土屋大洋、川口貴久共編『ハックされる民主主義—デジタル社会の選挙干渉リスク—』千倉書房、2022年。
先月、出版されました。サントリー文化財団の研究助成を受けました。関係各位に感謝します。
土屋大洋のブログ
土屋大洋、川口貴久共編『ハックされる民主主義—デジタル社会の選挙干渉リスク—』千倉書房、2022年。
先月、出版されました。サントリー文化財団の研究助成を受けました。関係各位に感謝します。
土屋大洋「米大統領選、他国介入の行方」『日本経済新聞』2020年9月30日。
なんだか、トランプ大統領の感染によって、他国が介入しなくても十分に混乱してしまっている気がしますが。
大学の研究室に行ったら届いていました。
土屋大洋「米政権交代——情報通信政策の改革」国際大学グローバル・コミュニケーション・センター編『智場』第113号、41〜48ページ。
週末は暖かかった。日曜日は摂氏8度まで上がり、年末から固まっていた雪がだいぶ溶けた。
ずっと行きたくて行けなかったジョン・F・ケネディ・ライブラリーへ。ボストン湾に突き出た州立マサチューセッツ大学のキャンパス内にある。
ケネディ時代の研究はしていないので、アーカイブには行かず、ミュージアムの展示だけを見る(ここのアーカイブはアポが必要な上に、親切ではないと聞いたことがある)。
ケネディはいろいろなエピソードが知られているし、キューバ危機は国際政治を学ぶ者には必知事項なので、あまり新しい収穫はないが、それなりに楽しい。
大統領就任式のビデオを、オバマと比べながら見ると、ケネディは国際的な視点を持っており、世界の人々に語りかけているのが印象的だった。オバマは現下の情勢からアメリカ国内の話にフォーカスせざるを得ない。
有名なテレビ討論会のビデオも流されている。ニクソンの顔色が悪かったという話だが、白黒画像なので、顔色云々はどうかと思う。ニクソンの人相が悪いといわれればそうだが、若さというか、はつらつとしたところが無かったのだろう。
ライブラリーの中にあるカフェから海を挟んで見えるボストンの景色が良い。ヨット好きだったケネディにふさわしいロケーションだ。こんな景色を見ながら読書ができれば幸せだ。
昨晩、ブッシュ大統領がお別れスピーチを行い、テレビで中継された。
昨日の昼間はいろいろな人のお別れスピーチが行われていた。私がテレビで見ただけでも、ジョー・バイデン次期副大統領が上院でお別れスピーチを行い、その後、ヒラリー・クリントン次期国務長官が同じく上院でお別れスピーチを行った。それと同じ時間にブッシュ大統領がフォギーボトムの国務省に出向き、ここでお別れスピーチを行っていた。駐日大使がなぜあんなに早く離日するのかと思っていたが、これに参加するためだったらしい。
この国務省でのスピーチでブッシュ大統領は、日本、韓国、中国の三つの国と同時に良い関係を持った政権はなかったのではないかと言っていて、苦笑してしまった。この辺のロジックの展開がブッシュのおもしろさだ。
お別れスピーチの裏では、初の黒人司法長官承認のための公聴会が行われており、CIAの拷問問題やNSAの通信傍受の問題を抱える重要なポストだけに注目されていた。たぶん、他にも政権移行に伴う一連の出来事が行われたのではないかと思うが、ニューヨークの墜落事故のニュースで、雰囲気が一気に切り替わった。
墜落事故で犠牲者がなかったこともあり、午後8時からのブッシュ大統領のホワイトハウスでのお別れスピーチは予定通り行われた。
最初にブッシュ大統領のスピーチを生中継で見たのは、2001年8月のステム・セルに関するスピーチだったと思う。
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2001/08/20010809-2.html
このページで見られる映像は、テレビで放送されたものと少し角度が違うと思うのだが(テレビではもっとカメラ目線に近かった)、頼りないなあという印象を持った。たぶん自分で理解していない話を一所懸命話しているという感じだった。
しかし、この後で9/11が起きたことで、大統領の雰囲気はずいぶん変わる。
今日のお別れスピーチも自信たっぷりに見えた。大統領は9/11とイラク戦争で腹が据わったのだろう。ブッシュ大統領の支持率はとても下がってしまったが、将来評価は改善するだろう。確かに安全保障・治安関係ではやり過ぎが目立ったが、大規模なテロを防いできたことも確かだ。オバマ政権になって大規模なテロが起きれば、やはりブッシュはちゃんとやっていたと言われるようになるだろう。
ブッシュ大統領も、自分の決断が万人に評価されないとしても、タフな決断をしたのだと主張していた。彼の決断で多くの人が命を落とした。彼はその評価を歴史に委ねるつもりだが、その責任に耐える鈍感さがないとアメリカの大統領は務まらない。決断をするに臆するところがなく、また意外な決断ができるという点では、まれな大統領であり、最初に受けた印象とは異なって凡庸な大統領とは言えないと今は思う。
ブッシュ大統領のスピーチはこれで最後になり、主役は入れ替わる。CNNの記者によれば、ブッシュはオバマの船出を心から祝福しているという。この率直さが、ブッシュの(かつての?)人気の要因だった。テロ、戦争、カトリーナ、経済危機といった出来事が続いた時代は歴史にどう評価されるのか。
MITは年内の授業と試験が終わり、大学は休みモードに入っているが、ワシントンは賑やかだ。情報通信政策でおもしろい動きが出てきている。
まず、12月6日にオバマ次期大統領が、大規模なインフラストラクチャ投資計画をラジオ演説とYouTubeでのビデオで発表した。アイゼンハワーが州際ハイウェーに投資して以来の規模になるという。ブッシュ政権の乱費と昨今の金融救済案もあって今年度の連邦政府の財政赤字は1兆ドルを超えると見られ、これまでの最高額の2倍以上になっている。それでもやるというのだ。
景気刺激策という意味ももちろんあるが、古くなり、世界的に見ても遅れ始めているアメリカのインフラを何とかしなければ、ますます競争力が低下するという危機感もあるようだ。
ブロードバンドへの投資も大きな柱となっている。オバマはインターネットの威力を分かっているだけに、力を入れたいところだろう。
As we renew our schools and highways, we’ll also renew our information superhighway. It is unacceptable that the United States ranks 15th in the world in broadband adoption. Here, in the country that invented the internet, every child should have the chance to get online, and they’ll get that chance when I’m President – because that’s how we’ll strengthen America’s competitiveness in the world. (引用元)
