第1感

 ゴールデンウィークが終わってからようやく調子が出てきたなあと思っていたら、その分、忙しくなってきて、もう息切れ気味になっている。

 週末になって気分転換がしたくなり、読んでいなかったマルコム・グラッドウェルの『ティッピング・ポイント(The Tipping Point)』と『第1感(blink)』を続けて読む。アメリカにいるとき、『Outliers』がベストセラーになっていて(翻訳のタイトルは『天才!』らしい。注文したけどまだ届いていない)、audible.comからダウンロードした朗読版を聞いていた。『Outliers』のおかげで『ティッピング・ポイント』も『第1感』もアメリカの本屋で平積みになっていたので、読みたいなあと思っていた。

 『ティッピング・ポイント』のtipとは傾くこと。物事が一気に傾くところがティッピング・ポイント。創発(emergence)の概念と似ている(たぶん同じだ)。バラバシやワッツが紹介するネットワーク理論の考え方も入っている。インフルエンザが騒がれている今の時期に読むとちょっとおもしろい。きっとコネクターと呼ばれるばらまき屋がウイルスを広めているのだろう。潜伏期間があることを考えると、コネクターが飛行機に乗って世界中を飛び回るのを止めるのは不可能だ。

 『第1感』の最初に出てくるクーロス像と愛情ラボのエピソードはどこかで読んだ気がした。書いてありそうな本を30分ほどあさってみたが見つからない。どこだったかなあと考えたら、ある講演会で紹介されていたのだった。講演会の資料をひっくり返したら書いてあった。私の第1感はいまいち切れが悪い。しかし、「なんとなく」が第1感では重要だ。第1感のアイデアはスロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』に近いが、『第1感』では専門家の能力により力点が置かれている。

 同じようなアイデアが創発して、大きな流れを作り出している気がする。インターネットが出てこなければこれだけネットワークへの注目は高まらなかったかもしれないが、ネットワークの概念はインターネットにとどまらない。

 次は何を読もうかと思いながらスケジュール表をちらっと見ると、これから2週間はメチャクチャ忙しそうだ。業績につながらない締切が少なくとも6つある。授業もある。ICPCもある。第1感じゃなくても危険なことが分かる。

ICPC

2004年から秘密結社のように開かれてきたICPCですが(別に秘密じゃありませんが)、今年もやります。まだプログラムが固まっていません。もうすぐ固まると思います。

http://www.icpc.gr.jp/meetings/200905.html

春の会合はどなたでも参加しやすいように都内でやるようにしています。ご興味のある方はウェブから申し込んでください。今回は慶應の三田キャンパスで開催です。

http://www.icpc.gr.jp/meetings/200905form.html

「狂ったモクバ工科大学」と『日本のヒップホップ』

MITの友人のイアン・コンドリーからイベント告知のお知らせをもらった。MITから学生が来て「ライブアクションアニメ」を披露する。イアンの本の翻訳も完成したので、その関連イベントもある。「モクバ工科大学」というのはMITのもじりなのだろう。

イアンに直接メールするのが面倒な方は私にメールください。

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マサチューセッツ工科大学の助教授イアン・コンドリーです。どうもお世話様です。

東京で行うアニメパフォーマンスイベント (5月29日、30日)とジャパニーズヒップホッップのパネルディスカション (6月6日)の告知をさせてください。

また私の本、『日本のヒップホップ』の日本語版が出版されましたので、ご案内いたします。

http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001949

MIT Dance Theater Ensemble presents:

“LIVE ACTION ANIME 2009: MADNESS AT MOKUBA”

マサチューセッツ工科大学ダンスシアターアンサンブルの演劇

「ライブアクションアニメ09年:狂ったモクバ工科大学」

場所:東京芸術大学北千住キャンパス第七ホール

足立区千住1-25-1

JR・地下鉄等北千住駅下車徒歩5分

http://www.geidai.ac.jp/access/senju.html

日時:5月29(金) 5月30日(土)@ 19:00

入場料無料

問い合わせ電話:050-5525-2751(担当:毛利嘉孝)

「ライブアクションアニメ」とは、MITの学生がアクターで、僕がシナリオを書いた、現実とアニメの世界をリミックスしたパフォーマンスです。監督はMITの教授のThomas DeFrantz。ダンスや台詞、コスプレが入り混じった、ユニークで実験的なプロジェクトです。巨大ロボット、死神、浪人、ゲームヲタなどのようなキャラクターが総出演。主人公はジャパニーズスクールガールの制服を着てるアメリカ人。舞台は虚構のアメリカのモクバ工科大学。全部で1時間弱のミステリーです。台詞は英語ですが、日本語の字幕が付きます。老人から子供までが楽しめるダンス演劇です。土曜日のパフォーマンスの後、芸大で懇親パーティーも予定しています。

入場料は無料です。予約は不要ですが、席の予約をしたい方は僕にメールをお願いします。金曜日か土曜日か希望曜日、人数をメールでご指定ください。mailto: condry at mit.edu

早稲田大学

6月6日@18:00〜20:00

パネルディスカション

「日本のヒップホップ:文化グロバリゼションの<現場>」コンドリー(著)(2009、NTT出版)についての対談

私が英語で書いた本「Hip-Hop Japan: Rap and the Paths of Cultural Globalization” (2006, Duke University Press)の日本語版が出ました。

http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001949

パネルディスカションに出演者:

イアン・コンドリー MIT大学(著)

田中東子 早稲田大学(訳)

山本敦久 上智大学(訳)

