エズラ・F・ヴォーゲル『Japan as No.1』第4章「政府」

エズラ・F・ヴォーゲル(広中和歌子、木本彰子訳)『Japan as No.1—アメリカへの教訓—』ティービーエス・ブリタニカ、1979年。

第4章 政府——実力に基づく指導と民間の自主性(79〜121ページ)

 エリート官僚が幸せだった時代の話。

 もうこんな時代は来ないんだろうなあ。

エズラ・F・ヴォーゲル『Japan as No.1』第3章「知識」

エズラ・F・ヴォーゲル(広中和歌子、木本彰子訳)『Japan as No.1—アメリカへの教訓—』ティービーエス・ブリタニカ、1979年。

第3章 知識——集団としての知識追求(47〜78ページ)

 この第3章の記述はおもしろいなあ。日本人がどうやって知識を集めているか。そして、それを元にコンセンサスを作っているか。知識と組織のあり方は日本では直結している。

 常々、なんで日本ではこんなに翻訳本が多いのか、なんでこんなにわれわれは海外調査をしているのかが気になっていた。進んでいる国から学ぶのは当然だと思っているけれど、それにしても好き。閉鎖的で内向きだといわれているけど、海外を見てくる、海外から学ぶのはとても好き。私自身も、アウトプットのために海外に行くのと、インプットのために行くのとを比較すれば、後者が多い。

 ヴォーゲルがこの本を書いた頃に比べれば、米国も海外に学ぼうとしている。先日も日本の通信政策を調査に来た人のインタビューを受けた。でも日本からアメリカに調査に行く人のほうが圧倒的に多いだろうなあ。

エズラ・F・ヴォーゲル『Japan as No.1』第1章「アメリカの『鏡』」、第2章「日本の奇跡」

エズラ・F・ヴォーゲル(広中和歌子、木本彰子訳)『Japan as No.1—アメリカへの教訓—』ティービーエス・ブリタニカ、1979年。

第1章 アメリカの「鏡」(19〜25ページ)

第2章 日本の奇跡(26〜43ページ)

 これも明日の大学院の授業の課題文献。今回は第2章まで。

 ずっと前に読んだはずなのに、全然覚えていない。読んでないのかなあ。

 こんな時代もあったんだねえと思うと同時に、今の中国とも重なる部分がある。

 また、日本や韓国がアメリカと経済摩擦でさんざんやり合った後に出てきた中国は、いちいちアメリカとそうした交渉をしなくて済んでいるというのも感じる。特定の品目について米中経済交渉が行われて、中国側が輸出自主規制をしたなんて話は聞かない。中国は日韓の遺産をうまく使っているな。

 2008年〜09年にボストンに滞在したとき、ヴォーゲル先生は「ヴォーゲル塾」というのを主宰していて、日本の若手官僚たちを鍛えておられた。私は参加できなかったけど、一度ご自宅にお邪魔してお話をうかがうことができた。しかし、その日はずっと面会の予定が続いていて、相変わらず精力的に活動されているのに驚いた。

 また、中国語を勉強されていて、中国語で講演されていたのも印象的だった。

 日本の大学の先生は年取ると新しいことに挑戦するのをやめてしまう人が多いし、退職したら何もしなくなってしまうこともあるけど、本当に終身のテニュアを持っている先生たちは、いつまでも元気にやっている。

松本清張「内閣調査室論」

松本清張「内閣調査室論」『松本清張全集31』文藝春秋、1973年、483〜498ページ。

 明日の授業の課題文献の一つ。毎年読むたびにいろいろ考える。現代まで尾を引きずる日本のインテリジェンスの問題。

A Naval Officer Specializing in Information Ops, ”Stuxnet: It’s a Real Threat, but Not Something We Should Shovel Money at”

A Naval Officer Specializing in Information Ops, “Stuxnet: It’s a Real Threat, but Not Something We Should Shovel Money at,” Foreign Policy <http://ricks.foreignpolicy.com/posts/2011/04/25/stuxnet_its_a_real_threat_but_not_something_we_should_shovel_money_at> April 25, 2011.

