アメリカ太平洋軍の研究

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土屋大洋編著『アメリカ太平洋軍の研究―インド・太平洋の安全保障―』千倉書房、2018年7月17日。

 5年前にはまったくこんな本に関わることになるとは思っていなかったわけですが、2014年春から1年間、ハワイに研究休暇に行ったために、2015年から太平洋軍の研究を続けてきました。再校ゲラが終わったところで突然太平洋軍が「インド・太平洋軍」に変わってしまい、慌てましたが、本のタイトルは「太平洋軍」のままにしました。

 「インド太平洋」か「インド・太平洋」かも悩みました。通常は「・」なしだと思いますが、インド洋沿岸の国々と太平洋沿岸の国々という意味であえて「・」を入れました。が、いまだにそれで良かったのか悩みます。

 この本ができるまでにはたくさんの方々にお世話になりました。まだ店頭には並んでいませんが、amazonでは予約注文を受け付けています。共著者の名前がちゃんと出ていないので、ここでお知らせしておきます。

はじめに 大塚海夫(防衛省情報本部長、海将)

第1章 米国統合軍の組織と歴史 土屋大洋(慶應義塾大学教授)

第2章 太平洋軍を必要とする米国の論拠 デニー・ロイ(イーストウエストセンター上級フェロー)

第3章 ハワイと太平洋軍 梶原みずほ(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート客員所員)

第4章 国防総省と太平洋軍 デニー・ロイ

第5章 自衛隊と太平洋軍 中村進(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート上席客員所員)

第6章 朝鮮半島と太平洋軍 西野純也(慶應義塾大学教授)

第7章 中国と太平洋軍 小谷哲男(明海大学准教授)

第8章 台湾と太平洋軍 田中靖人(産経新聞社台北支局長)

第9章 統合作戦と太平洋軍 森聡(法政大学教授)

終章 「太平洋軍」から「インド・太平洋軍」へ 土屋大洋

ハリー・ハリス太平洋軍司令官演説

あとがき 土屋大洋

 いつもながら、編集をしてくださったのは神谷竜介さんです。装丁は米谷豪さんです。ありがとうございます。

EWCで小さなシンポジウム

 2014年から15年にかけてハワイのイーストウエストセンター(EWC)に客員研究員として置いてもらい、それはそれで充実した研究の時間をもらえて良かったのだけど、新しい研究テーマとして太平洋軍(PACOM)を見つけて来た。

 それから年に一、二度、ハワイに通い、太平洋軍の研究プロジェクトを行ってきた。その一環として、8月22日に小さなシンポジウムをEWCで実施させてもらった。

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 キーノートは元太平洋艦隊司令官のAdm. R.J. ”Zap” Zlatoperで、率直にPACOMについて教えてくださった。日本からは元海上自衛隊の中村進さん、日本国際問題研究所の小谷哲男さん、慶應法学部の西野純也さんに来てもらった。

 アメリカ側からは他におなじみのBrad Glossermanさん(もうすぐ日本で仕事を始めるそうだ)、朝鮮半島の専門家のKevin Shepardさん、プロジェクトのメンバーのEWCのDenny Royさんが参加してくれた。

 三澤康ホノルル総領事とRichard Vuylsteke EWC所長もご挨拶をしてくださった。

 PACOMの現役の軍人も参加してくれて、小さいながらも良いシンポジウムだった。アジェンダはこちら

 ところで、この翌日、PACOMを訪問して意見交換をする機会をいただいたのだが、帰り道、高速道路でタイヤがパンクするというアクシデント。運転中に何か変な音がするなと思ったら急にガタガタガターと音がして慌てて路肩に止める。右前輪のゴムの部分が完全に外れて、高速道路の後ろのほうに転がっている。後続の車がよけながら走っていて危ない。初めての経験でオロオロしてしまったが、ハイウェイパトロールのおじさんがやってきて、あっという間に直してくれた。誰もけがをしなかったので良かった。

