日中韓の金融セクターのサイバーセキュリティ

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Motohiro Tsuchiya, “Cyber Security of Financial Sectors in Japan, South Korea and China,” Ruth Taplin, ed., Managing Cyber Risk in the Financial Sector: Lessons from Asia, Europe and the USA, London: Routledge, 2016, pp. 96-111.

 これも高い本で、95ポンド。今日のレートで15,340円。まあ、ほとんど売れないような気がする。

 私は日中韓の金融セクターとのことで、多少、専門分野を超えているのですが、欧米圏の人には分かりにくいだろうということもあって引き受けましたが、けっこう大変でした。

 英語で読んでもらえる原稿がしっかりした出版社から出るのは良いことです。

 もう一冊、来月にも英語の共著本がweb bookとして出るそうです。ありがたいことです。

米国政府 vs. アップルなど

 忘れていたリンクを三つ。

土屋大洋「米国政府 vs. アップル 何が問題か:米国議会は法的な穴を埋める立法を検討すべきだ」『webronza』2016年3月22日。

#全文閲覧には登録が必要みたいです。

土屋大洋「サイバー攻撃にさらされる東京オリンピック:時限法も視野に」『Newsweek日本版』2016年3月7日。

土屋大洋「ティム・クックの決断とサイバー軍産複合体の行方」『Newsweek日本版』2016年2月26日。

ビュード

 年度末最後の出張はロンドンへ。今回はオープンなイベントはなく、RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)でのクローズドのミーティング。前回11月に来た際、RUSIの研究者と食事会で一緒になり、サイバーセキュリティはクローズドでちゃんと話がほうが良いと言われ、そうしてもらった。日本の政策を説明した後、2時間がっちり議論。最後はネイティブ同士の弾丸トークになってしまい、ちょっとついて行けなかった。まだまだ英語力が足りない。

 実はこの日は、ブリュッセルでテロがあった日の午後。さすがイギリス人というべきか、動揺した顔は見せず、全く話にも出なかった。その日の午後のEvening Standard紙では、次のターゲットはイギリスかもしれないと煽り立てていたが、どうなるのだろう。たまたまメールが来た東欧の友人は、ヨーロッパはもうたやすく行けるところではなくなったという。

 泊まっていたパディントン駅の周辺は、ヒースロー空港からヒースローエクスプレスがつながっているので便利だが、ムスリム系の人たちが多く住むところとしても知られている。改めて見渡すと、以前に来たときよりも増えている気もする。特に、目だけを出して全身黒ずくめの女性が目に付く。テロによる私の偏見なのか、移民が増えているのか、判断しにくい。

 予備にとってあった一日が丸々空いた。どうしようかいろいろ悩み、友人たちにも相談したが、やはり海底ケーブルを見に行くことに。ブリテン島の最西端にポースカーノ(Porthcurno)という場所があり、19世紀に最初の大西洋ケーブルが陸揚げされたことを記念した電信博物館がある。しかし、冬の間は土日月しか開いていないらしいので断念。

 その代わりに現代の海底ケーブルがたくさんあがっているビュード(Bude)に行くことにする。パディントンから地下鉄でビクトリア駅へ出て、ガトウィック・エクスプレスに乗ってガトウィック空港へ。そこからflybeという格安航空でニューキー(Newquay)まで飛ぶ。小さなプロペラ機。Bombardier Q400らしい。「道路や鉄道より速い(Faster than road or rail)」っていうキャッチフレーズはどうかと思う。

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 1時間ちょっとで到着。そこからレンタカーでさらに1時間ほどでビュードへ。

 陸揚局の場所はhttp://www.stevenheaton.co.uk/SubmarineCableLandingsUK/?p=113で確認済み。そこへ直行すると本当にあった。意外にも住宅街のど真ん中で、そこら辺にいる住民たちの「何しに来た、アジア人?」っていう視線が痛い。何も悪いことはせず、敷地の外から建物を眺めて少しだけ写真を撮らせてもらう。

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 敷地の奥には海底ケーブルが巻かれたまま置かれており、建物の警告文にはBTの所有物と書いてあるので間違いない。

