« 2005年05月 | メイン | 2005年07月 »

2005年06月30日

新しいシステムアプローチ

 世界は一定の規則性と連続性により秩序を保っているが、複雑性が一定レベル以上になると創発的性質が生じ、部分の集合では説明がつかなくなる。システム研究はは科学による手法の限界を動機として生じた新しいパラダイムであり、主題として“組織化された複雑性”と表現され、全体性に加え、その性質である階層構造に言及する。一方でが、経験的に得た発見に合理性を与えようとする科学的土台に則っている。
システムは以下の4つに分類できる:自然システム、人工的物理システム、人工的抽象システム、人間活動システム。システム適性質の学習対象となる自然システム、利用の対象となる人工的システムに対し、常に設計、修正、改善(つまり工学)を望む人間活動システムの概念は、意味が固定されないことにおいてかなり特殊である。人間行為者の知覚の結果であるため、意味づけは自由であり、可能な解釈の集合で、単一ではあり得ない。
現実世界問題の状況をシステムアプローチで解決しようと試みたとき、システム思考の原点である複雑ではあるが制御可能な機器を設計し実現するという問題をとく技術的システムからひじまった。システム工学(分析)は意思決定者が代替案の選択を論理的に行うための道具で、問題は、機知の目的を実現するために代替手段間の選択を行う問題として定式化できるという仮定のもとに現実社会を定式化できる信念に立脚しているが、社会システムへのこの手法の転用は成功しなかった。人間活動システムは可変性があり、構造化されておらず目的設定自体が問題であり、目的が存在しないためハードシステム思考自体が適用できない。
 研究の蓄積による方法論の提唱と修正により、普遍的な人間活動システムの概念自体の性質についての説明が蓄積された。その手法は端的に示せば問題がおかれている状況を “構造”概念と“過程”概念、双方の関係により“表現”し、改善の“関連システム”の候補の集合から関連システムをあるシステムの“根底定義”として表現し、対応した人間活動システムのモデルが作り、現実世界の問題状況で比較し、行為者との論争によって優位性を決定するというものである。
 数多くの方法論の実践からシステムの普遍的な性質として(1)根底定義の定式化にCATWOE(システム需要者、システム行為者、システムの変換過程、システムに意味づけを与える世界観、システムの生殺権を持つ所有者、システムの環境上の制約)の考察要因が必要(2)根底定義により組織体の“基本課業”、問題の表現が可能(3)システム思考の首尾一貫性には分析レベルの明確化(WhatとHowの明確な区別)が必要(4)社会システムは役割の集合、役割を判断するための価値観の集合の二種で成立し“構造”要素、“過程”要素の中身がわかる(5)方法論として、奉仕のモデルの対象者のモデルが必要、動詞は行為者が直接実行できるものに限る(6) “問題解決システム”(=問題解決者であろうとする人の役割を含む)と“問題内容システム”(=問題所有者)という二つのシステムを含むシステムを操作するものとしてモデル化
 ソフトシステム方法論はつまり学習システムであり、行為決定に至るが、この決定は問題が解決されるのではなく、行為により状況に変化が生じ新たな学習が始まることを示す。人間活動に意味づけを行い、それが有意味であるかは世界をどう見るか(世界観)によるという人間活動システムの性質から直接出てくる結果であり、定義のはっきりしない問題の取り組みの方法論として有効である。
■コメント
認知科学によってソフトなシステムとハードなシステムをわける新しい視点を得た。モデルを実践と行為者の主観によって検証することに関して興味ぶかかった。(小池由理)

投稿者 koyuri : 09:46 | トラックバック

2005年06月29日

Glaser, Barney G. and Anselm L. Strauss, "The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research," Aldine Publishing Company, 1967. (邦訳: 後藤隆・大手春江・水野節夫、『データ対話型理論の発見-調査からいかに理論をうみだすか-』、新曜社、1996年

Glaser, Barney G. and Anselm L. Strauss, "The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research," Aldine Publishing Company, 1967. (邦訳: 後藤隆・大手春江・水野節夫、『データ対話型理論の発見-調査からいかに理論をうみだすか-』、新曜社、1996年

【要約】
社会科学的方法に関する研究の多くは、どのようにして正確な事実を手に入れられるか、そしてどうしたら理論(Ground Theory)がより厳密にテストできるかに関心がよせられてきた。それに対して本書では、社会調査において体系的に獲得され分析されたデータからの理論の発見をどのように進めることができるかに取り組む。このデータとの相互作用により創出する理論を「データ対話型理論」(Grounded Theory)と呼ぶ。データ対話型理論は、現実によく合い使える理論であること、つまり研究対象を説明・解釈・予測できるということを理論としての判断基準におく。
 第2章では、比較分析を利用する目的について、理論の検証と産出等を比較し論じる。データ対話型理論は、現実の特定領域あるいは経験的な領域に密着される形で展開させる領域密着理論と、より抽象度を高め他の領域にも応用可能な一般性を備えたフォーマル理論に分類される。フォーマル理論は、抽象度の高さでいえば、論理演繹的に導き出された誇大理論と類似しているが、具体的な現象を説明できる領域密着理論を積み上げて構築していく点で大きく異なる。
第3章では、理論を生み出すように設計された比較分析のためのデータ収集プロセスである理論的サンプリングについて論じる。形式的には、理論産出という観点からみて適合的な標本抽出を行うことをさす。より具体的には、研究対象となる現象に関わるデータの断片との対話を続ける中から現象把握に必要とされるカテゴリーとその諸特性を発見し、それらの相互関係を仮説として提示し理論を作りあげていくものである。データの断片とは、あるカテゴリーに関連するさまざまな種類のデータをさす。カテゴリーとは、考察の対象となる現象を概念レベルで把握するために現象もしくはその一部に名前をつけたものを指す。特性とは、カテゴリーを構成する概念的諸要素をさし、あるカテゴリーが指し示す内容をその強度や頻度あるいは特定の性質などといったレベルで説明するもの。仮説とは、カテゴリー間やその下位要素である諸特性を関連づけたものをいう。
第5章では、質的データの比較分析のための方法である絶えざる比較法を提示する。これはデータ対話型理論の中心的な方法とされており、各カテゴリーに適用可能なできごとの比較、カテゴリーとその諸特性の統合、理論の限界設定、理論の定式化の四段階からなる。理論的飽和(あるカテゴリーに関連するデータにいろいろあたってみても、そのカテゴリーの諸特性をそれ以上発展させることができない状態)を目指して、対象・集団・できごと・カテゴリー・諸特性を対象に絶えず比較を繰り返す。明示的なコード化と分析手続きを用いることによって、理論産出を体系的に行う。
その他、第4章では領域密着理論からフォーマル理論への移行について取り上げ、第6章では、従来のいくつかの比較研究について具体的な事例に基づいた評価を行う。
 第二部「データの柔軟な利用」では、質的データ(第7章)と量的データ(第8章)からの理論算出について詳細に考察する。第三部「データ対話型理論の含意」では、データ対話理論の信頼性(第9章)やその実践的含意(第10章)を考察し、最後に、洞察、理論発展とリアリティ(第11章)について論じる。

【コメント】
私の博士論文では、前半はインキュベーションを「技術決定論と社会構築主義」というGround Theoryに基づいた演繹的な検証を行い、後半ではGrounded Theoryに基づいた理論の産出を行う。インキュベーション・プラットフォームにおける「誘因と貢献のメカニズム」には、グローバル性とローカル性があることが仮説として考えられるが、厳密な検証は不可能である。このような分野の研究手法としてGrounded Theoryは適していると感じた。 (牧 兼充)

投稿者 student : 21:26 | トラックバック

2005年06月23日

Brooks, Frederick P. Jr., “The Mythical man-month: essays on software engineering Anniversary Edition,“ Addison-Wesley Publishing Company, Inc., 1995.(邦訳:滝沢徹・牧野祐子・富澤昇、『人月の神話--狼人間を撃つ銀の弾はない』、アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン、1996年.)