そうなると、連邦通信委員会(FCC)の人事が焦点となるが、おそらくブッシュ政権退場とともに辞任するであろうケビン・マーチンFCC委員長に対する批判が吹き出てきている。下院のエネルギー・商業委員会の多数派スタッフがレポートを出し、そのタイトルは「欺瞞と不信:ケビン・マーチン委員長下の連邦通信委員会(PDF)」である。
タイトルほどには中身はすごくなくて、マーチン委員長が自分でマイクロコントロールしたがるので、他の4人の委員や部下たちがやってられないとこぼし、業者たちがぶつぶつ言っているということだろう。最大の問題とされているのは、視聴覚障害者のための資金を集めすぎていて、一般利用者の料金が(わずかに)上がっているということのようだ。
しかし、以前からマーチン委員長は議会の問いかけに応じないなど、問題が積もり積もった結果としてこうした批判が出ていると見た方がいい。FCCは独立委員会なので、行政府の一部のように見えながら、報告義務があるのは議会である。委員を指名するのは大統領だが、議会に対して説明責任を負っている。議会の問いかけに応じないのはやはり問題だ。
マーチン委員長が就任したとき、確か30代後半で、今の私の年齢とさほど変わらなかったはずだ。そんな大役を任されるとしたらぞっとするが、若さ(そんなに若くはないが、政治的には若い?)ゆえに、マイクロコントロールし、成果を出したかったのだろうか。マーチン委員長下のFCCはソ連のKGBのようだという冗談まで出ている。
そのマーチン委員長、一月さかのぼって11月にはテレビの電波の隙間にあるホワイト・スペースと呼ばれる電波の解禁を認める決定をした。この話もよく調べるとおもしろくて、ブロードウェーのアーチストたちが反対に回り、賛成派のグーグルなどと対決していた。ブロードウェーのミュージカルではマイクを使用しているが、ホワイト・スペースが解禁されると干渉するから嫌だというのだ。電波は見えないだけにいろいろ変な話が出てくる。
オバマ次期政権の技術顧問にはケビン・ワーバックなど技術と政策に明るい人が入っている。FCC委員長が誰になるのか見物だ。
10月に大阪で開かれたシンポジウムの続編が東京で開かれる。
(私も本当に出るのか? 自分で心配だ。)
サントリー文化財団「社会と思想に関する特別研究助成」成果発表
The Symposium “Continuity and Change in America”
シンポジウム「変わるアメリカ、変わらぬアメリカ―大統領選挙後のアメリカ―」
12月5日(金) 午後1時〜5時30分
慶應義塾大学三田キャンパス「北館ホール」
拝 啓
秋冷の候、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、「文明論としてのアメリカ研究会」では、2006年から2008年にかけて、これまでのアメリカン・スタディーズの枠を超えて、歴史、文化、宗教、憲法、政治、経済、安全保障など各方面から、改めてアメリカという文明について考え、議論し、思索してまいりました。
この度、本研究会の成果発表として、「変わるアメリカ、変わらぬアメリカ」をテーマに、10月に大阪で、12月には東京でシンポジウムを開催する運びとなりました。日本にとってアメリカとは何か。世界にとってアメリカとは何か。そして、将来100年のスパンで見た場合、我々にとってアメリカはどういう意味を持つのか。本シンポジウムで、今後の日米関係の発展に資する、思想的・学問的・実務的な知的インフラを構築したいと考えております。
つきましては、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、大統領選挙後のアメリカと日米関係を考える東京でのシンポジウムに、何卒ご出席を賜りますようお願い申し上げます。
敬 具
2008年11月
文明論としてのアメリカ研究会
代表 阿川尚之
財団法人サントリー文化財団
理事長 佐治信忠
主催:文明論としてのアメリカ研究会
共催:慶應義塾大学(慶應義塾創立150年記念)
国立大学法人大阪大学(21世紀懐徳堂)
財団法人サントリー文化財団
後援:読売新聞社、中央公論新社
協賛:サントリー株式会社
*日時:2008年12月5日(金) 午後1時〜5時30分
*場所:慶應義塾大学三田キャンパス「北館ホール」
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45(TEL:03-3453-4511)
*基調講演:午後1時〜
リチャード・アーミテージ氏(アーミテージ・インターナショナル代表、元アメリカ国務副長官)「U.S.’s Role in the World」(世界における米国の役割) -同時通訳付-
北岡伸一氏(東京大学教授、元特命全権大使・日本政府国連代表部次席代表)「アメリカと国連と日本」
*研究会趣旨説明:午後2時45分〜
文明論としてのアメリカ研究会代表 阿川尚之氏(慶應義塾大学教授)
*休憩:午後3時〜
*パネルディスカッション:午後3時20分
土屋大洋氏(慶應義塾大学准教授)
沼波 正氏(日本銀行国際局長)
待鳥聡史氏(京都大学教授)
簑原俊洋氏(神戸大学教授)
コーディネーター:阿川尚之氏(慶應義塾大学教授、文明論としてのアメリカ研究会代表)
*参加方法
お手数ですが、申し込み用紙にご記入のうえ、11月末日までに、FAXにてご返送ください。参加費は無料です。
*ご同伴者の参加について
ご同伴者の参加も歓迎いたします。特に、アメリカ及び日米関係をご研究の方、あるいはこれらにご関心をお持ちの方に多数ご参加いただきたく、お知り合いの皆様に広くご紹介いただければ幸いです。
*お問合せ
〒530-8204 大阪市北区堂島2-1-5 財団法人サントリー文化財団 / 担当:小島
TEL :06-6342-6221 / FAX:06-6342-6220 / E-MAIL:sfnd at suntory-foundation.or.jp(atを@に変えて送信してください。)
プロフィール
リーチャード・リー・アーミテージ氏(アーミテージ・インターナショナル代表、元国務副長官)
Richard Lee Armitage
1945年生まれ。アナポリス海軍兵学校卒業後、ベトナム戦争に従軍。その後、国防総省情報局員、レーガン政権の国防次官補代理、ジョージ・ブッシュ政権下の2001年〜2005年、国務副長官を務める。国防戦略の専門家、共和党穏健派の重鎮、知日派・アジア通として知られる。
北岡 伸一氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授、元日本政府国連代表部次席代表)
Kitaoka Shinichi
1948年生まれ。立教大学法学部教授を経て現職。専門は日本政治外交史。2004年〜2006年、特命全権大使としてニューヨークに赴任、日本政府国連代表部次席代表を務める。『清沢洌』(サントリー学芸賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞)、『自民党』(吉野作造賞)など、著書多数。
