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20.ネットワークは、エイジェントによって自己の拡張をもたらす。
ネットワークには、エイジェントという考えがある。サーチエンジンを活用して、自分の知りたいことをネットワークの中を探索するとき、自分ではなく、その代理人が世界中を走り回り、知りたい答えをもってきてくれる。その代理人がエイジェントである。ネットワークにおける探索と支援の考えを実現するには、エイジェントという考え方が不可欠である。
エイジェントは、ネットワーク環境における自分(僕)である。身体をもった自分は、ネットワークの中を走ることはできない。だからその代わりが必要になる。エイジェントは、ネットワーク社会では、身体としての自分よりも、自分そのもの(新しい僕)になる。その意味からすると、生身の自分は、「ネットワークの中のエイジェント」のエイジェントでしかない。つまり新しいネットワークの世界では、本物の自分は、ネットワークの中の自分であり、生身の自分はその分身でしなかい、という逆転が起こる。
もちろん、どちらが本物なのか、あるいはどちらがエイジェント(代理人)なのか、という論議はほとんど意味がない。結論はどちらでもいい。生身の自分もネットワークの中のエイジェントも、ともに同じ自分そのものだ、という認識が肝心である。多様な自分をリアルな自分として納得できるか、それが問題である。どちらかの自分にしかリアリティを確定することができず、他方の自分に、フェイクの自分を想定することで、ひとつの自分に統合感をもたせよう(これが、アイデンティティ)とするかぎり、ネットワークのエイジェントは、その人にとっては、どこまでもフェイクな代理人でしかないのだろう。
しかし、そうではないのだ。エイジェントは、拡張された自分である。行動に制約された自分は、あまりにも狭い自分でしかない。エイジェントを内包させた自分は、ネットワークの中のすべての情報を活用可能なデータベースとして利用する能力をもった個人なので、ここではネットワーク環境そのものが拡張された自己となる。つまり環境はすでに自分の内部に取りこめられた世界であり、その世界がどのようなエイジェントによって探索されているかによって、その個人の個性が決定されてくるのである。ネットワークでは、自分の個性は、エイジェントによって、さらに多様な個性をもつのである。
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