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11.ネットワークには、アバンダンス(豊かさ)がにあう。
希少性の原則にこだわるかぎり、ネットワークは理解できない。ネットワークには、『よいもの(goods)はたくさんある』というアバンダンス(豊かさ)の認識が必要である。その認識が理解されるとき、そのよいものを媒介にして、すべての人々が相互に共有したり公開して、よいものを「よりよいもの」にしようとする関係がネットワークのなかで生成される。こうして、よいものは、公開されてさらに多くの人々に共有され、そして、さらによりよいものへと変換されていく。
情報の公開と共有が、よいものをさらに多くの人にもたらし、しかもよりよいものを創造する、という関係が生成される。これが、ネットワークにおけるアバンダンスの原則である。情報の秘匿と所有は、「もの」の希少性を前提とする貧しい世界では、基本原則にならざるをえなかったが、ネットワークの世界では、そのような原則は放棄されなければならない。ネットワークの世界では、希少性は無意味なコンセプトである。
よいものはたくさんある、というアバンダンス(豊かさ)の原則が生きるには、情報の公開と共有が不可欠である。よりよいものを、自分ひとりではなく、みんなに公開して、みんなとのコラボレーションをとおして創造していこう、という考え方が必要である。
そもそも情報は、その本質において、所有する価値がない。「もの」が、その所有する主体から離れた瞬間、その主体のもとには存在しえない特性をもつのにたいして、情報にはそのような性質はない。「もの」は、他人にあげれば、すでに自分のものではないが、情報は、いくらしゃべっても、自分の頭から消えることはない。「もの」が基本的に所有されることに価値をもつのにたいして、情報はすべての人に共有されることに価値をもつ。「もの」は、それを所有する人によって、その価値が強く規定されるけれど、それとは対照的に、情報は、それを共有する関係によって、その価値が規定される。しかも共有する規模が大きくなり、情報公開が徹底されるほど、またそれによって、情報それ自体の再創造が生成される過程によって、情報の価値はますます増大する。このように、情報は、その本来的な特性において、希少性・秘匿・所有を排除し、創造性・公開・共有を自明とする。これが、アバンダンス(豊かさ)の原則を支えるのである。
ネットワークでは、情報は、公開と共有によって、無限に新しい情報へとつねに創造されていく。この創造プロセスが、よいものは無限にある、という豊かな社会をうみだすのである。ここでの豊かな社会は、ものにあふれる、という50年代の社会的な意味を超えて、ここにおいてはじめて、ネットワークでの情報の基本原則(アバンダンス)によって、まったく新しい社会の構成原理として再構築されるのである。
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