イースト・ウエスト・センター再訪

 7月半ば、ハワイでお世話になったイースト・ウエスト・センター(EWC)のアルムナイ(OB・OG)の会合が東京であり、初めて参加した。EWCのスタッフ2人もたまたま来日していたので、来てくれた。来年1月にEWCはマニラで大きな会議を予定しており、その下見の後に立ち寄ったそうだ。2人とも100円ショップがお気に入りで大量に買い物をしたという。

20150722155344j:image

 その翌週、ハワイのEWCを再訪。2月末に帰国して以来、5ヵ月ぶりぐらいになる。その間、チャールズ・モリソン所長が引退を表明しており、来年8月に新しい所長が就任する予定だ。連邦政府(国務省)とのつながりが深い研究所なので、次の所長選びは簡単には行われず、1年かけて選ぶそうだ。すでに関心を示している人がいるという話だが、どんな人になるのだろう。研究部長とも話す機会があったので聞いてみたが、若い血を入れないとと言っていた。

 今回の再訪の目的は、新しい共同研究プロジェクトのキックオフのため。サイバーセキュリティとは直接関係ない新しいテーマに取り組む。今回の会合にはその分野に詳しい方々にも集まってもらい、いろいろと意見を聞いた。私がよく理解していないことが多いことが分かった(だからこそ研究する意味はあるが、まずは最先端に追いつかないといけない)。3年計画の共同研究なので、またEWCに戻ってくる機会もあるはずだ。逆にEWCのスタッフに日本に来てもらうこともあるだろう。楽しみだ。

 今回の滞在中、ハワイ大学のDavid Lassner学長にも短時間お目にかかった。学長には10月にSFCの25周年記念式典&シンポジウムにご参加いただくことになっている。学長の部屋の扉は観音開きの大きなもので、部屋の中も格好良かった。

北京でのワークショップ

 6月25日、中国防衛科学技術情報センター(CDSTIC)というところの招きで、北京での国際ワークショップに参加してきた。CDSTICは、米国防総省の報告書(PDF)では以下のように書いてあって、なにやら物騒である。

an overt intelligence collection and clearinghouse operation, gathering together all manner of information across the world on militarytechnical affairs.

 公然(overt)であって、非公然(covert)ではないから多少の救いはあるが、それでも相手は中国のインテリジェンス機関である。何せ、90分のセッションをひとりでやれと。60分話して、30分の質疑応答というから、普通の国際会議ではあり得ない。こちらから何を聞き出そうというのか。知り合いの中国人研究者からの依頼だったので、行くことにしたが、ちょっと警戒度を上げ、用心棒に後輩のK君に一緒に来てもらった。しかし、結果的には、どうということはない。何も困ったことは起きなかった。

 そもそも、一緒に招待された欧米の研究者たちが私よりもはるかに有名な人たちで、「あの人たちにオペレーションをかけてはまずいでしょ」という人たちだった。全体のプログラムをもらったのは北京に行く2日前だったので、ちょっとほっとした。

 ワークショップの私の番では、日本語と中国語のパワーポイントの整合性に問題があったのか、2回もパワーポイントがクラッシュするという失態。大変残念だった。この写真は別の人が話しているときのものだが、しっかりと私の失敗もビデオに撮られていただろう。

20150625152709j:image

 ワークショップは名目で、それが終わった後は宴会があって、じゃんじゃか飲まされていろいろしゃべらされるぞと東京の友人たちに脅されていた。しかし、ワークショップが終わってみると、会場のホテルのレストランの食事クーポンを渡され、食べ放題の夕食を勝手に食べてくれとのことだった。主催者側の人は全く来ず、聴衆の人たちがちらほらといるだけ。ビールもなんと有料自腹であった(実際にはK君が払ってくれた)。

 K君となんだか拍子抜けだねと話して食事をしていたら、日本語が話せて、聴衆の中にいた女性がやってきた。おやおや、ついに来たかと思った。彼女はセッションの最中に細かい日本政府の動きをいくつか質問してきた人だ。話を聞いてみると、彼女の仕事は英語を中国語に翻訳する仕事だということだが、なぜか日本語を習っていた。しかし、日本に行ったことはないという。彼女は名刺を持っていないのでどこで働いているのかよく分からなかった。

 そこに英国のキングスカレッジのThomas Rid教授がやってきた。彼はCyber War Will Not Take Placeという本で知られる有名な研究者である。彼はもちろん日本語が話せないので会話を英語に切り替えると、彼女はCDSTICで働いていると自己紹介した。それなら先に言ってくれよと思ったが、彼女の意図はよく分からない。私とRid教授が英語でサイバーセキュリティの話を始めると彼女は挨拶をして去って行った。結局、何者でもなかったらしい。朝一番の便で羽田から北京に飛び、すでに始まっていたワークショップにそのまま参加したので、とても疲れた一日で、疲れすぎてよく眠れなかったが、特に何事もなく夜は過ぎた。