Brooks, Frederick P. Jr., “The Mythical man-month: essays on software engineering Anniversary Edition,“ Addison-Wesley Publishing Company, Inc., 1995.(邦訳:滝沢徹・牧野祐子・富澤昇、『人月の神話--狼人間を撃つ銀の弾はない』、アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン、1996年.)
 全体を通してのブルックスの主張は,本書の副題である「狼人間を撃つ銀の弾はない」ことである。すなわちソフトウェア開発には特効薬ともいうべき、決定的な解決手法は存在しないことを指摘している。
 第一に、「人数を増やせば納期を早くできる」、すなわち進捗(月)を労力(人)で代替できるという神話を適用することの誤りを指摘している。人月表示では計算上、“3人×8カ月”も“6人×4カ月”も同じ「24人月」となるが、ソフトウェア開発の作業は要員間のコミュニケーションの比重が大きく、人員追加はメンバー間意思疎通の効率を低下させるため、必ずしも納期短縮につながらないとする。むしろ、遅延しているプロジェクトへの増員は更なる遅延を招くというブルックスの法則を提示している。
 第二に、「コンセプトが統合されているシステムはより早く開発されテストできる」ことを指摘している。コンセプトの完全性を実現するためには、1人または互いに意見が共鳴している極少数の頭脳からプログラミングデザインが考え出される必要があるとしている。具体的な解決法として、①アーキテクチャの労力とインプリメンテーションから切り離すこと、②チーフプログラマーを擁する外科手術チーム編成が柔軟な組織を作るということであり、総生産性の向上が得られることを指摘している。
 大規模プロジェクトに関しては、少数精鋭では遅くなるために人手が必要であり、コミュニケーションとそこから生成される組織が必要であると述べている。コミュニケーションの方法には公式(ミーティング)、非公式(電話)、文書(手引書)を挙げている。組織の目的は、「コミュニケーションを不要にするための作業の分割と機能の専門化を具体化したものである。」としている。またリーダーシップとして、各サブプロジェクトには、製作主任(マネージャ-)の役割と技術主任(アーキテクト)の役割が必要と述べている。
 また、開発というと、ウォータフォール型として,ライフサイクルのフェーズごとに確認をして,1回のサイクルで開発するものだとされるが、ソフトウェア開発は異なることを指摘している。プログラミングは、利用者のニーズに応えるものであり、実際の使用によりテストされ、要求によって変化に応える必要がある。そのため、変化に備えてシステムをデザインし、組織を構成する必要を挙げている。当初は「一つは捨石」と述べていたが、後にこの表現を変更し、上流に向かう動きが重要だと指摘している。
 ソフトウェア構築を、本質(エッセンス)-複雑な概念構造体あるいはソフトウェアの実体-と、偶有的(副次的、アクシデント)-抽象的実在をプログラミング言語で表現すること-に分けることがすべての出発点であると述べている。ソフトウェア構築の困難は前者にあるとし、これこそが他の創造的な仕事と大きく違う所以であり、「銀の弾」がない理由だと論じている。自分自身を変えたり、他の物と容易に結びつくことができ、また、外界を変化させられる「現代の魔法」は、ソフトウェア開発に伴う困難が常についてまわるということになるとしている。

【コメント】(修士1年 脇谷康宏)
製作と技術の主任の重要性は経験上感得できます。では、2人1組のリーダーシップが望ましいというソフトウェア開発に、「三人寄れば文殊の知恵」の日本的思考はどう対応するかが要検討課題だとも感じました。全体として、やはり知的財産の創出の何たるかというように読みましたが、ソフトウェアに変化と困難が不可避の特質であるということは、変化性のある知的財産の創出は永遠に「面白い」場とも言えるとは思いましたが。そのためには、ランドマークの徹底やデザインの文書化、組織化など、自身への課題が山積みです。

投稿者 student : 09:48 | トラックバック

オープン・アーキテクチャ戦略

 國領二郎、『オープン・アーキテクチャ戦略』、ダイヤモンド社、1999年.

システムに無駄がないということは、そのシステムを構成する各部位の相互依存性が高いということであり、統合度が高まることを意味する。 1980年代に日本の製造業は統合度の高い製品を統合度の高い組織でつくってきた。 これは日本の製造業の全体として、モジュール化を否定することで発展してきたと言える。 モジュール化は、企業が得意領域に経営資源を集中し、それ以外については大胆な提携によって他社資源を活用する、オープン型経営を採用することと密接に関係している。 具体的にはアウトソーシングやパッケージソフトの導入、事業部門の売却や合併などである。 情報技術が急激に発展しつつある今日の情報技術は分散的な協同を強力に支援する。 ネットワーク上では次の3つの要因が相互作用し合って多様な主体が発信する情報を結合させることで価値がうまれる経済が形成している。 ①機械系システムと人間系システムの処理能力向上のアンバランス(情報過多)、②ネットワークの普及による情報の不対称性の構造変化、③情報と媒体のアンバンドルによる情報の非物財的特性の表面化である。情報システムのモジュール構造は資源利用の無駄を許容しながら、独立した組織は分散的な開発を行うことによって生じる創造性の増大できる。
オープン・アーキテクチャ戦略は本来複雑な機能を持つ製品やビジネスプロセスを、ある設計思想(アーキテクチャ)に基づいて独立性の高い単位(モジュール)に分解し、モジュール間を社会的に共有されたオープンなインターフェースでつなぐことによって汎用性を持たせ、多様な主体が発信する情報を結合させて価値の増大を図る企業戦略のことである。 オープン・アーキテクチャ戦略はネットワークの特性を最大限に活用し、その価値を最大化することができる。 オープン・アーキテクチャ戦略という視点をもつ多くのビジネスのモデルからは特にSCM(Supply Chain Management:供給連鎖管理)とCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性管理)に関連しているテーマをあげながら多様な主体の情報結合に必須のフラットフォームを提供するビジネスについて議論している。 本書では、情報産業における水平展開型ビジネスモデルと顧客参加型ビジネスモデルをあげている。 水平展開型ビジネスモデルは得意領域に経営資源を集中投入しつつ、足りない機能についてはそれを最も得意としている企業に補完してもらうことである。 それは、多様な主体がもつ情報を結合させ、価値の増大を図るメカニズムである。水平展開型モデルへの展開を思考する場合に重要なのが、インターフェースのオープン化である。 自社システムのインターフェースを世の中のデファクト・スタンダードとしていくのが有効である。 オープン・アーキテクチャ戦略の一形態になりえる。 一方、顧客参加型モデルは顧客が手にする情報の量や質の変化により、かつて販売者と顧客の間に情報の非対称性が逆転しつつある。 顧客間のインタラクションおよび電子市場の新たな関係性を通じて顧客は新たな価値を生産している。単なる消費者であった顧客を積極的な価値の生産者にしていく。 様々な企業や個人の情報を結合させることは簡単にできるのではない。 それをビジネス化したのがフラットフォームビジネスである。 フラットフォームビジネスは①取引の探索、②信用(情報)の提供、③経済価値評価、④標準取引手順、⑤物流など諸機能の統合の5つの機能を提供する。以上のようなオープン・アーキテクチャ戦略は分散・自律的なシステムを構築が可能になり、社会において協同モデルを提示する。
<コメント>
オープン・アーキテクチャ戦略は組織・社会において自律・分散的なシステムを可能にすることができると思う。それによって、企業及び組織間においてはその関係性がます重要になってくるのではないかと思う。つまり、各々の自律・分散的な有機体(企業・組織・社会)が他の有機体(企業・組織・社会)との協同的な関係を有効に構築するためには「関係性」を明確にする必要があると思う。関係性の理解は各有機体の間とのコミュニケーションとそのツールの理解は同じことであろう。                                          <池 銀貞>

投稿者 student : 07:58 | トラックバック

Frederick P.Brooks,Jr. The Mythical Man-Month ESSAYS ON SOFTWARE ENGINEERING (1995)(邦題:人月の神話 オオカミ人間を撃つ銀の弾はない 新装版』、ピアソン・エデュケーション、2002年).

■概要
本書は、IBMのOS/360開発のマネージャを努めた筆者が、大規模コンピュータプログラム開発について分析したものである。1975年の初版(中心論文:「人月の神話」)発行から20年後に、「銀の弾などない」(86年)等を再録したうえで記念贈訂版が刊行されていることからも明らかなように、現在にも通ずる指摘が多く、筆者はその理由のひとつを「どのように人がチームで物を作るか」を扱っているからとする。
ソフトウェアプロジェクトで「人」と「月」が相互に交換可能と考えるのは危険な神話であり、時間(月)を短縮しようと、プロジェクトに要員(人)を追加することは、再配分作業とそのための中断、新しい要員の訓練、新たな相互コミュニケーションにより全体の労力を増大させ、かえって完成時期(月)を遅らせる。人は少数精鋭チームが望ましく、大規模システムを構築するためには、外科手術チームのように1-2名の執刀医と副執刀医が全デザイン及び全コードを理解し、仕事のコンセプトを統合することが重要である。システムデザインで最も重要なのはコンセプトの完全性だ。そのためアーキテクチャデザインは一人またはごく少数の頭脳から考え出されなければならない。アーキテクチャを、インプリメンテーション、実現から分離することが必要で、これらは同時並行で進めることが可能だ。アーキテクチャに一貫性を持たせるため、仕様書は一人か二人でとりまとめ、定義に形式的表記を使用する。電話やミーティング、プロジェクト手引書(目的、外部仕様書、インターフェース仕様書、技術標準、内部仕様書)等でコミュニケーションを図ること、及び必要となるコミュニケーションと調整作業の量を減らすために組織が必要であり、組織のリーダーとしてはマネージャー(製作主任)とアーキテクト(技術主任)の2種が必要だ。インプリ・実行過程では、捨石覚悟のパイロットプログラムの必要性を認識したうえで、高水準言語と自己文書技法を使って、変更により誘発されるエラーを抑制すること、変化に備えた組織計画も必要だ。マネージャは、コンピュータ設備、高水準言語(生産性とデバッグのスピードをあげる)と対話型プログラミング等を用意する。バグ回避のためにも、システム構築をアーキテクチャとインプリメンテーション及び実行に分けて考えること、これをトップダウン方式で進めること、構造化プログラミング(個別の分岐文ではなく制御構造全体として考えようとすること)も有効だ。システムデバックは困難であるがゆえに系統だったアプローチをとること、また大規模プロジェクトをコントロールするため、スケジュールそのものを用意することが重要だ。
ソフトウエア構築には、概念構造体を作り上げる本質的作業と、それを機械言語に写像する付随(偶有)作業がある。困難なのは、ソフトウエアが複雑で、人間が作り出した他の人工物に同調しなくてはならず、可変性を要求され、不可視であるという本質的特徴を持っている点だ。高水準言語等、偶有的困難を取り除く進歩はあるが、デザインの本質的複雑性を解決する銀の弾はない。問題は人間の問題であり、偉大なデザイナーを育成する方法を開発することだ。
1970年代のソフトウェア構築工程は、マイクロプロセッサ革命等の技術革新により、偶有的困難の多くが除去された。しかしソフトウェアシステムは、人間の作りだしたもののうちで最も複雑なものであり、ソフトウェアエンジニアリングに特有な問題は75年と変わらず、引き続き展開させていくことが必要だ。