磯部涼 (ヒップホップライター)

梅原大 / UMEDY (Miss Mondayのプロデューサーや元ラッパー)

上野俊哉 和光大学(監訳)

アフターパーティーは下北沢Heavenで22:00〜朝まで。イアンのDJデビューもあるかも。

宜しくおねがいいたします。

では、

イアン

インターネットの未来

インターネットの未来に関する議論が世界中で始まっている。IPアドレスの枯渇の話はいうまでもなく、セキュリティやフィルタリングなどいろいろなトピックが出てきているし、キルナム・チョン先生のようにあと40億人つなぎましょうという人も出てきている。

そんな流れの中で私もヨーロッパのプロジェクトに参加することになった。ウェブ(ブログ)も少し前から立ち上がっている。私も世界の人たちに向けて日本やアジアのニュースを投稿することが期待されている。自分のブログも定期的に書けないのだから、できるかどうか不安だが前向きにやってみよう。

Towards a Future Internet

このプロジェクト、この秋から来年にかけて、ベルギーのブリュッセル、アメリカのボストン、そして東京で次々にワークショップを開催しながら、インターネットの未来に向けたシナリオ作りをする予定。楽しみだ。

Harvard Political Network Conference

昨年、第1回が開かれたハーバード大学の政治的ネットワーク・カンファレンスの第2回が6月11日から13日まで開かれるそうで、プログラムが決定したようだ。

http://www.hks.harvard.edu/netgov/html/colloquia_HPNC2009.htm

それほど名前の知られていない人が多い。昨年の感じからすると、若い大学院生などの発表が多いのだと思う。しかし、今年のトリは『新ネットワーク思考』のバラバシだ。

とても行きたい。久しぶりにケンブリッジの空気が吸いたい。6月は良い季節だ。しかし、13日か14日のどちらか、日本で学会発表をしなくてはいけない。13日の朝に発表があるとすれば、11日の朝にアメリカを出て12日の夕方に日本着になる。どう見ても無理だ。実に、実に残念。

海上保安庁観閲式

先月26日には、同僚の清水さんにお誘いいただき、海上保安庁の観閲式へ行く。船が大好きな学部長と高汐さんも一緒。海保の観閲式は『海猿』人気以来、なかなか入手が困難だそうで、うれしい限り。乗船したのは割とおおきな「やしま」という巡視船。

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MITでお世話になったリチャード・J・サミュエルズ教授の『日本の軍事大戦略』の翻訳がもうすぐ出版されるが、彼は海保の役割に注目している。その影響もあって、海保についてもっとよく知りたいと思っていた。海保は国土交通省に所属しており、自衛力の一角を担うわけではなく、警察庁の下にはないが、海上における警察力を担っている。しかし、海難救助や環境保全、災害対応、海洋調査も担っているというから幅広い。

海上自衛隊の観艦式は相模湾沖までかなりの時間をかけて行くが、海保の観閲式は羽田沖なので移動時間が短いのが良い。晴海からレインボーブリッジをくぐって船が出て行くと、右舷に見える東京の街並みがマンハッタンのように見える。

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告知されていなかったようだが、特別観閲官として麻生首相が乗り込んできた。現役の首相をこんなに間近に見るのは、首相官邸で開かれた研究会に鞄持ちで付いていったとき、小渕首相を見て以来だ。テレビの中で見ている人は、実際に見てみると意外に小振りであることが多い。麻生首相もそんな印象だ。船内ではテレビで見る弁護士や軍事アナリストも見かけた。

眺めの良い場所に陣取ることができ、途中までは巡視船やヘリコプター、航空機を楽しんだが、途中から風が猛烈に吹き始め、艦上のアナウンスも聞こえなくなる。プログラムも変更があったようだ。風は吹いても陽が当たっているせいでそれほど寒くない。3年分の風に吹かれた気分で爽快だった。終了間際には海の向こうにうっすらと富士山も見えた。

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防衛省見学

久しぶりの授業の毎日で、慌ただしく一か月が過ぎた。こんな毎日だったなあと体が思い出し始める。その一方で、ふとした瞬間にMITでの生活の光景が思い浮かぶ。写真を撮る気もしなかった日常的な風景が懐かしくて仕方ない。最後にはとっとと帰国したいなんて思っていたのに。

アメリカの大学は先週辺りで一年の授業が終わってしまう。だから今の時期にカンファレンスが開かれることが多い。例年ならゴールデンウィークは出張に行くことが多いのだけど、今年は諸事情あってやめた(豚インフルエンザが出る前の話)。今頃ボストンは一気に暖かくなって良い季節に違いない。ボストン・コモンでもブラブラすると楽しいはずだ。

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先月23日は慶應の開校記念日で授業は休みだった。学生たちと防衛省の見学へ出かけた。ボストンで知り合った防衛省の若手の皆さんにご尽力いただいた。感謝。

実は防衛省の見学ツアーは毎日2回行われていて、団体でなければ当日フラッと行っても参加できる。

見どころの一つは市ケ谷記念館。東京裁判が行われたり、三島由紀夫が自決したりした建物を移築・復元したもの。元の建物よりも小さくなっているが、復元した講堂や部屋には元の建材が使われており、三島由紀夫が付けた刀傷も残っている。東京裁判の写真は何度も見ているが、実際の現場がどこかは考えたことがなかった。

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現在の防衛省の敷地は、陸軍参謀本部なども置かれていたところで、歴史ある場所であり、現代史を考えるには良いところだと思う。