井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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再び、セカンドライフ上でゼミを実施(井庭研究会2)

以前このブログで、井庭研究会1のゼミをセカンドライフ上で実施した話をしたが、今回はもう一つのゼミ、井庭研究会2「新しい思考の道具をつくる」をセカンドライフ上で実施した話を紹介したい(2007年7月20日実施)。この研究会では、複雑系の考え方にもとづき、思考のための新しい方法や新しい道具をつくるという研究に取り組んでいる。現在17人が参加者している(学部生15人+大学院生2人)。

SeminarPanel

ゼミは今回も、パンダフル島の会議室で行った。学期末テストの時期だったこともあり、学校の研究室やコンピュータ室などで参加した人が多かった。さらに、自宅から参加した人もいた。 ゼミは、個人研究の進捗報告を簡単にした後、輪読に入った。このときの輪読文献は、高安秀樹さんの『経済物理学の発見』の後半部分だ。チャットで輪読発表と議論が進められた。今回も、輪読する文献やレジュメは、形だけのものを作成しておいた。

SeminarPresen BookAndHandout

 今回の参加者の感想からも、いくつか抜粋してみることにしよう。まずはやはり、「同じ空間にいる感覚がする」という点について言及している人が多い。

- 「今回みたいに時間を指定すれば、みんなRealLifeでは違う場所にいても、SecondLifeでは集まることができるんだなぁと、当たり前のことなんですが、なんだか不思議な気分でした。はじめはメッセと似たような感じなのかなぁと思っていたのですが、メッセと違ってそれぞれの顔や動きが分かるので面白いですね。三次元なので、「そこに人がいる」というのがはっきり分かりますし。」

- 「自分が思っていたよりも、同じ空間にいる感じはありました。それは、リアル世界でも同じ空間にいた人が数人いたからかもしれないですが、それでも、誰かが立って歩いたり、人が新しく入ってきたりすると、文字情報以外の視覚情報で得られる感覚の大きさを感じたりしました。」

- 「セカンドライフの利点は人の位置関係とかが分かるということと、画像とかがその場で見られるということだと思います。なので、位置関係で何かが変わるような取組みをすると、ただのチャットで終わらないものになるのではないでしょうか。」

- 「何をしているのかがキャラクターの動きで分かるというのは、メッセンジャーとは異なる興味深い特徴だと思いました。メッセンジャーでは過去の情報は見ることができるけど、話している瞬間に関しては予想しかできなかったのに対して、セカンドライフではある程度今何をしているのかを振る舞いから知ることができるのが面白く感じました。」


 興味深いことに、今回の取り組みでは、チャットにおいて顔文字が頻繁に使われた。チャットに慣れているからかわからないが、アバターの3次元表現があるにもかかわらず、笑いや苦笑が顔文字で表現されることが多かった。画面上でチャットのウィンドウに注目していると、アバターの動きが目に入りにくくなるため、ある意味自然な結果だったともいえる。チャットで顔文字が使われるというのは、こんな感じだ。↓

FaceCharacter

参加者の感想にも、その点について触れられていた。

- 「アバターが視覚情報として与えられているのに、顔文字を打たなければならない感覚は不思議でした。表情や抑揚って、会話において非常に重要な要素なのだと改めて感じました。」

- 「目が合うというか話してる人の顔が見れるともっと違った印象になるのかなと思いました。客観的に見ているだけだと、話してる内容と話してる人の姿があまり一致しないので、文字は文字、人は人という感じで、話の内容に注力していると普段のメッセとの違いはあまり感じませんでした。」

- 「セカンドライフで3Dの凝ったアバターがあるのに、メッセージで顔文字などを使って表情を表現していることが少し違和感を感じました。アバターの表情が読み取れるようになると良いですね。」

- 「現実世界では聞いている人の反応をそのまま知ることができるけど、SL上では発言しないと参加している感が薄いと思いました。でも、SL上での新常識で、顔文字を使うとか「()」の中に入れるとちょっと言ってみた雰囲気になったりして、いろいろと新常識が誕生していくんだろうと思います。」


realwold さらに、フォーマルな会話とインフォーマルの会話が、リアルとヴァーチャルで入れ替わったという点も面白かった。どういうことかというと、通常のゼミでは、現実世界での会話がフォーマルで、PC上のチャットはインフォーマルな会話となる(井庭研は以前から、学生の提案により、ゼミ中のPC使用は禁止なので、そういうことはないけれど)。しかし、セカンドライフ上のゼミでは、PC上のチャットがフォーマルで、現実世界での会話がインフォーマルとなる。今回、研究室では僕を含め3人いたので、チャットでの発言に対し、口頭で突っ込みを入れたり、笑いあったりしていた。この入れ替えは、なかなか面白い感覚だった。

