土屋大洋「米中対立が阻むデジタル投資 太平洋島しょ国支援で」『日本経済新聞』2021年7月27日。
土屋大洋「動き出す国家のサイバー捜査 海外連携、抑止に軸足」『日本経済新聞』2021年9月28日。
土屋大洋「データこそ経済安全保障の要 中国の政策変化に目配りを」『日本経済新聞』2021年11月23日。
土屋大洋「潜水艦探知巡る主要国の暗闘 日本も技術革新に対応を」『日本経済新聞』2022年1月25日。
土屋大洋「侵略国の株奪うサイバー戦 対ロシア、ハッカー巻き込む」『日本経済新聞』2022年3月29日。
土屋大洋「サイバー戦略を見直す契機 認知能力向上が重要に」『日本経済新聞』2022年5月24日。
土屋大洋「データの安全な保管場所 ウクライナは欧州に分散」『日本経済新聞』2022年7月26日。
土屋大洋「権威主義が脅す学問の自由 目障りな研究者を拘束」『日本経済新聞』2022年9月27日。
土屋大洋「民主主義左右する海底通信網 戦時下で繰り返される切断」『日本経済新聞』2022年11月29日。
土屋大洋「偽情報飛び交う台湾選挙戦 中国がもくろむ分断の流れ」『日本経済新聞』2023年1月24日。
土屋大洋「転機迎えるサイバー安全保障 日米、問われる本気度」『日本経済新聞』2023年3月28日。
米中分断の虚実
土屋大洋「米中ネットワーク競争と海底ケーブル」宮本雄二、伊集院敦、日本経済研究センター編著『米中分断の虚実—デカップリングとサプライチェーンの政治経済分析—』日本経済新聞出版、2021年、59〜77頁。
米中デカップリングとサプライチェーン
日本経済研究センターの報告書「米中デカップリングとサプライチェーン」がオンラインで公表されました。第2章「米中ネットワーク競争と海底ケーブル」を担当しています。
それにしても、あっという間に2021年の最初の3カ月が終わり、新学期が始まってしまって驚いています。
US and Japanese Perspectives on Cybersecurity and Undersea Cables (Oct. 22 at 9:00 AM JST)
イベントに参加します。海底ケーブルの話をします。
English: https://bit.ly/2ScMV7X
日本語: https://bit.ly/33eCFCv
登録フォーム: https://form.jotform.com/202691938645365
日本国際問題研究所に海底ケーブルについてのレポートも載せてもらいました。
土屋大洋「海底ケーブルをめぐる国際関係」日本国際問題研究所、2020年9月29日。
海底ケーブルの地政学
土屋大洋「海底ケーブルの地政学」『CISTECジャーナル』2020年3月号、104〜112頁。
こちらの原稿も遅れてしまい、本来は2月号だったのに3月号に掲載になりました。関係者の皆様、申し訳ありません。
本当にここのところ、学部運営が忙しくて、原稿執筆が滞っています。申し訳ありません。
インターネット通信網に米中対立の影
土屋大洋「インターネット通信網に米中対立の影」『日本経済新聞』2020年3月25日。
中外時評の連載です。「チーム・テレコム」について書いています。
技術覇権 米中激突の深層
土屋大洋「米中のサイバー空間の覇権争い—サプライチェーン・リスクと海底ケーブル—」宮本雄二、伊集院敦、日本経済研究センター編著『技術覇権—米中激突の深層—』日本経済新聞出版社、2020年、151〜176頁(第6章)。
12月はじめの締切にだいぶ遅れました。出版が遅れたとしたら私のせいです。関係者の皆様、すみませんでした。
海はだれのものか
戸所弘光、土屋大洋「海底ケーブルのガバナンス—技術と制度の変化—」秋道智彌、角南篤編著『海はだれのものか』西日本出版社、2020年、164〜177頁。
目次では私の名前が先に出ていますが、ファーストオーサーは戸所さんです。
光海底ネットワークシンポジウム
以下のシンポジウムが開かれます。私も参加します。
https://osn-sym.wixsite.com/mysite-2
第一回 光海底ネットワークシンポジウム
