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12.不能と鏡と毒リンゴ
a. ハルヲは、男メカケの仕事に失敗する。たたなくて、愛人のママハハを傷つける。
b. ママハハは、鏡をみて、「世界中の鏡、たたき割ってやりたい」と思う。
c. ユミちゃん、鏡をみて、「面白いよう、鏡みるのって大好き!」と言う。
d. 今日も3人の客をとって、疲れたユミちゃん、キスだけのサービスで寝る。
e. ハルヲは、仕事に失敗したインポの原因を、ユミちゃんへの恋のせいか、と悩む。
f. 真夜中、ケイコがママハハの擬声で電話をし、男メカケのいたずらをする。
g. 本物のママハハが深夜の電話をとり、すべてを知る。
h. 「あの若造!あの小娘!バカにして! 毒リンゴをもってやる!」と、ママハハ。
ここで『白雪姫』の世界が登場します。
安易な予想では、つぎのような役割設定になります。この役割設定で、ここでの状況を説明してみましょう。
白雪姫・・・・・・・・・・・・・・・・ユミちゃん
悪い王妃・・・・・・・・・・・・・・ママハハ
隣の国の若い王子・・・・・・ハルヲくん
7人の小人a・・・・・・・・・・ケイコ
王妃は、なぜ毒リンゴをもってやるという悪意を抱くまでになったのでしょうか。
王妃は、隣国の若い王子と密通していましたが、その王子が最近になって若々しい白雪姫に惚れてしまい、しかもそのためにせっかく密通しても、いざという時に王子がインポになってしまい、気位いの高い王妃はたいそう傷ついてしまいました。もちろん密通の相手が白雪姫だと知らないうちは、まだ許せる余裕がありましたが、小人のいたずらから相手が白雪姫だと分かると、王妃の怒りと屈辱感は許容範囲を一挙に超えてしまい、王妃は、「毒リンゴの報復しかない」と決意するのでした。とさ。
こうしてみると、王妃が「毒リンゴを!」と考えるのも、理解できるような気になり ます。若い王子もいい加減な奴だなと思いますし、白雪姫もなんだ、という気になりま
す。
鏡は、世界で最初のコピーマシーンの1号機です。
自分のコピーがないと、恋愛ゲームはできません。
王妃は、若いころ好きなことが3つありました。1番好きなのは鏡をみることで、2 番めは男に見られること、3番目は女に羨ましがられることでした。王妃は鏡にコピー
された自分にうっとりしました。さらに、それは関係のなかで強化されました。それが、 男に見つめられることであり、他の女たちから嫉妬のまなざしを浴びることです。男の
欲望のまなざしと女の嫉妬のまなざしによって、王妃はますますコピーの自分にうっり するのです。
ここにあるのはゲームの世界です。王妃は、自分の美しさを誇示するために、男を選 びますし、女の嫉妬を利用します。彼女は、ずっとそうやって生きてきました。つねに
勝者であることで、自分のアイデンティティが維持できたのです。
それが、飼っていた若い王子によって、そのアイデンティティに危機が訪れたのです。 たたない王子という現実のまえで、王妃は勝者である地位から追われる自分を鏡にみた
のです。そこにあるのは、皺がめだつ醜いコピーだったのです。王妃は、鏡を壊したい 衝動にかられました。それは、もうゲームに勝てないプレイヤーの宣告なのです。しか
し王妃は、ゲームしか知りません。自分が嫉妬する立場にたつことには、我慢ができな かったのです。ゲームしか知らず、にもかかわらず勝てないコピーの自分をみつめたと
き、王妃に残されたことは、毒リンゴしかなかったのです。つまり王妃は、永遠にゲー ムの世界にとどまり、ゲームのプレイヤーでありつづけることを決意したのです。とす
れば、勝者になる方法は毒リンゴしかないのです。
しかも嫉妬の相手が身近な白雪姫だと分かれば、ゲームが血みどろになるのは必然で す。近親憎悪は、相手が身近な存在であるほど、強化され、ゲームは血をみないとおさ
まりません。間抜けな王子は、こうして白雪姫を窮地に陥れるのです。そんなことを知 らない白雪姫は、若いころの王妃と同じように、鏡に写るコピーにうっとりします。
白雪姫もゲーム好きなのでしょうか。
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