のケース・スタディのための訓練(セミナー体験としてのケース・スタディの訓練、プロトコル開発とレビュー、取り組むべき問題)、③研究用のプロトコルの開発(プロトコルはケース・スタディ・リサーチの信頼性を高めるための主要な戦術であり、その目的は研究者がケース・スタディを実施するさいの指針を与えることである)、④パイロット・ケース・スタディの実施(パイロット・ケース・スタディはデータの内容と従うべき手続きの両方で、研究者がデータ収集プランを洗練するのに役立つ。)などの準備からはじまる。
ケース・スタディのデータ収集は一般的に次のような6つ(文書,資料記録, 面接、直接観察、参与観察、物理的人工物)の情報源を利用することができる。データ収集には複数の証拠源の利用、ケース・スタディ・データベースの作成、証拠の連鎖の維持などの原則があって、これによってケース・スタディの信頼性を高められる。この原則は6つの源泉すべてに関連していて、適切に利用すれば、ケース・スタディの構成概念妥当性と信頼性が確立しやすい。

ケース・スタディの証拠の分析の準備は一般的な分析戦略を用意しておくことである。一般的分析戦略としては①理論命題に依拠すること、②ケースの記述の開発などがある。一般戦略とともに用いるべき特定の分析技法(パターン適合、説明構築、寺系例分析、プログラム理論モデル)を用いることでケース・スタディの質を高められる。パターン適合は経験に基づくパターンを予測されたパターンと比較すること、説明構築は特殊なタイプのパターン適合でケースに関する説明を構築することによってケース・スタディ・データを分析することである。また、ケース・スタディに関連する場合、扱うべき特定の時間間隔とともに経時的に追跡すべき特定の指標を識別する寺系例分析。 パターン適合と時系列分析との組み合わせで、独立変数と従属変数をあつかって、複雑な事象の連鎖を経時的に規定するプログラム理論モデル。それ以外にも主要でない分析法としては部分的分析単位の分析、反復観察、ケース・サーベイ・アプローチなどがある。
質の高い分析をするためには①すべての関連する証拠に依拠していることを示すべき、②すべての主要な対立解釈を含めるべき、③ケース・スタディの最も重要な側面に取り組むべき、④ケース・スタディに自分自身の先験的な専門知識を持ち込むべきであることがあげられる。

ケース・スタディ・「リポート」の作成においてはリポートの特定のオーディエンスを識別することがリポートを設計するさいやるべくことである。作成のときにはケース・スタディのリポートは必ずしも書面である必要はない。適した効果的な様式選ぶことはケース・スタディのオーディエンスの識別という選択と相互に作用するのである。ケース・スタディ作成の例示的構造には線形分析構造、比較構造、年代記構造、理論構築構造、サスペンス構造、非連続構造などがある
ケース・スタディ・リポートの手続きとしては①文献目録、方法論の節、研究中のケースに関する記述データなどの分析過程の初期に作成を始めること、②ケースの身元を実名にするか、匿名にするかの問題を決める。匿名はケースに関する重要な背景情報を排除するだけでなく、ケース作成の記述を難しくしてしまう恐れがある、③ケース・スタディの草稿をケースの情報提供者や関係者にレビューしてもらってリポートの妥当化を高められる。ケース・スタディにおいて模範的ケース・スタディというのは、本書全体ですでに明らかにした方法論的手続きを超えるものであると示されている。

<コメント>
ケース・スタディの証拠を効果的に提示できるために、また、効果的な伝達のためにはデータの収集、分析、記述にいたるまでそのケース・スタディの特定のオーディエンスのニーズを識別することがケース・スタディの最初の段階ではないかと思います。これからの自分の研究にも参考になると思います。
M2 池 銀貞(2005.05.11)

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Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002.

■要約
○第3章(データ収集の準備)
 データの収集におけるスキルを持つため、訓練と準備、プロトコルの開発、パイロットケース・スタディの開発が必要である。必要なスキルは実験やサーベイに比べて多く、1)問題を問う、2)傾聴(文書を含む大量情報をバイアスなく吸収)、3)適応性と柔軟性、4)研究中の課題の把握、5)バイアスのないことなどが求められる。訓練と準備には1週間分の準備と議論を伴うセミナーが必要なほどで、ケース・スタディプロトコル(概略、フィールド手続き、ケース・スタディ問題、リポートの指針)の開発は、研究者に指針を与える。特に、ケース・スタディ問題で探求の構造をなすものを明らかにすること、リポートの指針はプロトコルの一部として提示することに留意。パイロットケース・スタディにより試行的に様々なアプローチが可能。