Optical Submarine Networks Symposium
日時:2019年10月4日(金)13:00 受付開始
13:30~18:00 講演会(無料)18:00~20:00 懇親会(有料)
会場:東京工業大学 蔵前会館 大岡山駅
ロイヤルブルーホール
http://www.somuka.titech.ac.jp/ttf/
主催:OSN研究会
協賛:電子情報通信学会「光通信システム研究会」
シンガポール
シンガポールへ2泊の出張。もともとは会議の招待を受けていたのだが、いろいろあって会議への参加はキャンセル。しかし、ついでに設定してあった別件があって自費で渡航。すれ違いでなかなか会えなかった方と会うことができて良かった。
さらについでにシンガポールで働く卒業生と夕食。地元の本当においしいシーフードの店に連れて行ってもらった。手をべとべとにしながらエビとカニをいただく。
こうして卒業生とゆっくり話ができるのは教師冥利に尽きる。彼がやっていることを聞くと大学での教育なんてほとんど役に立っていないんじゃないかという気もするが、立派に仕事をしてくれているのはうれしい限りだ。
もっとついでに、海底ケーブルの陸揚局も2箇所見に行く。一つは堂々とケーブル陸揚局と看板が出ている。
もう一つは、タクシーの運転手もうろうろ迷い、ビルにもそれらしい表示は見当たらなかったが、どうやらこの建物のようだ。
公開情報とはいえ、怪しまれて捕まるとやっかいなので、早々に退散。
両方ともチャンギ空港の近くで、海は空港を挟んで向こう側。さすがにマンホールを探すまでは無理だった。
ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで:太平洋軍の研究プロジェクト
ハワイに行くたびに遊びに行っているんだろうとご批判をいただくが、昨年出した『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房)の前書きで書いたとおり、米国の太平洋軍(PACOM)に関心を持ってきた。太平洋軍はアジア太平洋全域を管轄している。「ハリウッドからボリウッドまで、ペンギンからシロクマまで」と言われるように、米国西海岸からインド洋まで、そして北極海から南極大陸沿岸までの広大な地域を管轄としている。そして、その司令部がハワイにある。その管轄範囲には日本や朝鮮半島、台湾も含まれており、東アジアの有事の際に使われる「米軍」とは太平洋軍のことに他ならない。
ハワイに1年間いたとき、もし米中開戦ということになれば、かつての日本帝国海軍のように、中国人民解放軍もハワイをたたくだろうと確信めいた感覚を何度も得た。それぐらい、ハワイは軍事的な拠点として重要である。その感覚を共有する人は他にもいるようで、P・W・シンガーとオーガスト・コールが書いた『中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上・下)』(二見文庫、2016年)では、サイバー攻撃を駆使して人民解放軍がハワイを占領してしまう。ハワイの土地勘が多少ある身としては、ああ、あそこかあ、と思うシーンがたくさんあった。サイバーセキュリティに関心のある方々には必読の小説である。
昨年度から、慶應の「スーパーグローバル大学創成支援」事業の一環として「アジア太平洋地域の安全保障体制」というプロジェクトを動かしてきた。太平洋軍を研究するためのプロジェクトである。その1年目の成果を以下にまとめた。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/pacom/
いずれこのページは正式な慶應の事業ページの下に移されると思うが、そちらができるまでの一時的なものとして作っておく。そのときにはもっとファンシーなデザインになるはずだが、今は必要最低限だけ。ハワイにあるイースト・ウエスト・センターのデニー・ロイさんと私のワーキングペーパーも載せた。ワーキングペーパーなので、まだまだクオリティの高い論文にはなっていない段階だが、ひとまず1年目の成果として掲載してある。