■コメント
OS/360の時代にはモジュール化したパーツの統合(アーキテクチャ)は、 トップダウン、少数のアーキテクトにより、デザインルールとして(初期段階に)確立することが必要だった。自律分散のインターネット時代に、アーキテクトは今後もごく少数であるべきか。自身の研究分野で、地域住民を巻き込みながらたった1人の監督(アーキテクト)が映画を作成するケースと、プロデューサー(本書ではマネージャー、製作主任)が全体を統括しつつ、多数のアーキテクトが自由にTV番組を製作するケースがある。両者の長短を比較検討しながら、最終デザインを多数の参加者が担う、人工物設計のあり方を考えてみたい。    (2005年6月23日 高橋明子)

投稿者 student : 07:24 | トラックバック

Frederick P.Brooks,Jr. The Mythical Man-Month ESSAYS ON SOFTWARE ENGINEERING (1995)(邦題:人月の神話 オオカミ人間を撃つ銀の弾はない

 大規模ソフトウェアシステムの制作における労働力の単位として人月を用いるのは危険である。これはソフトウェアシステムにおける根本的要素であり固有の性質としての①複雑性、②同調性、③可変性、④不可視性に起因する。ソフトウェアはどの部分においても同一ではなく、その①複雑性は偶有的なものではない。さらに大規模プロジェクトにおける複雑性の非線形な増加によって、コミュニケーションコスト、スケジュールの予想の難しさ、コンセプトの非統一といった問題を誘発する。また周囲のニーズ、環境に合わせた開発が必要であり(②)ソフトウェアは機能の具現化そのものであり、純粋な思考の産物であることで融通性に富むため常に変化を迫られることとなる。(③)加えて構造を幾何学的に示すのが困難(④)であるため概念上のツールの作成が阻害されている。これはデザインプロセス、コミュニケーションの妨げとなる。
 これらの問題の解決方法(銀の弾)として外科手術チームのモデル等によるアーキテクトトインプリメーションの切り離し、マネジャーとアーキテクト二つのリーダーシップの必要性などが提唱されているがこれらはが改善するのは偶有的困難のみである。技術的な点ではこれまでの高水準言語、タイムシェアリング、統一プログラミング環境といった三段階の発展がみられる。加えて高水準言語の進歩、オブジェクト指向プログラミング、人工知能、環境とツールの整備などが研究されている。なかでもAIには二通りの定義①従来人間の知能によって解決されていた問題の解決の為のコンピュータの使用、②自己発見的なプログラム技法群の使用、のうち特に後者のエキスパートシステムはプログラム自体とアプリケーションの分離が可能であるという利点に期待を寄せている。開発においてコンピテンシーの抽出が必要であるため専門家の確保と行動指針の言語化が不可欠となるが、これによって経験と知識の共有が可能となる。さらに概念構造体の本質への有望な攻略としてはアウトソーシングによるカスタマイズ、要件の洗練と迅速プロトタイピング、(フィードバックサイクル)、漸増的開発、デザイナーの育成(単独での創造的プロセス)等が上げられている。しかし、ソフトウェアシステムは根本的要素によって開発における困難を解決する術はないように思われる。しかし単純化することで現象を説明する自然科学の手法は用いることができないが複雑な事物も何らかの秩序原則の影響を受けること、自然な写像は得られないまでも図式を思考とデザインの支援に使用することなど登場しそうにない解決策をまつのではなく生産性を向上させる改善を進めるべきである。
■ コメント
デザインルールに比べコンピュータの複雑性を悲観的に受け止めているように思う。文中にもあるように挙げられている手法は多様なプロジェクトにおいて有効なものもあった。プロトタイピングや漸増的開発などはボトムアップの要素もあるように感じられ、生物的進化との類似も感じられた。(小池由理)

投稿者 student : 02:01 | トラックバック

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール-モジュール化パワー-』、東洋経済新報社、 2004年.)

 変化を生み出すフォースは創造のプロセスに依拠する。二十世紀後半に生み出されたコンピュータはその複雑性において設計の進化や産業の発展を象徴するものとなる。複雑化は一人の人間では人工物が設計できず、理解できないという転換点を経る。パーツが相互に関係しながら集合以上のものを実現する複雑な人工物を設計するには知識と労力を振り分ける調整メカニズムが必要となる。
 人工物のデザインにおいて設計と設計プロセスは細部構造を持ち、小さな分析単位に分解することができる。設計パラメータと設計タスクは相互に影響し合う。パラメータ、タスクや人々からなる集合の要素間に存在する特定な関係パターンをモジュール化と定義すると、集合内の要素間の相互関係が入れ子状になった階層関係として理解できる。モジュール化オペレータには分離、交換、追加、削除、抽出、転用といった要素が定義され、モジュール型設計における複雑な変更の多くはこれらの組み合わせとして表現することができる
 設計者たちの可能性の開拓と投資家たちの出資のドライビングフォースは経済的価値の創造と獲得への欲求である。モジュール化オペレータがそれを達成する役割を果たすことで複雑な人工物の設計は計画がなくとも調和した形で進化してきた。筆者はモジュールか設計のことをして、モジュールかオペレータに埋め込まれている、有益なオプションを求める、多くの設計者たちによる、非集権的な探索、によって進化するものとしている。
 設計の改善によって生じる分配方法は、設計者と投資家を結ぶ契約の性質、設計プロセスに入る条件、特定製品のマーケットにおける予想される構造、マーケットに広がる共創パターンに依存する。これらの要素は設計における価値の変化に連動し線形でない変化を生じる。

■ コメント
モジュール化によって価値を生じる過程が定量的に示され、経済がどのように進化のフォースとなるのか、資本主義を違った角度からみることができた気がする。それぞれのオペレーターについて実際にどのようなところで使われているか興味深かった。(小池由理)

投稿者 student : 02:00 | トラックバック

2005年06月16日

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール—モジュール化パワー—』、東洋経済新報社、 2004年.)

■概要
本書は、コンピュータという過去半世紀に登場した人工物について、第2~8章でモジュール化とは何か、コンピュータ設計でどのように登場したか、後半第9~13章でモジュール化を用いて何が行えるかを説明する。
モジュール化の本質は入れ子状になった階層ブロックで、設計パラメータは設計のより小さなユニット(マグカップでいえば素材、高さ、ふたの有無など)、設計タスクとはパラメータを選択することである。設計構造行列(DSM)とは設計パラメータ間の階層的な関係性と相互依存性を示すマップで、タスク構造行列(TSM)は設計のタスクとタスク間の優先関係の見取り図である。設計プロセスのTSMは、対応するDSMの像で、基本的同形性を示す。典型的なタスク構造には独立ブロック型、厳格な順次型、階層的ブロック型、ハイブリッド型がある。
モジュール化は、モジュール内では相互依存、モジュール間では独立である。デザイン・ルールとは、他のパラメータの選択には影響するが、そのパラメータ自身は変更されることのない特権的パラメータで、設計プロセスの早い段階でデザイン・ルールを宣言することでパラメータの相互依存性を断ち切ることができる。パラメータには「可視情報」と「隠された情報」があり、複雑性の管理手法である抽出、設計中の相互作用する対立を解消する事前に定められた方法であるインターフェース等を用い、可視情報であるデザイン・ルールと、設計者が自由裁量で変更できる隠されたパラメータを扱うことがモジュール化のプロセスだ。
また、デザイン・ルールは経済的組織のレベルでも生じ、効率的・低コストで集団的事業体を形成・維持することを可能とする契約技術と、大小のグループを調整し方向を示す技術誘導がある。価値の引力は、これらに仲介され、設計と人工物の発展経路に影響を与える。モジュール型設計理論には6つのオペレータ(システムを変化させ、より複雑に成長させる経路またはルートを定義するもの)がある。これは分離、交換、追加、削除、抽出、転用である。これらの特徴はそれらが局所的に実行できることだ。
モジュール化によるコンピュータ設計は1944年にフォン・ノイマンが提唱し、61年にIBMシステム/360に結実し、コンピュータ産業史の転換点となった。IBMはレガシーシステムの制約に苦慮しながらもエミュレータ等のメインシステム以外のモジュール開発等を含め、システム/360を設計、製造、配送、販売する新たなタスク構造を生み出した。さらに、システム/360のタスク構造を契約構造で固める事業体の設計を行った。
モジュール化、即ち分離した単位が独立に機能するように分離することは、人工物の設計に固有の特質であり、モジュール型設計の進化プロセスは、1)6つのモジュール化オペレータにより、2)埋め込まれている有力なオプションを求める、3)多くの設計者たちによる、4)非集権的な探求である。6つのモジュール化オペレータを異なる組み合わせや連鎖で局所的に適用すると、多様で複雑な設計を生み出せる。