土屋 大洋氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授兼総合政策学部准教授)
Tsuchiya Motohiro
1970年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教授を経て現職。現在、在外研究のため、マサチューセッツ工科大学客員研究員。専門は、国際政治学、情報社会論。著書に、『ネット・ポリティックス』(テレコム社会科学賞)、『情報による安全保障』など。
沼波 正氏(日本銀行国際局長)
Nunami Tadashi
1953年生まれ。日本銀行入行後、ブルッキングス研究所客員研究員、日本銀行ワシントン事務所長、那覇支店長、金融市場局審議役(決済・市場整備担当)、米州統括役ニューヨーク事務所長などを歴任し、2008年6月に国際局長に就任。著書に『私が見た沖縄経済』がある。
待鳥 聡史氏(京都大学大学院法学研究科教授)
Machidori Satoshi
1971年生まれ。大阪大学大学院法学研究科助教授、京都大学大学院法学研究科助教授を経て現職。専門は、比較政治・アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義』(アメリカ学会清水博賞)、『日本の地方政治』(共著)、『比較政治制度論』(共著)がある。
簑原 俊洋氏(神戸大学大学院法学研究科教授)
Minohara Toshihiro
1971年アメリカ生まれ。ユニオン・バンク勤務後、神戸大学大学院法学研究科に入学。神戸大学法学部助教授を経て現職。専門は日米関係史。著書に、『排日移民法と日米関係』(アメリカ学会清水博賞)、『カリフォルニア州の排日運動と日米関係』がある。
阿川 尚之氏(慶應義塾大学総合政策学部教授、文明論としてのアメリカ研究会代表)
Agawa Naoyuki
1951年生まれ。ソニー株式会社、米国及び日本での弁護士事務所勤務などを経て現職。専門は米国憲法史、日米関係史。2002年〜2005年、在アメリカ日本大使館の広報文化担当公使を務めた。『海の友情』、『憲法で読むアメリカ史』(吉野作造賞受賞)など著書多数。
土屋大洋「帝国の磁力」『アステイオン』第69号、2008年11月、40〜58頁。
久しぶりに原稿を書いた。50音順で名前が並んで私が2番目に来るなんてめったにない。
ちなみに同じタイトルはこちらでも使用。
大統領選挙の翌日、朝寝坊して昼過ぎに地下鉄に乗り込んだ。いつもより車内がきれいだ。何が違うのかと考えると、いつもは散乱しているフリーペーパーが見あたらない。ボストンにはmetroというフリーペーパーがあり、電車の中ではみんなそれを読んでいる。今日は大統領選挙の記念にみんな持ち帰っているらしい。
駅の売店の新聞もすっからかんになっている。セブンイレブンやCVS(ファーマシー)の新聞売り場は一部も残っていない。通りに置いてあるコイン販売機の新聞も空っぽだ。NYタイムズもボストン・グローブもUSAトゥデイもない。ハーバード・スクエアの大きな新聞販売店ならあるかと思ったが、ここも選挙結果について報じた新聞はすべてない。完全に出遅れてしまった。
おまけに駅に置いてある新聞紙リサイクル用のゴミ袋までからっぽだ。半透明の袋なので、外から中身がうかがえるのだが、何も入っていないものが多い。
これだけデジタルが発達しているといっても、記念に残る紙の新聞の需要は意外に大きかった。こんなことは滅多にないだろうが、オバマ当選のインパクトは、ケンブリッジでは甚大だったのだ。昨日のテレビによるとNYのタイムズ・スクエアやカリフォルニアのバークレーでは夜中まで若い人たちが騒いでいたそうだ。きっとハーバード・スクエアでも同じだっただろう。
大統領選挙が終わった。ボストン在住の方々のブログでも一斉にコメントが出ている。今回の大統領選挙が印象的だったことがうかがえる。実際、これほどおもしろいエンターテイメントはなかった。下手なリアリティ・ショーよりもずっとおもしろい。無論、さまざまな点でショーアップされているのだけど、エンターテイメントでショーアップは不可欠だ。それも含めて楽しむのが良かったのだと思う。
オバマのネット戦略は実にうまかった。当初、不明にも私は彼のネット戦略をあまり評価していなかった。というのも、今さらSNSはないだろうと思っていたからだ。しかし、実名で行われているSNSは、選挙戦略と実にディープに絡まっていて、高い効果を発揮したようだ。日本のSNSでは実現できないような深いコミットメントが可能になっていた。
ネットと政治ということでは、2004年の民主党予備選で一世を風靡したハワード・ディーンが思い起こされる。11月4日付のNYタイムズの記事では、当時のディーンの担当者が、自分たち[ディーン陣営]がライト兄弟だったとしたら、彼ら[オバマ陣営]はアポロ11号だ、とコメントしているのが印象深い。それだけ一気にネットの政治利用が進んだのだ。それに乗り遅れたマケインに勝機は無かったと、後知恵では思える。
私は選挙当日何をしていたか。もちろん投票はできない。せっかくこの時期にアメリカにいるのに、忙しくてあまり大統領選挙はウォッチすることができていなかった。選挙当日ぐらいはちゃんと観察しようと思い、自宅から一番近い投票所を見物に行くことにした。
この投票所、近所の中ではちょっと危ない通りとして知られているところにある。妻の友人が夜間に強盗に遭ったことがあるらしい。しかし、昼間だし、投票所には人もたくさんいるだろうと思って、歩いていく。
投票所は通りから少し奥まったところにあるが、目立つところにオバマ陣営のプラカードを抱えた二人が立っている。私がきょろきょろしていると、「投票に来たのか!」と声をかけられた。「外国人だから投票できないんだけど、興味があるから見に来たんだ」というと、「投票所はあっちだ。じっくり見ていきなよ」と言ってくれる。
はたして投票所は、地域のコミュニティ・センターみたいなところで、さして大きくない。入口に案内の看板があるだけだ。警官がうろうろしているので、中に入って良いものか思案したが、ここで引き返してはつまらないと思い、追い返されるまで行ってみようとドアを開ける。
小さなロビーになっていて、投票を終えた人たちが数人たむろしている。投票のための行列はできていないが、次々と人がやってくる。さすがに投票する部屋までは踏み込めなかったが、外から中の様子を撮影できた。誰にもとがめられることもなく、日本の投票所のような緊張感も漂っていない。ずいぶんのんびりした雰囲気である。
入口の脇に投票用紙の見本がかざってあった。現物は両面印刷になっており、大統領選挙、上院議員選挙、下院議員選挙の投票欄の他、Councillor(ローカル政府の役職?)、Senator in General Court(州議会の上院議員?)、Representative in General Court(州議会の下院議員?)、Register of Probate(遺言検認裁判官の登録?)といった役職の投票欄があり、さらに三つの法律に関する賛否を問う質問が印刷されている。