なぜこんなに太平洋軍についての研究が少ないのかと思っていたが、やってみると、資料が限られている上に、太平洋軍そのものへのアクセスが厳しいことが原因だと気づかされた。ウェブ上にはそれなりに英語の資料があるが、行間を読まないと理解しにくい。行間を読むために現場の人たちの話を聞こうとしても、なかなか会うことができない。ワシントンDCでは人と会って情報交換するのが当たり前の文化だが、軍隊相手ではそうはいかない。ハワイの人はたいていフレンドリーだが、基地の中にいる軍人たちに会うのはとても難しい。まして、私は民間人であり、外国人でもあるから、彼らにとっては私と会うことにメリットはなく、むしろリスクでもある。ハワイでも日本でもいろいろな方々が支援してくださっているが、なかなかまとまった成果にはつながらない。
とはいえ、飽きっぽい私としては、サイバーセキュリティ以外にもテーマを抱えておくことは重要なリサーチ・ハックでもある。サイバーセキュリティ、海底ケーブル、太平洋軍の三つが今のところの研究課題である。どこか一つで行き詰まったときに、一時的に別のテーマに切り替えておくと道が開けることがある。とはいえ、二兎ならぬ三兎を追うことでリソースが分散し、どれも成果が出ないことにもなりかねない。三つのテーマは緩やかにはつながっているので、うまく関連づけることだろう。
太平洋軍については、今秋のSFCのオープンリサーチフォーラム(ORF)で、できれば公開シンポをやりたい。今年度もそのうちにハワイに行くことになると思うが、遊びに行くのではない。サーフィンは一度もしたことがない。
海底ケーブル銀座としての東アジア
土屋大洋「海底ケーブル銀座としての東アジア」『東亜』第583号、2016年4月、6〜7頁。
連載第2回です。
ビュード
年度末最後の出張はロンドンへ。今回はオープンなイベントはなく、RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)でのクローズドのミーティング。前回11月に来た際、RUSIの研究者と食事会で一緒になり、サイバーセキュリティはクローズドでちゃんと話がほうが良いと言われ、そうしてもらった。日本の政策を説明した後、2時間がっちり議論。最後はネイティブ同士の弾丸トークになってしまい、ちょっとついて行けなかった。まだまだ英語力が足りない。
実はこの日は、ブリュッセルでテロがあった日の午後。さすがイギリス人というべきか、動揺した顔は見せず、全く話にも出なかった。その日の午後のEvening Standard紙では、次のターゲットはイギリスかもしれないと煽り立てていたが、どうなるのだろう。たまたまメールが来た東欧の友人は、ヨーロッパはもうたやすく行けるところではなくなったという。
泊まっていたパディントン駅の周辺は、ヒースロー空港からヒースローエクスプレスがつながっているので便利だが、ムスリム系の人たちが多く住むところとしても知られている。改めて見渡すと、以前に来たときよりも増えている気もする。特に、目だけを出して全身黒ずくめの女性が目に付く。テロによる私の偏見なのか、移民が増えているのか、判断しにくい。
予備にとってあった一日が丸々空いた。どうしようかいろいろ悩み、友人たちにも相談したが、やはり海底ケーブルを見に行くことに。ブリテン島の最西端にポースカーノ(Porthcurno)という場所があり、19世紀に最初の大西洋ケーブルが陸揚げされたことを記念した電信博物館がある。しかし、冬の間は土日月しか開いていないらしいので断念。
その代わりに現代の海底ケーブルがたくさんあがっているビュード(Bude)に行くことにする。パディントンから地下鉄でビクトリア駅へ出て、ガトウィック・エクスプレスに乗ってガトウィック空港へ。そこからflybeという格安航空でニューキー(Newquay)まで飛ぶ。小さなプロペラ機。Bombardier Q400らしい。「道路や鉄道より速い(Faster than road or rail)」っていうキャッチフレーズはどうかと思う。
1時間ちょっとで到着。そこからレンタカーでさらに1時間ほどでビュードへ。