■コメント
コンピュータほどの複雑な人工物には、モジュール化したデザイン・ルールが求められる。モジュール化はシステムデザインのみならず、組織体や契約構造にも影響を及ぼす。「映像メディアを用いた協働の場の設計」も、各プロセス(企画、取材、編集)をモジュール化しつつも可視化できることが、有効に機能するひとつの要因なのではないか。
(2005年6月16日 高橋明子)

投稿者 student : 10:21 | トラックバック

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社, 2004)

 本書では経済システムの根本に変化を与える推進力(フォース)とは何かを理解し、変化が創造する“チャンスとリスク”を把握しようとしている。推進力はあくまで人の行いの結果である。すなわち設計という、特定の機能を発揮する「事物」すなわち人工物を創造するプロセスである。製品、テクノロジー、企業、マーケットの相互が絡みあいながら次第に進化した一つの複雑適応系とも言うべき産業の変遷によってもたらされる。20世紀後半の半世紀に出現し、驚異的発展を遂げ、高度に複雑な人工物であるコンピュータを理解し、この物語を説明しうる、設計の進化と産業の発展の進化理論の構築しようとしている。
 コンピューター関連産業は70年代と80年代の間に、IBMが支配する高度に集中された産業から細分化され、非統合型で独立した企業からなるモジュール・クラスターに変化した。複雑な人工物の異なる部品(モジュール)毎にエンジニアリング・デザインすることで、相互に分離された専門集団によって設計することができる。モジュール化の本質は、重要な意思決定を先に延ばし、後になって改定する「選択肢」を設計者たちに与えることとなる。その中で、先延ばしにできない、初期時点においていくつか行わなければならない厳格な意思決定が「デザイン・ルール」となる。モジュール型システムの特長はある設定の中で最高の価値となる構成を得るために、その構成要素を組み合わせられることであり、上手に構築されれば、多数の異なるパーツに調和をもたらすのである。
 2章では、マグカップやラップトップコンピュータを例に「構造」と「機能」の面から設計の作業を捉え直している。加えて、設計者の抱く「価値」の変化が、変更のための労力より高いのであれば、設計者は新しい設計を試すことになることを指摘している。4章では、「価値」の推進力が設計者の頭の中で生まれ、製品市場で拡大され、資本市場の存在によってさらに拡大される経済システムに中にあることを述べている。最終的に、技術的な知識と経営上の知識の双方を含む「誘導技術」によって、隔離された事業体同士を調整するよう導かれるのである。5章では、組合せによって、設計の過去・現在・未来のすべてを分類しうる「モジュール化するための6つのオペレータ」を示している。すなわち「分離」「交換」「追加」「削除」「抽出」「転用」の6つである。
 第Ⅲ部ではモジュール型設計を「6つのモジュール化オペレーターに」「埋め込まれている有益なオプションを求める」「多くの設計者達による」「(中央に相談せず自由な)非集権的な探求」によって進化するというものと捉えている。そうした新たなモジュール設計は新たなシステム設計を創造可能とし、イノベーションの連鎖を生じさせ、最終的には多様で絶えず変化するシステム設計の集合となっているとしている。9章では、そうした進化は基本的に経済的現象であり、主体の価値探求活動としてだと理解していると主張している。10-13章では、6つのオペレータの経済的な価値の数学的モデルを構築し、どのような経済的な価値が創造されるかを各論している。
 14,15章では、先進的な資本市場では、「設計進化」のとどまらず、受け皿となる下位企業群や市場をも出現する「産業進化」が起きることを述べている。こうした「モジュール・クラスター」では非集権化と拡大が起き、同時に同一企業内に縛りがちになるエージェンシーコストの推進力が減少すると述べている。互いに連関するようになり、外部や内部との連携を円滑化するように動いていくのである。

【コメント】「モジュール化による選択肢の創造」と「より高性能を発揮するためのコンポーネントの統合」のたゆまない繰り返しという内容が印象に残った。営利ではないが、国家機能の細分化、小さな政府に向けて、これらの議論、特に6つのオペレータがどう活かせるのか、どうあてはまるのかを考えてみたいと思う(修士1年 脇谷康宏)。

投稿者 student : 09:32 | トラックバック

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社, 2004)

【要約】
本書は、複雑適応系の型に従いながら、設計と産業に関する独自の進化理論を構築する。
第Ⅰ部では、理論の対象範囲と基礎的要素の定義を行う。第2章では、対象となる構造は、人工物、設計、設計プロセスにより構成されることを定義する。設計と設計プロセスは細部構造を持ち、より小さな分析単位に分解できる。第3章ではモジュール型の設計と設計プロセスについて扱う。モジュール化を、パラメータ、タスクや人々からなる集合の要素間に存在する特定の関係パターンであると定義する。モジュール化の本質である入れ子状に重なった階層ブロックという特徴的なパターンは、多くの異なる状況において現れる。人工物の「設計のモジュール化」を他の「生産のモジュール化」、「使用のモジュール化」と区別する。最終的には、包括的デザイン・ルールの集合を構築する。第4章では、設計と設計プロセスが依拠する広範な経済的環境を分析する。資本市場経済は、価値創造企業に対して大きな経済的報酬を与えるため、設計をより高い市場価値の方向に引っ張り上げる側面がある。設計のモジュール化(設計と設計の観察可能な特徴)は、設計の変更メカニズムを劇的に変える。モジュール型設計は、実質的に新たな一連のモジュール化オペレータを創り、それが設計全体を高めるための道筋を開く。第5章では、モジュール化オペレータとして、「分離する」、「交換する」、「追加する」、「削除する」、「抽出する」、「転用する」の6つを定義する。モジュール型設計の複雑な変更の多くはこれらのオペレータの組み合わせとして表現できる。
第Ⅱ部では、第Ⅰ部のフレームワークに基づいて、コンピュータ史の詳細を分析する。第6章では、先モジュール化時代(1944-1960)における設計を分析し、モジュール化の祖先を見出す。第7章では、初のモジュール型コンピュータであるIBMシステム/360について分析する。システム・アーキテクトたちは、最初にデザイン・ルールの明示的な集合を通じて設計を分割し、それらのルールを前提に管理システムを作り、その結果、華々しい経済的成功を収めた。第8章では、その実現のために「広範な統制」と呼ばれるIBMが開発した契約構造について扱う。
第Ⅲ部では、経済的価値を追求するための設計進化プロセスについて扱う。第9章では、設計オプションと設計進化の概略について述べる。第10章では、分離と交換に関する分析を行う。第11章では、モジュールごとに複雑さ、可視性、潜在的技術力が異なる場合にまで理論を拡張する。第12章では、DECに着目し、削除と追加のオペレータをどのように活用したかを分析する。第13章では、UNIXを事例に抽出と転用の分析を行う。
第Ⅳ部では、設計の構造とそれを実現するための経済的構造に関する分析を行う。第14章では、設計と産業構造の結合関係を支配する推進力のマップ化とその分析を行う。第15章では、システム/360のプラグ互換周辺機器の開発を用いて、隠されたモジュール間の競争のダイナミクスをモデル化する。

【コメント】
 今週は風邪を引いてしまったため、今回の課題はあまり深く読み込めず、表面的な理解になってしまいました。ごめんなさい。夏休みに再度読んでフォローします。モジュール化を今まではアーキテクチャデザインの効率性という観点から捉えていたが、経済的価値による影響を受けるという視点を本書を読むことにより、加えることができた。   (牧 兼充)

投稿者 student : 09:25 | トラックバック

Baldwin(2000)

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000. (邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』、東洋経済新報社, 2004)
人間の行為は必ずしも意図され、予測されたものではないが意図的な行為に産物は設計されたものである。設計は特定の機能を発揮する「物事」を創造するプロセスであり、人間の知能と努力の産物で「人工物」と呼ばれる。人工物は進化する。特に、この本が対象にする人工物は20世紀後半に出現した電子計算機(コンピュータ)である。コンピュータは機械の内部構造における電流のオンとオフの点滅パターンによって意味づけられたものが本質で触ることのできない人工物である。設計はある人工物を完全に記述することである。設計パラメータとも呼ばれる、より小さなユニットに分解できる。設計タスクとは人工物が備える「設計パラメータ」を選択することである。「設計構造」は、設計パラメータとパラメータ間の物理的・倫理的な相互依存性を示す一覧表を意味し、設計プロセスの「タスク構造」とは設計を完成させるために行うべきタスクと複数のタスクの結びつきを示す。
モジュール化は、複雑なシステムを取り扱う多くの分野において、有益と認められている概念である。 モジュール化には①モジュール内では相互依存時、モジュール間では独立している、②「抽出」「情報を隠す」「インターフェース」という特性がある。モジュールとは、構造的には互いにと独立しているが、一緒になって動くシステム中の単位である。また、ある複雑なシステムは複雑なシステムを壊さずに小さな部分に分割し、別々で管理ができる。すなわち、単純なインターフェースを持つ個別の抽出を定義することで、その複雑性を隔離できる。抽出によって要素の複雑性が隠される。つまり、モジュール化の概念は、デザイン・ルール、独立したタスク・ブロック、きれいなインターフェース、入れ子状の階層、隠された情報と可視情報の分離によって設計理論の重要原理の集合を補っている。これらは総体として複雑な設計を完成させあるいは複雑な人工物を構築するのに用いられる知識や特定のタスクを人間が管理できるよう分割する手段を提供する。
このような概念をもとにしてモジュール化の創造や設計進化モジュール・クラスターに関して論じられている。モジュール型設計は非集権化した「設計進化」を可能にする。また、先進的な資本市場が存在するときには、モジュール型設計は非集権化した「産業進化」も可能にする(あるモジュール型設計をもつ人工物が、ある先進的な資本市場をもつ経済で創造されたとき、モジュール設計それを平行して、モジュールの周囲に組織される企業や市場からからなる下位産業村が出現し、進化する。これがモジュール・クラスターである。)結局、進化するモジュール型設計のバリューは潜在的な利害関係者の間で異なる多数の方法でバリューの分配は可能である。
<コメント>
モジュール型の設計及び進化による非集権化した産業進化が可能にすることは、企業組織ごとの非集権化した自律・分散型の組織へも影響を及ぼすのではないかと思う。非集権化した産業構造が有効であるためには産業構造の構成要素である企業組織も変化していかざるを得ないと思う。それを企業側が如何に受け入れられるのかは企業の経営革新意識の問題につながることだと思う。                                   <池銀貞>

