|
8.無関心な彼女はマニキュアをぬる
a. ユミちゃん、彩子をワニのエサにする、と叫ぶ。
b. ハルヲくんは、失神中の彩子を安アパートに運ぶ。
c. ユミちゃん、おこっていたら、おなかがへり、玉子焼きをたべ、元気になる。
d. 部屋をジャングルみたいにしよう。そのグッドアイデアにうっとりする。
e. ごきげんになり、マニキュアをキレイにぬる。
f. ハルヲくん、火曜サスペンスのように、彩子に薬用アルコールの注射をする。
g. ハルヲくん、そんなユメオチ戦略しか考えられない自分の才能に落ち込む。
酸素体系を壊したハルヲくんは、その責任をとって、彩子さんに薬用アルコールの注射をして、「起きたら、ワニをみたのは夢だったんだ」とするユメオチ戦略を考えました。未来の文豪をめざそうとしているのに、てできたアイディアが火曜サスペンスもどきなので、ハルヲくんは自分の能力のなさにますます落ち込みます。しかしかれは必死です。このサスペンス・ゲームに勝たなければ、ユミちゃんのもとに帰れません。自分だけはまたあの部屋に入る資格を獲得しなければなりません。かれはもうユミちゃんの奴隷なんです。
東京ガールのゲームは、ワニが彩子を失神させ、ハルヲが彩子の記憶を喪失させることで、終わります。ワニとハルヲは、こうしてユミちゃんの世界に仕える守護獣なのです。飼われるものには、こうしたお勤めが不可欠なのです。ワニにとっての血のしたたった肉と、ハルヲにとっての血の匂いのするユミちゃんの肉体は、まぶしすぎるごちそうなのです。だから、すべていいなりです。ユミちゃんは、みごとなパワーを発揮します。権力とは何か、が嫌というほど直感されます。
権力者は、何もしません。
ただ黙って待っているだけです。だから、ユミちゃんはマニキュアをぬります。爪にマニキュアをぬるのは、しあわせ物語を描くことです。ハルヲくんがサスペンス・ゲームをしている間、彼女はしあわせ物語の夢をみます。母親の爪のように、ピンクの爪になれと、楽しそうにマニキュアをしながら、部屋をジャングルにするアイディアにうっとりします。
ユミちゃんは、マニキュアが好きです。
ハルヲくんは、注射針が、とても怖い。
ジャングルの夢はピンクの爪なんです。
火曜サスペンスはワニの身代わりです。
ここでは、ハルヲくんも、フリルのついた暴力なんて、甘いことはいっていられません。ストレートな権力行使にうろたえ、しがみつき、許しを乞うことだけです。飼われることの悲劇に、まだ気がついていません。でも、しがみつく快感も、やってみると、けっこういけるもんなんです。
勝者のユミちゃんは、部屋の模様替えを思いつきます。マニキュアのしあわせは、部屋を植物でいっぱいにして、ジャングルのようにすることです。ジャングルはワニが棲むところです。ということは、ジャングルは、ピンクの夢であると同時に、ワニの夢でもあるのです。
ピンクのワニ
やっと、ユミちゃんは、しあわせ物語とサスペンスゲームが交差する一瞬にあたりました。ジャングルは、ピンクの物語とワニのサスペンスゲームが共存する場なんです。ジャングルはピンクのワニが棲むトポスなんです。
|