陸揚局の場所はhttp://www.stevenheaton.co.uk/SubmarineCableLandingsUK/?p=113で確認済み。そこへ直行すると本当にあった。意外にも住宅街のど真ん中で、そこら辺にいる住民たちの「何しに来た、アジア人?」っていう視線が痛い。何も悪いことはせず、敷地の外から建物を眺めて少しだけ写真を撮らせてもらう。
敷地の奥には海底ケーブルが巻かれたまま置かれており、建物の警告文にはBTの所有物と書いてあるので間違いない。
ここは冷戦中の60年代に作られたとのことで、地下化されているようだ。地上の建物は掘っ立て小屋に近いが、敷地の芝生の所々に空気穴のようなものがある。冷戦中の陸揚局は核兵器対応のところが多いと聞くが、ここもそうなのだろうか。国営独占事業者の時代だからできたことだろう。現在の事業者の陸揚局はコスト削減最優先で、そこまでの余裕はないはずだ。
海岸線までは1.5キロほどか。一番近いと思われるBlack Rock Beachへ。かなり遠浅の海岸になっているが、その名の通り黒っぽい岩がゴロゴロしている。岩がなく、砂が続くところもあるので、そこにケーブルが通っているのかと考えながら海岸をうろうろするが手がかりはなし。犬を散歩させている人たちがとても多い。近くのカフェで昼食。大きなボールに出てきた熱々のトマトスープがうれしい。
念のために、隣のビーチにも行ってみる。ここはサーファーが多い。ウェットスーツに着替えている人たちがたくさんいる。案内板を見ると、さっきのビーチは犬を遊ばせて良いが、こちらはダメとのこと。ふとライフガード小屋の横を見ると、大きな標識のようなものが立っている。岸側に向いているのではなく、海を向いている。海側に出て見上げてみると、「TELEPHONE CABLE」と書いてある。これが海底ケーブルの場所だ。
ケーブルが引き上げられているウィドゥムス・ベイ(Widemouthと書いてワイドマウスではなくウィドゥムスと発音するらしい)を見下ろす岬の上に立つ。まさに断崖絶壁で、柵もないので下を見下ろすのが怖い。花束がたむけてあるのがなんとも。そこから南側のベイを見下ろすと、確かに湾(ベイ)になっていて、ケーブルを引き上げるには良い場所だろうなと思える。ただ、岩が多すぎるのではという気もする。
そして岬の上から反対の北側を向くと、なんとはるか先にGCHQ(政府通信本部)の基地が見えるではないか。地図で確認すると車道で15キロぐらい。直線では10キロぐらいだろうか。肉眼で確認できたのはうれしい。カメラの精度がもっと良ければきれいにとれたのにと残念。近づいてみたいところだが、外国人がおいそれと近づけるところではないので、ここで我慢。
ロンドンに戻り、その晩は勢いで「テムズ川のバビロン」と呼ばれるSIS(MI6)本部も見に行く。『007 スカイフォール』で爆破されてしまい、『007 スペクター』ではもう一度爆破されてしまうが、本物は健在だった。
ロシアの潜水艦が米国の海底ケーブルの遮断を計画?
土屋大洋「ロシアの潜水艦が米国の海底ケーブルの遮断を計画?」『Newsweek日本版』2015年10月27日。
海底ケーブルが狙われるという話は、常々考えてきたわけですが、いよいよ来てしまったかという感じがします。
通常は隔週で書いていますが、私の都合で次回は3週間後です。
志摩での海底ケーブル陸揚げ
6月15日、志摩で新しい海底ケーブルFASTERの陸揚げがあり、KDDI総研のご厚意で見学させていただいた。詳しい内容はすでにGigazineで報告されているので、簡単に。
FASTERは関東または関西で大きな災害が発生した時にも対応できるように、千葉県の千倉と三重県の志摩の両方で陸揚げされた。千倉のほうは陸から海底にドリリングをしてパイプを通し、そこにケーブルを通してしまうので、あまり見所がないそうだ。志摩のほうは19世紀と基本的に変わらない陸揚げをするとのことで、見学会が設けられた。
見学会は早朝5時集合である。見学者は前泊しないと間に合わない。最寄り駅は名古屋から近鉄で2時間半かかる。5時にホテルを出て海岸に到着すると、すでに関係者の皆さんが準備をしている。