○第4章(証拠の収集)
 ケース・スタディには6つの証拠源(文書、資料記録、面接、直接観察、参与観察、物理的人工物)がある。各証拠源は相互補完的で、できるだけ多くの証拠源を利用することが望ましい。最も重要な情報源は面接で、面接データを他の情報で立証することが合理的である。
 これら証拠源を適切に利用し、構成概念妥当性と信頼性を高める3つの原則として、1)複数の証拠源を利用し(トライアンギュレーション)、データを収斂(convergence of evidence)すること、2)データベースの作成により、データあるいは証拠の基礎と研究者のレポートを別々に収集すること、3)証拠の連鎖の維持(方法論的手続きとその結果明らかになった証拠をはっきりと相互参照すること)がある。

○第5章(ケース・スタディの証拠の分析)
 ケース・スタディは3つの一般的な分析戦略を持つ。最も望ましいのは理論命題への依拠(Relying on theoretical propositions)、次いで対立解釈を考えること(thinking about rival explanations)、記述的枠組み開発があり、研究者は1つを選択する。戦略の一部をなす主要な分析手法は5つある。1)パターン適合は、妥当性に対するすべての合理的脅威を識別、繰り返し比較を行うことで、こうした脅威が仮説ケース双方の2つのパターンを説明できないことを示す。2)説明構築は因果的結びつきの集合を明らかにすることで、叙述ではなく、理論的に重要な命題を反映させるべき。3)時系列分析はどのように、なぜの問題を経時的に検討する。4)プログラム論理モデルは、近年、特にケース・スタディの評価を行う際に用いられることが多く、独立変数と従属変数の因果パターンを検証する。複数ケースでは5)複数ケースの統合も行われる。

○第6章(リポートの作成)
 リポートの形式はオーディエンスの好みによって決める。リポートは必ずしも書面である必要はなく、最も適した効果的な発表形式であれば、斬新な形態も追求すべき。リポートの作成は分析過程の初期段階で開始する、ケースと個人は(制約がなければ)実名とする、ケースの情報提供者や関係者にもレビューしてもらうなどの手続きも重要だ。またケース・スタディは代替的な視点(対立命題)を考慮すべきである。リポートは魅力的に作成することが求められる。

■コメント
 ケース・スタディの実施に焦点を当てた3-6章では、研究の設計段階で、分析の方法論を明確にすることの重要性を痛感した。準備段階ではリポートの指針を含むプロトコルの開発、データ収集段階では分析の方針(3原則)を常に認識しつつ、6つの証拠源のどれを用いるかを決定していくこと、分析段階では分析戦略の決定(理論命題への依拠がベスト)と、分析技法の選択を行うことなどが詳述されたが、これらの方法論は、調査設計段階である程度見通しをたてておくべきだろう。またリポートは分析の初期段階で作成に着手することが重要とされていることも強く印象に残った。第2に、全体のステップを通じ、対立命題を考慮することの重要性が指摘されている。早急に、対立命題を意識しつつ、ケーススタディの方法論を明確化したい。                                (2005年5月12日 高橋明子)

(追記)第2版と第3版の差分については、第3版の内容を優先したため、タイトルは第3版を用いました。

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Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.) 3-6章

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.) 3-6章
第三章 実施:データ収集のための準備
(1)ケーススタディ研究者に望ましいスキルをもつことから始まる。
活動が定式化された他のリサーチ戦略(実験室実験、サーベイ)に比べ、質の高いケーススタディを行うためには高度なスキルが必要である。一般論としてあげるなら、
①データ収集「中」にも問題探求すること ②調査対象の文脈や行間を理解すること
③リサーチ再設計時に元のバイアスを修正する適応し柔軟であること
④重要な証拠を探し、不足箇所を把握する能力 ⑤方向付けにバイアスが生じないこと
(2)リサーチ設計段階に参加していない研究者を頼る際は、高度に訓練する必要がある。
(3)ケーススタディ・プロトコルの開発・洗練し、リサーチの信頼性を高める必要がある
(4)便利な「実験室」にあたるような、試行的なアプローチ(パイロット・ケーススタディ)を行える環境を整え、最終的なデータ収集プランに役立つ手続を開発することである。

第四章 実施:証拠の収集に関する注意事項と収集過程に重要な3つの原則
証拠源は文書、資料記録、面接(自由回答及び焦点)、直接観察、参与観察(自身も役割を負う)、物理的人工物(コンピューターのログなど)の主要な6つなものがある。それぞれ弱みと強みを把握し、相互補完的な関係にあるため、すべて習得し精通するべきである。
 また、以下の3つの原則に従えば、これらの6つの証拠源を最大に有効利用できる。
(1)複数の証拠源を利用すること。多くの費用がかかり、高度に把握する必要ではあるが、データを三角測量法的に単一の事実の立証に収斂させることが重要である。
(2)収集されたデータをデータベース化し、保管と検索を容易にし、公式に提供可能とすること。二次利用を促進すると同時に、自身の研究の信頼性を高めることができる。
(3)収集過程の証拠とリポートで示される証拠に、厳密な証拠の連鎖を維持すること。