驚いたことに、大統領候補欄には6組が印刷されている。オバマ=バイデン、マケイン=ペイリンの他、消費者運動で名をはせたラルフ・ネーダーなどが立候補していた。マスメディアではほぼ全く無視されていたといってよい(ネーダーが立候補したニュースは確かに見た)。
電子投票(機械による電子的な投票:ネット投票ではない)が取り入れられるという話だったが、この投票所には入っていなかった。
外に出ると、ちょうど同じアパートに住むおばちゃんと出くわした。同じく見物に来ているフランス人親子と一緒に投票に来たそうだ。話をしていると、オバマ陣営のボランティアの横に小学校のスクールバスが止まった。ここが停留所の一つらしい。ドアが開くと子供たちがわっと出てきて、「オ、バ、マ!!! オ、バ、マ!!!」と大合唱が始まり、オバマのボランティアも看板を振りながら踊り出す。ちょうどこのストリート近辺は黒人の子供たちが多いので、彼らにとってオバマは希望の星なのだろう。
自宅に戻り、テレビで速報を見る。夕方になって開票が始まると、最初だけマケインがリードしたが、次の開票で一気にオバマが逆転し、どんどん差が付いていく。事前予想通り、大差の勝利だ。ただし、得票率と得票数ではそれほど差がない。勝者総取りが結果を大きく左右する。
マケインの地元のアリゾナまでオバマがとるのではという話もあったが、さすがにそれはなかった。しかし、2004年と比べて、民主党支持に変わった州が確かに増えている。ヒラリーとの予備選で大票田に弱かったオバマだが、民主党の地盤はもれなく取っている。
夜11時半頃にマケインの敗北宣言が行われた。マケインはさばさばと国民の団結を訴えたが、支持者たちはオバマ政権に不満のようでブーイングしている。オバマに対する根強い反発はなかなか消えないだろう。
しかし、上下両院の選挙で圧倒的な勝利を収めたことがオバマにとっては最高の贈り物だ。下院は民主党優勢が伝えられていたが、上院は拮抗すると見られていた。ところが上院も民主党が完全な優位に立った。オバマが変革を進めていくための法案審議には優位に働くだろう。
注意すべきは、議会を制する民主党議員たちとどうやって渡りを付けるかという点だ。彼らはオバマの人気に便乗しながらも、オバマをコントロールしようとするだろう。オバマは2004年に連邦上院議員になったばかりで、その前は州議会の上院議員だ。逆に議会をどれだけコントロールできるか、そして中間選挙までの最初の2年間でいかに成果を挙げるかがカギだ。それができなければ、ネットで集まった支持者たちはあっという間に批判者に転じるだろう。
先週の後半、テキサス州ヒューストンに行ってきた。正確にはそこから車で1時間半ぐらいのカレッジ・ステーションという町である。レンタカーを借りて片道4車線ほどあるフリーウェイを走り続ける。テキサスはまだまだ暖かくて気持ちがよい。気温は27度くらいあるらしいが、乾燥しているせいか、不快感はない。
途中、牧場が続く田舎道を通るのだが、道はナビに任せて(ようやくアメリカでもナビが普及してきた!)、ちらちらと横を見ていると、マケインとペイリンの名前が入った看板が目立つ。オバマ陣営の看板を出しているところは無かった。やはりブッシュ家の牙城なのだろう。
カレッジ・ステーションには、その名の通り、テキサスA&G大学という大学がある。巨大な大学で、スポーツが盛んらしい。スタジアムやフィールドや体育館がずらっと並んでいて、車がないとキャンパス内も移動できないのではないかという感じだ。
このテキサスA&G大学のキャンパス内にパパ・ブッシュ(ジョージ・H・W・ブッシュ)のライブラリーがある。すっかり私は大統領図書館のファンになっており、レーガン、クリントンに続いて三つ目である(もっと行きたいが、たぶんこれで打ち止め)。なぜこんなところに作ったのかと元大統領はよく聞かれるらしいが、展示の最初に見せられるビデオでは、「分からないと思うけど、この雰囲気が好きなんだ」と言っていた。
アーカンソーのクリントン・ライブラリーでは、そこそこの資料は見つかったものの、大ヒットはついに出てこなかった。FOIA(情報自由法)請求はしてみたものの、まだ結果は来ない。私が調べているテーマは国家安全保障にも絡むので、ほとんどの文書が非公開になっている。
ブッシュ・ライブラリーにも事前にメールを送って問い合わせてあったが、「あまりないよ」というつれない返事だった。だから、それほど時間は必要ないだろうと短めの日程を組んでいた。
ヒューストンのホテルで朝寝坊したせいで、レンタカーを借りてカレッジ・ステーションに着いたのは昼過ぎだった。アーキビストも私のテーマを聞いて、気乗りしていないのがありありと分かる。失敗だったかなあという思いがよぎる。
結局、欲しいと思っていた大統領時代の文書はほとんど何も出てこなかった。しかし、「ブッシュ大統領は、CIA長官だったこともあるよね」とふと言ってみると、「その時代の資料なら少し公開されているわよ。見てみる?」というので、是非見たいと頼んだ。これが、私にとっては宝の山だった! その重要性に気づいたとき、手に汗がにじんでくるのが分かった。来た甲斐があった。
一日目の夜、テキサス・ビーフを食べようと、安っぽいステーキハウスに入った。大繁盛していて少し待たされたので観察してみると、店員がパリス・ヒルトンみたいな雰囲気の若い女性しかいないのが異常だった。ボストンなら体格の良い中年女性や男性もたくさん働いている。食事に来ている客を見ると白人ばかりだ。バーに座っていた黒人男性一人と私だけが、見える範囲で白人ではなかった。テキサスってこわいなあ。多様性を重んじるアメリカには思えない(ヒューストンのような大都市ではもちろん違うだろうけど)。こういう州が共和党政権を支えているのだろう。
二日目、閉館間際に展示も駆け足で見る。ブッシュ家はテキサスというイメージが強いけれども、パパ・ブッシュの父親(現大統領の祖父)はオハイオ州出身、母親はメイン州出身、自身はマサチューセッツ州で生まれている。テキサスとのつながりは、大学卒業後に石油ビジネスに身を投じてからだ。ブッシュがテキサスで政治の世界に進んだとき、今では想像も付かないが、テキサスは民主党が圧倒的に強かったらしい(共和党員は飲んだくれて選挙に行かなかったのだとブッシュは言っている)。息子のジョージ・W(現在の大統領)は父親がイェール在学中にコネチカット州で生まれているから、テキサスとブッシュ家のつながりは、新しいものだと分かる(息子も後にイェールに進学)。息子のブッシュ大統領が休暇を過ごしにテキサスの牧場に行くのも、州知事だったとはいえ、政治的なポーズなのかもしれない。
ライブラリーからヒューストンへ戻る際、金曜日の夕方の渋滞にはまってしまう。フリーウェイで車が動かなくなってしまった。ふと前の車の窓を見ると、オバマのステッカーが貼ってある。おおっと思ってよく見ると、「STOP OBAMA EXPRESS」と書いてあった。やっぱりアンチ・オバマらしい。ボストンではマケインのステッカーを貼っている人は見たことがない。やはり土地によってはっきりしているようだ。
まだ暑かったアーカンソーから戻ると、ケンブリッジは秋になっていて、紅葉が始まっていた。近所のスーパーはハロウィーンに向けてどこもカボチャがいっぱいになっている。