 ここは冷戦中の60年代に作られたとのことで、地下化されているようだ。地上の建物は掘っ立て小屋に近いが、敷地の芝生の所々に空気穴のようなものがある。冷戦中の陸揚局は核兵器対応のところが多いと聞くが、ここもそうなのだろうか。国営独占事業者の時代だからできたことだろう。現在の事業者の陸揚局はコスト削減最優先で、そこまでの余裕はないはずだ。

 海岸線までは1.5キロほどか。一番近いと思われるBlack Rock Beachへ。かなり遠浅の海岸になっているが、その名の通り黒っぽい岩がゴロゴロしている。岩がなく、砂が続くところもあるので、そこにケーブルが通っているのかと考えながら海岸をうろうろするが手がかりはなし。犬を散歩させている人たちがとても多い。近くのカフェで昼食。大きなボールに出てきた熱々のトマトスープがうれしい。

 念のために、隣のビーチにも行ってみる。ここはサーファーが多い。ウェットスーツに着替えている人たちがたくさんいる。案内板を見ると、さっきのビーチは犬を遊ばせて良いが、こちらはダメとのこと。ふとライフガード小屋の横を見ると、大きな標識のようなものが立っている。岸側に向いているのではなく、海を向いている。海側に出て見上げてみると、「TELEPHONE CABLE」と書いてある。これが海底ケーブルの場所だ。

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 ケーブルが引き上げられているウィドゥムス・ベイ(Widemouthと書いてワイドマウスではなくウィドゥムスと発音するらしい)を見下ろす岬の上に立つ。まさに断崖絶壁で、柵もないので下を見下ろすのが怖い。花束がたむけてあるのがなんとも。そこから南側のベイを見下ろすと、確かに湾(ベイ)になっていて、ケーブルを引き上げるには良い場所だろうなと思える。ただ、岩が多すぎるのではという気もする。

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 そして岬の上から反対の北側を向くと、なんとはるか先にGCHQ(政府通信本部)の基地が見えるではないか。地図で確認すると車道で15キロぐらい。直線では10キロぐらいだろうか。肉眼で確認できたのはうれしい。カメラの精度がもっと良ければきれいにとれたのにと残念。近づいてみたいところだが、外国人がおいそれと近づけるところではないので、ここで我慢。

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 ロンドンに戻り、その晩は勢いで「テムズ川のバビロン」と呼ばれるSIS(MI6)本部も見に行く。『007 スカイフォール』で爆破されてしまい、『007 スペクター』ではもう一度爆破されてしまうが、本物は健在だった。

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サンタモニカ

 ホノルルから戻って数日ですぐにカリフォルニア州サンタモニカへ。

 成田からロサンゼルス空港に飛ぶ際、機内で同僚の神保謙さんと一緒になる。二人とも同じ会議へ参加予定。ロサンゼルス空港からサンタモニカまではタクシーで30分ぐらい。私の頭の中では桜田淳子の「サンタモニカの風」が吹き始める(古!)。サンタモニカに来るのは初めてだ。

 ホテルにチェックインして荷物を置いた後、神保さんを無理矢理誘って予約しておいたZipcarに乗り、ソニー・ピクチャーズへ。日曜日なので見学コースは見られないが、ここが大規模なサイバー攻撃の舞台となったかと思うと感慨深い。

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 そこからさらに30分ほど車を走らせて、海底ケーブルが陸揚げされているビーチへ。調べてあった情報と照らし合わせると、二つのマンホールが怪しい。

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 陸揚局が入っているとされる建物も確認。手のひら認証が付いた扉もあった。こんなセキュリティで大丈夫なのかなあと改めて心配になる。

 今回の訪問の目的は、RAND研究所で開かれる「U.S.-Japan Alliance Conference: Strengthening Strategic Cooperation」という会議への参加。当初知らされていなかったチャック・ヘーゲル前国防長官と小野寺五典元防衛大臣も参加。RAND研究所といえば、インターネットの原型となるARPANETを構想したところとして知られている。当時の建物は残っておらず、洗練された新しい建物になっている。

