日本国際政治学会

 最近、学会発表ばかり。昨日は札幌で開かれた日本国際政治学会2010年度研究大会で発表。

土屋大洋「米国におけるサイバーセキュリティ 対策の進展とその背景」日本国際政治学会2010年度研究大会、札幌コンベンションセンター、2010年10月30日。

 なぜか発表者は私一人で、コメンテーター二人というさびしいセッションだったが、フロアも含めてたくさんコメントと質問をいただけた。感謝。これを次に活かして論文にする。

 久しぶりにお会いする先生方とお話しできたのも良かった。

 29日夕方の中国政治のセッションも聞いていておもしろかった。だんだん中国政治の専門家たちの言葉遣いが分かるようになってきた。

 帰路は台風とぶつかって飛行機が飛ばないのではと焦ったが、実際はたいしたことなく変えることができた。

アジア政経学会

 今日の午前中はアジア政経学会の2010年度全国大会へ。同僚の加茂さんとともに発表。

加茂具樹、土屋大洋「現代中国地方政治における人民代表大会:政治的『つながり』の可視化の試み」アジア政経学会の2010年度全国大会、東京大学駒場キャンパス、2010年10月24日。

発表は全部加茂さんがやってくれて、私は質疑応答だけ。先日の台湾での発表と同じ内容。

質問を聞きながら、新しい手法を使うことの難しさを再確認したが、やって良かった。

同じセッションで発表されたのは大阪大学の坂井田夕起子先生の「文化冷戦と中国仏教:第二回世界仏教徒会議東京大会をめぐって」というもので、仏教外交というテーマにびっくりした。おもしろかった。

Googleからオバマ候補への献金

 Googleと中国の問題についてカナダで議論していたとき、Googleはオバマ政権に多額の献金をしているという話が出た。

 こういうときにはopenscrets.orgである。確かに出ていた。

http://www.opensecrets.org/pres08/contrib.php?cycle=2008&cid=N00009638

20101024070938j:image

 2008年の大統領選挙におけるオバマ候補への組織別献金者で5位になっている。金額は$803,436(約6,500万円)。規制があるのでGoogleが会社としてポンと出したのではなく、個人やPAC(政治活動委員会)などを通じて小口で献金されたものをopensecrets.orgが集計したもの。マイクロソフトよりちょっと少ない。

 この献金があったから、Googleが中国とやり合ったとき、国務省が強くバックアップしてくれたのだろうという解釈がカナダで出ていた。Googleにとっては割に合うものだったのかどうか。

 しかし、カリフォルニア大学やハーバード大学は何やってるんだろうね。もちろん、OBが少しずつ出しているのだろうけど、大企業に並ぶ献金額になるというのも不思議だ。

「未来のインターネット」プロジェクト最終報告ワークショップ

http://www.internetfutures.eu/?p=187

 昨年から続けてきた「未来のインターネット」プロジェクトの最終報告ワークショップが11月22日にブリュッセルで開かれます。

 あいにく私はSFCのORFが重なっていて行けません。全くもって残念。

 報告書のドラフトはすでに完成していて、欧州委員会に提出済みです。以下からダウンロードできます。

http://www.internetfutures.eu/?p=194

CASISで発表

 CASIS一日目の夜は午前2時まで発表の準備をする。時差ぼけなのは間違いないが、眠いのか眠くないのか分からないまま、とにかく翌朝11時に発表しなくてはいけないのだから仕方がない。結局、直前まで準備している自分が情けない。これでは学生と同じだ。

 眠りが浅いまま朝になり、6時に起きてパッキング。少しプレゼンの修正をしてからチェックアウト。8時20分に会場に入ってパンをほおばり、8時30分からの基調講演を聴く。講演は海軍のリア・アドミラル(少将?)。インテリジェンスと海軍の関係について。

 9時からは一番注目していたサイバーセキュリティのセッション。なんと登壇予定だったロシア人がカナダ入国を拒否されてしまったらしい! そんなことがまだ起こるんだね。ゴーストネットの著者の一人であるラファル・ロージンスキーが司会。イギリスのチャタムハウスに行っているアメリカ人、ベル・カナダの人、カナダ国防省の人がパネル・ディスカッション。あまり頭に入らないが、中国とロシアの動向がやはり議論されている。

 11時からは自分のパネル。なんだかよく分からないことが起きていて、最初のプログラムでは二つのパネルが別の部屋で同時並行で行われる予定で、私の部屋や小さいほうだったのだが、もう一つのパネルが取り消しになったようた。そのため、一番大きな部屋で一つだけやることになった。その上、私のパネルには私を含めて二人しか発表者がいなく、二人の発表の内容は全然関係ない。私は日本のサイバーセキュリティ政策で、もう一人はボスニアを事例にしたインテリジェンスのデータベース管理の話。パネルのタイトルは「民間とインテリジェンスの協力」という変なものになっている。

 司会者は「パネルのタイトルは忘れてくれ」という言葉で始め、私が最初にプレゼン。90分で二人なので30分使って良いという寛大なもの。たぶんちょうど30分ぐらいで終える。準備不足だった割に笑いもとれたし、楽しんでもらえたらしい。ジュネーブで発表したときよりも大きな部屋で、今までで聴衆が一番多かった気がする。

 もう一人は時間に余裕があると思ったのか、割り当ての30分を超えて延々と45分ぐらい話し続けた。それも小さな文字が並ぶプレゼンなので良く頭に入らない。ランチ直前ということもあり、質問もなくパネルは終わってしまった。難しい質問が出たらどうしようと心配していたけど、逆に残念だった。寝不足のせいか、ストレスのせいか、終わってから締め付けられるように腹が痛くなった。