沖合にはすでに前日からケーブルを積んだケーブル敷設船がスタンバイ。ここから、ブイを付けたケーブルが引っ張り出されてきて陸に揚げる。
浜側では、各種機械が設置されている。海中の防波ブロックを避けて引き上げられたケーブルは、海岸ですぐに直角に曲げられ、陸揚局近くまで引っ張られる。
作業前に関係者代表が集まって安全祈願祭。日本酒を捧げる。この後、ケーブル船から徐々にケーブルが引っ張られてくるが、かなり時間がかかるとのことで、他の皆さんはいったん引き上げる。私は作業完了前に大学に戻らなくてはならなかったので、そのまま海岸に居残る。関係者の皆さんと話したり、陸揚局の中を見せてもらって過ごす。他の皆さんは朝食をとってから8時にホテルに再集合して海岸に戻ってくるはずだった。ところが、ケーブルは7時半には陸揚げされてしまった。次の写真は、先端が陸に上がったところ。
居残っていたので、この瞬間が見られたのは良かった。すいすいとケーブルは揚がってくるが、時間が早まったのは関係者の作業が非常にスムーズだったからだ。前述のGigazineの報告でもこの瞬間は捉えられていない。
ケーブルが無事に上がってきたところで、シャンペンでお祝い。さっきは日本酒だったのに節操ないなと思うが、シャンペンを割るのは万国共通の習慣だそうだ。
私はこの時点で帰らなくてはいけないので、先に失礼した。
ケーブルの陸揚げはなかなか見るチャンスがない。日程的にきつかったが、授業にも間に合ったので、とても良い機会だった。どうやって陸揚げするかは知識としては知っていたが、自分の目で見られたのは大きい。KDDI総研およびKDDI、NECの皆さんに感謝したい。
帰国
1年間の在外研究から帰国して20日ほどが経った。20日間のうち、5日間ほどはワシントンDC出張だったが、東京もあっという間に暖かくなってきた。
1年間ハワイにいたというと、驚かれ、あきれられ、うらやましがられることが多かった。ハワイというと観光イメージが強烈に強く、ビーチで遊んできたのだろうと思われる。もちろん、休みの日にはビーチにも行った。過去20年以上、ほとんどビーチには行かなかったから、その分を取り返した気はする。しかし、ただ行くだけではもったいないので、関連する取材もした。
そもそも、ハワイに行くことにした理由は三つ。一つは太平洋島嶼国のデジタル・デバイド、特に海底ケーブルの調査である。最初にパラオに行ったのは2010年。そこであまりにもインターネットが遅くて驚いた。それ以来、パラオを中心に太平洋島嶼国のことが気になり、調べてきた。
太平洋島嶼国の研究機関として最も有名なのがハワイにあるイースト・ウエスト・センター(東西センター)である。ここは、ハワイ大学マノア・キャンパスの敷地内にあるので、よくハワイ大学の一部だと勘違いされているが、組織的には別で、ハワイ大学が州立大学なのに対し、イースト・ウエスト・センターは連邦政府の資金で運営されている。そのため、ハワイ州の休日には休みを取らず、連邦政府の休みの日だけ休みになる。
あいにく、太平洋島嶼国の研究は十分には進まず、成果はあまり出なかったが、ハワイ大学社会科学研究所から共著本の英訳を出すことができた。私は編者ではないが、現地にいたこともあってそれなりに編集を手伝った。
Motohiro Tsuchiya, “Digital Divide in the Pacific Island Countries: Possibility of Submarine Cable Installation for Palau,” Minoru Sugaya and Christina Higa, eds., Pacific Island Regional and International Cooperation: ICT Policy and Development, Honolulu: Social Science Research Institute, University of Hawaii, 2014, ISBN 978-0-692-03007-3, pp. 169-188.