- 「授業中に友達とチャットしていることは本来ダメなことですが、昨日はパソコンの中の会話がすべきことで周りにいる人との会話はその時では余計なおしゃべり扱いでおもしろい感覚でした。」

- 「セカンドライフで集まって何かするというのは新しい取組だったので、楽しんで参加できました。ただ、自分は共同研究室で何人かと一緒にいたので、わいわいやっていられましたが、 一人で画面に向かっていたら鬱になりそうな感じはしました。」

- 「SLでは顔文字などで笑っていることを表現したりしても、現実の私は正直全く笑っていないので、こういう仮想空間が当たり前になると、今でも無表情なのにさらに無表情になっていくんだとうと少し不安です。」


 たしかに、ヴァーチャル世界におけるアバターが派手な動きや表情をしたとしても、操作している現実世界の自分は無表情だったりすると、精神的に分裂症気味になっていくかもしれない。チャットと異なり、画面上に「自分」がいるのだから、事はさらに深刻だ。

 むしろ、Webカメラの映像をもとに現実世界のユーザーの動きや表情をキャプチャして、それをアバターに反映してくれたらいいのにね。技術的にはある程度できそう。もしかしたら、そんな日も近いのかもしれない。

SeminarScreen

慶應義塾大学 SFC
総合政策学部/環境情報学部/政策・メディア研究科
井庭研究会2「新しい思考の道具をつくる:複雑系とシミュレーションによる社会研究」
担当:井庭 崇
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セカンドライフ上でゼミを実施(井庭研究会1)

井庭研究会では、先日、正規のゼミをセカンドライフ上で実施した(2007年7月10日)。僕が担当する2つ研究会の両方で行ったのだが、まずは井庭研究会1「理論と実践の社会研究」での実践について紹介したい。この研究会では、社会学者ニクラス・ルーマンの社会システム理論をベースに、新しい捉え方で社会を理解し、新しい方法による実践を行うという研究に取り組んでいる。この研究会には、現在16人が参加者している(学部生14人+大学院生2人)。
ilab1-seminar

 セカンドライフ上でのゼミは、パンダフル島の会議室で行った。この会議室も、研究会のメンバーがつくったものだ。この場所に、ゼミが始まる時間の少し前から、研究会メンバーが集ってきた。この日は補講期間中でほとんど授業がなかったので、それぞれ家にいたり、カフェにいたり、学校で課題をやっていたりした。

 ゼミは、いつものように僕の話のあと、個人研究の進捗報告をそれぞれ行った。僕の話も進捗報告も、チャットで行う。いつもであればサッと終わる報告も、キー入力のスピードに引きずられて結構長い時間かかってしまった。チャットの世界というのは、キー入力のスピードが、コミュニケーション能力を規定する最初の要因になっているのだ。ある意味シビアな世界だ。

 SeminarRoom Seminar1

 その後、輪読に入った。このときの輪読文献は、リチャード・フロリダの『The Rise of Creative Class』の後半部分だ。チャットで輪読発表と議論が進められた。内容的に面白かったのは、創造性と「場所」についての議論だ。フロリダは創造的な活動のために実際の「場所」を重視するが、セカンドライフのような「場」を、僕らはどう捉えていけばいいのか? この点について、ゼミ方法と輪読内容が連動して、面白い議論が展開された。

BookAndHandout 輪読する文献やレジュメについても、形だけだが、セカンドライフ上にも作成しておいた。残念ながら、この本は開いて読むことはできない。参加者は、現実世界で手元にある本物の書籍をめくることになる。輪読レジュメについても、本物のレジュメがテクスチャとして貼られているが、読みづらいので、すでにメールで送られていたレジュメを読むことになる。