慌ててまだ見に行ってなかったレキシントンの古戦場跡へ紅葉狩りを兼ねて出かける。コンコードと並んでアメリカ独立戦争が始まったところとして知られているが、今はただの原っぱだ。一番興味深かったのは近くに立っているフリー・メイソンの建物。中には入れないようだったが、秘密結社というイメージとは少し遠い。
近くのNational Heritage Museumをのぞくと、やはりフリー・メイソン関連の展示が充実している。ジョージ・ワシントン初代大統領はじめ革命の志士たちはこの結社に参加していたが、よく分からない組織だ。そして、ボストンの中華街に行くときにいつも前を通るビルが、実はフリー・メイソンのマサチューセッツ本部(グランド・ロッジ)だと知ってもう一度驚いた。エマーソン・カレッジの横に普通に立っていて、確かに変な装飾がされているのだが、風景にとけ込んでしまっている。後日、その前を通ると確かにそこに立っていた。
10月7日、3回目の大統領候補討論会が開かれた。前回よりも静かな戦いだったという印象。タウンホールミーティング形式だが、反応してはいけない聴衆を相手にしてやりにくそうだ。どちらも、過去の記録を見ろという。あいつはこうした、こう言った、過去を見ろという。聞いている方もあまりおもしろくない。この二人は現在のアメリカが有する本当にベストな二人なんだろうか。最高峰のリーダー二人なんだろうか。マケインはやはり年齢を感じさせ。彼が倒れたらペイリンか、という思いは誰にもあるだろう。
数日して旧友がサンフランシスコから来たので、一緒にボストンのダックツアーに乗る。第二次世界大戦時の水陸両用車を使った観光ツアーで、世界中の都市で見られるようになっている。ボストンの場合は当然ながらチャールズ川へどぶんと入る。川の中からMITが見られると期待していたが、そこまでは行ってくれずに引き返してしまったので残念。
その後、急遽、またもやワシントンDCへ。今回一番おもしろかったのはアメリカ科学者同盟(FAS)というところ。もともとは核兵器が開発されたときに科学者たちがその軍事利用に反対するために組織したようだ(オッペンハイマーの伝記を読むとその辺の事情が分かる)。ここでSteven Aftergood氏が政府の秘密に関するプロジェクトを行っていて、Secrecy Newsというニュース配信を行っている。インテリジェンス・コミュニティの研究をする人には必読だ。
10月15日、3回目の大統領候補討論会はワシントンのホテルで見る。追い込まれたマケインの笑顔がぎこちない。どうも未来を語れないマケインは相手の批判ばかり。目がパチパチしているのが動揺に見えてしまう。しかし、二人ともユーモアがなく、おもしろくない。レーガンは確かに歳をとっていたけど見栄えがするしユーモアのセンスがあった。マケインが議論に口を挟みすぎで、感情を抑えきれなくなっているように見える一方で、オバマはわざと抑制的に話している。オバマは、ヘルスケアの話で、ここぞというときにカメラ目線を使う。毎回作戦を少しずつ変えながら調整しているのがうかがえる。それにしても、マケインは「ジョー」の話にこだわりすぎで説得力を欠いた。CNNで画面の下に出していたグラフでは、見ている人は全く反応していない。いよいよ決まった感がある。副大統領候補討論会を含めて4連勝のオバマが当選しなかったら、アメリカのデモクラシーはうまく機能してないということになるだろう。
ワシントンでは合間に知り合いと食事をしたのが楽しかった。KストリートのSichuan PavilionでYさんとIさんと麻婆豆腐をつつき、OさんとThai Kingdomでグリーン・カレーを楽しむ。もうしばらくワシントンには来られない。
ボストンに戻ってきて空港に降り立つとかなり寒い。すでに最高気温が摂氏8度、最低気温が摂氏2度という日もある。日本の感覚ではすっかり冬だ。先週末はチャールズ川でレガッタをやっていた。きれいに晴れた日で、競争するボートを眺めているのは楽しかった。ボストンの冬空は意外にも見事な快晴続きで、本家のイングランドとは異なるらしい。
MITのキャンパスを歩きながら、ふと、そうか、オバマは無限の帯域を活用したのかと気づいた。かつての大統領選挙といえばテレビが勝敗を決めた。両陣営ともいまだにネガティブなコマーシャルを流しまくっている。しかしテレビ電波の帯域はものすごく高い。資金力が重要だった。ブロードバンドではオバマ陣営が払うお金は接続料だけだ。あれだけのブログのエントリーを垂れ流しているのだからけっこうな回線接続料だと思うが、テレビよりは安い。前回までの選挙では十分なネット利用者がいなかったが、今回はアメリカでもブロードバンドが普及している(日本から見れば数メガはミドルバンドぐらいだけど)。マケインはそれに全然乗りきれなかった。今回の選挙でテレビが死んだんだ。
しかし、こうやって書いてみると実に当たり前の話だ。それに今頃納得しているなんて疲れている証拠だ。とにかく眠い。
ワシントンから戻って数日で、またアーカンソー州のリトルロックへ。前回カバーできなかった分の資料を探す。旅に出るといろいろな刺激を受けるし、考える時間が取れるのが良い。空港での待ち時間や機内での時間は無駄と言えば無駄だが、なかなか手が付けられない仕事や本に手を出すにはとても良い機会だ。それしか時間をつぶす方法がないようにしておくと、意外に効率的に進む。
今回はジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』(上下)を持参。往路で上巻を読み終える。『銃・病原菌・鉄』のほうがおもしろかったが、この本もおもしろい。グローバリゼーションの負の側面は無視できないとしても、交易がなかったとしたらわれわれの生活はもっと貧しく、悲惨なものであっただろう。そして、環境変化というのも実にくせものだ。石油以前から人類は環境破壊を繰り返し、文明を崩壊させて来ている。ついでに、モンタナに是非とも行きたくなった。モンタナで何か仕事はないものか。
クリントン・ライブラリーで何とか欲しい資料のコピーをとり終えた。前回もそうだったけど、他に誰も閲覧者がいないので、アーキビストとマンツーマンになってしまう。閲覧室は教室のようになっていて、教壇に当たる位置にアーキビストが座り、学生の位置に閲覧者が座る。閲覧者が変なことをしないようにアーキビストが見張っているわけだ。資料を抜き取るなんてことを考える人はいないと思うが、持ち込んだ後に持ち出す白い紙はすべて点検され、スタンプが押される。コピーはとれるが、すべて青い紙にコピーされるので、オリジナルと区別される。
クリントン・ライブラリー
閲覧室
ライブラリーの近くにリバー・マーケットという場所がある。こぢんまりとした飲食店街なのだが、一応「マーケット」なので、夕方には閉まってしまう。この裏手には、リトルロックの地名発祥となった小さな岩があるはずなのだが、前回は見つからなかった。今回はと思って駐車場の管理人に聞いてようやく分かった(気がする)。たぶん、この落書きされている寂しげな石のことらしい。しかし、本当かな……。
写真手前にある小さな角張った石がリトルロック?