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RAND研究所の外観

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基調講演する小野寺元防衛大臣

 私の出番はサイバーセキュリティについてのセッション。日米の取り組みの可能性について話す。下の写真は神保さんが撮ってくれたもの。一番左がRANDのマーチン・リビキ、その横が私、右から二番目がJPCERT/CCの伊藤友里恵さん、一番右がRANDのスコット・ハロルド。

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 二日目はヘーゲル前国防長官の基調講演。下の写真はスコットの質問に答えているところ。

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 最後のパネルに神保さんが登場。下の写真の一番左はワシントンDCのシンクタンクのアトランティック・カウンシルのロジャー・クリフ、その隣がスティムソン・センター辰巳由紀さん、そして神保さんとスコット。

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 会議終了後、RAND研究所についてツアーをしてもらい、解散。

 買い物をしてからブラブラと歩いて、サンタモニカ名物の海に突き出した桟橋で海に沈む夕日を眺める。桟橋には観光客の他にたくさん釣り人がいて、鯖のような魚が入れ食い状態だった。私も釣りたかった。

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 最後の夕食は、頑としてRANDに土地を売らなかったレストランChez Jayでステーキとエビをいただく。ちょうどテレビでは大統領選挙の予備選の開票結果を流していてスコットの解説を聞くことができた。

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Zippy’s

 昨年から始めた共同研究プロジェクトのためにハワイのホノルルへ。

 まずはお世話になっている同級生の大塚領事御夫妻とランチ。到着日の昼ということもあり、こちらは眠い。どこへ行こうかとなって、ふと、Zippy’sの名前が浮かぶ。ハワイで有名なファミレスチェーンだが、1年間の滞在時には一度も行くことができなかった。ここはファミレスながらポイントが高いと聞いていたので、一度は行ってみたいと思っていたので、急遽行くことに。かなりメニューの選択に悩むが、定番のロコモコ。

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 ラーメン風のどんぶり。少しかけているところもハワイ風のご愛敬。栄養バランスを無視したこの食べ物にしびれてしまう。

 翌日は、Zippy’sとは何も関係ないZipcarを借りる。ボストンで入会したZipcar。会員を続けていて良かった。ようやくハワイにも入ったのだ。ワイキキのホテルに停まっているZipcarをピックアップして、まだ見ていなかったところを回る。まずはえひめ丸の記念碑。だいたいの場所は知っていたが、ちゃんと確認していなかった。昨年、中谷防衛大臣がハワイを訪問されたときにも献花をされていたので、一度行っておこうと思い、訪ねる。

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 帰国の機中で

中村邦子「米太平洋軍の同盟マネージメント対策と市民社会との連携―えひめ丸事故とその後の友好関係―」『外務省調査月報』2008年。

を読んだが、本当につらい事件だ。本文・脚注に知り合いの名前がいくつか出てきて、「この人たちも関わっていたのか」と感慨深くなる。

 真珠湾攻撃前に森村正こと吉川猛夫が入り浸って真珠湾に出入りする艦船を監視したという春潮楼の建物も外から少しだけ見学。今は「夏の家」という店になり、中で食事をするには団体での予約が必要らしい。

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 吉川については、昨年、以下の本が出ている。これは前に本人が書いた回顧録を整理し直したものだ。

吉川猛夫『私は真珠湾のスパイだった』毎日ワンズ、2015年。

 他にもいくつかまわって、昼食は中華街の香港粥麺家へ。ここは阿川家御用達で、阿川佐和子さんの本の中でも紹介されていたと思う。つけ麺(つゆを撮り忘れた)とダック。

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 プロジェクト関連の訪問とミーティングをこなして、イースト・ウエスト・センターも再訪。プロジェクトのメンバーのデニー・ロイさんたちと打ち合わせ。

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 最後の夕食は、一緒に行った同僚の西野純也さんとベトナム料理のフォーをいただく。

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 こうしてみると食べてばかりだが、オフレコでいろいろ意見を聞き、滅多に行けない場所にも行くことができたので、慌ただしいが充実した出張だった。なかなかお目にかかれなかった新しい総領事にもお目にかかれて良かった。