 結局3時間ほど、セカンドライフ上でゼミを行ったが、終わったあとは、どっと疲れが出た。参加者はそれぞれにいろんなことを考えたようだ。通常のゼミとは異なる雰囲気と異なるコミュニケーションの連鎖を生み出す。このことについて、いくつか参加者の感想を取り上げてみよう。

- 「みんなが沈黙する場面がなかった。・・・・・発言しやすいという雰囲気はやはりあると思う。」

- 「私は自宅から参加したのですが、自分の部屋だと気持ち的に楽で、思ったことが言えた気がします。」

- 「自分の家からやってたんでリラックスして出来るかなぁと思ったのですが、案外そこまででもなかったです。でも発言がしやすいというのは感じたので、(ブレストみたいな)立場を気にしないほうが効果を生むようなことには向いていると思いました。」

 これらは発言のしやすさという気持ちの問題だが、チャットで会話することの実質的なメリットもある。複数人が同時並行で書くことができるということと、ログが残るということだ。

- 「対面下では二人同時に別々の話題で会話をするということはありえないが、テキストでの会話ならそれも可能になる(発言のタイミングにこだわる必要性が低い)というのも、発言しやすい理由の一つだろう。」

- 「会話のやりとりがチャットで記憶されるため、何を言っていたか確認するのに便利だと感じました。」

SeminarChat しかし、セカンドライフでゼミを行うことの最も重要な点は、単なるチャットと違って、同じ場に「いる」という感覚があるということだ。チャットの場合は、しばらく文字を打っていない人の存在感はどんどん薄れていってしまうが、セカンドライフでは黙っているアバターの姿が見える。しばらく何も操作しないと、アバターはウトウトしだすので、メンバー間で「起きろ~」なんて発言があったりする。このようなヴァーチャルな存在感については、参加者の感想でも指摘されている。

- 「お互いにリアルでは同じ場所にはいないのに、セカンドライフ上では同じ場所にアバターが集まっていて、それが意外と「同じ場所にいる感覚」がするものだなぁ、というのが発見でした。この同じ場所にいる感覚、というのがただのチャットと違うところなんだなぁと思います。」

- 「会話に参加していない人も、アバターによって認識できるという点、そしてその場を共有しているという雰囲気が議論を有意義なものにするのかなと思いました。」

- 「ちょうど今朝、ポリコムのテストで3地点を結んだのですが、同じ画面上にいるという共通点はあるものの、Second Lifeでバーチャルでありながらも同じ場にいるのと、明らかに別の場所にいるのでは、会話をするときの距離感が違うと感じました。(SecondLifeのほうが近く感じて、同じ場にいるという感覚がありました)」

- 「一体のアバターが動くということが多くの可能性をもたらしてくれそうです。インターネットでは個人はあまり見ることができないので。」

 あとは、PCのスペックや通信速度の問題で、動きが粗く、反応も悪かったという感想もあった。それだけでなく、本体が異様に熱くなったりフリーズしてしまったりする人が数名いた。今後、このような場を設けるときには、参加者の参加環境についても意識しておくことが重要だということがわかった。

 このように、実際にセカンドライフ上でのゼミを行ってみると、いろいろなことを感じ、考えることができた。なかなか面白い試みだったと思う。

SeminarScreen


慶應義塾大学 SFC
総合政策学部/環境情報学部/政策・メディア研究科
井庭研究会1「理論と実践の社会研究:社会システム理論を究める」
担当:井庭 崇
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日本初 !? セカンドライフの世界を通したゲスト講演

今学期、僕の授業「コラボレーション技法ワークショップ」では、セカンドライフに関するゲストスピーカー講演を行った(2007年6月19日)。ゲストスピーカーには、千葉 功太郎さんと秋山 剛さんをお迎えしたのだが、この講演が「普通」の講演ではなく、とてもユニークなものだったので、ここで紹介することにしたい。

Collabo-Guest3 この講演のテーマは、「セカンドライフの紹介」と「セカンドライフ上でのモノづくりの方法」について。ゲストスピーカーの千葉さんは、先日各種メディアで話題になった参議院議員の鈴木寛さんのセカンドライフでの試み(日本の国会議員として初めてのセカンドライフ事務所開設や、そこでの演説会)をプロデュースした人だ。実はSFCの卒業生で、僕の昔からの友人でもある。もうひとりの秋山さんは、同じく鈴木寛さんのセカンドライフ事務所などを手がけているモデラーだ。