 論文と呼べるような内容と分量ではないけれど。

 著者は「米海軍で情報戦に携わるオフィサー」ということになっている。

 近年のサイバーセキュリティの盛り上がりはメディアと防衛産業が人工的に作り出しているものだという。

 この手の話はアメリカで話しているとたまに聞く。例として出されているのは元国家情報長官(DNI)のマイケル・マッコネルで、今はブーズ・アレン・アンド・ハミルトンの副社長をしている。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンは防衛系のコンサルティング会社として知られていて、サイバーセキュリティのハイプ(誇大広告)で大もうけしているといわれている。

 スタックスネットなどの重要インフラに対する攻撃は実際の脅威だが、それ以外はちょっと頭を冷やせというのが論旨。

梅棹忠夫「情報産業論」

梅棹忠夫「情報産業論」梅棹忠夫『情報の文明学』中央公論新社、1988年、27〜52ページ。

 もともとは『放送朝日』および『中央公論』の載せられた先駆的論文。

 御本人によれば授業はひどいものだったらしいが、文章は分かりやすい。

岡久慶「英国の対国際テロリズム戦略:CONTEST」

岡久慶「英国の対国際テロリズム戦略:CONTEST」『外国の立法』第241号、2009年9月、198〜226ページ。

 英国の対テロ戦略についての解説。戦略的コミュニケーションという点でも興味深い。これは2009年版のCONTESTの解説だが、サイバーテロはまだ脅威ではないと書いてあるのもおもしろい。その後大きく転換している。

田村浩一「法規命令と行政命令」

田村浩一「法規命令と行政命令」大阪市立大学法学会編『法学雑誌』第11巻3・4号、1965年、116〜143ページ。

 かなり古い、日本国憲法下における行政命令を法規命令と対置させて論じている。

 大統領制の下で発せられる米国の行政命令とは位置づけが違うようだ。

Iwakoshi, Futami, and Hirota, ”Quantitative Analysis of Quantum Noise Masking in Quantum Stream Cipher by Intensity Modulation Operating at G bit/sec Data Rate”

Takehisa Iwakoshi, Fumio Futami, and Osamu Hirota, “Quantitative Analysis of Quantum Noise Masking in Quantum Stream Cipher by Intensity Modulation Operating at G bit/sec Data Rate,” SPIE, September 19, 2011.

 先月のジム・ルイス講演会の際に、聴衆の方からいただいた論文。いただいたのはおそらく会議提出版で、まだジャーナル等にはパブリッシュされていないのだと思う。

 その内容については私は評価できる能力にないが、一緒にいただいた玉川大学量子情報科学研究所のプレスリリースを併せて見ると、クラウド・コンピューティングでデータを分散させても、通信中に読み取られては意味がないから、そこを暗号化できるようにしたということらしい。

 暗号通信の利用の拡大が必要という問題意識はずっと持っていて、10月7日に開かれた情報セキュリティ政策会議でも言おうと思っていた。結局、限られた時間(ひとり2分!)の中では言い切れないので別の話をしたが、この点は非公式な場ではずっと言っている。

 暗号通信の開発・利用はこれからも論点の一つとして持っておこう。

佐賀健二「e-APEC Strategy」

佐賀健二「e-APEC Strategy—APEC(アジア太平洋経済協力)の共同IT戦略—」『海外電気通信』2002年9月号、7〜26ページ。

 デジタル・デバイドについてはデジタル・ディビデンド(デジタルの配当)に転換するという議論があったそうだ。

 APECだと枠組みとしては大きすぎるかなあという印象。

横大道聡「国家の安全と市民の自由」

横大道聡「国家の安全と市民の自由—G・W・ブッシュ大統領の大統領命令による軍事委員会の憲法上の問題を中心に—」『法学政治学論究』第66号、2005年9月、355〜388ページ。

 久しぶりに大統領令(大統領命令、行政命令)についての論文。

 慶應の法学研究科の大学院生のための紀要である『法学政治学論究』。私も昔書いたことがある。

 ここで取り上げられている大統領令(DETENTION, TREATMENT, AND TRIAL OF CERTAIN NON-CITIZENS IN THE WAR AGAINST TERRORISM)は、なぜか番号が振られていないようだ(普通はEO12345というような番号が振られる)。

http://www.fas.org/irp/offdocs/eo/index.html

(2001年11月13日のところを参照)

 なぜなんだろう。

 大統領令よりも軍事委員会のほうに力点があるようなので、後半は流し読み。

佐賀健二「アジアにおけるICTを利用した人材育成」

佐賀健二「アジアにおけるICTを利用した人材育成」『海外電気通信』2006年7月号、7〜50ページ。

 人材育成という視点からアジア太平洋島嶼国における国際機関や各国政府の政策を紹介。

 太平洋島嶼国関連では、フィジーの南太平洋大学の取り組みが紹介されている。

佐賀健二「アジア開発途上国のICTインフラ整備の課題と展望」

佐賀健二「アジア開発途上国のICTインフラ整備の課題と展望—アジア・ブロードバンド計画実施に向けての提言—」『海外電気通信』2005年1月号、7〜33ページ。

 太平洋島嶼国も含めたアジアにどうやってブロードバンド・ハイウェーを作るか。

カンボジャ、バングラデシュのように海に面していながらどの光海底ケーブルも陸揚げされていない国や、太平洋島嶼国のように数ある太平洋横断海底ケーブルが、フィジーを除いて全てバイパスし、約20カ国・地域がブロードバンドの幹線網を構成する国際光海底ケーブルを利用できない状況にあり、ブロードバンド接続のボトルネックとなっている。

