土屋大洋「インターネット その破壊力がもたらすもの」

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土屋大洋「インターネット その破壊力がもたらすもの」『週刊エコノミスト』臨時増刊2012年10月8日号、118〜121ページ。

 こういうところにインターネットも取り上げてもらえるようになったんだなあ。担当の編集者さんからは12年ぶりにご連絡をいただき、書かせていただいた。覚えていてくださるのはありがたいことだ。

 ちなみに12年前の原稿はこれ。書いたのは覚えているけど、内容は忘れてしまった。ちゃんとスキャンしてとっておかないといけない。

土屋大洋「eデモクラシー インターネットは両刃の剣」『週刊エコノミスト』(2000年12月26日号)。

ボブ・ドローギン『カーブボール』

ボブ・ドローギン(田村源二訳)『カーブボール—スパイと、嘘と、戦争を起こしたペテン師—』産経新聞出版、2008年。

 コード名「カーブボール」。言わずと知れたイラク戦争の原因となったイラクからドイツへの亡命者だ。彼の発言をドイツのインテリジェンス機関が取り上げ、それがアメリカのCIAに伝わり、イラクが大量破壊兵器を持っている唯一の証拠としてイラク戦争が開始された。

 しかし、彼は完全なペテン師だった。なぜこんなことが起きたのかを追ったドキュメンタリー。

 英語版を先に買ったのだが、前半の記述が退屈で、読み通せなかった。翻訳が出ているのが分かったが、なぜかもう品切れになっている。古本で買い求めて、読み始めた。やはり翻訳でも前半のドイツについての記述は退屈で読むのがつらい。しかし、後半、舞台がワシントンとバグダッドに移ると俄然おもしろくなる。そして、唖然とするような事態が次々と起こり、イラク戦争が始まったことが分かる。インテリジェンスの失敗が如実に表現されている。秋学期の授業の教材の一つにしよう。

ウィリアム・N・アームストロング『カラカウア王のニッポン仰天旅行記』

ウィリアム・N・アームストロング(荒俣宏、樋口あやこ訳)『カラカウア王のニッポン仰天旅行記』小学館、1995年。

 ハワイの海底ケーブルのことを調べていて、ハワイ王国の最後から二人目の王様であるカラカウア王が明治天皇に会いに来たとき、海底ケーブル敷設の提案や、皇室とハワイ王室の姻戚の提案をしたことは前にもちょっと書いた。

 その時のことが詳しく書いてないかと思ってこの本を読んでみた(絶版なので図書館で借りた)。アームストロングという人はアメリカ人なんだけど、ハワイ王国の大臣としてカラカウア王とともに世界一周の旅に出て、その旅行記をカラカウア王が亡くなった後に出版した。まあ、ひどく辛口で、カラカウア王の悪口もいっぱい書いてある。王と従者というより、もともとは学友だった二人だから、そういう視点で書いている。

 肝心の海底ケーブル敷設の話は注釈で書いてあるだけで、詳しい話はなかったけど、日本の明治政府が莫大な金額をかけてカラカウア王を歓待して、王様と従者3人が仰天している様子がおもしろい。明治天皇の人となりもちょっと分かってイメージが変わった。荒俣宏が博学を駆使していろいろ注釈を付けてくれているのも楽しい。

土屋大洋『サイバー・テロ 日米vs.中国』

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土屋大洋『サイバー・テロ 日米vs.中国』文春新書、2012年。

 ヴィントン・サーフへの名誉博士号授与式と記念講演から帰ってきたら、見本が届いていた。

 すごい帯が付いていた。一応言い訳しておくと、タイトルも私が付けたわけではない(私はもっと保守的なタイトルを提案していたんだけど、全てボツ)。

 ともあれ、形になったのはまちがいなく良いこと。ありがたい話だ。国内外のいろいろなところに行って、調査・研究して、原稿を書いて、本にまとめるのは、ひとりではできない。特に、原稿を渡してから本になるまでの間、会ったこともないたくさんの人たちが手伝ってくれている。感謝。

 しかし、新書っていうのは決まると早い。とにかくびっくりしっぱなしだった。

Motohiro Tsuchiya, ”Digital Divides in Pacific Island Countries: Possibility of Submarine Cable Installation for Palau”

Motohiro Tsuchiya, “Digital Divides in Pacific Island Countries: Possibility of Submarine Cable Installation for Palau,” G-SEC Working Paper, no. 32, September 5, 2012 <http://www1.gsec.keio.ac.jp/text/working_detail.php?n=34>.

太平洋島嶼国におけるデジタル・デバイド」という論文を英語にしたものをグローバル・セキュリティ研究所(G-SEC)のワーキングペーパーとして載せた。

海底ケーブルの話は調べるほどおもしろい。

今は100年前の太平洋ケーブル、特にハワイをめぐる争いについて調べている。イギリスがハワイ王国につながせてくれと頼むと、互恵条約を根拠にアメリカが拒否、アメリカは補助金を使ってアメリカの海底ケーブルを引こうとするが、議会を巻き込んでの大論争。そこに無料で引いてやると現れた実業家。米西戦争のあおりでハワイも併合……といった感じでドラマが続く。

これは是非とも次の本としてまとめたい。もうすぐ出る『サイバー・テロ 日米vs.中国』で本を書くのは終わりにしようと思っていたんだけど、また書きたくなってきた。インターネットの研究をしている私が100年前の文献を読むなんて考えにくかったのだが、とてもおもしろい。

今日は『明治天皇紀』や『日本外交文書』でハワイのカラカウア王が来日した時の記述を読んだ。「国王」ではなく「皇帝」として書いてあるのもおもしろい。カラカウア王は明治の日本が初めて迎えた外国の皇帝だから礼を尽くせと明治天皇が指示し、「微服間行」で「アリー・カルカウア」という偽名でやってきたカラカウア王は、あまりの歓迎ぶりにびっくりして滞在を延長することになる。

そして、カラカウア王は、(1)アジアの諸国が欧米に対抗するために連合し、その盟主に明治天皇がなるべきだ、(2)海底ケーブルをハワイとの間に引こう、(3)カラカウア王の姪を日本の皇室に嫁がせたい、という三つの驚くべき提案をする。どれも実現しないのだが、(1)なんかは明治天皇の国際情勢認識に影響を与えたんじゃないかと思う。想像が膨らんでおもしろい限りだ。

授業が始まるまでにある程度読み込んでおきたい。