 セカンドライフとは何か、どのような可能性があるのか、そして、セカンドライフ上ではどのようにモノをつくることができるのか? この授業は2コマ連続開講(90分×2)なので、たっぷりと時間をかけてレクチャーをしてもらった。 履修者のなかには、セカンドライフを知っている人もいたが、知らなかった人がほとんどだった。

 実はこの講演中、二人のゲストスピーカーのうち、実際に教室に来たのは千葉さんだけで、秋山さんは教室には一切顔を出していない。秋山さんは沖縄在住で、この日も沖縄からネットワーク中継で講演をしてもらったのだ。こういう場合、よくあるのは「ポリコム」(Polycom)によって映像・音声の中継をするというものだが、今回はセカンドライフの世界を通して、遠隔講演をしてもらった。秋山さんの姿はセカンドライフ上のアバターとして、そして音声はSkypeを使って中継した。

  Collabo-Guest3 Collabo-Guest2

 セカンドライフでモノをつくるときには、外部のツールで作ったものをヴァーチャル世界に持ち込むのではなく、その世界内でモノをつくる。そして、その作業を、他のアバターが見ることもできる。今回はその仕組みを活かして、アバターによる実演をしてもらいながら、ものづくりの方法について語ってもらったのだ。そのときも、一人でしゃべり続けるというよりも、途中で千葉さんや僕がつっこんだり質問したりというコミュニケーションの連鎖を、履修者が見るというスタイルになった。これはなかなか面白かった。また、秋山さんも、体を張った(アバターの体だが)ギャグで、会場をわかせていた。最初に登場したときには床で倒れ込んでいたし(眠っている振り)、アバターはスターウォーズのStormtrooperの姿なのに頭にキャンディを乗せていたり、いろいろなアバターを着ぐるみを着てみたり、と、ヴァーチャルならではの新しい笑わせ方だった。

 講演を聞いた履修者の感想には、セカンドライフの世界と可能性に触れて「とても面白かった」、「興味深い内容で刺激的だった」、「感動した」というようなものが多かった。それに加えて、今回の実験的な講演スタイルについても刺激を受けてくれたようだ。

item 「本日の講演は非常に刺激的なものでした。まず何よりも、セカンドライフ上のアバターとSkypeの音声を使って授業を行うというスタイル自体が画期的で、大変面白かったです。」(1年生・男)

item 「画面に映っているものを動かしているのが、講演してくださっている方であるということで、どこからともなく親近感が湧き、通常の形態の講演よりも興味深く、そして楽しくお話を聞くことができたように思います。」(1年生・女)

item 「アバターを用いて講演という奇抜なアイデアも、よりセカンドライフの面白さを引き出すと同時に、分かりやすくて全く飽きることなく聞くことが出来た。」(1年生・女)

item 「今までにないもので興味深かったし、新鮮だった。そしてセカンドライフの先進性、創造性というのが全体を通してよく伝わってきた。」(1年生・男)

item 「今までは遠隔講義といえば、別のところで行われている講義が映像で流れてくるだけであったが、SLでの別世界からの(そしてこちらの世界にはいないキャラクターからの)講義は新鮮かつ、なぜか映像講義より、より身近に感じた。これからSLの中にSFC(SL版)をつくり、GCなどはそこから見ることができるようにし、また特別な講義などもそこで行えたら今までより世界中に情報を発信できるかもしれない。世界各国の人と一緒にSFCの講義を受けて一緒にグループワークが行えるようになったらSFCの講義が本当の意味で生きてくると思う。」(2年生・女)


 大学の正規の授業で、セカンドライフを通してアバターで講演をしてもらったのは、初めての試みなのではないだろうか。少なくとも日本においては聞いたことがないと思う(国内外を問わず、先行事例を知っている方がいたら、ぜひ教えてください)。

Collab-Guest1-2慶應義塾大学 SFC
総合政策学部/環境情報学部
創造実践科目:2007年度春学期開講
「コラボレーション技法ワークショップ」
担当:井庭 崇
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パンダフル島 (Pandaful Island)

セカンドライフ上で僕が所有している島は、「パンダフル島」(Pandaful Island)という名前の島だ。

PandafulShape名前の通り「パンダ」をモチーフとした島で、その外観もかわいいパンダの形をしている(島の基本形から、地道に整地してこの形にしたのだ)。なぜパンダなのかというと………それは単にパンダが好きだから(笑)。あと、せっかく島を所有するなら、チャーミングな島がいいと思ったからだ。