 終了後に何人か声をかけてくれて、前のパネルに出ていたチャタムハウスの人とは共通の友人がいることが分かってびっくり。村井純学部長とも知り合いとのことだった。やはり世界は狭い。彼と一緒にご飯を食べていたら隣に座っていたカナダ政府の分析官も声をかけてくれた。なんと彼は大学ではイタリア文学を勉強して、バチカンの図書館で資料を見たとか。インテリジェンスはやはり不思議な世界だ。

 休憩時間に展示を見ながらぶらぶらしていたら、「おもしろかったよ」とさらに何人か声をかけてくれてうれしい。カナダのNSAにあたるCSEC(Canada’s National Cryptologic Agency)もブースを出している。昨年はエニグマを出していたが、今年は初めて展示という何かよく分からない暗号機を出していた。片付け中で詳しく話を聞けなかったのが残念。

 その後、エネルギー政策とインテリジェンスのパネル、最後に「Puzzles, Problems, and Messes」と題したインテリジェンス分析のパネルを聞いて終わり。タクシーに乗ってそのまま空港に向かう。それなりに充実した楽しい二日間だった。

 夜の飛行機に乗っても東京便はないのだが、トロントに飛んで5年ぶりに会う友人宅で一泊。久しぶりによく眠る。閑静な住宅街でプール付き。家族4人暮らしで車は2台。ゲスト用の部屋ももちろん完備。日本に長く住んでいた夫婦(子供2人は東京生まれ)は日本の食事が懐かしくて仕方ないそうだが、住環境はこっちのほうがよく見える(もっとも冬はどっかり雪が降るらしい)。日本から直行便もあるし、トロント大学にポジションはないかなあ。

トロント18

 今回のCASISでびっくりしたことの一つが、カナダのトロントで起きた「トロント18」というテロ未遂事件。恥ずかしながら知らなかった。

 トロントはカナダのニューヨークみたいなところで、金融機関や企業の本社が集中している大都市である。ここで中東系の若い「ホームグロウン・テロリスト」が出てきて、爆弾テロをしようとしたらしい。

 事前にこれを察知したカナダのインテリジェンス機関がおとり捜査を行い、二人の捜査員を一味の中に潜入させ、一網打尽にしたそうだ。驚いたことにその潜入捜査に参加した捜査員がCASISにやってきてパネル討議に参加してしまった。もう一人の捜査員はまだ顔を公開していないそうだが、彼はトロント18のグループの活動を詳細に話してくれた。

 顛末を聞くと9.11のアル・カイダと比べるとお粗末な感じもするが、ヨーロッパでよく見られるようになった「ホームグロウン・ラディカライゼーション」が起きたことはカナダにとってショックだったようだ。中東で生まれた子供たちが幼いうちに西欧社会にやってきてストレスを抱え、インターネットやモスクで感化されて「聖戦」に参加するという筋書きそのままである。

 インターネットも想定以上に活用されているようで、もっとここは調べたほうが良いなと感じた。

ロバート・ジャービス@CASIS

 昨年参加しておもしろかったので、またカナダの首都オタワで開かれているCASIS(Canadian Association for Security and Intelligence Studies)に来ている。よせばいいのに今回は発表することになっているので、うわの空で他の発表に集中できない。

 CASISは一見すると学会のようだが、カナダのインテリジェンス・コミュニティの全面的な協力を得ているため、役人や企業人の参加も多い。また、米国や英国と密接なつながりをもちながら、中立的なイメージもあるので、米英はじめ西側各国からの参加者も多い。しかし、アジアや中東からの参加者はあまりいない。

 今年の基調講演は、ニューヨークのコロンビア大学のロバート・ジャービス教授である。確かに国際政治学者なのだが、インテリジェンスをやっている印象はなかった。ところが、今年になってWhy Intelligence Failsという本を出していたのだ。知らなかった。基調講演の中身は、社会科学の手法がインテリジェンスに貢献できるかというもの。なぜイラク戦争でインテリジェンスは失敗したのか、社会科学者だったらどう分析したかを論じている。

 一般的にはイラク戦争では「インテリジェンスの政治化」が起きたとされている。ブッシュ政権が望む結果をインテリジェンス機関が出してしまったというわけだ。経験を積んだ社会科学者なら、蓄積してきた知見と照らし合わせて何かおかしな事実が出てきたとき、それに集中して取り組む。その事実が何らかのエラーなのか、新しい仮説の導出が必要なのか検討し、一つの事実だけで結論を出したりはしない。インテリジェンス機関が集める秘密情報はバラバラの点でしかない。それをつなぎ合わせるには社会科学的な分析手法が役に立つはずだというわけだ。

 それはその通りなのだが、しかし、インテリジェンス機関の分析官がやっていることも同じなのではないだろうか。彼らも政治家がちょっと介入したぐらいでは自分の分析を変えたりはしないだろう。社会科学者と同じくらいの情熱で対象を分析しているのではないだろうか。そうすると、分析官と政治家の間のコミュニケーションが問題なのではないかという気がする。

 いずれにせよ、ジャービスの話を聞きながら思ったのは、社会科学者には蓄積がものをいうということ。自然科学の世界では30歳前後で大きな発見をすることが多いが、社会科学者は年齢を重ねてから偉業を成し遂げることが多い。30歳前後の社会科学者は元気だが、経験が足りないことが多く、長老の一言でつぶされてしまうこともある。

 ジャービスは政府の内部情報にいろいろ接しているようだった。それは彼が長く活躍する著名な国際政治学者であることもあるが、彼の弟子の多くがそういう世界で働いているせいでもあるようだ。優秀な先生のところには優秀な学生が集まり、卒業してから彼らが先生に新鮮な情報を運んでくれる。こういう好循環が先生の知的生活をより豊かにする。研究と教育はここでも密接に結びついているのだ。教育活動もしっかりがんばろう。