投稿者 student : 09:17 | トラックバック

2005年06月09日

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年

本書では心の科学(認知科学)の最先端で進められている「心の探求」の現状を四部・15章に分けて紹介している。
第Ⅰ部では心をめぐる思索と思弁の人類の精神文明史においての議論を述べている。
「心」を初めて科学的に捉えたのはデカルトである。デカルトの心身二元論においては、人間を心=非物質と身体=物質として、相互独立のものとし、動物霊気なるものが血液にのって体を制御しているというように捉えている。一方ホッブスは心身一元論、人間機械論をとなえた。心(考えること)とは推理するものであり、推理とは計算に他ならないとしている。アリストテレス論理学を踏まえ、こうした流れが心の記号論へと至り、「考える機械を作ることができる」という主張になるのである。4章では、入力→演算→出力に至る人工知能研究の記号計算の機械化の詳細を述べている。
 第Ⅱ部では、19世紀半ばから開始され、現状においても究明途中の心の明確な実証的、科学的探究において述べられている。不可視な対象たる「心」の可視化、計測・計量化への取り組みの歴史的過程を述べている。神経の電気現象が発見されたことで、心を物質的に捉える事が加速化され、結果、見えざる心の営みの具体的な数値化方法が、ドンダース、スタンバーグにより実証され認知心理学が確立されるに至ったのである。6,7章は別方面からのアプローチの歴史を述べている。第6章では、一度記号論から離れ、心と身体の相関関係を科学的に研究された事例を述べている。五感への物理的刺激「物理量」によって生成される「心理量」を計測する、精神物理学のアプローチについて述べている。第7では、パブロフの脳を経過しない条件反射の研究により、心の物質的基盤たる脳・神経の研究にいついて述べられている。第8章は第Ⅲ部であるが、7章の続きとして、脳神経科学について述べられ、脳のシミュレート方法たる「パーセプトロンン」において述べられ、脳のモデル化・模式化をはかっている。
第Ⅲ部の9-10章においては、心理学外の4つの飛躍により、「認知科学の革命」が起きたことを述べている。その4つとは、(1)コンピューター科学、(2)数理言語学、(3)情報科学、(4)脳神経科学である。9章では、まだ触れていない、「情報」と「心」の関係について述べられ、情報を受け入れ、変換処理、出力、制御という情報処理システムが心であることを確認している。第10章では、認知科学(心の科学)の成立において、哲学が果たした役割・その影響力について述べている。デカルトを引き継いだカントの3つの呪縛から解放されることこそが、心の科学の問題点の解消であったのだ。以上、Ⅰ~Ⅲ部では、認知科学が認知心理学を基礎に様々な多くの関連分野と連携してきたことを述べている。
 第Ⅳ部ではまだ心の科学の諸分野と統合していない隣接分野を各章で述べ、それらの将来像と現状、そして連携の重要性を述べている。それぞれ、ヒト知性における進化と文化(進化)人類学(11)、コミュニケーション動物としてのヒト言語科学(12)、ヒトに似た身体を持って移動し、それと同様な行動を行うロボットの設計との関連(13)、サルなど脳内スキャンによる認知神経科学(14)、感情の発達、脳と社会との関わりを扱う社会神経科学(15)についてである。

<コメント> 修士1年 脇谷康宏
 不可視と考えられたものの計量化・計測化のパラダイムは、よくわからないとこもあるが、興味深かった。ようやく科学とは何か、設計とは何か、というものに得心がいくようになり、自分の大きく不足した部分のついてもなんとなく目途が立ちました。とはいえ、本書は「心(認知)」を科学した最後の最後で「身体」が心に与える影響、あるいは「感情」に対する科学について述べ、「将来の発展に~」とある。不可視の計測の難しさに再確認させられる。

投稿者 student : 11:07 | トラックバック

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年.

■概要
本書は、人間の心についての探求を、心の科学(science of mind)ないし認知科学(cognitive science)という最新の体系から検討したもので、1~10章では基本的なパラダイムの提示等、11~15章では隣接分野での取り組みを紹介する。
 デカルトは、人間を相互に独立、固有の心と身体から成り立つ存在とする「心身二元論」を唱え、身体は機械であり、心は思惟するもの(考えるという点に心の存在を認める)とした。対しホッブス(1588-1679)は心も身体と同様に、物質的実体、即ち機械であるとする「心身一元論」、人間機械論を提唱した。『リバイアサン』の冒頭ではオートマトン(automaton、自動機械)や人工生命の可能性を論じ、心を「計算するもの」(たしたりひいたりする余地がある限り推理する余地がある。前者の余地がない場合、推理は全く何もすることがない)と位置づけた。ここから、心の科学を特徴づけるパラダイムは1)心とは記号の処理・操作システム、2)記号の処理・操作とは計算である、3)記号系(記号集合)と個々の記号を結び会わせる規則の集合の全体は現実の意味論とまとめられる。心を記号を処理・操作するシステムととらえたことは、人工知能研究につながった。心が担う「思惟」については、アリストテレス(384-322BC)をはじめとする記号論理学で探求された。その中心は「三段論法」で、構造という点では計算と共通基盤、構造を持つが19世紀、ブール(1815-64)により誤りが数学的に証明された。ブールは論理学の数学化をめざし、以後ライプニッツ、ヴィトケンシュタイン、チューリングらに引き継がれ、命題論理学(文章同士を一定の規則、論理関係構造に従って結びつける計算であることを示す体系)が確立した。他方で、1956年のダートマス会議により人工知能研究が始まった。コンピュータの原型となるオートマトン(自動機械)は、入力装置、内部装置(演算装置、記憶装置)、出力装置からなる。心の問題、考えることは、オートマトンの内部装置、内部状態を考えることと重なる。オートマトンが処理、操作できる記号系については、チョムスキー()が4つの言語型を提唱した。特に2型言語とされた「自由言語」は、人間の自然言語やコンピュータ言語のモデルとなることが明示されている。
 以上のような心の科学の発展経緯をふまえ、続いて心という不可視な対象の可視化と計測・計量化が論じられる。雷を静電気現象と解明したフランクリン(1706-90)、電池の原理を発見したボルタ(1745-1827)らを経て、ドンダース(1869-1969)、スタンバーグ(1966)が、見えざる心的過程、認知過程を、具体的数値により実体化することに成功した。デカルトの二元論に発する「心身問題」、心的世界と物理的世界の相互関係については、ウェーバー(1795-1878)やフェヒナー(1801-87、数理心理学を提唱)、スティーブンス(1906-73、べき法則を提唱)などの研究がある。他方、脳そのものへの探求も進み、パブロフの条件反射研究を経て、脳をモデルに置き換え研究することが進展している。代表例はローゼンプラットの「パーセプトロン」で、脳の基本要素であるニューロンをモデル化した形式的ニューロンを用い、パターン認識を解明した。
 さらに、コンピュータの開発とコンピュータ科学の成立展開、数理言語学の提唱、情報理論とそれに基づく情報科学、脳神経科学の急速な進展を受け、1960年以降は「認知革命の時代」とされる。即ち、情報も心と同様不可視な対象であり、情報を担った「媒体」をみているだけであって「情報そのもの」をみたり触れたりしているわけではない。記号の処理・計算が情報処理であり、情報処理システム(information processing system)を「心」と呼ぶことができる。情報処理、変換により、限定された混沌とした事態から、意味を抽出し、体系化、秩序を与え、知識化、ならびに概念体系を構築し、無意味な世界にまとまりを与え、有効に対応することが可能になった。情報伝達容量の限界を超えるこの仕組みを可能にしたシステムが脳であり、高度に複雑に精密な状態によって生成された「心」という装置である。
 11章以降では、人類学、コミュニケーション、ロボットの心、神経科学、知性と感情という周辺領域からの検討がなされた。特に神経科学において、道具を使うときの内観が論じられ、道具使用直後には、脳の受容野が拡大していることが示されたことを特記する。

