ネットワークはねむらない
 
1. ネットワーク、まずはリンクが大切
2. ネットワークは、ねむらない
3. ネットワークは、身体に装着される
4. ネットワークは、境界を無視する
5. ネットワークは、グローバル・シチズンを求める
6. ネットワークは、情報発信をしない
7. ネットワークは、情報所有を求めない
8. ネットワークは、ボランティアを求める
9. ネットワークは、ポップメディアだ(自由の参加)
10. ネットワークは、ポップメディアだ(編集の参加)
11. ネットワークには、アバンダス(豊かさ)がにあう
12. ネットワークは、既存のコミュニケーション論では解けない
13. ネットワークは、匿名性(マス)を嫌う
14. ネットワークは、マッチングが命
15. ネットワークは、無数の物語をつくりだす
16. ネットワークは、信頼関係の根拠を自己責任に求める
17. ネットワークは、個人をかえる
18. ネットワークは、コミュニケーションのモードを多様化する
19. ネットワークは、行動ではなく、情報の論理に生きる
20. ネットワークは、エイジェントによって自己の拡張をもたらす
21. 携帯家族のすすめ
22. 新しい家族の絆---幻想から構造へ--
23. 専業主婦は、もういない
24. 恋愛の絆では、ネットワークを維持できない
25. 第3の絆、友情で家族は生成できるのか?
11.ネットワークには、アバンダンス(豊かさ)がにあう。

希少性の原則にこだわるかぎり、ネットワークは理解できない。ネットワークには、『よいもの(goods)はたくさんある』というアバンダンス(豊かさ)の認識が必要である。その認識が理解されるとき、そのよいものを媒介にして、すべての人々が相互に共有したり公開して、よいものを「よりよいもの」にしようとする関係がネットワークのなかで生成される。こうして、よいものは、公開されてさらに多くの人々に共有され、そして、さらによりよいものへと変換されていく。

情報の公開と共有が、よいものをさらに多くの人にもたらし、しかもよりよいものを創造する、という関係が生成される。これが、ネットワークにおけるアバンダンスの原則である。情報の秘匿と所有は、「もの」の希少性を前提とする貧しい世界では、基本原則にならざるをえなかったが、ネットワークの世界では、そのような原則は放棄されなければならない。ネットワークの世界では、希少性は無意味なコンセプトである。

よいものはたくさんある、というアバンダンス(豊かさ)の原則が生きるには、情報の公開と共有が不可欠である。よりよいものを、自分ひとりではなく、みんなに公開して、みんなとのコラボレーションをとおして創造していこう、という考え方が必要である。

そもそも情報は、その本質において、所有する価値がない。「もの」が、その所有する主体から離れた瞬間、その主体のもとには存在しえない特性をもつのにたいして、情報にはそのような性質はない。「もの」は、他人にあげれば、すでに自分のものではないが、情報は、いくらしゃべっても、自分の頭から消えることはない。「もの」が基本的に所有されることに価値をもつのにたいして、情報はすべての人に共有されることに価値をもつ。「もの」は、それを所有する人によって、その価値が強く規定されるけれど、それとは対照的に、情報は、それを共有する関係によって、その価値が規定される。しかも共有する規模が大きくなり、情報公開が徹底されるほど、またそれによって、情報それ自体の再創造が生成される過程によって、情報の価値はますます増大する。このように、情報は、その本来的な特性において、希少性・秘匿・所有を排除し、創造性・公開・共有を自明とする。これが、アバンダンス(豊かさ)の原則を支えるのである。

ネットワークでは、情報は、公開と共有によって、無限に新しい情報へとつねに創造されていく。この創造プロセスが、よいものは無限にある、という豊かな社会をうみだすのである。ここでの豊かな社会は、ものにあふれる、という50年代の社会的な意味を超えて、ここにおいてはじめて、ネットワークでの情報の基本原則(アバンダンス)によって、まったく新しい社会の構成原理として再構築されるのである。