 2014年の滞在中、パリ・ハイウェイを走っていたら2台前の車が、対向車と正面衝突し、炎上するという事故も見たことがある。ハワイの運転はよくよく気をつけないと。

ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで:太平洋軍の研究プロジェクト

 ハワイに行くたびに遊びに行っているんだろうとご批判をいただくが、昨年出した『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房)の前書きで書いたとおり、米国の太平洋軍(PACOM)に関心を持ってきた。太平洋軍はアジア太平洋全域を管轄している。「ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで」と言われるように、米国西海岸からインド洋まで、そして北極海から南極大陸沿岸までの広大な地域を管轄としている。そして、その司令部がハワイにある。その管轄範囲には日本や朝鮮半島、台湾も含まれており、東アジアの有事の際に使われる「米軍」とは太平洋軍のことに他ならない。

 ハワイに1年間いたとき、もし米中開戦ということになれば、かつての日本帝国海軍のように、中国人民解放軍もハワイをたたくだろうと確信めいた感覚を何度も得た。それぐらい、ハワイは軍事的な拠点として重要である。その感覚を共有する人は他にもいるようで、P・W・シンガーとオーガスト・コールが書いた『中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上・下)』(二見文庫、2016年)では、サイバー攻撃を駆使して人民解放軍がハワイを占領してしまう。ハワイの土地勘が多少ある身としては、ああ、あそこかあ、と思うシーンがたくさんあった。サイバーセキュリティに関心のある方々には必読の小説である。

 昨年度から、慶應の「スーパーグローバル大学創成支援」事業の一環として「アジア太平洋地域の安全保障体制」というプロジェクトを動かしてきた。太平洋軍を研究するためのプロジェクトである。その1年目の成果を以下にまとめた。

http://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/pacom/

 いずれこのページは正式な慶應の事業ページの下に移されると思うが、そちらができるまでの一時的なものとして作っておく。そのときにはもっとファンシーなデザインになるはずだが、今は必要最低限だけ。ハワイにあるイースト・ウエスト・センターのデニー・ロイさんと私のワーキングペーパーも載せた。ワーキングペーパーなので、まだまだクオリティの高い論文にはなっていない段階だが、ひとまず1年目の成果として掲載してある。

 なぜこんなに太平洋軍についての研究が少ないのかと思っていたが、やってみると、資料が限られている上に、太平洋軍そのものへのアクセスが厳しいことが原因だと気づかされた。ウェブ上にはそれなりに英語の資料があるが、行間を読まないと理解しにくい。行間を読むために現場の人たちの話を聞こうとしても、なかなか会うことができない。ワシントンDCでは人と会って情報交換するのが当たり前の文化だが、軍隊相手ではそうはいかない。ハワイの人はたいていフレンドリーだが、基地の中にいる軍人たちに会うのはとても難しい。まして、私は民間人であり、外国人でもあるから、彼らにとっては私と会うことにメリットはなく、むしろリスクでもある。ハワイでも日本でもいろいろな方々が支援してくださっているが、なかなかまとまった成果にはつながらない。

 とはいえ、飽きっぽい私としては、サイバーセキュリティ以外にもテーマを抱えておくことは重要なリサーチ・ハックでもある。サイバーセキュリティ、海底ケーブル、太平洋軍の三つが今のところの研究課題である。どこか一つで行き詰まったときに、一時的に別のテーマに切り替えておくと道が開けることがある。とはいえ、二兎ならぬ三兎を追うことでリソースが分散し、どれも成果が出ないことにもなりかねない。三つのテーマは緩やかにはつながっているので、うまく関連づけることだろう。

 太平洋軍については、今秋のSFCのオープンリサーチフォーラム(ORF)で、できれば公開シンポをやりたい。今年度もそのうちにハワイに行くことになると思うが、遊びに行くのではない。サーフィンは一度もしたことがない。