木曜日、早めの夕食を取り、ホテルで午後8時(中部時間)から副大統領候補討論会を見る。二人のカメラ目線が気になった。前回はオバマが最初のステートメントでカメラ目線を使い、その後は司会者に向けて話をすることが多かった。マケインはほとんどカメラ目線を使わなかったように思う。今回は、ペイリン(どちらかというと「ペイラン」と私には聞こえる)がほぼずっとカメラ目線だったのに対し、バイデンは最初はカメラ目線を使わなかった。どうしたのかなと思っていたら、バイデンはここぞと言うときにカメラ目線を使って訴えていた。意識的に使い分けていたのだろうか。
バイデンは顔が怖いけれども、人が良いみたいで、ペイリンが言うことに頷いたり、笑ったりしてしまって、どうなのかなあと思ったが、CNNの画面の下に出ていた印象度のプラス=マイナスのグラフでは、ペイリンよりプラスに触れる幅が大きかったように思う。バイデンは得意の外交になってからは特に説得力が上がった。それに対してペイリンはやはり外交ではあまり説得力がない。国際経験が不足しているのか。答えに詰まっているように見えることも何度かあった。司会者に問い詰められた同性愛結婚でも、(マケインが認めているため)ペイリンが同意してしまったのはどうなのだろうか。彼女は強硬な保守派を引き込むためのカードだったのだから、少し含みを持たせた方が良かったのではないかと思う。
ペイリンも「変化はやってくる」と、マケインと同じ言い回しをしているが、「変化」が争点だということを認めてしまったのも疑問だ。相手に引きずられてしまっている。すかさずバイデンは、「根本的な違い」、「根本的な変化」という言葉を使って差を付けようとする。ペイリンも「ミドルクラスのために戦う」というけれども、あれだけバイデンに金持ち優遇だと非難された後だと説得力が弱い。
今回食べておいしかったのはステーキとナマズ。ステーキはクリントン大統領が通ったというDOE’Sという店。ライブラリーからは一本道だが歩くと遠くて疲れた。店内には大統領はじめいろいろな人の写真が飾ってある。写真はランチメニューのTボーンステーキ。ボリュームがすごい。肉は最初からカットされて出てくる。これにサラダが付く。焼き加減はミディアムにしたので表面は焦げているが中はちょうど良い。肉が大きいのでレアやミディアムレアでは中がほとんど生肉に近くなる。アメリカでステーキを食べるときはミディアムがちょうど良いと思うようになった。
DOE’SのTボーンステーキ
これも割とよく知られているFlying Fishという店のナマズのフライ。あっさりしていておいしい。この店の店内はお客さんが持ち込んだ釣りの写真でいっぱい。ウェイターはいなくて、ファーストフード感覚で好きな席に座って食べられるのも良い。
ナマズとエビのフライのコンボ・セット
店の入り口には、「エサが良ければどんな魚でも食いつく」と書いてある。なるほどねえ。意味深だ。
帰りは朝4時に起きて6時の飛行機に乗る。US Airwaysは機内の飲み物が有料になった。カンのソフトドリンクが2ドル、コーヒーが1ドル、アルコールが7ドル。乗る前に買った方が安い。機内で『文明崩壊』の下巻を読む。意外にも徳川時代の育林政策が成功例として紹介してあった。日本は国土の75%が森で覆われており、先進国の中では最も高い。しかし、それは原生林ではなく、一度枯渇しかかった森林資源を徳川幕府のトップダウン政策で回復したものだという。徳川時代を見直す機運が最近高まっているが、こんなところでも紹介されているとは。ただし、現在の日本はアジアやオーストラリアから木材を輸入していて、国内の高い森林資源を持て余している。何かおかしい。
その後の章で中国の話も出てくるのだが、中国は徳川時代の政策をもっと研究すると良いのではないかと思う。今の日本やアメリカを見ても中国の参考にはあまりならない。日本のお上意識は徳川時代に端を発している。その前は下克上の戦国時代もあった。中国が求める秩序ある社会のモデルは徳川時代ではないだろうか。これを研究したいという留学生がいたら大歓迎だ(最近、留学したいという外国人からのコンタクトが多いのはなぜなんだろう。このエサに食いつく留学生はいるかな)。
先週末、TPRC(通信政策研究会議)に参加するため、ワシントンDCへ行ってきた。SFCに移ってからTPRCの時期は必ず授業初回と重なるため、参加するのは2003年以来ではないかと思う。ずいぶん久しぶりになってしまった。主催者の一人に日程を変えてくれないかと頼んだことがあるが、ユダヤ人の休みの関係で日程が決まるので仕方ないとのことだった。来年からまた当分出られないだろう(ちなみに日本ではICPCというのがある)。
会場では昔なじみがけっこういて懐かしい。2月に経団連のシンポジウムに呼んだChris MarsdenやThomas Hazlettも来ている。日本からの参加者も今年は多いような気がする。大阪学院大の鬼木先生がパネル発表された他、国立情報学研究所の上田さんたちがポスター発表。GLOCOMの渡辺さんと庄司さんが来ていた他、常連の中大の直江先生もいらっしゃる。
次期政権への通信政策の提言をするというセッションに期待していたのだが、地味でつまらない。これまで議論されてきた枠組みを乗り越えずに何となく継続を促すような議論が多い。その次のNGNのセッションも、相変わらずNGN(あるいはNGA)が何かということが定まらないまま議論が進んでいる。ものすごい時代遅れの話をしている人もいる。コムキャストがやる気満々なのが印象的だったが、それでも次世代と言えるほどではない。1ギガのアクセス網なんて夢の世界という感じだ。日本から誰か分かっている人が話すべきだっただろう。最後にChris Marsdenが日本のことをちょろっと触れただけで終わった。
金曜日は、大統領選挙討論会が夜の9時からあったので夜は早めにホテルに戻る。オバマは支持者に囲まれて演説するときとは顔つきが違った。何となく焦りというか、いらつきのようなものも感じた。しかし、私はひどい寝不足のせいで後半は集中できなかった。残念。翌朝、セットもしてない目覚まし時計に起こされた。くやしい。
土曜日の朝のセッションで九州大学の実積寿也先生が日本のネットワーク中立性議論も含めて非対称規制について発表された。ブロードバンド普及が遅れている米国から見ると日本はどうしても特殊事例に見えてしまうが、それでも日本の現状を説明してくださったことは重要だ。
TPRCは完成された議論というよりも、荒削りの議論が出てくるところがおもしろい。首をかしげたくなるようなものから、なるほどと思うものまで幅がある。少し変わったなと思うのは、政策の直接的なネタになるようなものよりも、アカデミックな論考が増えてきた点。毎年ぶれがあるのかもしれない。
土曜日の昼休み、気分転換にクラレンドンまで歩くと、お祭りをやっていた。屋台がたくさん出ている。ジップカーが置いてあったり、オバマとマケインのブースもあったり、なかなか楽しい。子供たちのためのアトラクションには長い行列ができている。クラレンドンは7年前には何もなかったのに、今は世界各国のレストランと商店とマンションが並ぶ賑やかなところになって、街おこしに成功したんだなあと思う。
オバマ陣営の様子
マケイン陣営の様子
1時間半のフライトでワシントンDCまで来られるのは良いなあ。東京にも1時間半で帰れたら良いのに……、と思っていたら、またもやナショナル空港で足止めを食らった。ゲートを離れてから機内で1時間半。疲れたけど、離陸までパソコン使って良いというので仕事が進んだ。
滑走路の向こうにかすかに見えるワシントン記念塔
研究所の定例ランチ・セミナーがあり、テーマはイラク復興だった。発表者はChristopher Kirchhoff(Lead Writer, SIGIR [Special Inspector General for Iraq Reconstruction])で、いつもより聴衆が多い。
軍と民間のそれぞれで多大な努力が払われているが、しかし、(1)行政権限が欠如している、(2)どんな復興が行われているかについてほとんどコンセンサスがない、(3)ネイション・ビルディンを実行する能力の制度化よりも、その理論の構築が重要である、というのが彼の結論。
発表中、Iraq Reconstruction 1.0から4.0までの発展を示した後、ひそかにブッシュ政権が計画の後退を始めていると示唆していた。やはりうまくいってないのかなあ。2003年5月(?)の大規模戦闘終結宣言で手を引くことができれば良かったのだろうが、やはり誤算だったのだろう。