■コメント
自身の研究対象を、本書で述べられた「心の科学」の観点で考えると、特に情報論の議論が興味深い。情報は不可視で、それを担う媒体をみているだけという議論は、マクルーハンの「メディアはメッセージである」を想起させ、また道具(ビデオカメラ)や媒体(映像)は人間の身体機能を延長し、脳に何某かの影響を与えているからこそ、様々な効果が生まれていると考えられる。住民ディレクター活動における情報処理システム(心)の役割とは何か。情報や道具が人間(心)に与える影響を、科学的に検証する視点は、私にとっては斬新で、今後の研究手法のひとつとして検討すべきと感じた。(2005年6月9日 高橋明子)

投稿者 student : 07:16 | トラックバック

心の科学

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年
『心の科学』は4部に分けて構成されている。 第1部から第3部にかけては心の科学の基本的な理解を図るためのパラダイムの提示とその変遷、それの具体的な諸活動、その結果起った心理学部の流れ
及び影響などが紹介されている。 最後の4部には心の科学の成立の背景にある異なった分野での研究、特に、人類学、言語学、人口知能、神経科学での心の科学の発展と認知科学との接点についてあげられている。 心の科学の成立の背景として「デカルトの心身二元論」と「ホッブスの心身一元論」をあげ、「心とは何か」の問いに答えている。 「心とは何か」という問いへ最も影響をもつデカルトの心身二元論は「私はいかなる存在か」という問題に「私は、相互に独立し、固有の心と身体から成り立つ存在である」と答えている。 デカルトの心身二元論は新たに「心」と「身体」とは何かその関係性に関する疑問を残している。 デカルトによる心は「心とは思惟するものである」、「私は考える存在である」と論じ、「考える」点に心の存在を認める。 デカルトによる身体とは他のあらゆる動物を含み、反射を基本的な作動原理としてする「機械」であると定義する。 一方、心身一元論のホッブスは「心も身体も同様に物資的な存在であること、機会である」ことを主張する。 これは、「心は推理する」することになり、デカルトが「心は思惟する」と述べたことと基本的には同じ内容である。 しかし、デカルトは、心を身体とはまったく独立の存在としてもなす。 それは非物質なものとみなすのみならず、これに固有の位置を与えている。 このところがデカルトとホッブスの決定的な違いである。 しかし、身体に関してはデカルトもホッブスも機械であることが同じである。
観測機器・実験装置の開発と計測・計量化による心の動きとみなされるもの-刺激に対する反応時間の数量、物理量-を示すことに成功(現在の認知科学の基)、記号処理・操作システムまで発展し「心は情報処理システム(information processing system)」であることが説明できる。 情報を受け止め、それを処理するために必要な変換を加えるなんらかの内部状態を作り出すことは欠かせない。 それは高度に組織化された物質の状態によって生み出される。 自覚や実感のうえに心の存在を確信することであり、心とは情報の処理システムで同時に記号の処理・操作システムである。 心の記号論・計算論の要点は次のようである。 ①心とは記号の処理・操作システム(オートマトン。機械(コンピュータ))である、②記号の処理・操作とは、記号と記号とを一定の規則にのっとって結びつけたり、秩序づける操作であり、それは計算である、③この記号系(記号集計)と個々の記号を結びあわせる規則の集合の全体は、現実の意味論である。つまり、構文論が成り立っている。 以上から派生する命題は考える機械(人工知能:artificial intelligence, AI)をつくることができるという命題が成立する。しかし、今までのこころは認知的な側面に向けられている。 心というのはいわゆる感情や心の主体性を扱う自己などにかかわる感情的な側面もあり、この2つの側面は複雑に関連しているもので、相互に関係しながら心の状態を決めているのである。 科学的に説明できない「心」はこれからの「心の科学」においての課題であろう。
<コメント>
AIという映画では最後涙を流す人工知能のロボットが出てくる。 涙の意味が理解できないが理解よりも感情という働きが先にうごいて涙をながすことになる。 心の科学は認知的な側面の心を説明されているがそれが心の全部ではないと最後に言及している。 心の核心というのは科学的に説明できないものではないかと思う。                                            <池銀貞>

投稿者 student : 06:53 | トラックバック

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年.

 古代より心の在処については様々な論議がなされて来た。心とは知性、思推することであり、この実現は脳の仕組みによって営まれている。脳神経科学の発展とともに、並列分散処理やパターン変換などの仕組みが解明し始めている。脳の最大の特徴は、仕組みや構造に加え、固有な昨日や働きであり、自己組織化や学習能力、その結果の創造的問題解決や能動的適応力の高さである。
 人の心は脳のシステムによって実現されていることは自明となりつつある。脳の状態がより複雑に組織化され、新たな状態に移ったとき、心の自覚や創発を生成するという考え方が出現しているが、心の物質基盤となる脳の仕組みは並列の二値論理素子であることが指摘され、記号の処理、操作システムであることが指摘されている。また、これはニューロンの発火、抑制といった現象が閾値によって二値に確率的に分けられることで実現している。こうした脳の仕組みは根本的に、複雑な事象を複雑なままとらえるには適しておらず、事象を認知する為には対象を二値演算できる論理という構造に分解して与える必要がある。これを認知限界と呼ぶ。
 混沌とした物理的世界に秩序を与え、固有の物事を認識すること、何らかの意味内容を抽出することは考えることに必要な脳の働きの一つである。この「何かあるもの」に具体的な形を与えているのが「情報」である。何かあるものの包括的な「意味内容」は情報そのものではなく、それを変換処理した結果が情報であり、物理的な現象である脳に対してもそれに対応するものが存在すると考えることができる。このとき、心とは入力から出力に至る情報の流れを制御する「情報処理システム」としてとらえ直すことができる。情報とは負のエントロピーを与えるものとして定義できる。
 心とは情報処理システムであると同時に記号の処理、操作システムである。記号の処理、操作とは一定の規則に則り秩序づける操作でこれは計算であり、この規則の集合の全体が現実の意味論であるといえる。これらの要素を備えたとき、さらに考える機械「人工知能」を作ることができるという命題が発生する。

■ コメント
 先生のおっしゃるようによくまとまった本であることがやっと実感され始めました・・・。あらゆる認識のボトルネックは人間の認知であり、人間の認知をよりうまく活用したり、これにあわせた人工物を設計したりするにあたり、認知科学が基礎として必要であることが改めて感じられた。また、考えるという記号の処理だけでなく、あらゆる意味のないものに対し意味付けし、組織化してゆくという働きが設計など社会の根源なのではないかということを考えさせられた。(小池由理)

投稿者 student : 06:41 | トラックバック

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年.

西川泰夫・波多野誼余夫編著、『心の科学』、放送大学教育振興会、2004年.
【要約】
本書は、「心」(認知、思考、思惟、認識、意識、知性などを含む)に関する科学的体系をまとめたものである。前半では基本的なパラダイムの提示を行い、最先端のトピックの紹介を行う。
デカルトは、人間を「相互に独立、固有の「心」と「身体」から成り立つ存在である」という心身二元論を示した。「心は思惟するもの」、「身体は機械である」とし、この両者を区別するために「言葉」と「自由意志」を示した。ホッブスは、心も身体と同様に物質的実態であるとし、心身一元論を示した。心は推理するものであるとし、具体的には、心的記号と記号を一定の規則にのっとって結合する記号の処理・操作システムであるとした。
心を記号システムと捉えた場合には、アリストテレス論理学(三段論法)、ブールによる論理学の数学化、命題論理学、述語論理学などの体系により、理解を深めることができる。この応用には、人工知能研究がある。コンピュータの発展は論理学の体系の上に成り立っており、電子回路に組み込まれた「スイッチ」により成り立っている。オートマトンとは人工生命のことをさし、入力装置、内部装置(演算装置、記憶装置)、出力装置により構成され、生物を含め、人工物、機械、組織、自然現象もオートマトンと定義することができる。オートマトンが処理・操作できる記号系や言語(文法)の4分類が可能であり、内在する規則の特色を明らかにすることができる。
ドンダースによる「反応時間減産法」、スタンバーグによる「スタンバーグ・パラダイム」などの実験により、不可視な対象の可視化と計測・計量化の基盤を作った。ウェーバーによる「触2点弁別実験」、フェヒナーによる「精神物理学的関数」、スティーブンスによる「量推定法」などにより、「心理測定論」と「心理尺度論」の分野が確立し、精神物理学が成立した。
心の物質的基盤は脳であり、バヴロフの「精神的分泌」に基づいた「条件反射学」はその仕組みを体系づけた。これは脳を「興奮過程」と「抑制過程」に分類し、二値状態によって捉えるというものであり、脳が記号の処理・操作システムであることを示す。この二値状態の組み合わせにより「高次信号系」が成り立つ。
脳の理解のためには、ニューロンやニューラルネットワークの構造や機能と同系なモデルを作り、シミュレートする手法が有効である。代表的なものはローゼンブラットによる「パーセプトロン」である。パーセプトロンは、形式的ニューロンを基本要素とし、S層(感覚層)、A層(連合層)、R層(反応層)により構成され、パターン認識を行う。判断を誤った場合には、「誤り訂正学習法」が組み込まれている。
「心の科学」のパラダイム変革において、情報論が大きな役割を担った。心は情報処理システムであり、「情報」、「情報量」、「エントロピー概念」、「情報伝達量」などの概念が有益である。認知科学は、「カントの呪縛」の解消後、「記号論・計算論」を基本的なパラダイムとして位置づけて、オートマトン、人工知能と関連しながら成立した。
心の科学を人類学的な視点から捉えると、「究極因と至近因」、「進化と適応」、「遺伝と心」、「空間認知能力」、「心の働きと人類進化」などが関連領域となる。コミュニケーションの視点から捉えると、「伝達と認知」(推論)、「関連性理論」、「修辞的表現」などが関連領域となる。ロボット工学は、空間的・時間的に拘束された物理的実環境における行動、システムとしての心の働き、心の表出モデルが必要となり、これらは「心の科学」への示唆が多数含まれる。「ロボットは心を持つことができるか」、に関する検証手段としてチューリング・テストや乳幼児がロボットに心を見出すかという実験があり、これら手法はロボット工学を「心の科学」の観点から捉える手法として有効である。神経科学についても、大脳神経機構における動作的・映像的・象徴的身体表象のコーディング・進化・メカニズムが関連領域となる。認知と感情は相互に影響しあっている。感情の定義は未だ曖昧である。感情は一次感情(生得的)と二次感情(事後的に獲得)に分類され、「自己意識感情」、「恥」、「愛情」などの観点から分析が可能である。

