6月25日、中国防衛科学技術情報センター(CDSTIC)というところの招きで、北京での国際ワークショップに参加してきた。CDSTICは、米国防総省の報告書(PDF)では以下のように書いてあって、なにやら物騒である。
an overt intelligence collection and clearinghouse operation, gathering together all manner of information across the world on militarytechnical affairs.
公然(overt)であって、非公然(covert)ではないから多少の救いはあるが、それでも相手は中国のインテリジェンス機関である。何せ、90分のセッションをひとりでやれと。60分話して、30分の質疑応答というから、普通の国際会議ではあり得ない。こちらから何を聞き出そうというのか。知り合いの中国人研究者からの依頼だったので、行くことにしたが、ちょっと警戒度を上げ、用心棒に後輩のK君に一緒に来てもらった。しかし、結果的には、どうということはない。何も困ったことは起きなかった。
そもそも、一緒に招待された欧米の研究者たちが私よりもはるかに有名な人たちで、「あの人たちにオペレーションをかけてはまずいでしょ」という人たちだった。全体のプログラムをもらったのは北京に行く2日前だったので、ちょっとほっとした。
ワークショップの私の番では、日本語と中国語のパワーポイントの整合性に問題があったのか、2回もパワーポイントがクラッシュするという失態。大変残念だった。この写真は別の人が話しているときのものだが、しっかりと私の失敗もビデオに撮られていただろう。
ワークショップは名目で、それが終わった後は宴会があって、じゃんじゃか飲まされていろいろしゃべらされるぞと東京の友人たちに脅されていた。しかし、ワークショップが終わってみると、会場のホテルのレストランの食事クーポンを渡され、食べ放題の夕食を勝手に食べてくれとのことだった。主催者側の人は全く来ず、聴衆の人たちがちらほらといるだけ。ビールもなんと有料自腹であった(実際にはK君が払ってくれた)。
K君となんだか拍子抜けだねと話して食事をしていたら、日本語が話せて、聴衆の中にいた女性がやってきた。おやおや、ついに来たかと思った。彼女はセッションの最中に細かい日本政府の動きをいくつか質問してきた人だ。話を聞いてみると、彼女の仕事は英語を中国語に翻訳する仕事だということだが、なぜか日本語を習っていた。しかし、日本に行ったことはないという。彼女は名刺を持っていないのでどこで働いているのかよく分からなかった。
そこに英国のキングスカレッジのThomas Rid教授がやってきた。彼はCyber War Will Not Take Placeという本で知られる有名な研究者である。彼はもちろん日本語が話せないので会話を英語に切り替えると、彼女はCDSTICで働いていると自己紹介した。それなら先に言ってくれよと思ったが、彼女の意図はよく分からない。私とRid教授が英語でサイバーセキュリティの話を始めると彼女は挨拶をして去って行った。結局、何者でもなかったらしい。朝一番の便で羽田から北京に飛び、すでに始まっていたワークショップにそのまま参加したので、とても疲れた一日で、疲れすぎてよく眠れなかったが、特に何事もなく夜は過ぎた。
翌朝、K君の案内で万里の長城に向かう。私は初めてだが、K君は修学旅行で来たことがあるという。最初は電車で行こうとするが、3時間待ち。仕方がないので隣駅からバスに乗る。このバスは満員になり次第、すぐに出発というもので、2台目で乗れた。バスは長距離用だが、少しシートは狭い。多少の不安はあったものの、ゴトゴトと揺れているうちに眠り込んでしまう。
長城のふもとに着くと、観光客がたくさん。体力に自信がないので、女坂といわれるゆるい方の傾斜を登る。しかし、蒸し暑さもあって、かなりへばる。案外、きれいに整備されている感じがする。観光用にずいぶん修復されているか、復元なのかもしれない。眺めが良いと言いたいところだが、少し離れたところはかすんで見える。ただの霞なのか、大気汚染の影響なのか。帰国後、この長城もかなり消失しているという記事を目にした。残念なことだ。
帰国便に乗る日の午前中は時間があったので、中南海を歩いてみようということで、K君と二人で中南海を一周してみる。正門にあたる新華門では写真を撮っても問題なかった。それほど人は多くないが、観光名所になっているようだった。門の奥には「為人民服務」と書いてある。是非そうあって欲しいものだ。
中南海は歩いてみると一周5〜6kmぐらいある。かなり大きい。南側と西側は高い塀になっているが、北側は中海という巨大な池になっている(ここは写真を撮ろうとすると止められた)。しかし、東側は住宅や商店、学校などが並んでおり、セキュリティは大丈夫なのかと興味深い。
そうそう、帰国した後で聞いたところでは、ワークショップの後で宴会がなかったのは、どうやら習近平国家主席の反腐敗キャンペーンの一環らしく、余計な宴会はやらないことになっているからではないかと聞いた。それは良いことだ。