石毛直道「知の探検家・梅棹忠夫」

石毛直道「知の探検家・梅棹忠夫」『アステイオン』66号、160〜172ページ。

 梅棹忠夫の解説としてはコンパクトながらとてもよくまとまっていると思う。「モゴール族探検記」は恥ずかしながら未読だが、読みたくなった。人工衛星の時代、地理的な探検はもはや価値がなくなりつつあるが、知の探検はまだまだ未開の地がたくさんある。

スティーヴン・ヴォーゲル『新・日本の時代』

スティーヴン・ヴォーゲル『新・日本の時代―結実した穏やかな経済革命―』日本経済新聞社、2006年。

 大学院生たちとの輪読の課題書。父親のエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバー・ワン』から30年。日本はバブル崩壊以降の多大な課題を抱えている。そうした課題にどう日本が対応しているのか、比較制度分析などの成果を使って分析している。

 読後感は、とにかく単純には説明できなくなってきているということ。著者の関心が労働と金融にあって、そこからの説明は興味深い。企業が改革の一環としてダウンサイジングを進めたことが、今の大学生の就職難につながっている。それを吸収する新産業や新企業が育っていない。外国人が経営を握るほどダウンサイジングの幅が大きくなる傾向も見られ、日本市場における外資の役割を考える点でも興味深い。

 いずれにせよ、日本も多かれ少なかれ変わっている。エズラの『ジャパン・アズ・ナンバー・ワン』では企業経営者に外国人はおらず、大学では外国人は教授になれないと書かれていたが、もはやそんなことはない。

難波の宮

山根徳太郎『難波の宮』学生社、1964年。

 年明けに大阪に行く用事があるので、古本屋で買ったまま読んでいなかったこの本を一気に読む。もともとは数年前に大阪歴史博物館に行ったとき、展示で山根先生のことを知り、博物館の目の前に広がる難波の宮の遺跡に興味を持ったから。

 読んでみると何だかシュリーマンの『古代への情熱』を思い起こさせる。専門的なところはよく分からなかったけれども、山根先生が二枚の瓦から難波の宮を発見していくまでのストーリーがおもしろい。そして、その遺跡を守るために奮闘されたプロセスも興味深い。山根先生の頑張りがあったからこそ、遺跡は発見され、破壊されずに今も残っている。大阪城の真南という中心地にずっと難波の宮は眠っていたのに、長い間忘れ去られていた。そんなところにあるはずがないと他の学者たちに批判されながらも、山根先生は掘り続けてついに見つけた。

 考古学者というのも実に楽しい仕事だろうなあ。しかし、研究のアウトプットにはとても時間がかかるだろうし、職もなかなか見つからないだろう。大変な仕事だ。年明け、機会があればまた博物館と遺跡を見に行きたい。

欧州ツアー

 11月20日から12月1日まで、平和・安全保障研究所(RIPS)のプログラムで、欧州5都市を回るツアーに参加した。団長は高木誠一郎先生、他に政策研究大学院大学の道下徳成先生、一橋大学の秋山信将先生。コペンハーゲン、ダブリン、リスボン、ヘルシンキ、タリンと回ってきた。それぞれの都市で1〜2回の講演&パネル・ディスカッションを行った。

 途中、リスボンの空港でストライキがあったため、ダブリンからロンドンで乗り換えてスペインのマドリードまで行き、そこから車をチャーターしてリスボンに行った。7時間ぐらいかかったが、途中、イベリア半島に沈む夕日を見て、満天の星空を見られたのは良い思い出になった。もうたぶんあんなことする機会はないだろう。

 20年ぶりにヘルシンキに行って、うろ覚えのフィンランド語で挨拶してみたけど、相変わらずシャイな人たちで、反応が薄くて残念だった。ダブリンの学生たちは熱心に聞いてくれて良かった。

 私の講演テーマであるサイバーセキュリティについては、各地で温度差が大きかったが、最後のタリンでは非常に強い反応があった。2007年に受けたサイバー攻撃のせいだろう。その際に問題になったブロンズ像も実際に見てくることができた。帰国便に乗る前にNATOのCCD COEに立ち寄って話を聞けたのも収穫だった。

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パワー行使の領域の拡大について—サイバースペースとアウタースペース(宇宙)への注目—

土屋大洋「パワー行使の領域の拡大について—サイバースペースとアウタースペース(宇宙)への注目—」国際安全保障学会、拓殖大学、2011年12月11日。

 1週間前、拓殖大学で開かれた国際安全保障学会で報告。会員ではないのでかなり不安な気持ちで参加した。自衛隊や防衛省などの実務家が多くて、かなり厳しい批判が来ると聞いていたからだ。幸い、それほどお叱りは受けなかったが、あまりおもしろくもなかったのかもしれない。

 3人の報告者のうち、最初だったので、自分の報告が終わってからツイッターをのぞいてみたけれど、誰も関連したツイートをしていなかった。やはりちょっと堅めの学会なのか。

 他の2人の報告者のうち1人は何度かお目にかかっているし、もう1人はさらに1週間前の結婚式で隣同士だったので、壇上では和やかな雰囲気だった。

 セッション終了後、いろいろ声をかけてくださる方がおり、原稿依頼も一ついただいた。大学院生2人とランチを食べて、次の仕事へ。午後の報告が聞けなかったのが残念。

フィジー

 昨日、SFCでの補講を終えて、急いで三田へ行き、メディアコムの研究会に出席。大幅に遅刻したが、話の主要な部分は聞けた。講師は広島大学の小柏葉子先生。小柏先生の論文は夏から秋にかけてかなり読んだ。

 タイトルは「変容する太平洋諸島フォーラム—フィジー紛争への対応にみるダイナミクス—」というもの。小柏先生はフィジーに留学していたことがあるらしい。

 太平洋島嶼国のことは昨年まで何も知らなかったし、フィジーには行ったこともないが、この国はかなりドロドロとした政治をしているのがよく分かった。南の小さな島だからといって平和ということはない。PIF(太平洋諸島フォーラム)の参加資格を停止されても独裁政権が続いており、憲法は停止されたままだ。しかし、フィジーはこの地域での有力国であり、オーストラリアやニュージーランドも含めた地域の不安定要因となっている。

 そして、アメリカがアジアに帰ってきつつある現在、ここはかなりおもしろい国際政治の様相を示すことになりそうだ。特に、来年は太平洋・島サミットが開かれる年なので、おもしろくなりそうだ。

 なお、これまでPIF(Pacific Islands Forum)を小柏先生は「太平洋島嶼フォーラム」と表記していたが、最近は外務省に合わせて「太平洋諸島フォーラム」とすることにしたそうだ。