 パラオについても書いてある。

パラオからヤップを経てグアムに至る光海底ケーブルの敷設提案が提出されているが、建設コストと運用コストが高くパラオの電気通信事業者は敷設に踏み切れない状況にある。

 誰が提案したのだろう。

パラオでは、現在、全ての国際通信回線をインテルサット衛星にアクセスする1基の地球局のみに依存している。

 人工衛星を使った日本のWINDS(Wiredeband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)への期待も書かれている。

大川恵子「SOI-ASIA Project」

大川恵子「SOI-ASIA Project—インターネットによるアジア諸国の高等教育推進プロジェクト—」『海外電気通信』2006年7月号、51〜60ページ。

 SFCにいるとSOI(School on the Internet Project)の話はしょっちゅう出てくるんだけど、その仕組みはよく知らなかった。

衛星回線は、周囲のインフラ整備レベルに左右されず、比較的短期間で場所を選ばず回線を構築できるという特徴を有したインフラである。衛星回線を利用することにより、地上線の有無に関わらず、島嶼や山間部でもインターネット環境を構築することができ、学生はどのような地域にいても、広帯域なインターネット環境を利用して授業を受けることが可能となる。

 確かに、衛星がすでに打ち上がっていて使えればそれに越したことはない。SOIは衛星を受信のみで使うようにしていて、アジア各国のパートナー校からの発信は128kbps以上の既存のインターネット回線を使うようにしている。例えば、コンテンツをダウンロードしようとするとき、IETFで標準化しているUDLR(UniDirectional Link Routing)を使って、有線でリクエストを出し、衛星経由でコンテンツが落ちてくるようにできる。

 しかし、そもそも有線アクセスのない島嶼国ではやはりこのシステムも難しいのだろうか。

熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代」

熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代—東京ガールズのネットコミュニティ解析—」慶應義塾大学法学研究会編『法学研究』第84巻6号、2011年6月、501〜530ページ。

 この論文はスキャンダルだと思う。よく『法学研究』が載せたなと。法学部の先生たちの苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶ。

 媒体選びが間違っているんじゃないかと思ったが、著者たちによれば十時嚴周先生追悼論文集の一環なのだとか。CiNiiで見てみると、比較的柔らかいタイトルが並んでいるので、この号が法学研究としては例外的なのかな。

 案外、「柔らかい構造化手法」を参照するための論文として多々引用されるかもしれない。

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達」

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達—ユニバーサル・サービス基金の可能性について—」『海外電気通信』2005年1月号、34〜49ページ。

 開発途上国が通信インフラの整備を進める場合、内部相互補助、免許条件による地域網整備の義務づけ、赤字補填負担金、ユニバーサル・サービス基金の四つの方法があると指摘。ペルーとマレーシアを事例に検証している。

 国内インフラの整備にはその通りだと思うのだが、海底ケーブルを引く際にはどれも使えないような気がする。どうだろう。

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」『海外電気通信』2003年2月号、28〜33ページ。

論文というほどの分量はなく、最初のページに著者の解説があり、残りは文書の要約(翻訳?)になっている。

太平洋地域組織協議会(CROP:Council of Regional Organizations of the Pacific)という組織があるらしい。まったくもってこういう地域機構は多すぎてよく分からない。このCROPは、22の太平洋島嶼国・地域が加盟する8地域組織(太平洋島嶼開発計画、太平洋島嶼フォーラム、太平洋島嶼電気通信協会、南太平洋観光機構、南太平洋地域環境計画、南太平洋大学など)の連合体だという。

このCROPが太平洋島嶼国・地域共同のICT政策・戦略計画を合意し、発表した。その内容の紹介になっている。

おそらく、米国議会図書館で見つけたパラオのICT戦略というのは、これを契機に作られたものなのだろう。二つの文書の内容は似ている気がする。

インフラ開発についてもやはりあっさりしていて、戦略2.1.1での行動計画で「太平洋島嶼国地域をループ上に結ぶブロードバンド海底ケーブル敷設の調査」と書いてあるだけである。「調査」で、敷設そのものではない。及び腰だなあ。