 翌朝、K君の案内で万里の長城に向かう。私は初めてだが、K君は修学旅行で来たことがあるという。最初は電車で行こうとするが、3時間待ち。仕方がないので隣駅からバスに乗る。このバスは満員になり次第、すぐに出発というもので、2台目で乗れた。バスは長距離用だが、少しシートは狭い。多少の不安はあったものの、ゴトゴトと揺れているうちに眠り込んでしまう。

 長城のふもとに着くと、観光客がたくさん。体力に自信がないので、女坂といわれるゆるい方の傾斜を登る。しかし、蒸し暑さもあって、かなりへばる。案外、きれいに整備されている感じがする。観光用にずいぶん修復されているか、復元なのかもしれない。眺めが良いと言いたいところだが、少し離れたところはかすんで見える。ただの霞なのか、大気汚染の影響なのか。帰国後、この長城もかなり消失しているという記事を目にした。残念なことだ。

20150626111600j:image

 帰国便に乗る日の午前中は時間があったので、中南海を歩いてみようということで、K君と二人で中南海を一周してみる。正門にあたる新華門では写真を撮っても問題なかった。それほど人は多くないが、観光名所になっているようだった。門の奥には「為人民服務」と書いてある。是非そうあって欲しいものだ。

20150627090402j:image

 中南海は歩いてみると一周5〜6kmぐらいある。かなり大きい。南側と西側は高い塀になっているが、北側は中海という巨大な池になっている(ここは写真を撮ろうとすると止められた)。しかし、東側は住宅や商店、学校などが並んでおり、セキュリティは大丈夫なのかと興味深い。

 そうそう、帰国した後で聞いたところでは、ワークショップの後で宴会がなかったのは、どうやら習近平国家主席の反腐敗キャンペーンの一環らしく、余計な宴会はやらないことになっているからではないかと聞いた。それは良いことだ。

志摩での海底ケーブル陸揚げ

 6月15日、志摩で新しい海底ケーブルFASTERの陸揚げがあり、KDDI総研のご厚意で見学させていただいた。詳しい内容はすでにGigazineで報告されているので、簡単に。

 FASTERは関東または関西で大きな災害が発生した時にも対応できるように、千葉県の千倉と三重県の志摩の両方で陸揚げされた。千倉のほうは陸から海底にドリリングをしてパイプを通し、そこにケーブルを通してしまうので、あまり見所がないそうだ。志摩のほうは19世紀と基本的に変わらない陸揚げをするとのことで、見学会が設けられた。

 見学会は早朝5時集合である。見学者は前泊しないと間に合わない。最寄り駅は名古屋から近鉄で2時間半かかる。5時にホテルを出て海岸に到着すると、すでに関係者の皆さんが準備をしている。

20150614102052j:image

 沖合にはすでに前日からケーブルを積んだケーブル敷設船がスタンバイ。ここから、ブイを付けたケーブルが引っ張り出されてきて陸に揚げる。

20150614102226j:image

 浜側では、各種機械が設置されている。海中の防波ブロックを避けて引き上げられたケーブルは、海岸ですぐに直角に曲げられ、陸揚局近くまで引っ張られる。

20150614102234j:image

 作業前に関係者代表が集まって安全祈願祭。日本酒を捧げる。この後、ケーブル船から徐々にケーブルが引っ張られてくるが、かなり時間がかかるとのことで、他の皆さんはいったん引き上げる。私は作業完了前に大学に戻らなくてはならなかったので、そのまま海岸に居残る。関係者の皆さんと話したり、陸揚局の中を見せてもらって過ごす。他の皆さんは朝食をとってから8時にホテルに再集合して海岸に戻ってくるはずだった。ところが、ケーブルは7時半には陸揚げされてしまった。次の写真は、先端が陸に上がったところ。

20150614123844j:image

 居残っていたので、この瞬間が見られたのは良かった。すいすいとケーブルは揚がってくるが、時間が早まったのは関係者の作業が非常にスムーズだったからだ。前述のGigazineの報告でもこの瞬間は捉えられていない。

 ケーブルが無事に上がってきたところで、シャンペンでお祝い。さっきは日本酒だったのに節操ないなと思うが、シャンペンを割るのは万国共通の習慣だそうだ。

20150614133944j:image

 私はこの時点で帰らなくてはいけないので、先に失礼した。

 ケーブルの陸揚げはなかなか見るチャンスがない。日程的にきつかったが、授業にも間に合ったので、とても良い機会だった。どうやって陸揚げするかは知識としては知っていたが、自分の目で見られたのは大きい。KDDI総研およびKDDI、NECの皆さんに感謝したい。