パンダフル島のオープンは、8月中旬を目指している。現在、それに向けてミュージアムを建築中だ。あとは、僕の研究会や授業でいろいろな実験を行っている。この島はまだ一般アクセスできない設定になっているので、このブログではいろいろと島の様子・出来事を紹介していきたいと思う。

Pandaful-Scene1Pandaful-Scene2Pandaful-Scene3

"Pandaful" = Location (875, 1010) @ Second Life
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「島」を買いました!

先月、大きな買い物をした。プライベートな「島」を買ったのだ。65平方Kmという、なかなか広い土地。地価が高いので少し迷ったが、思い切って購入してみた。


 この「島」というのは、実は、セカンドライフ上に存在するヴァーチャルな島のこと。セカンドライフでは、島を購入するとそこに建物を建てたり、モノを作ったりすることができるようになる。他の人に権限を与えて、一緒に何かをつくりあげることもできる。この新しい世界で、みんなで遊んでみよう!――― そう思って、セカンドライフの島を購入したのだ。

InitialIsland このヴァーチャルな島は、現実世界のお金を支払って購入する。値段は米ドルで$1,675、日本円に換算すると約20万円だ。これが購入の初期費用で、あとは月々$295、つまり約3万5千円を支払うことになる。正直、結構高い。それでも、僕はこの島の購入に踏み切った。というのは、僕の研究会や授業の学生たちに、「新しい遊び場」を提供したかったからだ。そう思うのには、十数年前の僕の経験が関係している。

 僕はちょうどWorld Wide Web (WWW)の黎明期に、大学時代を過ごした。大学2年のとき(1994年)、Mosaicが登場し、目の前にWWWという未開のフロンティアが広がっていることを知った。まだほとんど何も存在しないその世界で、僕はいろいろなものをつくっては公開していった。例えば、オリジナルの絵本やゲーム、ちょっと実用的なシステムなどだ。そうすると、僕の知らない人たちがたくさん僕のサイトに訪れて、楽しんでいった。感想もたくさんもらった。そして、雑誌にもたびたび紹介された。WWW上にはまだ日本発のコンテンツがほとんどない時代だったから、何をやっても珍しく新しかった。こうやって大学時代の僕は、その「新しい遊び場」で考えて、作って、コミュニケートした。この経験が、今の僕をつくっているといっても過言ではない。

 こういう経験を、僕の後輩たちにも味あわせてあげたい。そう思ってからもう何年も経つのだが、今回セカンドライフに出会ったとき、これだ!と思った。理屈ではなく、直感的に。僕は大学(SFC)が用意してくれたインターネットを使って、たくさん遊ばせてもらった。今度は僕が、学生のみんなのために場を提供しよう。そう思ったのが、今回セカンドライフに島を買った理由なのだ。InitialIslandSnapshot

 購入後1週間ほどで、更地の島が手渡される。ほんとに何もない土地。ここに何でも自由に構築できる。

 何でも自由に―――こういうとき僕はいつも、アラン・ケイの言葉を思い出す。

「コンピュータに実行可能なシミュレーションを制約するのは、人間の想像力の限界だけである。」(Alan Kay, 1977)

そういえば、セカンドライフのキャッチコピーも、「Your World. Your Imagination.」だったね。まさに。


* Alan Kay (1977): "Microelectronics and the Personal Computer", Scientific American, September 1977, pp.231-244 (アラン・ケイ, 「マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ」, 『アラン・ケイ』, アスキー出版局, 1992, p.61-91)
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ヴァーチャル世界「セカンドライフ」

secondlife-title.jpg 「Second Life」(セカンドライフ)という言葉を聞いたことがあるだろうか。Second Lifeとは、米国リンデンラボ社が提供する3Dヴァーチャル世界のこと。そのヴァーチャル世界では、ユーザーは自分で好きなように「生活」することができる。この世界では、いわゆるオンラインRPG (Role Playing Game)とは違って、敵を倒したり目的を達成するというようなゲーム設定は存在しない。いうなれば、ただヴァーチャルな場が提供されているにすぎない。しかし、海外ではかなりのユーザーが参加していて、いろいろ面白いことが起こっている。そして、日本でも徐々に話題になり始めたところだ。
 このSecond Life上で、僕も最近、井庭研のメンバーといろいろ遊んでいる。そこでの面白い話がいろいろあるのだけど、まずはSecond Lifeがどんな世界なのかを紹介することにしたい。
 僕が思うに、Second Lifeには、「自由度の高さ」、「新しい経済圏の創出」、「モノづくりと世界構築」という特徴がある。