【コメント】
 私自身の研究においては、一義的には人間自体をモジュール化したノードとして捉えて、その内部構造までには踏み込まない予定である。従って、本書は、人間をモジュール化し、外部から見る場合に必要となるインタフェースの概要を抑えることができた点で有益であった。なお、応用的にはアントレプレナーをどのように育成するかという課題も抱えており、その観点からも有益であった。ただしできればアントレプレナーを外部要因に基づいて育成したいと考えている。(牧 兼充)

投稿者 student : 00:13 | トラックバック

2005年06月02日

Herbert A. Simon, “The Science of the Artificial, Third edition”, The Massachusetts Institute of Technology, 1996. (稲葉元吉・吉原英樹(訳),『第3版 システムの科学』,パーソナル・メディア,1999年.)

Herbert A. Simon, “The Science of the Artificial, Third edition”, The Massachusetts Institute of Technology, 1996. (稲葉元吉・吉原英樹(訳),『第3版 システムの科学』,パーソナル・メディア,1999年.)

 本書では、自然科学と対置して、人工的な物体と現象に対する知識の体系、すなわち人工科学について論じている。人工的」であるということは、そのシステムや部品が、自然と正反対の性質をもっているということではなく、人間によって合成され、外見上は自然物を模倣していても自然物の実質を欠いており、その機能、目標、適応によって特徴づけることができるということである。
 人工物は、それ自体の内容と組織である「内部」環境とそれが機能する周囲の「外部」環境の接合点、今日でいう「インターフェイス」だということができる。内部環境と外部環境とが相互に適していれば,人工物はその意図された目的に役立つといえる。
 1章では人間行動は目標に適応させられ,それゆえにこそ人間行動は人工的であり,その適応力を制約するシステムの特徴だけを表している、との命題を立てている。本物(自然物)を模倣することを、単純化・抽象化・理論化とし、シミュレーションの有意性を取り上げ、続き、人工物の代表格、記号システムの最たるコンピューターの重要性を述べている。
 2章では「知能とは記号システムのはたらきに他ならない」という仮説のもとに、「経済学は、人間の行動と人間社会の働きとのなかに、様々なかたちで表れている人間の合理性を讃える科学」であるとし、意思決定の内容の合理性のみならず、意思決定のプロセスにも関心を持たねばならないことを指摘している。
 3章では、人間の知性についての合理性の限界と共に、知的行動を行えるコンピュータープログラムをつくることによって人間知性の働き方について検討している。仮説として、一つの行動システムとしては人間はきわめて単純で、行動の複雑さは外部環境の複雑さに起因していることをあげ、実験により示している。
 4章では、人間の思考活動の記号性のを証明しており、これにより2章の仮説を、3章で十分条件、4章で必要条件を満たしている。
 5章では、前2章が人間の生物学的内部環境と人間との関係を扱った一方で、人間がそこで生存し、目的を達成しようとする複雑な外部環境と、人間とのかかわりに関する章としている。探索の一般理論としてデザインの理論を捉えており、あらゆる問題を解決し、選択し、合成し、意思決定することを任務としているあらゆる専門家を全体的に訓練するための自然科学の補完的役割としての重要性を述べている。
 6章では、社会的な規模における人工物のデザインにおいて述べている。大規模なデザインには時間的・空間的な限界があり、進化の過程においては、予測制御と共にシステムを短期的に外界からの影響から守るホメオスタシスのメカニズムと、変化に対応する事後的なフィードバックのメカニズムの2つの補完的メカニズムの重要性を述べている。
 7章では複雑性の概念は、初期には全体論として、やがてフィードバックとホメオスタシスに焦点が当てられたが、現代は、複雑性をつくり、それを維持するメカニズムや、解析するための手段に関心があてられている。複雑性が単純性から発展していくであれば、全体物としての自然的対象は、分割可能なシステムとして、下位システムから成り立つものには、階層的システムとして捉えれるとしている。

<コメント> (脇谷康宏)
複雑性の概念を含め、全ては理論化できる(……はず)、といったまさに科学的な意思を感じる。6章をどちらかといえば、政策形成のパートとして読みました。今更ながら、政策って科学性に気づかされました。

投稿者 student : 09:55 | トラックバック

THE SCIENCES OF THE ARTIFICIAL ーシステムの科学ー

 人間によって合成される人工物を自然と対義語的に理解したとき、その機能、目標、適応によって特徴づけられ、人工物はそれ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境の両者の接合点「触面(interface)」として理解できる。人工物における存在理由は環境への適応で、内部システムは異なっていても同じ目的を果たすことが可能であり近似しうる物ととらえることができる。
 経済的合理性が果たす役割の一つは、希少なものの配分、つまり適応機構である。合理性というシステムは現実に近づくごとに正しい行為の代替案を見つけること(実質的合理性)から、よい行為の代替案がそこにあるかを計算する方法の発見(手続き的合理性)へと移ってゆく。つまり、人工物はデザイナーの存在を示唆することになる。これは同時に思考する人間の目標は内部環境の外部環境への適応であるともいえる。
 デザインの過程を理解するには、人間知性の働き方や人間合理性の限界を検討することが必要となる。人間の認知過程の科学的説明はいくつかの要素で記述することができ、①内部環境におけるパラメタ、②課題領域における制御と探索指示のメカニズム、③環境への適応の為の学習と発見のメカニズムである。この上で人間の内部環境は単純であり、その複雑さは五感を通じて理解される世界と記憶装置に貯蔵された世界に関する情報という外部環境に起因する物として結論づけた。ここから社会制度も含めた環境からの人工物デザインとは、行動の複雑さの根幹をなしているといえる。
 複雑性という概念は複雑なスィステム自体の理解に加え、複雑さそれ自体への興味を示唆する。複雑性の構造を形成過程に必要な要素は階層性である。階層性は安定した中間状態を持つということに同意で、実際に自然の中における複雑なシステムにおいて顕著である。階層は行動を単純化する、準分解可能性をもち、複雑なシステムの単純化とシステムの発達や再生産に必要な情報の貯蓄にとって有用である。

■ コメント
 人間が自己意識をもつことにおいて他の動物と異なっているという説に納得していたが、記憶装置をも外部環境と考えたときに他の動物と同じく単純な内部環境をもつと考えることは興味深かった。あらゆる事物は自己を保持する為に環境に適応することを目的とすると述べられていたが、環境に適応する術がデザインであるとき、人工物デザインであっても自己組織化であっても大きなスケールでは同じ意味なのかもしれない。また普遍性を発見しようとすることはある階層を選択することで意味を持ち、この階層の選択が科学において重要なことだと改めて感じた。(小池由理)