ハワイに行くことにした二つ目の理由は、ハワイそのものの海底ケーブルの歴史がおもしろかったからである。すでにこれについては、田所昌幸、阿川尚之編『海洋国家としてのアメリカ―パクス・アメリカーナへの道―』(千倉書房、2013年)触れていることだが、ハワイ大学、ハワイ州立図書館、ビショップ・ミュージアムにある資料をもう一度掘り起こして調べたかった。
こちらについても、成果は活字になっていないが、持ち帰った資料をまとめる作業をこれからしたい。ビショップ・ミュージアムには、1902年にハワイにつながった最初の海底ケーブルのスライスが展示されていた。また、そのケーブルの残骸が海の底に眠っており、水中カメラで撮影もしてきた(だからビーチに行ったのだ!)。
ハワイのビーチと言えば、ハナウマ湾が有名だが、ここにも1950年代の電話用の海底ケーブルが残っている(もう使われていない)。こちらも撮影してきた。
ハワイに行った三つ目の理由は、ハワイが安全保障上の拠点だからである。米軍と言えば、法律上は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、そして沿岸警備隊の五軍となっている。しかし、実際には統合軍といって、六つの地域別統合軍と三つの機能別統合軍に編成されている。アジア太平洋地域を担当するのは太平洋軍であり、その司令部はハワイに置かれている。
よく、在日米軍や在韓米軍と言われるが、それぞれを指揮しているのはハワイの太平洋軍司令部である。在日米軍司令部は言わば太平洋軍司令部の出先機関みたいなものであり、いざ有事の際に指揮権を持つのはハワイである。ハワイ滞在中、元太平洋軍司令官にインタビューする機会があった。彼は、太平洋軍司令官としての自分を止められるのは大統領と国防長官だけだったと言っていた。30万人といわれる太平洋軍の存在を無視してアジア太平洋の安全保障は語れない。
さらに言えば、サイバースペースの安全保障、つまりサイバーセキュリティにおいてもハワイは重要な拠点である。米国の国家安全保障局(NSA)の本部とサイバー軍の司令部はワシントンDCに近いメリーランド州のフォート・ミードにある。しかし、アジア太平洋地域を監視するNSAの拠点は、これまたハワイにある。だからこそ、エドワード・スノーデンは、香港に渡る前にハワイで1年間を過ごし、そこでトップ・シークレットの書類をダウンロードした。
こうした理由があってハワイで1年間を過ごした。結局のところ、世の中のニーズはサイバーセキュリティにあるので、多くの時間をそちらに割かざるを得なかったし、アウトプットもそちらが多かった。その一つは角川インターネット講座の一つとして出た『仮想戦争の終わり』である。
土屋大洋監修『仮想戦争の終わり―サイバー戦争とセキュリティ―』KADOKAWA、2014年(角川インターネット講座第13巻)。
また、拓殖大学海外事情研究所の『海外事情』や、日本国際政治学会の『国際政治』にも原稿を載せてもらった。
土屋大洋「米国のサイバーセキュリティ政策」拓殖大学海外事情研究所編『海外事情』第62巻3号、2014年3月、46〜59頁。
土屋大洋「サイバーセキュリティとインテリジェンス機関―米英における技術変化のインパクト―」『国際政治』第179号、2015年、44〜56頁。
『治安フォーラム』という雑誌でも連載を続けてきた。
土屋大洋「国連を舞台にしたサイバーセキュリティ交渉」『治安フォーラム』2014年3月号、45〜48頁。
土屋大洋「国境を越えるサイバー犯罪のための協力」『治安フォーラム』2014年5月号、48〜51頁。
土屋大洋「サイバーセキュリティのグローバル・ガバナンス」『治安フォーラム』2014年7月号、47〜50頁。
土屋大洋「IT企業とNSAの密接な関係」『治安フォーラム』2014年8月号、66〜69頁。
土屋大洋「米サイバー軍と国家安全保障局の第二幕」『治安フォーラム』2014年9月号、48〜51頁。
土屋大洋「米軍が目指す統合情報環境(JIE)」『治安フォーラム』2014年10月号、62〜65頁。
土屋大洋「政府とハッカーの分裂」『治安フォーラム』2014年11月号、37〜40頁。
土屋大洋「米国のサイバー攻撃非難に反発する中国」『治安フォーラム』2014年12月号、32〜35頁。
土屋大洋「インテリジェンスの倫理」『治安フォーラム』2015年2月号、59〜62頁。
土屋大洋「インテリジェンスと国民性」『治安フォーラム』2015年3月号、40〜43頁。
そして、来月には、千倉書房から単著本を出してもらえることになっている。この本には幸いにもKDDI財団から出版助成をいただくことができた。
土屋大洋『サイバーセキュリティと国際政治』千倉書房(2015年4月末発売予定)。
これから社会復帰しながら、ツイッターやブログの更新頻度も上げていこうと思う。
Pacific Island Regional and International Cooperation
Motohiro Tsuchiya, “Digital Divide in the Pacific Island Countries: Possibility of Submarine Cable Installation for Palau,” Minoru Sugaya and Christina Higa, eds., Pacific Island Regional and International Cooperation: ICT Policy and Development, Honolulu: Social Science Research Institute, University of Hawaii, 2014, ISBN 978-0-692-03007-3, pp. 169-188.