第五章 ケース・スタディの証拠の一般的な2つの分析戦略と分析技法
 ケーススタディ全体を体系化するために、(1)理論命題があるときは、理論命題に依拠し、データの集中・排除に指針を与える。(2)ないときは記述枠組みを開発する。これにより、分析技法、補完的な分析技法をを選択するのである。
なお、分析にあたり(1)すべての関連する証拠に依拠し、(2)すべての主要な対立解釈を含め、(3)ケース・スタディのもっとも重要な側面に取り組み、(4)自分自身の先験的な専門知識を持ち込む、という4つの原則を考慮し、質の高いものを要求せねばならない。

第六章 ケース・スタディ・「リポート」の作成
オーディエンスの好みを推測して形式を決める必要があろう。また、ケーススタディの目的の「説明・記述・探索」に対して6つの作成構造:実験科学的な「線形分析構造」、反復例示的な「比較構造」、年代順に表す「年代記構造」、何らかの論理に従う「理論構築構造」、結果を先に示す「サスペンス構造」、順序に重要性のない「非連続構造」;がある。なお、模範的なケーススタディの5つの特徴は、「重要であり」「完全であり」「代替的な視点を考慮しており」「十分な証拠が示され」「魅力的」なことであろう。

<コメント> (政策・メディアM1 脇谷康宏)
ケーススタディの「不確実」なイメージが払拭できたわけではないが、方法を端から疑う前に自身の調査方法を深く精査する必要があることは感じさせられた。難しさを知ったことで、個人的に心配なのは設計段階にこだわりすぎ、調査段階に手を出す時機を逸することに気をつけたい。失敗を恐れぬ度胸も、ケーススタディの方法の1つであろう…?

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2005年05月08日

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.,"Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.)第3章-第6章

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.,"
Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.)
第3章-第6章
(牧 兼充)

要約

ケース・スタディ研究者は、「問題を問うこと」、「傾聴」、「適応性と柔軟性」、「研究中の課題の把握」、「バイアスのないこと」などのスキルが要求される。実施にあたっては、「プロジェクトの概略」、「フィールド手続き」、「ケース・スタディ問題」、「ケース・スタディ・レポートの指針」などのケース・スタディ・プロトコルの開発が重要であり、これにより研究の信頼性を高める。またパイロット・ケース・スタディは、データの内容と従うべき手続きの両面からリサーチ・プランの洗練に役立つ。
データ収集にあたっては、「文書」、「資料記録」、「面接」、「直接観察」、「参与観察」、「物理的人工物」の6つの情報源があり、適切な情報源を選択が必要である。データ収集にあたっては3原則の考慮が必要となる。原則1は「複数の証拠源の利用」であり、具体的には「データ源」、「異なった評価者間」、「同じデータ群に関する視点」、「方法」について三角測量的手法を用いることにより、構成概念妥当性が高まる。原則2は、「ケース・スタディデータベースの作成」であり、データあるいは証拠の基礎、論文、報告書、あるいは本の形をとった研究者のリポートをまとめることにより、研究の信頼性が高まる。原則3は、「証拠の連鎖の維持」であり、個別の証拠が理論的につながっていることが重要である。
 分析にあたっては、大きく分けて「理論命題への依拠」と「ケースの記述の開発」の2つの戦略がある。主要な分析法としては、「パターン適合」、「説明構築」、「時系列分析」、「プログラム論理モデル」があり、その他の分析法である「部分的分析単位の分析」、「反復観察の実施」、「ケース・サーベイの実施:ケース間の2次分析」と組み合わせることができる。分析にあたっては、1)すべての関連する証拠に依拠していることを示すべき、2)すべての主要な対立解釈を含めるべき、3)ケース・スタディのもっとも重要な側面に取り組むべき、4)自分自身の先験的な専門知識を持ち込むべき、などの考慮すべき点がある。
レポート作成にあたっては、オーディエンスを意識し、ニーズへの方向付けを行うことが重要である。リポートは、オーディエンスとのコミュニケーション手段であり、書面リポートと非書面リポートがある。例示的構造としては、「線形分析」、「比較」、「年代記」、「理論構築」、「サスペンス」、「非連続」があり、それぞれ説明型、記述型、探索型などの研究目的によって使い分ける必要がある。リポート作成にあたっては、1)極めて初期の段階から開始すべき、2)必要に応じて身元は実名を使い分けるべき、3)草稿のレビューにより妥当化すべき、などの考慮点がある。模範的なケース・スタディとは、「重要」、「完全」、「代替的な視点の提供」、「十分な証拠」、「魅力的」の諸条件を満たすものである。


コメント

 本書は、ケース・スタディ法を研究手法として活用するにあたっての、具体的留意点がまとまっており有益である。しかし実際には、本書を読んだだけで、方法論の理解は困難であり、今後以下を行う必要を感じる。 1)本書に従ったケース・スタディ法に基づいた論文の執筆。 2)具体的な論文を参照したモデルと実体のマッピング。 3)研究の設計テストである「構成概念妥当性」、「内的妥当性」、「外的妥当性」、「信頼性」の4項目に基づいた個別論文の評価。

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