しかし、ブッシュ大統領としては、華々しい成果が上がらない以上、退任までやり続けるしかない。退任後に新政権が何をしようとも、自分のせいではなく、新政権の対応が悪いと言えばすむ。経済がメチャクチャになりつつある中、争点としてのイラク戦争は相対的に小さくなりつつあるが、避けては通れない。いよいよ今週の金曜日、最初の候補者討論会が行われる。
私も参加していた研究会の成果発表シンポジウムが行われます。関西方面の方は是非ご参加ください(またしても私は参加できませんが)。登壇者はまちがいなくおもしろい人ばかりです。
サントリー文化財団「社会と思想に関する特別研究助成」成果発表
シンポジウム「変わるアメリカ、変わらぬアメリカ ―世界とアメリカ」
The symposium “Continuity and Change in America”
10月20日(月) 午後1時30分〜5時30分
大阪大学中之島センター「佐治敬三メモリアルホール」
拝 啓
仲秋の候、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、「文明論としてのアメリカ研究会」では、2006年から2008年にかけて、これまでのアメリカン・スタディーズの枠を超えて、歴史、文化、宗教、憲法、政治、経済、安全保障など各方面から、改めてアメリカという文明について考え、議論し、思索してまいりました。
この度、本研究会の成果発表として、「変わるアメリカ、変わらぬアメリカ」をテーマに、大阪と東京でシンポジウムを開催する運びとなりました。日本にとってアメリカとは何か。世界にとってアメリカとは何か。そして、将来100年のスパンで見た場合、我々にとってアメリカはどういう意味を持つのか。本シンポジウムで、今後の日米関係の発展に資する、思想的・学問的・実務的な知的インフラを構築したいと考えております。
つきましては、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、世界の中でのアメリカを、普遍的な視点で考える大阪でのシンポジウムに、何卒ご出席を賜りますようお願い申し上げます。
敬 具
2008年9月
文明論としてのアメリカ研究会
代表 阿川尚之
財団法人サントリー文化財団
理事長 佐治信忠
主催:文明論としてのアメリカ研究会
共催:国立大学法人大阪大学(21世紀懐徳堂)
慶應義塾大学(慶應義塾創立150年記念)
財団法人サントリー文化財団
後援:読売新聞社、中央公論新社
協賛:サントリー株式会社
シンポジウム「変わるアメリカ、変わらぬアメリカ ー世界とアメリカ」
The symposium “Continuity and Change in America”
*日時:2008年10月20日(月) 午後1時30分〜5時30分
*場所:大阪大学中之島センター10階「佐治敬三メモリアルホール」
大阪市北区中之島4-3-53(TEL 06-6444-2100)
*趣旨説明:午後1時35分〜
文明論としてのアメリカ研究会代表 阿川尚之(慶應義塾大学教授)
*基調講演:午後2時〜
白石 隆氏(政策研究大学院大学副学長)
「アジアの中のアメリカ」
谷内正太郎氏(外務省顧問、前外務事務次官)
「日本の外交戦略から見たアメリカ」
*パネルディスカッション:午後3時50分〜
池内 恵氏(国際日本文化研究センター准教授)
ロバート・D・エルドリッヂ氏(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
細谷雄一氏(慶應義塾大学法学部准教授)
松田 誠氏(外務省大臣官房人事課企画官)
コーディネーター:待鳥聡史氏(京都大学大学院法学研究科教授)
*参加方法
お手数ですが、参加申込書(MS-Wordファイル)にご記入のうえ、10月14日(火)までに、FAXにてご返送ください。参加費は無料です。
*ご同伴者の参加について
ご同伴者の参加も歓迎いたします。
特に、アメリカ及び日米関係をご研究の方、あるいはこれらにご関心をお持ちの方に多数ご参加いただきたく、お知り合いの皆様に広くご紹介いただければ幸いです。
*お問合せ
〒530-8204 大阪市北区堂島2-1-5 財団法人サントリー文化財団 / 担当:小島
TEL :06-6342-6221 / FAX:06-6342-6220 / E-MAIL:sfnd@suntory-foundation.or.jp
プロフィール
阿川尚之(慶應義塾大学総合政策学部教授、文明論としてのアメリカ研究会代表)
1951年生まれ。ソニー株式会社勤務、米国及び日本での弁護士事務所勤務などを経て、99年より現職。専門は米国憲法史、日米関係史。2002年から2005年まで在米日本大使館の広報文化担当公使を務めた。『海の友情』、『憲法で読むアメリカ史』(吉野作造賞受賞)など著書多数。
白石 隆(政策研究大学院大学副学長、アジア経済研究所所長)
1950年生まれ。コーネル大学アジア研究学科・歴史学科教授、京都大学東南アジア研究センター教授などを経て、現職。専門は、インドネシア政治を中心とした東南アジア地域研究。『インドネシア』(サントリー学芸賞受賞)、『海の帝国 -アジアをどう考えるか』(吉野作造賞)など著書多数。
谷内正太郎(外務省顧問、早稲田大学客員教授、前外務事務次官)
1944年生まれ。在アメリカ日本大使館参事官、在ロス・アンジェルス日本領事館総領事、外務省条約局長、内閣官房副長官補などを経て2005年外務事務次官、2008年退官。事務次官として3年の任期を務め、「凛とした志の高い外交」を目指し、価値観外交、対北朝鮮政策における「対話と圧力」の基本方針などを策定し実行。
池内 恵(国際日本文化研究センター准教授)
1973年生まれ。日本貿易振興会アジア経済研究所研究員を経て、現職。専門は、社会思想を中心としたアラブ研究。著書に、『現代アラブの社会思想』(大佛次郎論壇賞)、『アラブ政治の今を読む』などがある。
ロバート・D・エルドリッヂ(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
1968年生まれ。平和・安全保障研究所研究員などを経て、現職。専門は日本政治外交史、日米関係論。著書に『沖縄問題の起源』(アジア・太平洋賞、サントリー学芸賞)、『硫黄島と小笠原をめぐる日米関係』などがある。
細谷雄一(慶應義塾大学法学部准教授)
1971年生まれ。現在、在外研究のため、プリンストン大学客員研究員。専門は国際政治学・外交史。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『外交による平和』、『大英帝国の外交官』などがある。
松田 誠(外務省大臣官房人事課企画官)
1965年生まれ。京都大学原子核工学科卒業、同大学経済学部経済学科卒業後、外務省入省。1993年オックスフォード大学卒業(哲学及び政治学専攻)。在米日本大使館勤務などを経て現職。
待鳥聡史(京都大学大学院法学研究科教授)
1971年生まれ。大阪大学大学院法学研究科助教授、京都大学大学院法学研究科助教授を経て、現職。専門は、比較政治・アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義』(アメリカ学会清水博賞)、『日本の地方政治』(共著)、『比較政治制度論』(共著)がある。
すごい勢いで時間が流れていくようになった。新学期が始まってキャンパスには人が溢れている。夏休み中はおみやげを買う観光客しかいなかったCOOPの売店には、教科書とノートを買いに来る学生が殺到している。
8月末から忙しくなってしまった私も久しぶりにオフィスに出てきたら席が変わっていた。早稲田の先生とインド系アメリカ人の博士課程の学生と相部屋だったのだが、今度は大広間のパーティションになった。開放感が増して居心地が良くなった感じ。博士課程の学生の乱雑な性格に閉口していたので、そこは改善された。周囲は研究員ではなく、研究所のサポート・スタッフなので、少し賑やかだ。
先週はボストンでAPSA(アメリカ政治学会)が開かれていたのに、ほとんどセッションには出られず、知り合いとご飯を食べただけで終わってしまった。そんな感じなので、せっかく共和党大会が開かれているのにテレビを見る暇がないが、オバマのキャンペーンがブロードバンドを駆使した「ブロードバンド・キャンペーン」なのに対し、マケインのキャンペーンは「ダイヤルアップ・キャンペーン」だと酷評されている。共和党政権ではブロードバンドの発展は期待できない。そう言えば2001年ぐらいにブロードバンド促進のための法案なんて出ていたけど、状況はあまり変わってないなあ。
Chloe Albanesius, “Democrats Criticize McCain’s ‘Dial-up Campaign,'” PC Magazine, August 26, 2008.
