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新しい社会の捉え方を探して。井庭 崇のblogです。

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別様でもあり得たことへの眼差し (機能分析とは何か? 後編)

社会学者ニクラス・ルーマンは、ロバート・マートンの機能分析の議論を継承しつつ発展させた。ルーマンは、機能分析の意義を二つ指摘している。まず第一の意義は、マートンと同様、潜在的な機能への気づきを促すということである。

「『潜在的な』構造や機能について解明することができる。つまり、対象システムにとって可視的ではない諸関係、つまりその潜在性それ自体がなんらかの機能を果たしているがゆえにおそらくは可視的になりえない諸関係を、取り上げることができる」(Luhmann, 1984:p.88)


次いで、ルーマンが指摘する機能分析の第二の意義は、対象の比較可能性が開かれ、その機能を理解するときに、同じ機能を果たすが「現にあるもの」とは別のもの、について考えるきっかけとなるということだ。

ルーマンの貢献は、機能の概念を、「複合性」、「コンティンジェンシー」、「選択」という概念と関係づけて明確化した点にある。これまでの機能分析の捉え方では、機能概念の明確さが欠けていたというわけだ。ルーマンの理解では、「現にあるもの」は別様である可能性を持っているという意味において、「偶発的」(コンティンジェント) なものである。つまり、「現にあるもの」は、可能なもののひとつの現れに過ぎず、必然的にそうなったのではない、という捉え方をするのだ。

以上のことらもわかるように、機能分析では、その機能を満たす「現にあるもの」がなぜそれであったのか、という理由づけは行わない。「機能は決定するのではなくて、さまざまな可能性の同値性・等価性を規制するにすぎない。機能の機能は決定にあるのではなくて、ある前提されたパースペクティブとの関連で諸可能性の交換を規制することにある」(長岡, 2006, p.51) のである。なお、他でもありえた諸可能性の総体のことを、ルーマンは「複合性」(complexity) と呼んでおり、社会における現象を「複合性の拡大」と「複合性の縮減」という観点から捉えている。

まとめると、機能分析の第一の意義は、顕在的機能だけでなく潜在的機能にも目を向けて考えることができること、第二の意義は、対象となる機能を満たす「現にあるもの」を、別様でもあり得た偶発的(コンティンジェント)なものとして捉え、機能的等価物を考えるきっかけを与えるということなのだ。


【References】
『社会システム理論〈上〉』(N.ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993, 原著1984)
『ルーマン/社会の理論の革命』(長岡 克行, 勁草書房, 2006)
『新社会学辞典』(森岡清美, 塩原勉, 本間康平 (編集代表), 有斐閣, 1993)
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「顕在的機能」と「潜在的機能」 (機能分析とは何か? 前編)

社会学者ニクラス・ルーマンは、自らの拠って立つ「方法」を「機能分析」(functional analysis)だとしている。主著の『社会システム理論』のなかでも、「機能的方法は、結局のところある種の比較の方法なのであり、現実へそれをあてはめることは、現存しているものの別様のあり方の可能性を考慮して現存しているものを把握することに役立つのである」(Luhmann, 1984:p.84)として、機能分析の説明に多くのページを割いている。「機能分析」とは、もともと文化人類学で生まれ、その後、社会学において精緻化されていった方法であり、一種の理論技術だ。機能分析の基本的な考え方は、物事の「構造」ではなく、「機能」に着目して分析を行うというもの。

僕は、クリストファー・アレグザンダーのパターン・ランゲージも、複雑系科学で行われるモデリング・シミュレーションも、「まぼろしのコンセプト」の話も、根底の部分では、この機能分析とつながりがあると考えている。それがどのようなつながりなのかを説明するために、まずは「機能分析とは何か?」について解説しておくことにしたい。


ここでは、社会学における機能分析の整理を行ったロバート・マートン(Robert Merton, 1910~2003)の話から始めることにしよう。

かつてマートンは、「機能分析は、社会学的解釈の諸問題を扱う現代の研究方針のなかで、もっとも有望である反面、おそらくもっとも系統立って整理されていない」(Merton, 1964: p.16) として、手法としての機能分析の要件を整理した。マートンの主張のなかで最も示唆的だったのは、機能分析によって「顕在的機能」だけでなく、「潜在的機能」について理解することが重要だという点だ。