慶應のメディアコミュニケーション研究所の菅谷実先生とハワイ大学のクリスティーナ・ヒガさんの編著本が出ました。私もパラオの海底ケーブルについて一章書いています。
これは、菅谷実編著『太平洋島嶼地域における情報通信政策と国際協力』(慶應義塾大学出版会、2013年)の翻訳版になります。
千倉海底線中継所
KDDI総研の皆さんのご厚意で、たくさんの研究者の皆さんと一緒に千葉県千倉の千倉海底線中継所を見学させていただいた。
言うまでもなく、日本最大の海底ケーブル陸揚げ局である。最近のケーブルで言えば、グーグルも参加し、2011年の東北地方太平洋沖地震でも切れなかったUNITYや、日本とアジアを結ぶ大動脈となりつつあるSJCがここにつながっている。この二つが千倉で北米とアジア諸国を結びつけていることになる。
なぜ千倉なのか。地球儀を引っ張り出してきて、アメリカ西海岸とアジアとの間に線を引くと最短距離になるからである。メルカトル図法の地図では分かりにくいのだ。
学術的関心を超えて単なる海底ケーブルのオタクになりつつある自分を感じつつ、大変勉強になる見学会だった。(帰りのサービスエリアで買った海産物のお土産を、帰宅してからよく見たら瀬戸内海産だったのにはちょっとがっかりした。)
KDDI総研の皆さん、昨年の長崎に続いて、どうもありがとうございました!
(ちなみに、先日、海底ケーブルのことを書かせてもらった『海洋国家としてのアメリカ』の出版社は千倉書房だが、千葉県の千倉とは関係ない。社名の由来は創業者が千倉豊氏だからである。しかし、縁起は良い。できれば千倉書房にもう一冊、海底ケーブルの本を書かせてもらいたい。)
北極のガバナンス
北極のガバナンスについて、初めてまじめに話を聞いたのは5月の日加安保シンポジウム@オタワの席だった。日本側のスピーカーは石原敬浩海上自衛隊幹部学校教官だった。ほとんど何も知らなかったので、へええと勉強になった。
私が北極に興味を持っているのは、北極海海底ケーブルが通るかもしれないからだ。いくつかのプロジェクトが動いている。太平洋に光ファイバーの海底ケーブルを敷設したことで有名な新納康彦さんもArctic Fibreに参加されている。
先週、日本国際問題研究所の「グローバル・コモンズ(サイバー空間、宇宙、北極海)における日米同盟の新しい課題」というプロジェクトでもう一度、石原教官の話を聞く機会があった。コメンテーターは早稲田の池島大策先生。
お二人の話をうかがって、この半年の間にもかなり動きがあったことを知る。なかなか興味深い。11月には米国防総省が北極圏戦略を発表したそうだ。北極の沿岸国、特にカナダやロシアが権益がために入る一方で、日本や中国がArctic Councilのオブザーバーになったり、はたまた貿易航路の変更で大きく打撃を受けそうなシンガポールまで入ってきたりしているそうだ。特に中国は、カナダ沿岸でもロシア沿岸でもなく、北極海の真ん中を通ろうとしているとか。ロシアは北極の極点の海底に旗を立てたり、オホーツク海は俺の海だと出張ってきたり。いやあ、すごいつばぜり合いだ。
いろいろ文献も出ている。いずれ、授業でも取り上げないと。
- 兵頭慎治「ロシアの北極政策」
- 池島大策「北極圏ガバナンスの課題」『外交』22号、2013年、46〜53頁。
- 池島大策「グローバルコモンズとしての北極海と安全保障:国際法の視点から」
- 石原敬浩「極北のパワーゲーム 対立と協調の構図」『外交』22号、2013年、27〜31頁。
- 石原敬浩「北極海と安全保障」『国際問題』627号、2013年12月、49〜59頁。
- 石原敬浩「北極海の戦略的意義と中国の関与」『海幹校戦略研究』第1巻1号、2011年5月、49〜74頁。
- 日本国際問題研究所『北極のガバナンスと日本の外交戦略』2013年3月。
海洋国家としてのアメリカ
田所昌幸、阿川尚之編『海洋国家としてのアメリカ―パクス・アメリカーナへの道―』千倉書房、2013年。
第6章「海底ケーブルと通信覇権」149〜174頁を担当しました。
サントリー文化財団で行われた研究会の成果です。