オバマがブログとYouTubeとFacebookでブロードバンドを駆使しているのに、マケインは昔ながらの電話攻勢で頑張っているのだろう。しかし、本選挙ではどちらが勝つか分からないというのだから、インターネットはまだ政治的なパワーとして弱いのだろうか。
以下のビデオはオバマの選挙事務所がネットを駆使している様子。
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土屋大洋「サイバーセキュリティーが米新政権の課題に」NIKKEI NETネット時評(2008年8月18日)
今日、東京からアメリカ人の友人がやってきた。たった1時間お茶を飲みながら話しただけなのに元気が出た。友人というのは良いものだ。その彼がMITで研究している彼の友人を紹介してくれた。この彼がまたおもしろい。rocket scientistだとは聞いていた。rocket scientistは文字通りロケットを研究している人という意味もあるが、頭の切れる人という意味もある。彼は両方なのだ。それも宇宙工学と医学を組み合わせていて、宇宙服をデザインするために人の細胞がどう機能するか研究しているらしい。MITらしいなあ。
夜、ついに民主党の予備選が決着した。10時前にヒラリー・クリントンが演説した。彼女は今晩は何も決めないと言ったが、残される道はミシガンの代議員の扱い見直しを党大会に訴えるぐらいしかない。でも彼女の演説は良かった。われわれ日本人はそのありがたさにあまり気づかないけれども、国民全員が健康保険を持っているのは実にありがたいことだ。アメリカには健康保険に入っていないために満足な医療が受けられない人たちがたくさんいる。健康保険をみんなに提供したいという彼女の政策は十分に訴えるものがある。
ヒラリーの演説が終わった後、オバマの演説が始まった。いつもの彼らしい演説で、ドリーム、フューチャー、チェンジをキーワードにだんだん盛り上げていく。しかし、ヒラリーへの攻撃はない。むしろ、彼女と競ったために自分は良い候補になれた、政策を競い合えたと評価している。今後の党の団結を見越した配慮なのだろうし、実際、全ての州で予備選が重要な意味を持ったことは歴史的な出来事だ。この二人の接戦はこれからもずっと研究対象となるのではないだろうか(まだはっきりしないけど、得票で上回る見込みのクリントンが選出されなかったことは、予備選という不可思議なシステムの問題点を再び明らかにするのではないだろうか。さらにオバマが本選で苦戦することになればこのことは何度も蒸し返されるだろう。ヒラリーがここまでキャンペーンを続けたのは、オバマよりもマッケインに勝てる見込みがあるということだった)。
オバマの演説が終わった後、CNNのアナウンサーと解説者たちは、レーガン大統領、キング牧師、リンカーン大統領に匹敵する演説のうまさだと誉めていた。オバマはますます強くなるのだろうか。彼に軍歴がないのがなんとも残念だ。マッケインとはこの点が違う。マッケインはここを突いてくるだろう。イラク戦争は避けられない争点だ。保守的な軍人がオバマを支持できるかどうかが一つの見所だ。
演説が終わった後の音楽が、ヒラリーはティナ・ターナー、オバマはブルース・スプリングスティーンだったことも何となく対照的だった。
【追記】
CNNはヒラリーを副大統領候補にすればオバマは本選で勝てるという見通しを出した。ありえるかなあ?
寝ぼけまなこで起きると、テレビで民主党の党規委員会の中継が始まっていた。何気なく見始めたがかなりおもしろい。大統領選挙の行方を決める委員会になるのかもしれない。背景については、例えばこちらやこちらやこちらを参照。
2004年の選挙でインターネット旋風を巻き起こしたハワード・ディーンが民主党の委員長を務めており、彼の挨拶も気合いが入っていた。司会が二人いるのだが、そのうちの一人はどうやらフランクリン・ルーズベルト大統領の孫らしい。
今のところ一番盛り上がっているのは、オバマ派の下院議員でフロリダ州選出のRobert Wexler議員の演説と質疑応答。彼の発言に激しい拍手とブーイングが巻き起こる。
その後も延々と議論が続けられ、それぞれの立場から熱心に主張している。普段は偉そうに質問している議員たちが、党規委員会の委員たちにぐりぐり質問攻めにされている姿もおもしろい。
真の勝者は民主主義だという指摘ももっともだ。複雑な大統領選挙の仕組みについて、これだけ報道されればより分かった気がする。
Alan Wolfe, “The Race’s Real Winner,” Washington Post, May 11, 2008; Page B01.
徹底的に議論することで、結果に対する満足度は上がる。オバマにせよ、クリントンにせよ、マッケインに勝てるかどうかは別の話だが、比較的あっさりと決まった共和党よりも、民主党のほうがアメリカ政治が理想とする姿を描き出したといえるだろう。ここまでもめなかったとしたら、モンタナやサウスダコタの予備選なんて誰も注目しなかっただろう。
今日のボストンはサンダーストームの予報が出ているせいか、外出している人が少ない気がする。窓から見える駐車場の出入りが週末にしてはとても少ない。みんなこのテレビを見ているのだろうか。