マートンは、機能分析について、雨乞いの儀式を例に説明する。ある部族が「雨乞い」の儀式を慣習的に行っているとしよう。この雨乞いの機能として考えられるのは、この儀式によって天候に影響を及ぼすという機能だろう。これを「顕在的機能」(manifest function)という。しかし、この機能の効果は、現代の私たちの知識をもってすると、期待できるものではないことがわかる。雨乞いをしたからといって、実際に天候が変わるわけではないのだ。それでは、この「雨乞い」の儀式は、非合理で無意味なものなのだろうか?

RainMaking200.jpgここでマートンは、機能分析は「顕在的機能」を明らかにすることが目的ではない、と指摘する。その背後に隠された機能に注目することが重要だというのだ。雨乞いの儀式の場合、よくよく観察してみると、実はこの儀式にも隠れた機能が存在していることがわかってくる。その隠れた機能とは、部族が一体となって儀式を行うことで、部族内の連帯意識を強めるという機能だ。このような隠れた機能のことを、「潜在的機能」(latent function)という。この儀式の機能を「雨を降らす」という顕在的機能のみで判断すると、「合理的ではない」と判断せざるを得ないが、潜在的機能も考慮に入れると、その部族にとってきわめて合理的な儀式であることがわかってくる。

今の話は、以前取り上げた「ストーン・スープ」の話と通じるものがある。石(ストーン)を煮ることは、表面的には意味がないが、それによって多くの村人が寄ってきて、協力しあうことになる。ストーン・スープの顕在的機能は「石のスープをつくる」ということだが、潜在的機能は「それによって多くの村人が協力しあうきっかけをつくる」ということである。潜在的機能は、あくまでも顕在的機能の背後で、潜在的に存在しなければならない。潜在的機能を表に出してみたところで、それだけでは機能しないのである。このことは、雨乞いの儀式と構図が似ているので、わかりやすいと思う。社会的な仕組みをデザインするときには、顕在的機能と潜在的機能の両方を考えることが重要となる。

このように、機能分析では、顕在的機能のみならず、潜在的機能も併せて理解することが重要だ。これがマートンの主張した重要なポイントなのだ。

【References】
『社会システム理論〈上〉』(N.ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993, 原著1984)
『社会理論と社会構造』(ロバート・K. マートン, みすず書房, 1961)
『社会理論と機能分析』 (マートン, 青木書店, 1969, 原著1964)
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ORF2007 トークセッション「新しい社会の捉え方」

2007年11月22日(木)に、Open Research Forum 2007 (ORF2007)のブックカフェにおいて、以下のトークセッションを行います。

bookcafe2トークセッション
「新しい社会の捉え方
 ~コミュニケーション・アイデンティティと現代~」
(井庭崇 + 国友美千留)
2007年11月22日 14:30~15:30
ORF2007ブックカフェ内

私たちは、流動的な現代社会を捉えるためには、従来のような主体概念に基づく把握から、「コミュニケーションの連鎖」によって把握するという視点への転換が必要だと考えています。このことは、コミュニティや組織、そして社会を、「存在するもの」(being)としてではなく、「絶えず生成されているもの」(becoming)―――しかも自分で自分を生成し続ける「自己生成的なもの」―――として捉えるということにつながります。

このトークセッションでは、ニクラス・ルーマンの社会システム理論にもとづく「コミュニケーションの連鎖」としての社会観について、お話したいと思います。その場を共有することでしか味わえないような体感的なトークセッションを予定しています。ふるってご参加ください。

Communication CommunicationSystem

SFC Open Research Forum 2007
「toward eXtremes: 未来創造塾の挑戦」


日時:2007年11月22日(木)  10:00~21:00
    2007年11月23日(金・祝)10:00~19:00
会場:六本木アカデミーヒルズ40(六本木ヒルズ森タワー40階)
   入場無料(お名刺をご持参ください)
主催:慶應義塾大学SFC研究所
HP:http://orf.sfc.keio.ac.jp/
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