Second Lifeの特徴(1) 自由度の高さ
 Second Lifeの世界では、すでにいろいろな企業や個人が魅力的な島を作っているので、その場所に遊びに行くことができる。そこで、近くにいる人と話す(チャットする)ことができ、また、いろいろなジェスチャで感情を表現することもできる。友達リストに登録してあれば、場所が離れていてもインスタントメッセンジャーでコミュニケーションもできる。経済活動をして儲けることもできるし、モノをつくることもできる。このように、Second Lifeの世界では、行動の自由度がかなり高い。本当に人それぞれのLife=人生/生活を送ることができるというわけだ。

Second Lifeの特徴(2) 新しい経済圏の創出
 Second Lifeの世界では、経済取引ができる。ここでの通貨は、「リンデンドル」(L$)という単位。物を売ったり、物を買ったりできるだけでなく、Second Life内でアルバイトをすることもできる。例えば、ラーメン屋で働いたり、用意された洋服を着て立っているモデルのバイトや、集客を気にするサイトでただ座っているだけのバイトというのもある。もちろん、実際に何かのモノや建物を作ることができればそれを売ることも出来る。
 これまでにも、オンラインRPGなどで経済取引が行われていたが、Second Lifeがユニークなのは、このヴァーチャル通貨であるリンデンドルが現実世界のアメリカドルと換金できるということだ。つまり、外国為替のように、アメリカドルを払って、リンデンドルを買うことが出来るし、逆にリンデンドルでアメリカドルを買うことも出来るのだ。なので、このSecond Life上で儲けるということが、ユーザーにも可能だということになる。すでにアメリカでは、1億円稼いだという人もいるらしい。なんとも、すごいことだ。

Second Lifeの特徴(3) モノづくりと世界構築
 Second Lifeの世界では、権限がある人(土地を所有する人 or 土地の所有者から許可された人)であれば、オブジェクト(モノ)をつくることができる。作り方は、いわゆる3Dモデリングをしていく。「プリム」(プリミティブの略)といわれる基本的な形を変形させたり組み合わせたりしながら、つくりたいオブジェクトをつくっていくのだ。
 このオブジェクト生成は、Second Lifeの世界の中で行うというのもユニークだ。外部のモデリングツールでモノを作ってからそれを世界に配置するというのではなく、その世界のなかで、モノをつくっていく。なので、あるアバターがオブジェクトをつくっているところを、他のアバターが見ることができる。これによって、チャットで相談しながら、一緒につくるということが可能になるわけだ。

secondlife-world1.jpg 興味深いのは、Second Lifeを提供しているリンデンラボ社はその世界にほとんど何もつくっていないということ。彼らが提供しているのは、基本的には何もない土地だ。そこに魅力的な建物を作っているのは、ユーザーたち(企業も含む)なのだ。それはとてもWeb2.0的な出来事だといえるだろう。
 リンデンラボ社は、サーバービジネスのようなものなので、何らかのリソースを使うようなことをするには、お金がかかる仕組みになっている。例えば、土地を所有したり、画像(テクスチャ)をアップロードするなどだ。自分で土地を所有しない一般ユーザーであれば、無料で十分楽しむことができる。

secondlife-world2.jpg そもそも、目的のない仮想世界なんて、そんなに面白いのかな? と初めは思うかもしれないけれど、意外とハマる、というのが僕の実感。いろいろな場所を旅しながら写真を撮っておくことができるのだけど、それが現実世界での経験と同様に、とても思い出深い写真に思えてくるのが、なんとも不思議だ。自分でモノをつくったりすると、世界に対する愛着はますます強まる。
 まずは騙されたと思って、この世界に足を踏み入れてみてはどうだろうか? でも、ファーストライフに戻ってこれなくならないように、ご注意を!(笑)

■Second Lifeホームページ
http://www.secondlife.com/
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