たまった新聞を読んでいたら、12月20日の日経夕刊で梅田望夫さんが、小澤征爾、広中平祐、プロデューサー萩元晴彦『やわらかな心をもつ—ぼくたちふたりの運・鈍・根—』(新潮文庫)を紹介していた。梅田さんが海外で生活して早起きして勉強するきっかけになったという本だ。
近所の本屋に行ったら、小澤征爾『ボクの音楽武者修行』(新潮文庫)も隣にあったのでついでに買ってきた。『やわらかな心をもつ』を読み始めたら、最初のところに『ボクの音楽武者修行』の紹介が出てきたので、『ボクの音楽武者修行』を先に読み始める。
小澤征爾さんの音楽は数年前にベルリンで聞く機会があったきりで、大した予備知識はないのだけど、その成功物語に驚く。最初にヨーロッパに行ったときは、スクーターとともに貨物船に乗って、60日かけて船旅をし、フランスをスクーターで旅してパリにたどり着いた。しばらく語学などを勉強して、ブザンソンというところで開かれた指揮者のコンクールで優勝してしまう。
それからヨーロッパとアメリカで修行が続き、日本に凱旋するところまでの話が、当時の手紙とともに語られている。日本にいたときには決して恵まれた環境ではなかったようだけど、留学して言葉の壁をあっさり乗り越えて成功してしまっている。音楽というユニバーサルなものだからこそできるのかもしれないけど(しかし、そうはいってもクラシック音楽はヨーロッパ色が強いはずだ)、見事なものだ。
『やわらかな心をもつ』は、数学者の広中平祐との対談。二人の全く違うタイプの天才が語り合っている。私も大学院生の時、副題にもなっている「うん・どん・こん」という言葉については聞かされた。学者になろうという人には大事な言葉だと思う。この本が語源なのかと思ったら、そうでもないようだ。
数学の世界は、割と正解がはっきりした問題ばかりをやっているのかと思っていた。しかし、先日、昼飯を食いながら同僚の数学者と話していたら(数学者と気軽に話せるのがSFCのすばらしいところだ)、数学の世界でも社会と同じようにどんどん新しい問題が生まれてきていて、それに対するアプローチは一つではないという。広中さんの話を読んでいてもやはりそうなのだと確認する。
二人はどうやら天才のタイプが違う。小澤さんは集中力がずば抜けているらしい。朝3時か4時に起きて一気に譜面の勉強をする。その分、演奏会の後は音楽のことはけろっと忘れてお酒を飲んで寝てしまう。広中さんは考え続けることができるらしい。数学の問題は解くのに数年かかることもある。努力し続けることができる(あるいは努力を努力と思わない)のが天才の条件なのだろう。小澤さんは若いうちに嫉妬心を殺すことを覚え、広中さんは元来「鈍い」のだそうだ。この辺も実は重要な点だろうなあという気がする。他人と自分を比べていたらきりがない。
音楽家、学者、そして教育者としての話、それにアメリカ生活の話もとてもおもしろい。音楽や数学を専門としていなくても楽しく読める本だ。
天才にはほど遠い私も一時期はずっと早起きをしていたのだけど、最近は諸般の事情があって諦めて、普通の時間に寝て普通の時間に起きている。相変わらず夜のつきあいはあまりしないので体調は少し良くなった気がする。しかし、問題は生産性が上がっているか、下がっているかだ。もう少し見定める時間が必要だ。