投稿者 student : 08:19 | トラックバック

H. A. Simon

H. A. Simon, “The Sciences of the Artificial”, 3nd ed., MIT press, 1996.
(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年)
第1章では、自然科学は不思議なことをごく当たり前のことにすることであり、科学は不思議なもの複雑なものを、不思議さを減らすことなく、理解可能なもの単純なものにすることであると述べている。それに、人工物は①人間によって合成される、②外見上は自然物を模倣しているかもしれないが自然物の実質をかいている③その機能、目標、適応によって特徴づけられる、④とくに、それが設計されているときには記述法のみならず命令法によっても議論されることが多いという4つのことから自然物から区別することが可能である。 その代表的な人工物としてコンピュータ(記号システム)を例としてあげ、環境への適応が存在理由のすべてであることを述べている。2章では、経済学の例をあげ企業が手続合理性(知識や計算を通じ、適切な適応行動を見出していくシステムの能力)を達成するための手法としてオペレーションズ・リサーチ(OR)と人工知能(AI)を紹介している。しかし、その知識や計算能力の限界によって人の満足化などの人間性の問題は取り扱いにくいのである。3章(思考の心理学)と4章(記憶と学習)の認知心理学では思考する存在の内部環境に「固有」な諸特性のうち、問題環境の形に思考が適応していくのを制約するようなものはごく少数であるということの論拠を指摘し、思考行動や問題解決行動に含まれている他の一切の事柄は-学習されるという意味で、また改善されたデザインの発明を通じて改良が加えられていくという意味で-人工的であると述べている。
デザイン理論を構成する諸要素のことを示し、またデザイン理論及び経験に関係のある実質的な知識体系が存在していることをしながらデザイン理論は探索の一般理論であることを5章で説明している。それが6章では、進化する人工物のデザイン、社会計画の話にいたる。社会計画の設定過程においての以下のような6つのトピックスを示している。①限定された合理性(環境の複雑さが適応システムの計算能力もはるかに大きい状況下での合理性)②計画設定のための「データ」(予測方法、制御過程における予測とフィードバックの使用③顧客の識別④社会計画における組織(社会計画は、主に組織内部の人によってつくられるが、それと同時にその社会計画の重要目標が、一般の社会組織や特定の個別組織を作ったり変えたりする)⑤時間的・空間的視界(時間の割引、進歩の定義、注意の管理)⑥究極目的のないデザイン活動(将来の柔軟性のためのデザイン、目的としてのデザイン活動、進化するシステムのデザインの過程。
7章と8章は複雑性、特に複雑性の階層的なシステムを述べている。階層は行動を非常に単純化する特性(準分解可能性の特性)をもち、複雑なシステムの記述を単純化し、そのシステムの発達や再生産に必要な情報がいかにして適度に貯えられるのかということの理解を用意にする。
<コメント>
普段、創造的な知識活動という人間の思考過程および意思決定過程も人工物であり、その構成は単純なものでありえることを示していると思う。しかし、著者が生理学をふれてないように、人間の人間性の問題はいまだにきれいに説明できない。というのは人間が人工物のように情報処理システムの過程を行なっていても人間の処理過程には人間性が入っている可能性もありえると思う。                                <池 銀貞>

投稿者 student : 08:15 | トラックバック

Simon, Herbert A., “The Science of the Artificial,3 rd ed.,” The MIT Press,1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹(訳)、『システムの科学 第3版』、1999年.)

■概要
第1章(自然的世界):我々が生きている世界は、人工的世界で、特に「記号」と呼ばれる人工物から成り立つ。デザインは人工物をその内部環境と外部環境の接面(interface)からみることを目的とし、人工物は内部環境を外部環境に結びつけることで目標を達成する。内部環境(システム)が正しく設計されるならば、それは外部環境に適応したものになる。
第2章(経済的合理性):経済学は、人間行動の人工的側面を示し、希少なものを配分することを中心課題とする。正しい行為の代替案を見出す(実質的合理性)のではなく、良い行為の代替案がどこにあるかを計算するその方法の発見(手続的合理性)を追求する。現実の世界で最適化は不可能であり、十分良好な代替案を受け容れる、満足化を追求する人(satisficer)が必要。人間の情報処理能力には限界があり、市場と組織は、行動の調整を容易にすると同時に、複雑かつ大量の情報を処理する人間の能力を保存する社会的仕組みとなっている。
第3章(思考の心理学)、第4章(記憶と学習):1つの行動システムとして眺めると、人間はきわめて単純なもので、その行動の経時的な複雑さは、主として彼が置かれている環境の複雑性を反映したものに他ならない。人間の認知過程は3つの段階でとらえられる。第1が情報処理能力で、内部環境に関するパラメータ1)アイテム数で推定された短期記憶の容量(7チャンク)、2)アイテムを長期記憶に固定化するのに要する時間(8秒)といった制約から説明される。第2が理解のプログラムで、外部世界から情報を入手しリスト構造として長期記憶に貯蔵されていく知識に変換する一般的な制御と探索指示のメカニズム。第3がシステムが特定の環境に次第に効果的に適応できるようにする学習及び発見のメカニズム。
第5章(デザインの科学):現在の状態をより好ましいものに変えるべく行為の道筋を考案するものは、誰でもデザイン活動をしている。デザインの評価に関する評価理論、計算方法等、「デザイン理論」が存在する。ただし重要なのは、あらゆる文化の構成員の共有されうるような共通の知識の核であり、コンピュータの登場により、知的領域間のコミュニケーションが増大した。即ち、デザイン活動、あるいはデザイン過程に参画するためにコンピュータを使うことが、諸分野を越えて意志疎通しうる(共通の場がある)状況を生みだした。
第6章(社会計画):社会をデザインするためには、さらにいくつかのトピックス(限定された合理性、顧客の識別等)を考慮する必要がある。社会計画の目的は、次回以降の初行為のために初期条件を設定すること、次世代の意志決定者に今よりもよい知識体系とより多くの経験能力を残すことである。
第7章(複雑性に関する諸見解)、第8章(複雑性の構造):複雑系を現代社会の主要な特徴ととらえ、我々が自然界で観察する複雑なシステムの大部分は階層的な構造を呈していること、階層はその行動を単純化する特性(準分解可能性)を持ち、それが複雑なシステムの記述を単純化し、そのシステムの発達や再生産に必要な情報がいかにして適度に蓄えられるのかという理解を容易にすると指摘する。

■コメント
人工物を、経営学、心理学、デザイン等、多様な観点から論じている。特に、実体的な装置としての記号システムであるコンピュータが、複雑な外部環境の中で諸分野を超えて意志疎通しあう場を提供しているという指摘が興味深かった。コンピュータ(広義にはネットワークも含むだろう)を道具として用いながら、コンピュータに代表される人工物によってもたらされた内部環境を、外部環境に適合させていくことが、デザインであるといえる。ただしこれを自身の研究にあてはめる場合、第2章の例示(外部環境:他の行為者、起業、市場、経済などの諸行動、内部環境:個人、企業、市場、経済が持つ目標と合理的適応的な行動をなしうる能力)程度には分析単位を明確にしたうえで、接面は何かを明確にする必要があり、これは今後の課題である。         
(2005年6月3日 高橋明子)

投稿者 student : 07:19 | トラックバック

2005年06月01日

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

【要約】
 本書は、人間によってつくられた「人工物」の体系を論じたものである。人工物は、人工物それ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境に区分けすることができて、その両者の接合点を「接面」(interface)と呼ぶ。この接面から機能的記述を行うことにより、人工物を捉えることが可能である。具体的には、システムの目標と外部環境の知識があれば、内部環境に関する最小限の仮定をおくだけで、そのシステムの行動予測が可能となる。外部環境の知識とは、進化論的生物学では自然淘汰であり、人間行動科学では合理性である。コンピュータを含めた多くの人工物は、記号システムの発展系であり、人間はこの記号システムを介して認知を行う。
 社会システムにおける人工物として市場と組織がある。このメカニズム分析を行うと、外部環境における前提である合理性のみでは説明できないことが多数ある。これは、人間が合理性を追求する場合に、現実的に全ての選択肢を選ぶことができない場合には「十分良好な」代替案を選択するからである。このことは人間の認知限界が人工物のデザインにおいて制約となることを示す。
 人間を1つの行動システムとして捉えると極めて単純である。行動における複雑性は、内部環境ではなく外部環境に起因する。人間の認知システムは基本的に直列に働き、記憶は連想的に組み立てられている。短期記憶は7チャンクに限られており、チャンクが定着するまでに8秒かかる。人間の長期記憶には限界がない。直感とは、長期記憶の検索結果による判断である。学習とは、環境適応能力に多少なりとも永久的な変化を生み出すような、システムにおける変化のことである。
 専門家活動の多くは科学であり工学ではないため、「望ましい性質をもった人工物をいかにつくり、またそれをいかにデザインするか」、という「デザインの体系」を構築していく必要がある。具体的には、1)デザインの評価のための「評価理論」、「評価方法」、「デザインの形式論理」 2)代替案の探索のための「発見的探索」、「探索のための資源配分」、「構造の理論およびデザイン組織化の理論 (階層システム)」、「デザイン問題の表現」、などである。
 社会計画におけるデザインは、通常のデザインの科学に比べて、「限定された合理性」、「計画設定のためのデータ」、「顧客の識別」、「社会計画における組織」、「時間的・空間的視界」、「究極目的のないデザイン活動」などの視点を加えなくてはならない。
 複雑性は、システムの主要な特徴であり、その諸理論は人工物のデザインに有益な場合がある。具体的には、カオス、遺伝的アルゴリズム、セルラーオートマトン、カタストロフィ、階層システムなどである。
 複雑なシステムにおいては、階層構造という共通性が見られる。複雑性が単純性から発展していく過程においては、複雑なシステムは階層的になりやすい。階層はその行動を単純化する特性「準分解可能性」を持ち、複雑なシステムの記述を単純化し、システムの発達や再生産に必要な情報を提供する。

【コメント】
 SIVというインキュベーション・プラットフォームのアーキテクチャ・デザインのための有益な知見が多数含まれていた。SIVは階層構造ではなく「準分解可能性」が低いため、人間の認知能力の限界への対応が不十分である。また内部と外部の特性の定義も不明瞭である。本書に基づいて、全体の再設計を行う必要がある。
 なお、私は文献を読むときは、エッセンスとその相互関係(外部環境)のみを理解し、そのエッセンスの説明(内部環境)は必要に応じて理解するようにしている。本書は、章ごとの「準分解可能性」は高かったが、章内の「準分解可能性」は低く、理解が困難な部分が多数あり、認知限界を超えた。「システムの科学」という文献自体を人工物と捉えた場合には、デザインに失敗しているように感じた。 (牧 兼充)

投稿者 student : 19:33 | トラックバック