レンディション

スティーヴン・グレイ(平賀秀明訳)『CIA秘密飛行便—テロ容疑者移送工作の全貌—』(朝日新聞社、2007年)。

来月上旬に参加する予定のセミナーの予習として読む。

レンディション(rendition)とは本来「演奏、翻訳、演出、公演」という意味である。しかし、CIAが絡むと「国家間移送」という意味になる。

これはパナマのノリエガ将軍の事例が典型的なように、外国にいる(米国にとっての)犯罪者を本人の意思に反してCIAが米国へ移送し、裁判を受けさせるということを意味した。

ところが、9.11以後、米国は、ドイツからエジプトへというように第三国から第三国へテロ容疑者を移送し始めた。これを「特別レンディション」と呼んでいる。その飛行機はCIAがチャーターした豪華ビジネス・ジェットである。主役級としてこの本に出てくるのは「ガルフストリームV」という飛行機だ。

CIAは何をしているのか。拷問の外注(アウトソーシング)というのがこの本の取材結果だ。拷問は米国法でも禁止されているし、国際的にもジュネーブ条約で禁止されている。そこで米国政府は、「拷問はしない」という口約束だけに基づいてシリアやエジプト、タジキスタンといった国々にテロ容疑者を渡し、実際にはそこで拷問させ、情報を得ているというわけだ。

本書の第一部は、読むのが苦痛だ。無実の人々が誘拐され、拷問された様子が再現されている。もちろん、完全に無実ではない人も含まれているのかもしれないが、実にひどい。それに比べて第二部と第三部は著者の取材過程と特別レンディションに反対する人々の話が展開されておもしろい。

拷問によって得られる質の悪い情報に比べて、彼らと彼らの家族・友人が持つ敵対的な感情は、さらに多くの人を反米テロリストにしていく。こういうのを「ジェニン・パラドックス」というそうだ。

著者の結論は、「拷問をやってはいけないのは、それがわれわれ自身の社会を劣化させるからだ。拷問は社会を蝕んでいき、偽善的な秘密で隠さなければならなくなり、法の支配とわれわれ自身の道徳性の基盤を崩す結果へとつながる。だから、ダメなのだ」というものだ。

琵琶湖畔で研究合宿

20070812biwako

先週のことになるけど、昨年に続いて琵琶湖畔で研究合宿。ヨーロッパかと思わせるようなホテルで設備は豪華なのに、何も使う時間がない。プールで泳ぐ時間すらない。朝の新幹線に乗り、昼過ぎに到着。13時から翌日の16時まで、3時間のセッションを4回もやる。少人数なので眠っているとすぐばれる。グーグー眠っていたコメンテーターが「すばらしい発表でした」とコメントしているのには内心大笑い。つくづく彼は大物だと思う。

それぞれのキーノート発表はおもしろかった。文学についての研究発表なんてたぶん初めてではないか。刺激されて、帰ってきてからフィッツジェラルド(村上春樹訳)の『グレート・ギャッツビー』を読む。こんな話なのね。

先週は比較的時間があったので、本をかなり読む。しかし、積み上げられた本はなかなか減らない。人生の中で読める本の数は実に少ないと悲しくなる。来学期、学生と読む本をほぼ決める。

北京の空は暗い

共同研究の一環として北京の中国現代国際関係研究院を訪問。前回2001年(?)に訪問した時にはなかった立派な建物ができている。キャンパスのような作りで、大きな庭や豪華な会議室がいくつもあってうらやましい。人口が多いと言っても、北京は街の造りが広々としている。

そのせいか、初めて北京に行った1999年と比べても、どんどん自転車の数が減り、車が増えてきている。車のグレードも上がっている。タクシーも以前はシトロエンなんかが多かったけど、もう少し大きくてしっかりした車が増えてきた。ホテルの窓から見ていると、ひっきりなしに車が走り続けている。すっかり車社会になってしまった。

交通量の増大に伴って気になるのが大気の状態。うだるような暑さの北京を予想していたのだが、到着した夜は霧がかかっているような感じで意外にも涼しい。翌朝も曇っているのか、スモッグなのか、空が暗い。雨も降ってきて、涼しいまま過ごせた。東京の方がずっと暑い。単に天気が悪かっただけならいいのだけど、大気汚染が進んでいるのだとすると心配だ。

北京は昨年一泊二日で訪れて以来だが、今回の滞在も二泊三日。一日目の夜に着いて三日目の早朝に発ったので実質一日だけ。万里の長城も見たことがないので、もう少しゆっくり見て回りたい。特に今回は中国の図書館を見たかったのだけど、時間がなくて行けなかった。残念だ。

出かける前に二冊、中国に関する本を読んでいった。夜の宴会の席で、酔っぱらった勢いでいろいろ仕入れたネタを確かめてみる。

「中国は六つのリージョナル国家に分かれていて、台湾を含めたUnited States of Chinaというアイデアもあるそうですが、どう思いますか?」

「中国は一つに決まっています。」

「香港を取り戻すとき、一国両制といったのだから、台湾の場合は一国三制というのはありえるのですかね。」

「香港と台湾は同じなので、一国両制でいいんです。」

「生産手段の共有が共産主義の定義だとすれば、中国は共産主義を採用しているようには見えません。世界の誤解を解くために、共産党はやめて人民党に変えたらどうですか。共和党でもいいですよね。中華人民共和国なんだから。共和党ならアメリカの人も台湾の人も喜びますよ。」

「ここにいるわれわれは共産党員なんですよ。あなたは何てことを言うんですか。」

あとは乾杯攻撃に遭って覚えていない。