サイバーセキュリティと国際政治

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土屋大洋『サイバーセキュリティと国際政治』千倉書房、2015年。

 『仮想戦争の終わり』(KADOKAWA、2014年)が昨年末に出たばかりなので、「またか」という声もあるが、単著本としては『サイバー・テロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)以来なので3年ぶりになる。

 前著を出してからの一番大きな関心事はエドワード・スノーデンの問題であり、米国家安全保障局(NSA)については2001年の9.11以来追いかけてきたことでもあるので、米英の反応を中心にまとめたのが本書である。

 ハワイのイースト・ウエスト・センターにいる間の昨年5月末に最初のドラフトを提出した。しかし、その後もいろいろなことが次々と起こるので、何度も加筆・修正を行い、ようやく出版にこぎ着けた。

 今回はKDDI財団から寛大な出版助成をいただくことができたため、発行部数は少ないが、値段はそれほど高くなっていない。この出版助成は、KDDI総研が発行している『Nextcom』という雑誌に論文などを書くと申請資格が得られ、KDDI総研から推薦してもらうという枠組みになっている。私も知らなかったのだが、某先生からずいぶん前に教えてもらい、機会を狙っていた。幸い、審査を経て助成をいただくことができた。関係各位に感謝したい。

 『サイバーセキュリティと国際政治』のおもしろいところは、編集担当の神谷竜介さんが頑張ってくださり、装丁の米谷豪さんとともに、とても印象的な表紙および装丁を作ってくださったことだ。米谷さんは拙著『ネットワーク・パワー』(NTT出版、2007年)でも印象的なオレンジの表紙を作ってくださっている。『サイバーセキュリティと国際政治』では神谷さんと米谷さんが、写真家の橋本タカキさんに掛け合ってくださり、橋本さんはたくさんの写真をこの本のために提供してくださった。この写真の意味するところは『サイバーセキュリティと国際政治』の「はじめに」に書いてあるので参照いただきたい。神谷さん、米谷さん、橋本さん、ありがとうございます! 千倉書房の皆さんにも御礼申し上げます。

 千倉書房はもともと経営学の出版社として知られていたが、神谷さんが編集部長になられてから、政治学、国際政治学、歴史学分野の発行が充実してきている。これらの分野の研究者なら本棚に1冊、千倉書房の本が入っていてもおかしくない。これから出版をと考えている方にはお薦めしたい。千倉書房は一説によると東京駅に最も近い出版社だそうである。

久しぶりに落ちた

 先週、ワシントンDCでイベントに出てきた。なぜ自分が呼ばれたのかよく分からず、一度は断ったのだけど、主催者からどうしてもといわれ、前日まで何を話せば良いのか決められないまま現地入り。イベント前日の晩に事情を知る方から説明を受けて、ちょっと理解が進み、話す内容を決める。日本関連のイベントにもかかわらず、日本人の顔をした日本からの参加者は私だけで、これまであまり日本とは関係のなかった登壇者が半分。彼らは日本に行ったことすらなかったのではないか。それでもへえっと思う話もいくつかあった。

 その晩はワシントンDC三田会の総会があって、初めて三田会の会合に出る。ひょっとして最後に若き血を唱うのかと思ったらそれはなかった。旧知の皆さんが何人かおり、初めて会う方々もおもしろい。SFCの卒業生も何人かいて、延々4時間続く楽しい会だった。終わった後、同門・同期のYさんに、ワシントンで一番古いレストランOld Ebbitt Grillに連れて行ってもらい、牡蠣をいただく。夜の12時まで飲んでいたら、地下鉄も終わってしまい、ホテルまで歩いて帰る。14年前に住んでいた頃と比べてワシントンの治安がずいぶん良くなった。

 最近、英語ベースの仕事が増えてきて、いろいろなところに呼んでもらえるようになっている。これからいくつか参加する予定のカンファレンスもあるし、共著本(分担執筆)3冊が出る予定になっている。英語の本は出版されるのにとても時間がかかるので、いずれもいつになるのか分からないけれど、誘ってもらえるのはありがたいことだ。近々創刊される英語のサイバーセキュリティ関連の雑誌の編集顧問チームに入れという依頼もあった。

 帰国してから数日間、メールボックスに入ったまま、見るのが億劫だったメールがあった。差出人には見覚えがあり、英語で書いた原稿についての連絡であることは容易に想像がついた。そのまま原稿が通るとは思えないので、どう考えても修正の依頼だろう。しばらく前に書いた原稿を読み直すのは面倒だ。頭をそちらに戻すのに時間がかかるからだ。日本語の原稿だとまだ戻るのが早いのだが、英語の原稿はもっと時間がかかる。新学期の準備で忙しいときで、メールを開くのが億劫で、他のメールの処理が終わってからにしようと後回しにしていた。

 ようやく週末になって落ち着き、メールを開いてみる。驚いたことに、不採用通知だった。うーむ。原稿送付段階では、編集者はかなり喜んでいて、「読んで感銘を受けた」とまで書いてきた。しかし、編集者の後ろにいる査読者たちはそう思わなかったようで、ほとんど何の説明もないまま、不採用にするとのこと。修正要求でもないし、食い下がる気力と時間もないので、検討してくれてありがとうとだけ返信。

 カンファレンスやイベントで話すぐらいなら、その場ののりで切り抜けられるとしても、英語で書き物をして、査読を切り抜ける実力は、まだ私には足りないのだろう。共著本の原稿は、編者とかなりやりとりするから、求められているものを書くことができるが、投稿原稿はそうもいかない。

 依頼された仕事だけをこなしていると、たいていは好意的に受けとめてくれるので勘違いしてしまうことが多い。日本語でも英語でも、講演した後に「ちょっとひどかったね」と言われることはまずない。本当はひどいと思っていても、礼儀上そうは言わないだろう。今回の一件は、反省の材料として受けとめ、原稿はボツにしよう。